歯科用図形文字の標準化

Standardization of Dental Figures
成澤英明、天野秀昭、小川光一、鈴木一郎、
玉川裕夫、日高理智、廣瀬康行、森本徳明
Hideaki NARUSAWA, Hideaki AMANO, Koichi OGAWA, Ichiro SUZUKI,
Hiroo TAMAGAWA, Tomosato HITAKA, Yasuyuki HIROSE, Noriaki MORIMOTO
 医療情報学会歯科大学病院情報システム研究会
  〒145 東京都大田区北千束2-1-1

要約

歯科診療録には,部位の表記が必須であるが,この表記には特殊記号が慣例的に用いられている.歯科医院や歯科病院にコンピュータを導入する際には,電子的な手段で表記される必要がある. が,これらの部位表記に必要な記号について公的な標準は存在せず,電子化されたものは,各大学,各レセコンメーカーなどで独自に行われている.ローカルで運用されていた時代はこれでもかまわなかったが,インターネットの時代には不都合であろう. 標準化に関して,種々の案があったが,JISコード拡張案があるため,これに沿った案をまとめたので報告する.

A dental formula cannot be expressed within JIS (Japanese Industrial Standard) character code set. In order to record and exchange dairy dental activities, a standard character set for this field is very important.
Recently, electronic patient record systems for dentistry have just started up in several dental clinics and hospitals. However, these systems have their own house made character sets for dental formula so that data exchange in wide area computer network is difficult. So we have to make standardization immediately. Many plans were present, Last year Japanese Language Conference announced the enlargement of JIS standard. Now, we report a plan under the new enhanced JIS character codes.
In this study, we propose a character set to express a dental formula effectively and we hope this set should have a chance to be registered to the enlargement of JIS character set in 1997.

Keywords

標準化、外字、JIS、第3水準、第4水準
Standardization, Typeface, Japanese Industrial Standard

【 dhis について】

Dental Hospital Information System Mailing List

 病院情報システムは,現在では大規模病院から中規模病院へと普及してきている.歯学部・歯科大学附属病院でも病院情報システムを開発・導入するところが増えてきているが,一般病院に比べて絶対数が少なく,開発を担当するメーカーも大学側担当者も経験不足であり,今後は,歯科特有の診療サイクルあるいは部位表現方法などを反映できるような,新たな視点が必要であると考られる.また,システム間での情報交換も,早急に検討しなければならない問題である.そこで,我々は,情報を交換し,蓄積できる場が必要であると考え,メーリングリスト設立に至った.今回の発表は dhis メーリングリスト参加者によってまとめられた最初の成果である.

【目的】

 歯の部位や歯式を表記するためなどに用いられている特殊記号は,歯科臨床のみならず歯学教育においても不可欠であるため,歯科医院用レセコンの普及や歯科病院情報システムの導入には,歯の部位や歯式を電子的に表記記録できることが大前提である.しかし,こういった電子化は閉じたシステム内で行われ,外部との情報交換媒体は紙だったため,各大学,各メーカーによって異なった手法で電子化されている.ここ数年は電子情報の相互交換環境としてインターネットが爆発的に普及しており,電子媒体による情報の記録と交換は,21世紀においては必須のこととなろう.

しかしながら,歯科にとって極めて重要な歯の部位を表記する手段が不統一では,電子媒体による情報交換は不可能である.日常の歯科臨床は勿論のこと,国民医療や厚生福祉関係の種々の処理,さらには臨床研究や歯学教育に関しても多大な不利益を蒙ることになろう.しかしながら, dhis は歯科界に対して指導的な立場にあるわけではない.このため,電子的に標準化された歯式の表記手段を指導的な立場である歯科医師会などに提示し問題を提起することを試みた.

【方法】

 歯科保険診療関係の法規省令ならびに通達 [2] より必要な字形を抽出した.

 歯種記述のための方法は, Zsigmondy 方式が普及している.が,習慣的に広まっているもののようであり,明確な法的な裏付けがあるわけではない.国際的には公的機関である FDI が提唱したもの,米国で普及している方式がある. FDI 方式は現実には普及していない.

この「解釈」の論拠となっている省令や通達などは,厚生省保険局医療課が監修した『歯科保険医療実務総覧』(新日本法規)に編纂されており,通達等によっても規定されている . 具体的な表記方法としては,標準化されたバイナリデータで情報を交換し,端末で展開して表示する案および現在使用されている外字を標準化し外字ファイルを共通化する案 [1] が有力な候補として検討されていたが,平成10年を目途にJISが拡張される計画があり, dhis はこの拡張コード部分に歯科用表記文字を取り込まれることを前提に標準案をまとめた.すなわち,歯式を JIS コードが与え得る記号に分解した100種の素片を策定した.fig1 にこの素片の用例をあげた.

【結果および考察】

■ 標準化提案の進捗状況

1996年12月16日に開かれた符号化文字集合 (JCS) 調査研究委員会において,上記提案を行った.審議の結果は,

・歯科でJISに定義されていない記号が頻繁に使われていることや,それらをJISに追加することの必要性については,参加した委員に理解を得られた.

・他の分野との兼ね合いがあるので,どのような形でJIS拡張に反映できるか不明であるが,最低限必要なものが何かについて,委員会として検討することになった.しかし,委員会としては,文字,あるいは文字セットに特別な意味を持たせることを避けたいと考えており,歯科用の外字を登録するのではなく,他の分野とも共通で使えるような文字を作ることで問題が解決できるなら,その文字を新しく追加するという方向での検討となった.

したがって,我々の希望している記号がすべて盛り込まれると期待するのは厳しい状況であるが,他分野からの申請と合わせ,現有のJIS非漢字(=罫線など)を最大限利用することを前提にして,我々が申請した記号の中から,取捨選択の作業が行われると思われる.また,”第3水準に関しては,既存のJISコードの空きエリアに埋め込んでいく作業をする予定で,2000字程度と考えているが,このエリアを外字領域として使っている既存のシステムでは,新しいJIS規格が決まったら,そこが使えなくなるため,現在の外字使用システムは再設計必至であることは確認された.

現在我々は引き続き関連省庁,歯科医師会,医療情報学会に対して標準化案の承認を求めて活動している.

【引用文献】

[1] 水谷雄樹> 「歯科領域におけるJIS規定外文字の取り扱いについて」

(第2回歯科医療情報システム研究大会論文集 p33-36. 1988 )

[2] 厚生省保険局医療課編「歯科点数表の解釈」平成8年4月版