名医は要らない

週刊誌の名医ランキングも,学会の専門医制度も結構だが,名医が本当にその力を発揮する状況というのは,実際には数少ない.1人のブラックジャックが,自分の腕を発揮するのに相応しい1人の重症患者に巡り合う間に,1人の普通のまともなお医者さんは100人以上の患者さんを助けるだろう.救急外来にやってくる意識障害の患者さんを,天才心臓外科医に診せようとは誰も思わない.

だから,社会全体としては,名医ランキング作りに血道を上げるより,普通のまともなお医者さんを育てる仕組みを作ることに力を入れた方が,はるかに多くの人の幸福につながる.それには,手堅く地道な免許更新制度によって,不良品をはねる方法が一番効率的である.打ち首獄門の時代錯誤的処罰制度では,絶対ない.

下記に紹介するのは,英国の医師免許更新制度である.地道だが,現実的な制度である.日本でも,病院機能評価の一つに,勤務医の査定を組み込み,開業医の場合には,医師会が,外部委員を入れた査定委員会(委員会を公開すればなおのことよろしい)をつくるようにする,各学会も,専門医認定の際のデータを提出して,学会員の査定に協力する.そういう形ならば,十分実現可能である.役人の腕の見せ所だ思うが,いかがかな.

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福見一郎。英国に導入された医師免許更新制度。治療 2003;85:2661.

日本でも医師免許更新制度はしばしば話題になるが,どちらかというと,臨床の診療技術をどうやって維持するかという議論になりがちだ.しかし,それ以前に,医者の心と体が診療に相応しい状態かどうかの方を検証し,相応しい者だけ,免許を更新する仕組みを作るのが先である.腕前云々は,その仕組みができてから先の話だ.

上記の論文で紹介された英国の医師免許更新制度Revalidationは,このように,狭い意味での医者の腕前ではなく,心と体が診療に相応しく,社会的なトラブルをおこさずに誠実に診療しているかどうかを検証しする仕組みである.英国でも,未熟な外科医による手術の犠牲者が数多く出たり,GP(家庭医)が地域の受け持ち患者を次々と殺したりという,衝撃的な事件が近年続いたことも,この制度の背景にある.このような事件を防ぐためには,狭い意味での診療技術を目安にするだけでは不十分で,人の命を預かる職業人として,社会の中で尊重されるに足る行動ができることを要求されるということだろう.

具体的には,医師は,5年ごとに,General Medical Council: GMCと呼ばれる医師免許認定を行う独立行政委員会に対して,次の観点からデータを収集,提出する:診療の質とその維持,教育・訓練(池田注:卒後研修だろうか),患者との関係,同僚との関係,誠実な業務遂行(犯罪歴はここに含まれる),医師の健康状態.これらのデータは,勤務医の場合には勤務先の病院,開業医GPの場合には,所属するPrimary Care Trust(池田注:ちょっと説明するのがむずかしいが,わかりやすく言えば,医師会と支払い基金が合体したようなものだろうか)ですでに始まっている査定のデータが転用できるそうだ.
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