不確定性を引き受ける1

2008年4月に職場を移った,かつてのPMDAでの同僚とのやりとりから:

> Kさんが言うには、私は慎重に見えてかなり思い切りが良いそうです。
この4月の異動についてだけ言えば,前の職場での経験が,「思い切り」の大きな構成要素になっている.前の職場で学んだこと,すなわち,組織と,そこに棲息する奇妙な人種を,彼らから距離を置いて観察すること.それが,今の職場でも大いに役立っていることも事実だ.しかし,Kさんが指摘したのは,そういった短期的な要素ばかりではない.

Kさんの言うところの思い切りの構成要素として,あなたのもともとの性格+審査センター&PMDAの仕事で鍛えられた資質の両面がある.限られた材料で判断を迫られる,そういう商売に向いている人でなければ,できないんだよ.あの仕事は.そして今の仕事も.

リテラシーとは,不確定性と付き合う力だ.臨床開発なんて,不確定性だらけの商売だ.臨床そのものも,,不確定性だらけの商売だ.なのに,不思議と,お医者さんの多くは,ネイチャー,サイエンスに出た分子は,1年後には世の中に出せると思い込みたがる.

リテラシーの欠如は医者だけではない.白黒のデジタルの答えでないと受け入れられない.どこか山のあなたの空遠くに素晴らしい正解があるに違いない.そして,哀れな私に対して,神様がその正解を教えてくれるはず.いつまでたっても,そういう考え方しかできない人間は,いつまでたっても,みのもんたの一言に右往左往する状態から抜けられない.いつまでたっても厚労省を神とあがめ,依存し,アウトカムがたまたま悪いときだけ,神よ私を裏切ったなとばかりに攻撃する.

不確定性を受け入れられない人間は,リテラシーとは無縁で一生を終えることができる.

治験相談のような個々の案件処理についてのリテラシーはPMDAのスタッフなら大抵の人が持っている.それがないと商売できないからね.でも,それを自分のキャリアに当てはめられる人は,PMDAの中でも限られている.

あなたは,臨床開発のリテラシーを通して,キャリアリテラシーを獲得した.それが,Kさんの言うところの,あなたの思い切りの良さなんだ.

参考:未来の未知性について

(以下引用)

実際にわが身にどんなことが起きるか、そのほとんど99%は自力ではどうにもならない。繰り返し申し上げるが、自分の手で未来を切り開けるということはない。

どれほど才能があって、どれほど努力をしても、それがまったく結実しないと嘆く人間がいる一方で、まるで才能もなく、ろくに努力もしていないけれど、どうも「いいこと続き」で困ったもんだとげらげら笑っている人間がいる。

その差は、自分の将来の「こうなったらいいな状態」について「どれだけ多くの可能性」を列挙できたか、その数に比例する。

当然ながら、100種類の願望を抱いていた人間は、1種類の願望しか抱いていない人間よりも、「願望達成比率」が100倍高い。

おおかたの人は誤解しているが、願望達成の可能性は、本質的なところでは努力とも才能とも幸運とも関係がなく、自分の未来についての開放度の関数なのである。

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