Hermansky-Pudlak症候群
【Hermansky-Pudlak症候群とは】
1959年にチェコの医師HermanskyとPudlakによって血小板機能的低下に基づく出血傾向と眼・皮膚色素脱出症(oculocutaneous albinism)を呈し、さらに骨髄に異様な色素沈着物を有する網内系細胞を認める二人の患者が報告されました。さらに同様の症例が報告され、全身のチロシナーゼ陽性メラニン色素脱出(この結果、眼・皮膚色素脱出症を合併します)とセロトニンなどの血小板濃染顆粒(densegranules)内容物の欠損による血小板放出異常症 (δstorage pool deficiency:δSPD)に起因した出血傾向を合併し、時に組織局所網内系細胞のライソソーム酵素活性低下に基づいたセロイド様物質の沈着(accumulation of ceroid-like material)を示す常染色体劣性の遺伝形式を有する一群の先天性疾患群の存在が明らかになりました。この様な先天性疾患に対して、初めて報告した二人の医師に敬意を表してヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak syndrome;HPS ただし血液領域、輸血領域ではHPSはhemophagocytic syndromeが主に使用されますので略号の使用には注意が必要です)という名前が用いられるようになりました。
皮膚色素顆粒と血小板濃染顆粒は、ともにライソゾームの膜タンパク質をもつ放出顆粒で、ライソゾーム関連小器官と分類されます。形成機構並びに放出機構に多くの共通している因子があるため、この因子に異常が生じた場合にはともに障害される可能性があります。Hermansky-Pudlak症候群では、この形成・放出に関与する因子の先天的な異常と考えられており、事実いくつかの遺伝子異常が同定されています。
Hermansky-Pudlak症候群はライソゾーム病の一種とも考えることができ、細胞内での不要物の処理能が低下ためセロイド様物質の沈着が惹起されたり、好中球減少や免疫異常が認められる場合があります。また肺線維症、肉芽腫性大腸炎、心筋症、腎不全などの合併も認められ、予後に影響を与えますが、ライソゾーム異常がどの様な機序でこの様な病態を起こすのかは不明です(変異遺伝子によって頻度が異なりますので関連は示唆されています)。


【遺伝形式】
常染色体劣性遺伝形式をとります。世界的にも稀な遺伝子異常で100万人に1-数名と言われています。本邦でも報告がありますが、下記の様に診断が困難な例も多く、実際の患者数に関しては不明です。

【臨床症状】
出血症状
鼻出血や抜歯後の止血困難、軽度の打撲後の紫斑など比較的軽度の出血傾向が認められます。また分娩後出血や手術後に遷延する出血なども認められます。大腸炎を合併する場合もありその場合は下血を認めることがあります。一般に生命予後に影響する出血は稀です。

皮膚および頭髪
皮膚の色は白色から薄い肌色で、髪の色は白から茶色ですが、少なくとも家族の他の人より薄い色を呈しています。
色素の薄い皮膚への長期間(年余にわたる)日光曝露によって、厚い強皮症様の皮膚を呈したり、前癌病変である日光角化症を呈する場合もあります。また最終的に基底細胞癌や扁平上皮癌などの皮膚癌をきたします。

眼症状
色素脱出による眼振などありますが、視力の低下は一般にありません。

臓器障害
肺線維症やクローン病に類似した出血性の肉芽腫性大腸炎を合併することがあります。また好中球減少や免疫異常はを呈する場合もあります。その他、心筋症および腎不全も報告されています。

【検査所見】
出血時間の延長が認められます。血小板数やその他のヘモグラムの値は正常です。血小板凝集能検査では,リストセチンを除くADP、コラーゲン、エピネフリン、トロンビンなどのアゴニストによる二次凝集反応が低下しますが、異常を検出できない場合もあります。形態学的には濃染顆粒の欠落・減少が認められますが、電子顕微鏡でなければ詳細はわかりません。遺伝子検査ができる場合は異常遺伝子の特定に至る場合もあります。

【治療】
出血傾向に対しては多くの場合、圧迫止血などの局所療法やトラネキサム酸などの抗線溶療法で対応でき、血小板輸血などが必要な症例は稀です。
皮膚症状などは発癌リスクの軽減など、他の色素脱出症と変わりません。
肺繊維症なども対症療法となります。

【その他】
指定難病の「眼皮膚白皮症」の一つです。