患者さんと家族のための                                                                201376日改訂

双極性障害の手引き

 

目次 

1 双極性障害はこんな病気

2 躁状態とうつ状態

3 双極性障害の原因

4 双極性障害のくすり

5 双極性障害の治療目標

6 双極性障害治療の心構え

7 双極性障害と家族

8 うつ状態の過ごし方

9 ライフチャートを書いてみよう 

 

1 双極性障害はこんな病気

 

 双極性障害(躁うつ病)は、躁状態とうつ状態という、2種類の「病相」[1]を繰り返す病気です[2]。これらの病相が治った後は、精神的な症状は全くなくなります。これらの病相が1回で終わることは少なく、予防療法をせずに放っておくと、多くの場合再発し、年と共に再発までの間隔が短くなる傾向があるため(図1)、ふつう予防療法を行います。再発は治療により予防できます。

 はっきりした躁状態がある場合は双極I型障害と呼ばれ、軽躁状態[3]とうつ状態を繰り返す場合は、双極II型障害と呼ばれます。軽躁状態は、むしろ調子の良い状態と感じるので、双極II型障害は、本人や周囲の人にとっては、「うつ病」と感じられます。しかし、双極II型障害ではうつ状態が再発しやすいことから、双極性障害に含めているのです。

 

2 躁状態とうつ状態

 

 躁状態の症状を表1にまとめました。

 躁状態になると、とにかく気分が高ぶり、機嫌よく誰かれとなく話しかけて回ったりします。夜眠らないでも平気で、自分は誰よりも偉いと感じているので、深夜・早朝でも気にせず電話をかけたりします。良いアイデアがどんどん浮かんでくる上、いつもより活動的になるので、どんどん行動が広がり、すばらしいアイデアが浮かんだとか、新しい会社を作るとか、一見調子が良いように見えますが、一方では、気が散りやすく、軽率になり、自制心を失っているので、こうした行動の結果、多額の借金を抱えたり、人間関係を乱したり信用を失ったりして、場合によっては社会的地位を失ってしまうこともあります。 

 一方、うつ状態では、一日中、気分がゆううつで、いつも見ていたテレビや新聞にも興味がもてず、何をしても楽しめません。何も食べる気にならず、何kgも体重が減ってしまいます。夜は寝付かれない上、暗いうち目がさめてしまい、過去のことを悔やんだり、自分を責めたりすることばかり考えます。逆に、食欲が増えたり(過食)、眠りすぎてしまう(過眠)という症状が見られることもあります。仕事をしようとしても、考えが進まず、集中力や決断力がなくなり、ひどく疲れやすいなどで、とても仕事はできません。何事もおっくうになり、機敏に行動できません。場合によっては、じっとしていることができず、立ったり座ったりと落ち着かなくなる場合もあります。しまいには、もう死ぬしかない、と自ら命を絶とうとする人もいます。

 躁でもうつでも、重症の場合には、妄想(現実ではないことを信じてしまう)や幻聴(実際には存在しない声が聴こえる)が見られる場合もあります。躁状態では、誇大妄想(「超能力がある」)、うつ状態では貧困妄想(「破産した」)、心気妄想(「不治の病にかかった」)、罪業妄想(「大変な罪を犯した」)などが特徴的です。

 双極性障害では、このように両極端な二つの症状が現れることが特徴で、躁状態からうつ状態を経過して治る、あるいはうつ状態から躁状態を経過して治る、という風に、一連の病相として現れる場合も多いようです。経過中、躁とうつが入り混じった状態、すなわち「混合状態」が現れることもあります。

 

3 双極性障害の原因

 

 躁やうつの原因は、脳内の情報伝達の乱れによると考えられています。ストレスはきっかけにはなりますが、直接の原因ではありません。治療薬の作用などから、躁状態、うつ状態では、ドーパミンなどの脳機能を全般的に調整している神経伝達物質[4]の機能が変化していると考えられています。

 一方、これらの神経伝達物質が変化してうつや躁になる理由は、まだはっきりとはわかっていません。体質的に、これらの伝達物質に対する細胞内の情報伝達系(イノシトールリン脂質系[5]など)が不安定であるため、あるいは気分をコントロールする神経の働きが弱っているためかも知れません。これらの体質は、多数の遺伝子と環境の相互作用によって決まると考えられており、双極性障害は一つの遺伝子の異常で起こる遺伝病ではありません[6]

