医師の自律性

それこそ十年一日のごとき議論を繰り返しているが,この問題がいつまで経っても医師コミュニティの集団無責任状態になっているのは,医師達が厚労省を父母と仰ぐ依存症にどっぷり浸かっているなによりの証拠である.
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「医師の強制加入組織」、医療の質保証に必要か 医療の質・安全学会、英独の事例交え議論
M3.com レポート 2015年11月24日 (火)配信橋本佳子(m3.com編集長)
https://www.m3.com/news/iryoishin/377605

 第10回医療の質・安全学会学術集会で11月23日、パネルディスカッション「医療職能集団の制度と機能―医療の質保証の体制を国際比較から考える―」で、医療の質保証の観点から、「医師の強制加入組織」の要否やその在り方をめぐり、イギリスやドイツの事例も交え、議論した。
 座長を務めた、小泉俊三氏(佐賀大学名誉教授)は、パネルディスカッションの冒頭、「医療の質、特に医師の質を保証するために、医療のプロフェッションとして、医師の集団はどうあるべきか」と問題提起、日本学術会議が2013年8月に、医師の強制加入組織を提言したことにも触れ(『「全医師加盟組織」は行政からの自立
- 広渡清吾・前日本学術会議会長に聞く』を参照)、海外の事例も踏まえて、医師組織の在り方を検討していく必要性を指摘した。
 イギリスではGMC(General Medical
Council;医療総合評議会)、ドイツでは医師会が、それぞれ全員加入の組織として、医師の質の保証を担っている(詳細は、後述)。
 金沢大学付属病院総合診療部特任教授の野村英樹氏は、イギリスの場合、臨床医としての適性評価・診療資格管理などを行うGMC、政治的・経済的交渉を行うBritish
Medical Association(BMA;英国医師会)、研究・学術団体であるRoyal
Colleges(王立臨床医会)は、相互に利益相反の関係にあるため、「三権分立」しており、この在り方がプロフェッショナルソサイエティとして望ましいとした。「GMCが本当に医師の自律団体なのかを疑問視する声もあるが、医師個人の質保証を目的とした団体が、政府から独立して存在し続けているのは事実」と野村氏は述べ、学ぶべき点があるとした。
 ドイツで約30年、心臓外科医として臨床に従事した経験を持つ、北関東循環器病院院長の南和友氏は、ドイツ医師会が、医療の質・安全に大きな役割を果たしているだけでなく、勤務医の健康管理も行うなど、医師の人権を守る役割を果たしている現状を紹介。「医師の組織は、強制加入にすることが必要。日本においてそれを実現するために、手っ取り早いのは、専門医の認定を行うことではないか。かなり強制力が出てくる」と提案した。ドイツでは、大学医局と地域の病院とは人事的なつながりがないなど、「脱閉鎖体質」であり、風通しのよいことも、医療の質向上につながっているとした。
 これに対し、「医師個人の専門職としての質の保証」よりも、「病院組織としての質保証」に重きを置くべきとしたのが、慶應義塾大学名誉教授の池上直己氏。病院と医師の関係が欧米と日本では異なる上、大学医局を中核とする「医師の階層構造」、基幹病院は公的病院が中心であるなどの「病院の階層構造」が存在するからだ。「ドイツ、イギリスには、技能集団を支えるための基盤があり、専門職はお互いが対等であることが前提。ドイツ、イギリスにも階層構造はあるものの、日本の階層構造は細かく、医師のヒエラルキーや、その医師が勤務する病院のヒエラルキーがあるので、ピアレビューの導入は難しい」。池上氏はこう指摘し、「病院組織としての質保証」には、診療報酬が有力なツールになり得るとした。

パネルディスカッション「医療職能集団の制度と機能―医療の質保証の体制を国際比較から考える―」では、座長を兼務した米本氏も含め、5人のパネリストが登壇。
 パネルディスカッションでは、「医師の強制加入組織」を考える上で、歴史的な考察が必要という観点から、東京大学医科学研究所公共政策研究分野特任准教授の神里彩子氏が、日本医師会の成り立ちを概説。
 神里氏は1906年制定の医師法以降の医師会の歴史的経緯を説明したが、中でも特徴的なのが、終戦直後の動き。医師会は、戦前は、「強制設立・強制加入制」だったが、戦後はGHQの民主化政策で改組が求められ、「任意設立・任意加入制」となった。その際、医師会執行部は「強制設立・強制加入制」とし、懲戒審議権や医籍の管理などを行うことを検討したとされるが、自治権を持つ重要性について議論し、GHQ側に説明・説得した目立った動きは見られなかったという。GHQのPHW(Public
Health and Welfare)医療課長補佐によるPHW覚書には、「医師会の目的、そして医師会に与えられた業務の目的についての理解が多分に欠如しているようである」との記載がある。
 対照的なのが、弁護士会。「弁護士の使命」「弁護士職務の独立の重要性」をGHQに訴え、弁護士法が制定され、「強制設立・強制加入制」が認められた。GHQ民政局法律課長は、弁護士法案を見た際、「本当に占領軍が目的としていたこと、民主化という目的の結晶のように考えられたほど」と述べているという。「GHQの民主化政策、イコール任意設立・任意加入制という図式に必ずしも限らない」と神里氏は指摘、強制設立・強制加入制にはメリット、デメリットがあるとし、「強制設立・強制加入制の組織の要否についての多面的な議論と合意形成が必要」と考察した。
 小泉氏とともに座長を務めた、東京大学教養学部教養教育高度化機構の客員教授の米本昌平氏は、医師組織の在り方の検討に当たって、「医療の質保証や、医療事故の扱いなどに関して、医療プロフェッションが保持すべき機能・制度を整理し直し、取り組むべき政策論的課題を明確化し、共通化する必要がある」と指摘。その実現に向け、オープンフォーラムを継続的に実施していくことが求められるとし、「次のテーマは、(この10月からスタートした)医療事故調査制度の1年後の検証ではないか」と提案した。
 フロアから発言した、医療の質・安全学会理事長で、日本医学会会長の高久史麿氏は、医師組織の在り方は、日医幹部なども交えて議論すべき課題であるとした。「医師のプロフェッショナル・オートノミーを考えると、医師が行政から処分を受けるのはどうか」と疑問を投げかけるとともに、戦後の日医改革について、「トップの判断が、禍根を残す」と述べ、問題が残ることを示唆した。

