木下敬介 木下皮膚科医院院長
梅雨から夏にかけて足白癬(ミズムシ)の患者さんが急に多くなる。これは、白癬菌が高温多湿の条件のもとで活発になることと関係がある。
以前ミズムシは男性の専売特許のような皮膚病だったが、最近では女性にも多く見られるようになり、決して男性に引けをとらない状況となった。あくまでも町医者である一皮膚科医の印象として、20年前の開業当初にはほとんど目につかなかったミズムシの女性の患者さんが、およそこの十年間で確かに増えてきた。 国際女性技術者・科学者会議の医療部門分科会関係の場で、こんなことを言って大変恐縮だが、女性の社会的進出とミズムシの増加は無関係ではない。その理由は、ストッキングに靴を長時間着用することで、足がむれて白癬菌にとっては好都合となるからであろう。
一方、少子化が話題として取り上げられるようになったのも、10年くらい前からだろうか。少子化も、核家族化などの社会構造の変化だけでなく、女性の社会的進出に伴う結婚や出産に対する価値観が以前と変ってきたためと考えられる。すなわち、ミズムシの増加と少子化というふたつの現象は、「女性の社会的進出」というキーワードで繋っている。
わが国の女性の社会的進出に関しては、この四半世紀でみても目をみはるものがある。約30年前、医学部を卒業した当時、自分の学年には女性がたった一人。当時、女医さんの数はそのくらい少なかったが、平成10年度の医師国家試験合格者の26%を女性が占めており、しかも合格率においても女性の方が男性を五%も上回っている。政治の世界でも、今回の統一地方選挙には史上最多の女性候補の進出が報道されている。 「男女対等」とか「男女平等」とかを議論するわけでは決してない。それどころか、性染色体のXXとXYの形をみて男性の方が性染色体に相当する四分の一だけ遺伝情報が少ないと信じているし、ミトコンドリアDNAが母から娘にしか伝わらないことを知って驚嘆しており、何事につけても女性の方が男性より優れていると思い込んでいる者のひとりなのだ。学生時代には柔道をやっていたが、当時は、女性の柔道など思いもよらなかった。それが今では国際的なスポーツとして注目をあびるようになったし、女性禁制の国技である相撲も、最近では女性の大会が話題になってきた。マラソンにおいても記録を塗りかえるのは女性ばかりで、そのうち男性を追い越すのも時間の問題だろう、格闘技にしても耐久レースにしても、決して女性が劣っていないことが事実として証明されつつある。
周囲を見ても、能力のあるそして神経の図太い尊敬すべき女性を沢山知っている。女医さん然り、いわゆるキャリアウーマン然り。行政関係のある女性課長さんは、仕事もバリバリだが、自分の大腸癌の肝転移のことをケロリと言ってのけ、入退院を繰り返しながら激務をこなしている、男の自分には決してこんな真似はできまいと、畏敬の念を抱きつつ見守っているところだ。
ところで、科学というか文明によって、いまや人類は自然の法則や進化の法則からはみ出し、生命の原則からはずれた存在になりつつあるといわれている。地球上に棲む生物のバランスや動物のエネルギー消費量から計算すると、地球上の全ての陸地に棲めたとしても適正人口は2億人程度だという説があるそうな。現在の世界人口は56億人を越えており、あと50年もすれば百億に達するとの推計もあって、少子化はむしろ人類の辿るべき道ではないかと考えることもできる。少子化現象は、これを人類の辿るべき道と感じとった女性ならではの叡知と優れた潜在能力によるむのかもしれない。所詮男ともには、人口を減らすのに戦争するくらいしか能がないだろうから、本気で女性の叡知を信じたい。
少子化について議論するとき、今問題なのは子供の数ではなく、少なくなった子供が心身ともに健全に育っていない現状を指摘する声がある。女性の社会的進出による少子化現象はやむをえないかあるいは理に適っているとしても、人の感性の大部分が培われる幼児期に母親が子供の側についていてやれないということにでもなれば、その子の将来の人格形成に大きな問題が残る懸念すらある。勿論父親のサポートも大切だが、子育てにおいても男性より女性の方がはるかに優れているのは明白な事実なのだから、女性の社会的進出と子育てをいかに両立するかが大きな課題となるのではないだろうか。
国際女性技術者・科学者会議の関係各位の叡知に期待し、ますますのご活躍を心からお祈りしたい。