ゾフルーザの不都合な真実
−医者だって馬鹿ばかりじゃない−

バロキサビルの審査報告書に記載された事実を踏まえてまとめると,以下のようになる
有効性:有症状期間を1日ほど短縮させる程度でタミフルと五十歩百歩(非劣性試験しか行われておらず,優越性は全く検証されていない)
安全性:タミフルに劣る←約1割の患者ではウイルスに遺伝子変異が生じ、ウイルス検出期間がむしろ延長し、有症状期間も長引く.もちろんタミフルよりも市販後情報が決定的に少ない
誇大広告:有効性は非劣性に過ぎず安全性に劣るのに,価格はタミフルゾロの3.5倍(一治療あたりの薬価はオセルタミビルカプセル75mg「サワイ」1360円,タミフル2720円に対し,ゾフルーザは4789円).つまりトップセールスは誇大広告そのもの!

ただし,以下の記事の中で最も重要な記載は,ゾフルーザに直接言及した部分ではない.タミフルの医薬品としてのリスク・ベネフィットバランスが否定されていることを明言することによって,そのタミフルにも劣るゾフルーザを「期待の新薬」として持て囃す人々のリテラシーの欠如を指摘した部分である.

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【昭和大学東病院】タミフル後発品の使用増−フォーミュラリーで第1推奨 薬事日報  2019年09月11日
ゾフルーザは「非推奨」
医薬品の使用指針としてフォーミュラリーが注目を集める中、昭和大学病院附属東病院はインフルエンザ治療薬のフォーミュラリーを策定し、今年初頭の冬のシーズンから運用を開始した。「タミフル」(一般名:オセルタミビル)の後発品を第1推奨薬に設定し、インフルエンザ治療薬の使用率を解析したところ、オセルタミビル後発品の使用率は、前年に比べて16ポイント増の59%に高まったことが分かった。非推奨薬のゾフルーザの使用率は、市場の平均的なシェアよりも低い8%に抑えられていた。フォーミュラリーによって医薬品の適正使用を推進できたという。

インフルエンザ治療薬のフォーミュラリーを策定したのは、ゾフルーザの臨床試験で、薬剤投与による変異ウイルスの検出や薬剤感受性低下が明らかになったことがきっかけである。同院薬局の吉川雅之氏は、「薬剤耐性ウイルスの蔓延が懸念されたため、薬剤部の発案で策定することになった。策定作業には医師にも加わってもらった」と説明する。様々なエビデンスを集めて各薬剤の有効性、安全性、経済性、合理性を比較し、オセルタミビルの後発品を第1推奨薬に設定した。二つのメタアナリシスの結果によって有症状期間が約1日減少することが確認されているほか、予防効果や経済性も考慮して選定した。第2推奨薬には吸入剤の「リレンザ」を選んだ。

一方、ゾフルーザは、オセルタミビルに比べて有効性に有意差はなく、利便性は高いものの、薬価は5〜10倍になり経済性は劣るため非推奨とした。イナビルは、プラセボとの比較で有効性が認められておらず、薬価はオセルタミビルの3倍に達するため非推奨とした。同院の入院・外来患者を対象に、フォーミュラリー導入前後のインフルエンザ治療薬の使用率を解析したところ、2018年1〜3月の導入前に比べて19年1〜3月の導入後は、オセルタミビル後発品の使用率は16ポイント増の59%に高まった。一方、非推奨薬のイナビルの使用率は、24ポイント減の27%となった。ゾフルーザの使用率は8%であった。
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【千葉】亀田がゾフルーザの採用を見合わせた理由 亀田総合病院感染症科部長の細川直登氏に聞く 日経メディカル 2018/12/26

 亀田総合病院(千葉県鴨川市)は、新規インフルエンザ薬のバロキサビル(商品名ゾフルーザ)について、今シーズンの採用を見送った。同院は院内処方であるため、今シーズンに同院を受診した患者には外来・入院ともにバロキサビルは処方されない。採用見送りに至った経緯を同院感染症科部長の細川直登氏に聞いた(文中継承略)。

――なぜ、今シーズンの採用を見送ったのですか。
細川 実臨床での使用実績が不十分、というのがその理由です。大きな期待とともに迎えられた新薬でも、実臨床で使用する中で予想されなかった副作用が生じ、市場から撤退する薬は多々あります。我々は研究機関ではありませんので、実臨床において有効性だけでなく安全性がきちんと評価された薬剤を使用するのが賢明と考えています。

