フィブリノゲン
【基礎データ】

フィブリノゲン遺伝子(F1) 第4染色体上 (4q28-32) 約 50kb領域内に3つのサブユニット(Aα, Bβ, γ)の遺伝子がFGA, FGB, FGGとして存在
血漿基準値 150-400 mg/dL
(4.4-11.8 μM)
 
半減期 3-4日
 
主な産生臓器 肝臓
 
先天異常症 無フィブリノゲン血症
低フィブリノゲン血症
フィブリノゲン異常症
常染色体劣性遺伝形式
ヘテロ欠損症
多くはヘテロ欠損症
 


【フィブリノゲンの蛋白化学的性質】
フィブリノゲンは、Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の3種のポリペプチドからなるヘテロ3量体が重合した2量体(AαBβγ)2の構造を持つ、分子量340kDaと比較的大きな糖タンパクです。フィブリノゲン分子は、3つの領域(region)とそれをつなぐ構造(coiled-coil connectors)からなり、中央に存在する2量体形成部位であるN末端側はE領域と呼ばれており,両側に対称に広がるC末端側は D領域と呼ばれています。

【測定法】
フィブリノゲン値測定としては外因性のトロンビンを用いた凝固時間法(Clauss法)が最も多く使用されていますが、通常この方法では50 mg/dL程度のフィブリノゲン値が測定下限です(これ以下でも測定は可能ですが、その信頼性は落ちます)。このため、無フィブリノゲン血症では測定感度以下となることがあります。一方、低フィブリノゲン血症では測定値内であることが多いのですが、厳密な意味での無フィブリノゲン血症との鑑別は時に困難です。
フィブリノゲン測定で生成したフィブリンの検出法として、光学的方法と物理的方法の二つが大別すつとあります。フィブリノゲン異常症では生成したフィブリンの性状が正常なフィブリンと異なるため、物理的方法では検出されるのもの光学的方法では検出されない場合もあります。このためフィブリノゲン異常症では測定原理(試薬ではなく測定機器の特性)によって値が異なる場合があります。

【検査値異常が出る場合】
上昇する場合
・急性相反応物質増加時(感染症、膠原病、悪性腫瘍など)
肝臓での産生亢進。フィブリノゲンは正の急性相蛋白ですので、炎症反応時には増加することが多く認められます。同様の変動を示す血清・血漿蛋白としてはα2-アンチプラスミンがあります。一方、同じ肝臓で合成される血清・血漿蛋白であるアルブミンやアンチトロンビンは負の急性相蛋白ですので、低下する場合が多く認められます。
・ネフローゼ症候群
腎から漏出する蛋白の合成促進に付随してフィブリノゲン産生が増加するものの、腎から漏出されにくいために結果として蓄積します。

低下する場合
産生低下(先天性)
・無フィブリノゲン血症
・低フィブリノゲン血症
・フィブリノゲン異常症
フィブリノゲン異常症では抗原量は正常な場合があります。またClauss法では正常な値を示す場合もあります

産生低下(後天性)
・肝硬変、肝不全
L-アスパラギナーゼ投与
肝合成能が全般的に低下していますので、肝臓で産生される凝固因子が低下しPTAPTTが延長する場合が多く認められます。また、アンチトロンビンやプロテインCなどの凝固制御因子も低下します。フィブリノゲンをはじめとする凝固因子の止血などに必要な量に対して、凝固制御因子の適切な凝固反応の制御に必要な量は一般的に高いので、これらの疾患では出血傾向より血栓症が臨床的に問題になる場合が多く認められます。
またアルブミンなどの肝臓で産生される蛋白は低下し、コリンエステラーゼ値も低下します。
・ステロイド大量投与
比較的大量のステロイド(1mg/kg BW以上)投与後に認められる場合があります。フィブリノゲンが選択的に低下します。このため凝固時間は正常もしくは短縮(ステロイドによって凝固因子の産生が亢進するため)ですし、アンチトロンビンの低下も認められません。α2-アンチプラスミンも上昇も低下もしません。ステロイド中止によって速やかに正常化します。急性リンパ性白血病などのリンパ系腫瘍でステロイドを先行して投与した場合に認められます(多くはL-アスパラギナーゼなど他の薬剤と併用するため、フィブリノゲン単独の低下は認識されにくいことが多い様です)。

「消費」の亢進
播種性血管内凝固症候群(DIC)
凝固活性化に伴いトロンビンが産生され、フィブリノゲン→フィブリン変換のために、フィブリノゲンが低下する可能性はあります。しかしこの様な消費性にフィブリノゲンが低下する場合はまれです。多くはDICに合併する線溶制御不能状態に伴うフィブリノゲン分解によって引き起こされます。DICの診断基準に採用されていますが、低下しない場合も多く、逆に炎症反応が病態形成に関与しているDICの場合は上昇する場合もあります。
線溶制御不能状態
線溶系の活性化の結果、線溶系の制御因子であるα2-アンチプラスミンが消費性に低下し、線溶系の制御が十分に行うことができない病態です。線溶反応(プラスミンによるフィブリン分解)は、通常、フィブリン表面で活性化され、その活性化の結果産生されるプラスミンの作用はフィブリン表面に原曲されています。この「空間的制御」が、消費性にα2-アンチプラスミンが低下した病態では破綻し、プラスミンがフィブリン血栓から遊離しても適切に阻害されることなく、流血中でもその酵素活性を発揮する結果、プラスミンはフィブリノゲンも分解し、低フィブリノゲン血症を呈することになります。同時に、適切な速度によるフィブリン分解が行われず、損傷部の治癒が十分に行われる以前にフィブリン血栓が分解されることになります(「時間的制御の破綻」です)。このフィブリン早期分解のため出血を呈することになり、臨床的には一旦止血は認められるものの、しばらくして出血が認められる再出血という症状を呈することになります。特にoozingと呼ばれる、滲み出るような出血を呈することが特徴とされていますが、ひどい場合には止血そのものがはっきりしない場合も経験します。低フィブリノゲン血症と出血傾向・止血困難が同時に認められることになりますが、フィブリノゲンが低下しているために出血傾向を呈しているものではありません。
慢性EBウイルス感染症
慢性活動性EBウイルス感染症では、機序は不明ですが、低フィブリノゲン血症を呈する場合があります。新線凍結血漿の補充では十分には回復しませんので、「消費」「分解」が関与していると考えられます。