新人女医の皆様へ

山中 千恵 中国労災病院 脳神経外科副部長

 医師の増加にともない、女医の数は増加しており、「脳外科女医」も珍しい存在ではなくなってきました。とはいえ、外科系の中でも脳神経外科はまだ新しい分野であり、日本では女性の占める割合は脳神経外科医全体の約二%にすぎません。私のように一般病院で勤務していますと、まだまだ患者さんからみると不思議な存在であるようです。私はジェンダーについてはよく知りませんし、私が述べるまでもなく他の諸先輩方から貴重なご意見が出ていると思いますが、ここでは私の脳神経外科医としての経験から、女医の先輩として、二つの面からアドバイスをしてみたいと思います。

1. 医師として…大切なことは、たとえば脳外科を選んだ場合、一人前の脳外科医になるために、いったい何を目指すのか、という自覚を持つことだと思います。自分は今あるいは将来何がしたいのか、男女に限らず自分の仕事についてある程度の方向性を持っていなくては、指導する方も大変です。医師として成長するには、男女であることより置かれた環境による影響が大きいと思います。若くて独身のうちは、出張など身軽にできるわけですから、「女性だからあの病院は忙しいし配属をやめておこう」という扱いを受けないよう、普段から仕事に対する真剣な態度を表示しておくべきでしょう。次に、受け入れ側の問題もあります。本人が女性であることを意識していなくても、いざ出張となると受け入れ病院の施設長が「当直室はどうしよう」といった不安を持つことは以外と多く、暗黙のうちに女医を取らないということもありますので、普段から医局長などに、「女医専用の当直室があれば充分」とか、「三人以上なら雑魚寝もOK」など、自分の意見を表示しておくのが良いでしょう。

 日本はいわゆるセクハラでいじめられることの少ない良い国だと思います。むしろ気を遣ってくれすぎるくらいですから、「私は大丈夫」という姿勢を持ってください。やはり何より、「実力のある(脳外科)医師になるんだ」という意志が大切です。これは男性医師の皆さんにもいえることではないでしょうか。医師過剰といわれる今、男性のシニアの医師でさえ、生き残りを真剣に考えなくてはいけない時代になってきました。男女がどうこうというより、世の中は、実力のない、やる気のない医師は必要としていないのです。

2. 女性として…未だ独身で育児の経験のない私がいうのもおこがましいのですが、人間である以上、女医さんが女性であることを否定する必要は全くないと思います。結婚に限らず、人間としてどう生きるかは個人個人が抱える問題です。男性の先輩方をみても、自分の健康問題、家庭の問題(子供の教育や介護の問題など)など個人的な悩みを抱えている人は多いのです。企業戦士のように自らを犠牲にするのも一つの生き方でしょうが、バブルもはじけた今、世の中も精神的なゆとりのある生活を求める声が多くなっています。特にいわゆる適齢期の女医さんにとっては、結婚や育児はもっとも大きな個人的問題でしょう。しかも仕事を覚えていく適齢期でもありますから、どうしても仕事を取るか、家庭を取るかという問題になります。過去二回にわたり脳外科女医にアンケート調査を行った経験から、私にできるアドバイスとして、二つのことがあります。

 一つは、結婚や育児は一人で成り立つものではなく、必ず相手があることです。結婚の形態を取っていなくても一人で子供は作れません。問題を一人で解決しようと思わずに、パートナーなり家族なりに相談し、できる限りの協力をお願いすべきではないでしょうか。現にアンケートの回答には「ご主人やご両親にもっと早く相談すれば良かった」という意見が多くみられました。そういう貴重な経験から出たご意見を活かすことが、女医会の役目の一つだと思います。

 もう一つのアドバイスは、これもアンケートの結果から得たものですが、上司に早く相談することです。仕事の面では男女を意識する必要はありませんが、同じ職場のメンバーとして、自分の状況を上司に把握・理解してもらうことは大切なことではないでしょうか。もちろん甘えはマナー違反ですが、複数の部下を持つ場合には、部下の個人事情も考慮するのが上司の仕事の一つだと思います。その場合、上司の側から指摘されるのは、突然「結婚します」「妊娠しました」「主人が転勤なのでついていきます」などといわれるのが一番困るということです。男性の場合の急病と同じように急な出来事とはいえ、結婚や妊娠はある程度予測のつくことですから、多少の予定は、上司には知らせておくほうがよいでしょう。それであからさまな差別待遇を受けるようであれば、それは男女差別というより、部下に対する不当な扱いとして捉えるべきではないでしょうか。新人の女医さんに、今更というようなアドバイスを述べてみましたが、皆さんにとって最も大切なことは、個人個人が自分の生き方をどのように把握していくかということだと思います。自分のやりたい仕事や研究ができる状態におかれた幸せを自覚して、人間として成長してゆきましょう。