2003 日本公衆衛生学会(京都) 自由集会

日 時:平成15年10月23日午後6時〜8時
 場 所:国立京都国際会館 Room A
 テーマ:「市町村合併と保健活動」

 司 会:藤内 修二(ヘルスプロモーション研究センター)
      嶋村 清志(滋賀県今津保健所)

パネラー                                     (レジメはこちらから)
 ・市町村合併と保健活動
      熊本県あさぎり町健康増進課   山下 久美子 保健師
 ・合併までの経過と合併して見えてきたこと
      山梨県南アルプス市健康増進課 野中 優子 保健師
 ・市町村合併に向けて保健師として考慮したこと及び合併後の課題
      兵庫県篠山市長寿福祉課     森井 まゆみ 保健師
 ・市町村合併と技術行政
      鹿児島県伊集院保健所       宇田 英典 所長


議論のポイント
 現在,全国の市町村の64%が法定もしくは任意の合併協議会に参加している

市町村合併と保健活動
あさぎり町健康増進課  山下久美子

 今年の4月1日に5町村が合併して,人口18,000人の町になった
   保健師は12名
 2年前には合併に向けてのビジョンがなかった
   当時,障害者プランがなく,県から作るように言われていた
     そこで,合併までに一緒に計画書を作ろうということになった
   2年間に議論をしたことにより,見えてきたことが多かった
 平成8年度から合併の気運があった
   実際に任意合併協議会が立ち上がったのは平成10年度だった
 岡原村が既に健康文化都市のプランを地域づくり型保健活動で策定していた
   その策定手法を活用して,保健計画を策定した
 法定合併協議会で41項目について検討することになった(平成12年度)
   10月に新町建設計画基本構想ができたが,保健師の参加はほとんどなかった
     この構想書にはほとんど保健が含まれていなかった
 そこで,保健師が集まって,合併事務局に意見をぶつけた!
   合併事務局に保健に携わったことがある者がいなかった
     自分たちがやらねばと思った
 保健師で意見をまとめた → 翌年1月に作られた戦略プロジェクトに反映された
 平成13年6月からエンゼルプラン,母子保健計画,障害者プラン,老人保健福祉計画を策定
   5町村から住民にも参加してもらった
   フォーカスグループインタビューをし,MIDORIモデルを活用した
     調査票を作成して,実態調査を行った
       ワークシートに落とし込み,合計12回の作業部会を持って策定した
     住民の思いを良くまとめてくれたと謝辞をもらった
 保健師を本庁に集中配置して欲しい旨の申し入れをした
   これが結局,採用されることになった
     最初はゾーン構想が打ち出されていて,岡原村が保健福祉ゾーンということだったが・・
   支所機能を充実するという首長の意見もあったが・・・
     支所に分散配置と本庁に集中配置のメリット,デメリットを検討した
   福祉部会に分科会長が意見を言うようになり,スムーズに意見が通るようになった
 15年1月に内示があり,全員,本庁配置になった
 合併作業と計画づくりを一緒にすることは大変だったが・・
   住民と職員がめざす姿を確認できたことが良かった
     自然と事業のすり合わせができた


合併までの経過と合併後見えてきたこと
                         南アルプス市健康増進課 野中 優子

 平成15年4月に6町村が合併して,人口71000の市が誕生した
   高齢化率 18.6% 人口は増えつつある 社会増
   人口が510人の村にも支所を配置している
 かなり以前から合併が検討されていた
   合併までの準備はわずか10か月であった
 住民専門部会−福祉保健分科会 という形でスタートしたが・・
   その下に,保健衛生班をおき,その下に9つの作業班をおくことを準備室に認めてもらった
     全ての職員が関わるようにしたことが良かった!
 作業班は具体的な検討をして,保健衛生班に提言をしていった
   10か月では,事業の目的などを確認することができなかった
   現状を確認できたことは良かった
 保健衛生班
   体制,予算,規約,条例などの検討
   合併事務局に挙げる資料や文書の作成
 課長との会議を専門部会以外に持つことによって,保健衛生班で考えたことを浸透
 各町村での作業
   事業の見直しをしたかったが,合併後にやっている状況である
   上司や首長に考え方を保健師から説明していった
     各町村で,保健師から伝えることが大切であった
 各支所に保健師を配置
   本庁に保健師を集めた
 保健師がリーダーをとれるように配置した
     課長,課長補佐も保健師である
 合併の経験から
   サービスは高く,支所重視がポリシーだったが,それが大変だった
     市になって,サービスが後退した部分を,市民や議員から指摘されるようになった
       一緒に変えていくようにしている それも楽しみになっている
   新しい市のビジョンを考えることが大切だった
     以前から職員の交流もあったが・・
   これから保健計画を立てたい
 個を大切にしていきたい   
   方向性がないのが悩み
     健康増進計画の策定の中で方向性を見いだしたい
 健康づくり推進協議会の立ち上げも取り組みたい
   現在も16年度事業に向けて,話し合いを繰り返している
     規模が大きくなっても,地域や組織を大切にしていきたい
   16年度,保健師ひとり増員の予定で,26名になる!