 

4 双極性障害のくすり

 

 双極性障害は、放置すると再発を繰り返しやすい病気ですが、幸い、再発予防に有効な薬物が多数知られており、これらをうまく使うことで、かなりの程度コントロールすることができます。

 双極性障害の再発予防には、リチウムを初めとする気分安定薬と呼ばれる薬、およびオランザピンなどの非定型抗精神病薬が用いられます。

 

気分安定薬

リチウム

 リチウム(商品名:リーマスなど)は、食塩と同じようなミネラルで、ミネラルウォーターなどにもごく微量ながら含まれています。精神疾患の治療薬としては最も古くから知られているものの一つです。躁状態、うつ状態の治療、および双極性障害の予防のいずれにも有効であることが証明されており、双極性障害の治療薬として、最も標準的で広く使われている薬です。更に、自殺を予防する効果もあり、双極性障害の患者さんの(全ての原因による)死亡率を低下させることが報告されています。作用メカニズムは、細胞内の情報伝達系に働くことによって、神経細胞を保護したり、新しくできる神経細胞を増やすことによって効果を発揮するのではないかと考えられています。飲み始めの1週間ほどの間は、しばしば下痢、吐き気、手のふるえなどの副作用がでますが、これらの多くは服用しているうちに慣れてきます。しかし、手のふるえは、服用している限り続いてしまう場合もあります。リチウムは治療量と中毒量とが近いため、長期に服用中も、体調の大きな変化や他の薬の併用によって血中濃度が高まると副作用が出やすくなるので、時々血液検査を行って、薬の血中濃度を調べることにより、副作用を予防します。また、服用中、甲状腺の働きが弱まってしまうこともありますが、この場合は、甲状腺ホルモン剤を追加で服用すれば改善します。また、リチウム服用中、白血球の数が増えることがあり、血液検査で異常値だと言われるかも知れませんが、特に問題はない副作用です。表3のような多数の副作用をあらかじめ知っておけば、早めに医師に相談することができます。

 

ラモトリギン

ラモトリギン(商品名 ラミクタール)は、双極性障害に対して再発予防作用があります。躁状態に対する予防効果よりも、うつ状態に対する予防効果がはっきりしているのが特徴です。うつ状態に対する改善作用も持っている可能性があります。この薬は、双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制に対して、保険適応が認められています。重症の発疹が現れる場合があるので、ゆっくり増量していくなど、服用には充分な注意が必要です。バルプロ酸と併用する場合には、特に血中濃度が上がりやすく、注意が必要ですので、のみ方について、主治医、薬剤師とよく相談して下さい。

 

バルプロ酸

 バルプロ酸(商品名:デパケンなど)は、躁状態への作用があります。再発予防作用もある可能性が示唆されています。この薬は、元々てんかんの薬として使われており、後に双極性障害に有効であることがわかりました。気分安定薬の中では比較的副作用が少なく、飲みやすい薬ですが、時に肝機能障害を起こすことがあります。この薬の作用メカニズムにはいくつかの説がありますが、リチウムと同じような、神経細胞を保護する作用があると考えられています。リチウムと違って、血中濃度が少しでも高いと危険ということはありませんが、増量するに従って血中濃度が上がりにくくなり、増量しても思ったほど効果が得られないことがあるため、血中濃度を測りながら量を調節します。予防効果を発揮する血中濃度はまだよくわかっていませんが、躁状態に対しては、血中濃度が高い方が効果があると報告されています。

 

カルバマゼピン

 カルバマゼピン(商品名:テグレトールなど)は躁状態への作用の他、再発予防作用があると考えられています。元々てんかんの薬として使われていたこの薬が双極性障害に有効であることは、日本で発見されました。この薬の作用メカニズムにも色々な説があります。副作用としては、発疹が最も注意すべき症状で、発疹がでた時点ですぐ中止しないと、重症化する場合もあります。また、白血球、赤血球が減少する場合があります。

 

