和多忙


関東地方の大学看護学科教員です。


「看護師」を目指す

高校卒業後,気象庁や天候測定を考えていましたが,進路にうまく進めず浪人生活が始まりました。ちょうどそのころから,家族の病気を機に「健康」や「病気」に興味を持つようになりました。某予備校の資料に「保健学科」という自分の興味に合いそうな分野があることを知り,4年制度大学の保健学科(現在は「健康科学・看護学科」と改称)に入学しました。

最初は看護師という資格を男性が取得できることさえ知りませんでしたが,この分野で対象となる人に直接「触れる」ためには何らかの医療関係の資格が必要であることを認識し,さらに先輩の男性看護師の講義に触発され,この道を志しました。その当時,私の専攻した看護コースでは全員が男子4名という,当時としては珍しい構成でした。


臨床看護から学んだこと

卒業後,臨床実習や看護管理実習で感銘を受けた大学病院の脳神経外科,消化器系・脈管系外科の混合病棟に就職し,そこで看護師を5年勤めました。疾患としては,脳腫瘍,頭蓋底腫瘍,消化器系疾患(腫瘍)・脈管系疾患(梗塞等)を中心に,術前・術後のケアからリハビリテーションまで,対象は小児から老人までと担当しました。患者さんと家族との出会いの中で,今でも鮮明に当時のことを想い起こすことができるくらい印象深かった方が何人かおられます。すでに亡くなられた方もいらっしゃいます。これら一期一会の出会いから学ばせていただいたこと,特に「対象を理解する」という点において非常に勉強になりました。さらに,同じような状況(健康・病の状態)に置かれた場合の人間としての生理学的・心理学的反応のプロセスやパターンの実際の一部も学ぶことができたと思います。

臨床実践以外には,看護研究,看護学校の臨床実習指導,病棟の看護業務改善委員会の委員などを担当しました。現実に臨床では様々な問題点があり,その場その場での対応もさる事ながら,システムの問題点として対処する必要性とそのプロセスを学ぶことができたと思います。さらに,医師,看護師,理学・作業療法師,ソーシャル・ワーカー,薬剤師,栄養士,事務,清掃等々のそれぞれの職種の連携と協力がうまくいくかどうかが,患者さんと家族の満足度・安心感に影響を及ぼしていることをつくづく感じさせられました。


教育・研究に携って

その後,臨床で思い浮かんだ様々な考えをまとめたり,本や文献を調べて確かめたりする時間が欲しいと考えているとき,卒業した学科で助手をする機会に巡り合え,そこで2年半務めました。在籍中は,学部生3・4年生,大学院修士課程の学生の授業補助などの教務を通し,20名前後の看護コースの学生に刺激を受けながら,臨床,管理,教育,研究の連携についていろいろと考えさせられ,そしてまたその可能性を探っておりました。そのころの「教え子」である後輩たちが,さまざまな方面で活躍していることを,大変嬉しく思ってます。

ミネソタ大学看護学部の博士課程(PhD)に在籍中,リサーチ・アシスタントとウェブに基づいた授業(WebCT)や遠隔テレビ授業(ITV)のアシスタントなどを経験しました。

臨床看護研究は,臨床で看護士をしていたときから興味を持っていた「せん妄/急性錯乱[混乱]状態(delirium/acute confusional states)」に関して,患者さんの症状の把握・評価(アセスメント)方法の確立,発症段階・類型・パターンの特定を博士課程で研究しました。その結果実に多様なパターンがあり,発症因子も多因子が交絡的に絡んでいるという文献通りの発見がありました。今は,患者・家族への支援,そしてなによりもベッドサイドの看護師と医療従事者のチームワークをよくすることが,「ケアの質」向上,ひいてはせん妄の予防,または早期発見・診断・介入につながることから,実際の看護師への教育支援を模索中です。それ以外に,研究の実施に加えて,研究結果の活用・応用や根拠に基づいた看護実践についても少しずつ勉強しています。研究で得た結果を臨床にどのように還元するのか,そして管理的な要素,臨床看護婦と研究者との連携をどのように図るかを模索中です。

いくつかの大学で看護教員を経験させて頂き,今現在は1学年約100名近い大学での講義・演習・実習で,(今までも・これからも)毎日が充実しています。考える時間,調べる時間,研究する時間を確保しつつの仕事,バランスを気にしながら,時々リフレッシュして充電したいと考えています。


05/14/2008改訂;Copyright 2000-2013, Watabou