貧困のない国2

2004年は日本にとって記念すべき年になった.混合診療が本格的に開始された年として.

国民皆保険制度を支えている良心的な医療者の多くが,今の医療体制の下で,青息吐息,今にも斃れそうな状態だ.彼らは,利益を上げなければならないのに(健全経営),利益を上げてはいけない(医療費抑制).サービスの安全性を高めなくてはならない(リスクマネジメントへの投資)のに,安全性を犠牲(安全性向上のための経費抑制)にしなくてはならない.

わが大本営である厚労省の当該部署の人々の中にも,医療費抑制は,国民皆保険制度の維持のために必要だ,そう考えているおめでたい人が,もしかしたらいるかもしれないので,念のために言っておく.医療費抑制は,混合診療の導入に直結する.私はむずかしい謎掛けをしているのではない.次を読んでもらえば,私の意味するところがわかってもらえるだろう.

日本の医療で最も奇怪な構図がここにある.国民皆保険制度の恩恵を受けている国民が,国民皆保険制度の崩壊を面白がって眺めている.医療費という名の国民皆保険制度の屋台骨を,一本,また一本と取り除いく国の作業を,あたかも自分が野次馬であるように思いながら,すべての国民がメディアと一緒になって囃し立てている.落ちてきそうな天井を手で支えているのは良心的な医療従事者だけという構図だ.彼らが逃げ出したら,国民皆保険制度は確実に崩壊する.

こんな馬鹿げた世の中で,辛うじ過労死を免れて必死で働いているのに,厚労省の医療費抑制策のお先棒担ぎしかできない能なしメディアからは,”驕り高ぶった医者ども”と叩かれる.馬鹿らしくてやってられるか,”ベンチだけでなく,お客も新聞もテレビも全部がアホやから,仕事がでけへん”と,白衣を放り投げてやりたい,そう思っている医者は少なくない.

それもこれも,国民皆保険制度に縛られているからだ.誰も支えようとしなくなった国民皆保険制度の枠外で,自分だけの家,すなわち,自分の最も得意とする仕事,利益率と安全性の高い分野に絞り込んだら,あくせくせずとも,食うに困らないぐらいの収入と,時間の余裕が得られるのではないか.あるいは地雷原そのものの臨床現場を回避し,もっと安全な職場へ逃げたい,そう思っている医者も少なくない.

医療費抑制に加え,国立病院・国立大学の独立行政法人化,臨床研修必修化と,今年は医療者側にさらに大きな負担を強いる大きな制度改革が二つ同時に始まった.過労死したくないと思っている医者達が,過労死から免れるべく,逃避行動に移るのは時間の問題となった.2004年はそういった意味でも記念すべき年になるだろう.

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