非定型抗精神病薬

 オランザピン(商品名:ジプレキサ)、アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)、クエチアピン(商品名:セロクエル)、リスペリドン(商品名:リスパダール)などがあります。いずれも躁状態に対する治療効果が報告されている他、クエチアピン、オランザピンは、双極性障害のうつ状態に対する治療効果が報告されています。また、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールは、再発予防効果も示されています。オランザピンは双極性障害の躁症状およびうつ症状に対する適応が、アリピプラゾールは双極性障害の躁症状に対する適応が認められています。

 躁状態では、非定型抗精神病薬を気分安定薬と合わせて服用することにより、さらに効果が高まります。

非定型抗精神病薬は、いずれも「パーキンソン症候群」が起きにくい特徴がありますが、これらはいずれも糖尿病を誘発する場合があるので、血糖値に注意しながら服用する必要があります。アリピプラゾールは、じっとしていられなくなる症状(アカシジア)や、不眠がでる場合があり、量の調整に注意が必要です。

 

定型抗精神病薬

その他、躁うつ病の適応症が日本で正式に認められている抗精神病薬としては、ハロペリドール、スルトプリド、レボメプロマジン、クロルプロマジンなどがあります。これらは、筋肉が動きにくくなる、「パーキンソン症状」などの副作用がありますが、副作用を止める薬により、ある程度予防できます。抗精神病薬は、多少の眠気を伴うこともありますが、これは躁状態の症状を鎮めるために必要な作用の一つです。日本で開発されたゾテピン(商品名:ロドピン)は、躁状態への治療効果が報告されていて、しばしば用いられますが、躁うつ病は適応症としては認められていません。副作用としては、てんかんを誘発する場合があります。

 

抗うつ薬

 SSRI(セロトニン選択的取り込み阻害薬)といわれる、パロキセチン(商品名:パキシル)、フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)、あるいはSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬)といわれるミルナシプラン(商品名:トレドミン)などが一般のうつ病に対して最もよく使われている薬ですが、双極性障害のうつ状態に対する効果は証明されていません。パロキセチンは、中止する際にゆっくり中止しないと、ひどくいらいらして気分が悪くなるなどの離脱症状が出ることがあるので、やめるときはゆっくり減量しないといけません。また、三環系抗うつ薬と呼ばれる、古くから使われている抗うつ薬(イミプラミンなど)は、躁転(うつ状態から急激に躁状態になること)、急速交代化(躁状態、うつ状態を、数カ月毎の短い間隔で繰り返すこと)を引き起こす可能性があるので、出来る限り使用を控えるべき薬です。

 

睡眠導入薬

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬などがあります。不眠のある時だけ使うのが原則です。中止する時は、例えば1週間毎に半量にするといったように、ゆっくり減量する必要があります。

  

5 双極性障害の治療目標

 

双極性障害の治療目標は、(1)再発を防ぎ、普通の社会生活を送れるようにする (2)躁状態を早期にコントロールし、社会生活への影響を最小限にとどめる (3) うつ状態での自殺を予防し、苦痛を減らす の3つです。躁状態、うつ状態自体は、時間がたてばかならず治るものですが、たった1回の躁状態でも、放置していると職業生活に大きな影響を与える可能性があります。そのうえ、2回、3回、と躁状態を繰り返すと、家族との折り合いが悪くなってしまい、離婚などの原因になったり、失職したり、信用を損なうなど、社会的生命の危機にもさらされかねません。従って、躁状態、うつ状態が良くなってからの治療をどうするかが、最大のポイントになります。

 一方、双極性障害では、うつ状態が重度になると、生きていても仕方がないとの思い(希死念慮)を募らせる患者さんも少なくなく、最悪の場合、自殺という事態にもつながりかねません。こうした希死念慮は、うつ状態でしばしば見られる症状の一つですが、治療すればすっかりなくなります。リチウムには、自殺予防効果があることがわかっていますので、服薬をきちんとし、うつ状態の徴候が出たら早めに医師に相談することが、自殺の予防にもなります。

 また、周囲の人々も、本人が発するサイン(表4)に気づいた時に、すぐ医師に相談するようにすれば、自殺の危険を減らすことがはできます。

 

6 双極性障害治療の心構え

 