 イギリスとドイツの現状は、以下の通り(発表内容を編集部で抜粋)。
座長を務めた、小泉俊三氏(左)と米本昌平氏(右)。

GMC(英国総合医療評議会):金沢大学付属病院総合診療部特任教授の野村英樹氏
・GMCは、NHSとは独立した機関で、1858年制定の医療法により設立。イングランド、ウエールズ、スコットランドの全医師が加盟する団体。
・9つの診療領域別の学術団体であるRoyal Colleges(王立臨床医会)、政治的・経済的交渉を行う医師の労働組合(trade
union)とも言えるBritish Medical Association(BMA;英国医師会)とは、「三権分立」の体制。
・GMCは、(1)認定された医師の最新状態の登録簿の維持(日本の医籍に相当)、(2)適正診療規範の作成、(3)高い水準の医学教育の促進、(4)診療適性に疑義のある医師に対する毅然とした公正な対処(一部は、MTPSという組織に移行)――の4つが主な役割。
・会員からの年間登録維持料(2015年4月現在で420ポンド、年収3万2000ポンド未満者は50%割引)で、運営。
・2014年の支出は、約1億ポンド(約190億円)で、うち「診療適性審査」(診療適性調査費45%、診療適性審判費14%)が59%を占める。
・「診療適性審査」は、公的組織や一般からの苦情などを基に実施。苦情のうち、審査まで至るのは約10%。審査結果は、「約定」「条件付医師登録」「一時停止」「除名」の4段階で判定。
・最近、医療・医師組織の改革が行われ、GMCは医療の質保証における「1階部分」、Royal
Collegesは「2階部分」を担っていたが、GMCが専門医・GP資格認定も、行うようになったほか、「3階部分」として、「NICE」(英国国立医療技術評価機構)などが担うようになった。職員は以前は約470人だったが、業務拡大に伴い、増員。

ドイツ医師会:北関東循環器病院院長の南和友氏
・ドイツ医師会は、1865年設立。16州に17の医師会。医師免許取得者全員が、入会を義務付けられ、加入医師数は約26万人。
・主な役割は、(1)専門医の試験・認定、(2)生涯教育の監視、(3)診療所や病院の開業許可、(4)医師年金の運営、(5)医師の勤務実態の把握と管理、(6)医療訴訟の相談、(7)医療の質・安全の監視――など。
・ドイツ医師会の傘下に、「Marburger
Bund」(勤務医の労働組合、勤務医の約70%に当たる11万4000人が参加)、保険者や厚生局と医療費などの交渉を行う、「Kassenaerztliche
Verein」(保険医協会、全国に17カ所、開業医全員と勤務医の代表が参加)があるが、「三権分立していると言っていい」(南氏)。
・各病院の院内死亡率をはじめとするクリニカル・データを収集・調査する仕組みがあり、各病院には自院のデータと全国平均がフィードバックされるため、成績は一目瞭然。かかりつけ医(国民に持つことを義務付け)が患者を紹介する際の判断に使用されたりする。
・ドイツの場合、保険者も、医療の質を保つことに貢献しており、「患者のエージェント」として、各医療機関の治療レベルに関する情報を患者に提供している。健康保険は「一般保険」と「プライベート保険」の二本立てで、年収に応じて「プライベート保険」を選択できる。「プライベート保険」は、「一般保険」とは異なり、かかりつけ医が指定する医師以外も、受診でき、「この制度を作ったことにより、いい医師のところに患者が集まるようになり、医療全体の好循環につながっている」(南氏)。
・医療提供体制の特徴として、大学主任教授と関連病院の人事的なつながりがなく、教授が定年退職すれば、後任教授は他大学から選ばれるため、「脱閉鎖体質」、風通しの良さが医療の質向上につながる。
・専門的な医療の集約化も、専門医教育の充実につながり、医療の質・安全に貢献。2014年の場合、心臓外科手術の1施設当たりの件数は、ドイツは約2400件、日本は約100件と大きな開きがある。
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