市町村合併に向けて保健師として考慮したことおよび合併後の課題
                        篠山市長寿福祉課 森井 まゆみ

 平成11年に合併をして人口47000人の市になった 377平方キロ
   合併までの準備期間が半年間!ととても短かった
     保健師もマイナスイメージを持っていた
       マイナスの発言はするなという言論の統制もあった!
   実際に今日の自由集会の参加者も合併に反対の人の半分くらいいるようだが・・
     自分は合併して良かったと考えている
       視野が広がって,保健師の仕事が楽しくなった
   平成10年4月に合併に調印
     7月から健康分科会が開催され始めた
   健康分科会での心構え
     傾聴する,尊重する,把握する,理解する,ビジョンを持つ,チームワーク
       実際は,辛かった!
     目的よりも方法を優先して,すり合わせをした
       自分たちがやってきたものが否定されたりして,悲しいものがあった
 分科会だけでなく,作業班も重要だったのではないか?
   分科会に出ていないと,合併の様子がわからなかった
     作業班として皆が関われることが大切だったと感じる
 時間的な制約から
   @現行通り,A合併時に統一,B新市で調整という3つのトリアージが大切だった   
 合併後は少し変則的な体制になっている
   4町村のうち,丹南に健康課があり,篠山保健センターを残し,他の2町は保健師(−)
 集中配置のメリットとデメリット
   住民サービスが低下するが,効率や能率はいい
 平等できめ細かなサービスをどう提供できるか
 合併は事業を評価する良い機会ではないか?
   業務の棚卸しは評価ができないと困難である
 事業のすり合わせのときにも評価が大切だと思った
   事業の企画の時にも評価指標を確認するようにしている
 市が大きくなると,保健師が何をやっているかがわからなくなったと言われる
   他の職種に保健師の活動をアピールできる展開が必要ではないか?
     自分たちがやりたい事業ではなく,住民ニーズを反映した事業を
   合併して,他の保健師や他の職種と考える機会が増えたことは良かった
 「健康が一番」だと痛感した
   職員の健康管理にも注目して,調査研究をした → 本学会でも発表をした


市町村合併と技術行政
                           鹿児島県伊集院保健所 宇田 英典

 行政の役割(公的責任)を考えることが基本的なスタンスである
   市場機構に任せた場合にサービスが提供されない(外部経済性が高い)場合,
   公的責任が大
     一方,健康づくりは外部経済性が低いと考えられやすい
 公平性の確保
   健康状態の不公平の是正,費用の負担における公平性
 広域化に臨む際の視点
   効率性の確保と公平性の確保  サービスへの近接性は?
 これまでの地域保健では市町村規模が小さいために制約もあった
   地域の情報の制度も不正確 (分母が小さい)
   人的資源が少ない
 これからの地域保健
   財源の効率的運用
     これまでできなかった事業も企画することもできる
     ニーズも顕在化しやすくなる
 ビジョンなき合併という話を聞くが・・
   ビジョンとは将来像であり,計画とは将来像から現在を考えること
     複雑系ほど,計画が必要である
 ビジョンを持った技術行政とは保健計画が必要である
   市町村建設計画 − 各種の保健福祉計画 − 事務事業のすり合わせ
     ビジョン形成に資する各種の保健福祉計画があるが・・
 伊集院保健所管内の実状
   鹿児島市に編入される町村にあっては,事業の主体性の危機を感じている
 保健所のスタンス
   効率性の確保と公平性の確保
 保健所関与の実際
   市町村保健師のカウンセリング 傾聴,共感
   コミュニケーションの場の設定
     課長も含めた学習会の場を作る
     市町村保健師連絡協議会の設置 ここがビジョンづくりに機能し始めた!
   他の自治体情報を提供
   地域の実情についてのデータの加工と提供
 発言を控えている保健師が多いのでは・・
   合併事務局からは,言ってくれないので,遠慮している
     保健師が計画を作ってくれるなら,「渡りに船」である
 短時間に作業をするのは大変だが,事業見直しのチャンスと捉えることが必要である
   市町村建設計画はもう手遅れかも知れないが,保健計画づくりはまだ間に合う!