 双極性障害は、全く治療しないで放置すれば、多くの場合再発します。これは大変な病気だ、と驚かれるかも知れませんが、幸いなことに、その再発を防ぐ薬がいくつもありますから、心配はいりません。「あれはちょっと気が高ぶっただけで躁状態ではなかった」とか、「自分だけは2度と再発しない」、などと軽く考えがちな方もいらっしゃいますが、双極性障害にかかったことを事実として受け止め、これを受け入れることは、治療の出発点です。世の中には、糖尿病、高血圧など、たくさんの病気があり、一つも持っていない人はほとんどいませんが、こうした病気を持っていても、普通に生活している方がほとんどです。双極性障害も、こうした身体の病気と何ら違いはありません。むしろ、病気の中では、対策も有効な薬もある、比較的つきあいやすい病気と言って良いくらいです。再発予防だけちゃんとしておけば、普通に暮らすことができる病気です。

ストレスは、再発の一因になりますが、自分にとって何がストレスかに気づき、ストレスがありそうなら事前に予測し、いくつものストレスに対する対処法を持つことで、ストレスを軽くすることができます(表5)。

双極性障害の患者さんは、たった一晩の徹夜でも、急に躁状態となってしまい、再発する場合があるなど、生活リズムの変化が悪化の要因になると考えられています。そのため、毎日の生活を規則正しくすることは、再発予防のために有効です。そのための方法が、「対人関係社会リズム療法」で、本を用いて自習することもできます。

 

7 双極性障害と家族

 

 家族は、躁状態を迷惑と思う一方、うつ状態は軽く考えすぎる傾向があります。一方本人は、うつ状態は強く訴える一方、躁状態を軽く考えるのが普通です。そのため、どうしても家族と本人の間で、意見が食い違いがちです。そのため、双極性障害の患者さんがいるご家族の中には、話をするたびにけんかになってしまうという家も少なくありません。しかし、このような家庭内のストレスを慢性的に抱えていると、再発をくりかえしやすくなり、これがまた家族のストレスになる、という悪循環に陥ってしまいがちです。家族と本人の間には、このような考え方のギャップがあるのが当然と思わねばなりません。病気について、腫れ物にさわるようにして話し合わないでいると、いざという時にうまく治療が進みませんが、あらかじめこうした違いを互いに話し合い、考え方に、なぜ、どのような違いがあるか互いに理解しておくことで、こうした悪循環を防ぐことができます。

 また、再発した時にどんな症状が最初に出てくるのかは、人によってさまざまです。自分の場合は再発のしるしとしてまずどんな変化が現れたか、これまでの躁状態をよく振り返って、家族と話し合っておけば、もし再発のきざしがあった時、早め早めに主治医に相談することができます。双極性障害の治療は、患者、家族、医師の三者による、病気のコントロールという一つの目標に向かった共同作業なのです。

 

8 うつ状態の過ごし方

 

うつ状態では、できる限り休養すること、きちんと服薬することが、何より大切です。またうつ状態では、仕事をやめるなど、重要な事柄の決定は避け、先のばしにして下さい。

元気な時には、難しい状況に直面しても、時には自分を責め、時には他人のせいにし、時には仕方ないとあきらめながら、何とかやり過ごせるものです。ところが、うつ状態になると、いつも自分を責めてしまい、100%成功でないと失敗だったと思いこむような考え方に陥りがちです。このような場合、認知療法という治療法により、こうした考え方のくせを自覚し、修正すれば、うつ状態の苦しみを減らすことができます。

軽いうつ状態になったとき、100%治さなければ、と思いこむよりも、軽いうつ状態の間は無理をしないでやり過ごし、元気な時に人生を楽しもう、と割り切った方が、結局はうまくいくようです。

うつ状態は、頑張りたくても頑張れず、気分を変えたいのに変えられない状態です。周囲の人が「頑張って」と激励したり、気分転換を無理強いしたりするのは、本人にとって、とても負担になってしまうので避けるべきです。

うつ状態では、何をする気力もでないため、昼夜のリズムがなくなり、夜眠れない、という悪循環になりがちです。床にはいる時間や起床の時間はなるべく規則正しくし、朝は日光を浴びて、できれば軽く散歩に出たりすれば、一日の生活のリズムができ、悪循環に陥るのを避けることができます。

