アンチトロンビン欠損症 |
アンチトロンビンは血液凝固反応活性化の結果産生されたトロンビンの重要な生理的インヒビターです。現在でも「アンチトロンビン III」と呼ぶ場合がありますが、正式には「アンチトロンビン」です(過去にはアンチトロンビン Iやアンチトロンビン IIなどありましたが、すべて別の物質として同定され使用されなくなり、物質として残ったものが「アンチトロンビン III」のみであったため)。トロンビンのみならず活性型凝固第X因子も阻害します。アンチトロンビンは単独でもトロンビンや活性型凝固第X因子を阻害することができますが、その速度はゆっくりとしたものです。このアンチトロンビンにヘパリンが結合するとその阻害速度が促進されます。このヘパリンによる阻害速度促進作用はヘパリンの分子量によって特性が異なり、分子量が小さなフォンダパリヌクス(商標名アリクストラ)や低分子ヘパリン、また硫酸基の数が少ないヘパラン硫酸(商標名オルガラン)などでは活性型凝固第X因子に対する阻害速度促進効果が発揮されますが、トロンビンに対するそれはあまり促進されません。一方分子量が大きい未分画ヘパリンでは活性型凝固第X因子に対する阻害速度促進効果のみならず、トロンビンに対する阻害速度促進効果も発揮されます。ヘパリンがない状態でゆっくり進行する阻害活性を進行性トロンビン阻害能、ヘパリン存在下で阻害速度が促進さている状態で認められる阻害活性をヘパリンコファクタ活性と呼びます。
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先天性アンチトロンビン欠損症・低下症とは先天的にアンチトロンビンが低下している病態です。いくつかのtypeに分類され、アンチトロンビンの抗原量が低下しているtype Iと、抗原量に対して活性低下が著しいtype IIとに分類できます。type IIはさらにトロンビン不活化の活性中心付近の異常のために進行性トロンビン阻害能が欠落しているtype II RS (reactive site defect)と、ヘパリン結合部の異常のためヘパリンとの結合能が低下しているためヘパリンコファクタ活性が低下しているもののトロンビン不活化部位の異常はなく進行性トロンビン阻害能は保たれているtype II HB (heparin binding site defect)、さらに変異のための立体構造の変化が活性中心とヘパリン結合部の両方に影響を与えているtype II PE(pleiotropic effect)とに分類されます。
血栓症の合併頻度はtypeによって異なると報告されています(Type II HBは他のTypeに比べ合併頻度が低いことが知られています)。
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アンチトロンビン欠損症としての遺伝様式は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。しかしそのすべての症例が血栓症を発症するものではありません(合併リスクとしては増大します)。
遺伝子変異のほとんどがヘテロの変異です。Type II HBでホモの異常症の報告があります(type IやType IIRSでは胎生致死と考えられています)。一般人口におけるアンチトロンビン欠損症の遺伝子変異の頻度はおよそ0.15 %との報告があります(日本人も欧米人も同じ頻度です)。
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血栓症を合併しやすい病態ですが、特に静脈系の血栓症(含む肺梗塞)が主な血栓症となります(動脈系の血栓症がないわけではありません)。
さらに
若年性の血栓症(10歳以降、14歳以降が多い。乳幼児期は稀)
などの血栓症が認められる場合は、本疾患を含む先天性血栓素因(先天性プロテインC欠損症や先天性プロテインS欠損症など)を疑う必要があります。
稀な部位の血栓症(上矢状静脈洞、腸間膜静脈血栓症など) 誘因なく繰り返す血栓症 |
アンチトロンビン活性低下
現在施行されている標準的なアンチトロンビン活性測定はヘパリンコファクター活性の測定です。したがって、どのタイプのアンチトロンビン欠損症であっても、アンチトロンビン活性は低値を示します。一方、進行性トロンビン活性は通常測定されません。
アンチトロンビンの測定系ではトロンビンを酵素として、その阻害活性を測定するキットと活性型凝固第X因子を酵素としてその阻害活性を測定するキットがあります。このため、DOAC/NOAC服用中の患者さんでは薬剤とキットの組み合わせ次第ではアンチトロンビン活性が高く測定される場合があります(服用薬物の種類、キットの特性、並びに服用から採血までの時間など多くの因子が影響します)。このため、アンチトロンビン欠損症などを疑う場合は、これらの薬物の投与開始前に因子活性の測定を行う必要があります(投与開始後でもNOAC/DOACがトラフ値を示す様な場合には影響は少ないと考えられますが、完全に排除はできません。また薬物中止数日後に測定すると、真の値の測定は可能ですが、血栓症のリスクを上げることになりますので、検査目的の薬剤中止は推奨できません)。ワルファリンは影響はありません。著しい凝固活性化が惹起されている病態や炎症病態が存在する場合は低値を示す場合があります。ヘパリン投与中もやや低下します。
アンチトロンビン抗原量低下
Type Iでは低下しています。
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アンチトロンビン濃縮因子製剤
因子欠損症ですので補充療法が最も基本的な治療となります。しかし慢性期にはワルファリンやNOAC/ DOACなどの抗凝固薬剤で血栓症予防は可能と考えられているため、血友病の様な定期補充は行いません。しかし妊娠中や周術期の様にこれらの薬剤が使用できない場合にはアンチトロンビン濃縮製剤の使用を考慮します。またヘパリンの使用を行う必要がある病態(肺梗塞や脳塞栓、体外循環装置使用など)でもアンチトロンビン製剤の使用が必要です。半減期はおよそ60時間です。目標トラフ値は明らかなエビデンスはありませんが、70 %程度を目標にしています。
すべての製剤が「先天性アンチトロンビン(III)欠乏に基づく血栓形成傾向」の効果効能の承認をとっています。またすべての製剤が「アンチトロンビン(III)低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)」の効果効能の承認をとっていますが、「アンチトロンビンIII低下を伴う門脈血栓症」の承認をとっているのは「献血ノンスロン」のみです。
ワルファリン・ NOAC/DOAC
慢性期にはアンチトロンビン の補充は必ずしも必要なく、ワルファリンもしくはNOAC/DOACで静脈血栓症の合併を予防することが必要になる場合があります。すべての症例に抗凝固療法が必要であるかどうかは結論が出ていません。またこれらの抗凝固薬剤の有効性についても必ずしもエビデンスが出ているものでもありません。
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