ディスカッション
 中野(岡山県西粟倉村)
     ビジョンの共有をするために計画策定は大切だが,あさぎり町ができた要因は?
 山下:5町村が以前から仲が良かった
     人口1200の村では年間10人も出生がないので,乳幼児健康診査を一緒にしてきた
     平成8年度に母子保健計画を1年以上かけて,広域的な計画を策定した
     地域づくり型保健活動の手法を使った
       この作業で,保健師の人間関係ができた
     今回は,障害者プランの策定に県から叱咤激励があったこともきっかけだった
     合併するのに計画がないこのことに疑問を持った職員もいた(福祉の職員)
       他の町にも打診をした
     合併を前に独自の計画を策定するのは効率が悪いという意見もあった
     最初は他の事務員は賛成しなかったが・・
     職員や住民と喧嘩をしながら計画を策定したことが良かった
     計画策定により,事業のすり合わせで,自分たちのやり方を主張することが少なくなった
     計画書に書いてある目的を確認することが役に立った
     計画策定に関わった職員は他の課に分散したが・・
     企画財政課でも住民との対話の大切さを知ったと言ってくれた
     建設課の職員はユニバーサルデザインの町営住宅を計画している
     保健師の仕事もこのことで理解してもらえた
     今,自分は母子担当から老人担当に変わったが・・
     計画策定に関わった中で,何がポイントかはすぐにわかった
 田沢(岩手県環境保健研究センター)
     岩手県では合併がまだ不透明な状況である
     保健師はどの段階から,合併作業に関わっているのか?
 山下:法定協議会が立ち上がってから・・
     それから数えると,1年間であった 情報も篠山市から得た
     保健所に何を求めて良いかわからなかった
       合併協議会の事務局(県から出向職員)と連携をとることが大切だった
 野中:合併についての住民投票があり,それが済むまでは着手できなかった
     正式に合併が決まった平成14年5月からスタートした
 森井:平成10年4月の合併調印式があったが,その後も不透明だった
     平成10年10月からスタートした 半年しかなかった
 田沢:保健師が情報交換して,合併に反対している自治体があるかもしれない
 古賀(福岡)
     効率性と公平性という視点,評価が重要ということだったが・・
     事業を残すかどうかの判断基準は何だったのか?
 森井:事業量の多いもの,保健師の思い入れの大きさを点数化,住民による事業の評価も参考に
     評価指標についても検討が必要
 野中:参加者数,参加者のアンケートを参考にしたが,参加しなかった人の評価は?
     事業評価の学習会を保健師で2回ほどする予定である
     法律や国のプランで示されている部分は優先したい
 山下:母子保健計画にも評価項目を明記していたので,それに基づいて,評価
     障害者プランや老人保健福祉計画では評価が困難だった
     まず,保健師が楽しい,住民が楽しいと感じる事業を優先しよう
     働き盛りの死亡が多かったので,若い世代の肥満や飲酒が大切ということになった
     こうしたエビデンスに基づく優先順位も大切
     あさぎり町の住民を知ることができる事業を優先したい
 宇田:地域のサービスを低下させないことが大切
     各自治体がやっている事業は入れるということでいいのではないか?
     やはり,保健計画(ビジョン)を持つことが大切である
 前田(東京都感染症対策課)
     尾身先生住民の関係性の回復の大切さを強調された
     合併は,こうした関係性の回復が難しい状況になる
     事業の違いを住民にも示して,よりよい事業づくりができないだろうか?
 山下:あさぎり町で,健診の際に受診者全員に結果説明に呼んだ
     5つの町で,住民の空気が違うことがわかって,楽しい
     住民と会うことが楽しい
     「あさぎり町なったので,仲良くしようね」という老人の声
 宇田:デメリットを最小限にするためにも地域住民の参加が大切
     住民パワーをエンパワメントすることも大切
     ニーズが顕在化しやすいというメリットも活かすべきであろう
 西三郎:実務レベルの話になっているが,次のステップとして,ビジョンが大切
     市町村建設計画も当然,議論されるべきであろう
 中川:市町村保健計画の策定の講義をした時に保健師の反応
     何を大切にしたいのか?を持ち寄ろう
     新しい市を作ろうという夢を語れるかが大切
     住民自治という視点で見た場合に,支所の意義は?
     旧町村単位にある支所がどのような権限を持っているのか?
       その地域の予算や決裁権を持つのか?
     地区組織を今後どうするのか?
 山下:支所には保健師を配置していない
     合併前に住民組織の住民を集めて,議論をしてもらった
     あさぎり町として活動をすること,支部活動も大切
 野中:支所重視で,支所で窓口対応ができるようにしている
     ポストがたくさん必要という関係もあり,支所にも決済権(課長がいる)
     支所長の役割については,今後も検討がされる予定
     平成15年度は各自治体の予算で事業をやっている
     支部の活動を残している
 森井:愛育班は補助金もアップして,活動が活発になっている

藤内まとめ
 事業のすり合わせと保健計画の策定・統合をリンクさせよう
 限られた期間での合併作業では何を議論すべきか? トリアージをしよう
 事業を残すかどうかの判断基準
  保健統計などのエビデンスに基づく優先順位,保健計画における位置づけ
  法律や国の通知・補助金などの有無,サービス利用者の数や評価
  住民を知ることができる事業,保健師が楽しいと思う事業
 保健所の役割:事業のすり合わせや保健計画策定・統合の場づくり
 合併の議論においては,住民との「関係性」を大切にしよう!
 市町村合併は「関係性の喪失」の危機である