【顧問随筆】
 

21世紀は女性医師・女性医学者の活躍の時代

高久 史麿 自治医科大学学長  

 私が若い時に読んで最も感動した本の中の1つにキュリー夫人伝がある。この本を読んで、彼女の研究に対する熱意にただ圧倒された。しかし私自身の学生時代は、第二次大戦の戦中、戦直後であったため、中学・高等学校、大学時代を通じて、上級生や同級生に女子学生は1人もいなかった。大学時代、1年下に東大医学部初の女子学生が入学してきた事が大きな話題になった時代である。

 当時の事を考えると、現在の医学界における女性の医師や研究者の活躍には、目を見張るものがある。例を挙げるとかえって失礼になると思うが、あえて挙げさせていただくと、私たちの大学の小児科の女性教授は、神経疾患の研究で有名な仕事をされた方であるが、現在は教務委員長として大活躍しておられる。教職員の中に彼女のファンが多いと聴いているが、最近私たちの大学でも女子学生が増えてきた(以前は卒業後へき地勤務が義務づけられている事もあって、各県で行っている第1次試験を通る女子学生が少なかったが、最近は県の担当の方々の考えが変わったようで、大学で行われる第2次の試験を受けにくる女性学生が多くなり、当然入学してくる女子学生も多くなっている)が、上述の教授は恐らく女子学生のあこがれの的になっているのであろう。

 私は現在の大学に来る前から医学教育振興財団の理事長を務め、現在もその職を続けているが、この財団が行っている事業の一つに、英国医学校への短期留学制度がある。詳細は省くが、全国の医学部(医科大学)の5年生で、British Counci1での英語の試験の成績がある一定レベル以上の医学生の中で、更に財団での面接を通った学生16名を四週間イギリスの四つの医学校に臨床実習の勉強に送り込む制度である。私が自治医科大学に来る前年の面接で、面接員全員から非常に高い総合評価を受けて短期留学をした自治医科大学の女子学生がおり、強い印象を受けた。その翌年に私が自治医科大学に移り、最初の卒業式に出た際、学長賞を私からもらった卒業生が、英国留学に行ったその女子学生であったのには、驚くと同時に大いに納得がいった。尚、私たちの大学の学長賞は、教員からなる学生委員会で学業成績、クラブ活動、人柄、その他諸々の点を考慮して学長に候補の学生を推薦する制度である。その女子学生は、卒業後研修を行っている病院でも、非常に評価が高いとの事である。

 本文を書くにあたって、たまたま頭に浮かんだ二人の女性の医師を紹介したが、私が最近注目している女性医師、女性医学者を一人一人紹介すると数十頁にも及ぶであろう。以前学術会議の会員に女性がいない事が女性の国会議員から指摘された事があったが、先に述べたように、私が育った世代にはどの学部でも女子学生は非常に少なかった。又、おられてもその方々が卒業後活躍されるような社会的な基盤がなかった。私に近い世代の方々が学術会議の会員になっておられた時代に、学術会議に女性の会員がおられなかったのは当然の結果だったのではないかと思う。しかし私から一世代下の年齢層から女性の活躍が目立ち始めた事を考えると、今後は女性の会員が増加すると推定される。同じ様に、いよいよこれから女性の医師や女性の医学者の方々が日本の医学・医療の前面に出て来られるであろうし、事実既に出ておられる方も少なくない。

 日本の社会は現在色々な面で壁に突き当たり、それを破れない状態にある。その壁を破るためにも、21世紀が女性医師や女性医学者が活躍する時代になる事を期待している。