Massie's Scotland:busdriver

バス運転手の途中下車

いつもの通勤途上だった.調子よく走っていたバスが,停留所でもないのに急に止った.エンジンをかけたまま,ドアを開けて運転手がおもむろに車外に出て行く.何だい?.故障かいな?.車は何ともないと思うのだが.と思っていると,彼は道路脇の雑貨屋に入って行く.おいおい一寸待ってくれよ.道に迷った訳じゃあるまい.しかし車内の乗客は顔色一つ変えず席についたままである.前の席の老婦人二人組は全く変らぬペースで猛烈なおしゃべりを続けている.

待つことしばし.満足そうな顔をして雑貨屋から出てきた運転手の右手には新聞とタバコが握られていた.あっけにとられている僕と,落着いた他の乗客を乗せて,何事もなかったようにバスは再び快調に走り出した.

この体験は白昼夢ではなかった.その後もこの種の自主的停車で,チップス(英国風フライドポテト)を買ってきたり,銀行の現金自動支払機でお金をおろしたバス運転手もいた.でも客は何も文句は言わないで,降車の時はいつも通りサンキューと言って降りて行ったし,運転手も悪びれたところなどみじんもなかった.

だから僕はあの街が好きになった.

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