 バロキサビルについてのエビデンスとしては、今年9月にNEJM誌に掲載されたCAPSTONE-1 試験の結果と(N Engl J Med. 2018;379:913-23)、今年10月の米国感染症学会で発表されたCAPSTONE-2試験の結果しか公のものはありません。前者は、元来健康で基礎疾患がない12〜64歳の患者を対象に主に安全性を評価したもので、オセルタミビルに非劣性であることが示されています。CAPSTONE-2試験は、65歳以上の高齢者や、肺や心臓、腎臓などに基礎疾患を有する患者を対象としたもので、有効性でオセルタミビルに非劣性であることが示されました。これまでに示されているのは、オセルタミビルと比較して、安全性・有効性ともに非劣性であることだけなのです。
 一方、気になるのは耐性化です。バロキサビル投与後にアミノ酸変異のあるウイルスが小児患者の23%、成人では10%程度で検出されたと報告されています。ということは、この薬は、もしかしたら今使ってはいけない薬かもしれないとすら思うのです。
 バロキサビルは、インフルエンザウイルスに対する作用点が既存のノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)とは異なり、抗ウイルス作用が強い可能性があります。ですから、インフルエンザによる死亡率を減らす可能性を持つ新薬といえるでしょう。そのような薬剤を外来で多用し、それがウイルスの耐性化につながってしまったら、死亡率を減らす新薬となる芽を潰してしまいかねません
 死亡リスクの高い重症例に対するバロキサビルのエビデンスが出てくることで、この薬の立ち位置は決まってくると思います。我々としては、そのようなデータが出てきてからの採用でも決して遅くないと判断しました。亀田以外でも、バロキサビルの採用を見合わせている医療機関が複数あると聞いています。

 実際、日本感染症学会インフルエンザ委員会は、まだ、バロキサビルの位置付けを定めていません。その理由として、エビデンスが不十分ということが影響しているように思います。

――有効性・安全性でオセルタミビルに非劣性であるにもかかわらず、薬の値段が高いというのも問題視されていますね。
細川 1回投与とはいえ、バロキサビル40mgの薬価は4789円で、オセルタミビル(タミフル)5日分の薬価2720円の1.76倍です。オセルタミビルのジェネリックはさらに安く1360円ですので、バロキサビルはその3.52倍となります。

 毎年、1000万人規模のインフルエンザ患者が受診しますが、1000万人をバロキサビルで治療すると、オセルタミビルのジェネリックで治療した場合に比べて342億9000万円のコスト増となります。 有効性・安全性で同じであれば安い方がいいわけで、亀田ではインフルエンザの治療薬の第一選択薬はオセルタミビルとしています。ただし実は、私自身はオセルタミビルを処方することはほとんどありません基礎疾患がない患者であれば葛根湯を処方するのみです。
 オセルタミビルは、2017年にWHOによる「保健システムに最低限必要な薬のリスト(model lists of essential medicines)」から外されました。その判断の根拠の1つとなったのが、2009年のBMJ誌に掲載された論文といわれています(BMJ.2009;339:b3172.)。この論文は、ランダム化比較試験のメタアナリシスで、オセルタミビルやラナミビルというNA阻害薬は、インフルエンザによる症状を0.5〜1.5日短縮するのみ。その一方で、副作用としての嘔吐が高頻度(number needed to harm=20)に生じると結論付けています。

――今回の不採用はどのような流れで決まったのでしょうか。
細川 院内の薬事委員会が採用薬を決めていますが、抗微生物薬に関しては、感染症科や抗菌薬適正使用支援チーム(AST)が評価の依頼を受けます。今回、感染症科もASTも新規採用の必要はないと返答しました。それに対して、呼吸器内科など他の科からの不満もなく、そのまま決まりました。
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先駆け審査制度に慎重意見‐「ゾフルーザ」の耐性問題で医薬品医療機器総合機構「審査・安全業務委員会」 薬事日報2019年6月19日
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査・安全業務委員会が14日に開かれ、画期的な作用機序などを持つ医薬品を対象に審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度」について、委員から慎重さを求める意見が上がった。特に同制度が適用されたインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」で耐性ウイルスが報告されていることから、「もう少し時間をかけて審査しても良かったのではないか」と審査期間の短さを指摘する声が出たほか、「対象の裾野が広がり続けるとメリハリがなくなる」とPMDAに対して慎重な立ち位置を求める意見もあった。

先駆け審査指定制度は、海外承認済みである一方、国内では未承認の医薬品を解消することを目的に、審査期間を短縮する制度。この日の会合でPMDAは、2018年度は医薬品2品目が承認され、いずれも審査期間6カ月以内で審査したことを報告した。
ただ、浦郷由季委員(全国消費者団体連絡会事務局長)は、同制度が適用された「ゾフルーザ」の処方後に耐性ウイルスの検出が報告されたことを指摘。「臨床試験段階で耐性ウイルスの検出割合が高く、もう少し時間をかけて審査しても良かったのではないか。処方されても患者が拒否する可能性が出てくるかもしれない」と審査期間の短さを指摘した。

増山ゆかり委員(全国薬害被害者団体連絡協議会世話人)もゾフルーザに言及し、「新しい制度の中で処方する場合、何らかの説明があっても良かった」とした上で、「安全対策の面から、この制度ができたことをきちんと患者に知らせることが必要。また、様々な副作用が出てくると思うので、市販後の安全のための情報収集を慎重かつ丁寧に行う制度にすべき」と注文をつけた。

さらに、革新的医薬品が制度の対象となることに対して、「非常にリスクが高い疾患の患者に焦点を当て、対象の裾野が広がり続けるとメリハリがなくなる。承認制度は透明性、安全性が患者から見えることが医薬品の信頼性を維持する条件となるので、PMDAはもう少し慎重な立ち位置でもいい」と述べた。
これらの意見に対して、PMDAの宇津忍上席審議役(新薬審査等担当)は「先駆け審査指定制度では、通常審査と比べるとデータは少ないが、同じデータを使用しているので、劣るというわけではない」と安全性を強調しつつ、「新薬については市販後の情報を活用し、情報提供していく必要がある」と応じた。
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