このファイルは、WPJ-NL.22からの転載です!
「女性医師の働く環境」
東北大学大学院医学研究科非常勤講師 宮城県女医会会長 山本蒔子
私の子育て環境
私は1965年に東北大学医学部を卒業し、1967年に医学部第二内科入局後大学院に入学し、薬理学教室にて教育を受けた。1968年に長女を出産し、保育所を探していた。しかし両親が医師の家庭では保育所には入れず、小児科医の経営する小規模無認可保育所(0歳から3歳までの保育所)に預けざるを得なかった。
その頃、医学部附属病院と職員組合との交渉で、病院に保育園を作ることが何度か取り上げられていた。これから先、子供を預ける当ての無かった私は、大学病院に保育園を作ることを決意して、利用を強く希望をしている種種の職種の人達30名で父母の会を作り、運営も辞さない覚悟で働きかけた。そして、大学が運営するメことりの家保育園モを作ることに成功した。
女性医師を囲むバリア
子育て環境を自力で作り上げ、内科の医局において、研究、診療、教育を続けてきた。しかし、管理者である男性の意識には、女性蔑視の考えは根強いものであった。私を初め、多くの女性医師の経験してきた事をまとめると、�@女性はどうせ腰掛でしか働かない(医学博士を取得して、保育園に子供を預けて働いているのに!)。�A女性医師は教室にはいらない。�B女性医師には簡単な研究テーマしか与えない。�C女性医師を指導する必要は無い。�D女性医師は助手にもなれない。このように目に見え無いバリアは大きかった。
女性医師の組織「宮城県女医会」の活動
1958年に宮城県女医会が作られた。2000年に、宮城県女医会では女医の生活・就職・職業に関する調査を、宮城県内の女性医師689名、宮城県内病院148、郡市医師会19を対象として行った。回収率は女性医師29.8%、病院34.4%および医師会100%であった。
子育て環境に関しては、94名の回答から、子育て中に女性医師が希望する配慮の内容は、当直,出勤時間や帰宅時間、病児保育施設であった。一方、111の病院、医局および女性医師の回答では、女性医師を受け入れる事に問題ありが58.6%を占めた。体力の不足、不意の休暇、当直、早い帰宅、出張しない、出産、スタッフとして期待し難いが理由であった。女性医師が抱える子育ての問題を、社会全体として解決すべき姿勢は、認められない。
女性の地位に関しては、27病院の68名の回答から、女性医師の割合は16.2%、部長、副部長の役職は18.6%であった。国公立病院では、院長、副院長に女性医師はいなかった。
東北大学医学部の医局(回答24教室)に対する調査では、医局員の12.9%(84/649)が女性であったが、教官は教授と助教授は0、講師は1名(2.7%)、助手は9名(5.7%)であった。医師会では女医会員は9.7%(288/2971)であるが、理事は2.0%(4/198)に過なかった。これらから、女性医師がキャリアアップしていくための環境は、極めて厳しいものと言わざるを得ない。
「星陵地区病児保育施設」への支援
東北大学病院には教授を除く教官、医員、研修生および大学院生の1000名からなる医学部教室員会という組織がある。その福利厚生部が病児保育の要望が多いことから、病児保育施設の設置を目指すことになった。
当事者である女性医師たちが中心になって頑張り、2001年2月に「東北大学星陵地区病児保育施設」が創られた。運営は医学部教室員会と看護部会が中心であり、宮城県女医会も助成金を差し上げている。
東北大学男女共同参画の推進
東北大学は2001年3月に男女共同参画委員会を作り、2002年9月に第1回東北大学男女共同参画シンポジウムを開催した。私はシンポジストとして参加し、女性教員率を上げるために目標とする率を決めて欲しいと発言した。
2003年11月、第2回シンポジウムでは、帝国大学で初めて女子入学を許可した沢柳総長の偉業を称え、東北大学男女共同参画奨励賞(通称 沢柳賞)創設が発表された。「星陵地区病児保育施設」は、エンパワーメント部門において沢柳賞を受賞した。
2004年11月現在の東北大医学部における教員と学生の女性比率は、教授は2.9%(いずれも基礎医学)、助教授0、講師8.1%,助手10%である。少し改善はあるが、博士課程大学院生30%、から見ると高い率とは言えない。
東北大学の過去5年間における女性教員数を表に示した。東北大学は国立大学協会の掲げている女性教員率20%を目標値とし、2010年まで実現するとしている。しかし、この表からは、2010年でも10%以下に留まる事が予想され、今後の対応が期待される。宮城県女医会も男女共同参画を自分達の問題として捉え、自らを取り巻く環境において推進に取り組みたいと思う。
表 東北大学における過去5年間の女性教員率
| 助手を除く | 助手を含める |
1999年 | 2.1% | 5.2% |
2000年 | 2.4 | 5.5 |
2001年 | 2.7 | 5.7 |
2002年 | 2.9 | 5.8 |
2003年 | 4.3 | 6.7 |
2004年 | 4.9 | 7.1 |