 

9 ライフチャートを書いてみよう

 

 ライフチャートを書いてみることで、自分の病気を良く知ることができます。主治医との共同作業で作成しても良いでしょう。これは、躁状態、うつ状態の期間や程度、再発前のストレス、治療内容などを年表のようにして書き込んでいくものです。

ライフチャートを見れば、何が再発のきっかけになるか、これまでどのような対策が有効だったかがわかり、今後の対策を考えることができます。

 

 

 

 

表1 躁状態の症状

     気分の著しい高揚

     怒りっぽい

     誇大性、誇大妄想(自分が偉くなったと思いこむ)

     寝ないでも平気

     口数が多くしゃべりやまない

     色々な考えが頭の中にあふれてくる

     すぐに気が散る

     活動的になる、じっとしていられない

     借金してまでの買い漁り、性的無分別などの問題行動 

 

表2 うつ状態の症状

     一日中気分がゆううつで、淋しい、悲しい、あるいは空虚な気持ち

     何事にも興味がもてない、楽しめない

     食欲がなく、食べてもおいしくない。体重が減る

     夜眠れず、暗いうちから目が覚めて眠れない

     動作がゆっくりになってしまい、考えも進まない

     落ち着かずじっとしていられない

     疲れやすい

     自分には生きる価値がないと思い自分を責めてしまう

     集中できない。決断力がなくなって物事が決められない

     自殺を考える

 

表3 リチウムの副作用

治療初期に高頻度にでる副作用

 のどがかわく、水をよく飲む、尿の回数が多い

 手がふるえる、吐き気、下痢

中毒症状

 激しい下痢、嘔吐

 ふらふらしてまっすぐ歩けない

 

 

 

 

 

 

 

 

表4 注意すべき自殺のサイン

自殺のサインである行動

死にたい、消えてしまいたい、遠くへ行きたい、などと訴える

自殺の準備をする、遺書を書く

周囲の人に別れやお礼を告げ、大切な物を渡す

身の回りの物を整理する

むこうみずな行動

無茶な飲酒

自殺の危険を高める因子

 自殺未遂をしたことがある

身近な人を自殺でなくした

 最近の近親者の死

 最近の有名人、知人の自殺

 経済的損失

 本人を支える家族がいない

 

表5 双極性障害のセルフコントロールへの8ヶ条

1)本人・家族ともに、病気を良く理解する

2)病気を受け入れる

3)再発予防のための薬を服用する

4)正しい薬の作用・副作用の知識を持つ

5)100%を目指さない

6)再発の初期徴候を知る

7)自分のストレスを知り、色々な対処法を持つ

8)生活のリズムを保つ

 

図1 経過に伴う病相間隔の短縮

説明: 説明: 経過に伴う病相間隔の短縮2

 横軸は、最初の病相からの年数を示します。縦軸は、これらの研究を報告した人の名前と報告した年を示しています。黒い棒は平均的な再発の時期を示します。治療しなかった場合、およそ5年後に再発し、その次は23年後、という風に、再発までの期間が次第に短くなってしまうことがわかります。

 

 

 

図2 ライフチャートの例

説明: 説明: ライフチャートの例2

参考文献

加藤忠史: 双極性障害〜躁うつ病への対処と治療 ちくま新書 2009

水島広子: 対人関係療法でなおす 双極性障害 創元社 2010

大野 裕: こころが晴れるノートうつと不安の認知療法自習帳  創元社、2003

加藤忠史: 躁うつ病とつきあう(増補改訂版) 日本評論社、2008年 

加藤忠史 不安抑うつ臨床研究会編: 躁うつ病はここまでわかった 日本評論社、2007

デビッド・バーンズ(野村総一郎他訳): いやな気分よ、さようなら.  星和書店、2004

厚生労働省:職場における自殺の予防と対応. 2010

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/101004-4.html



[1] 躁状態、うつ状態のことをまとめて「病相」と呼びます。

[2] 躁状態だけを繰り返している場合でも、いずれうつが出てくることが多いので、双極性障害に含めます。一方、うつ状態だけの場合はうつ病と呼ばれます。

[3] 気分が高揚して活動的になるものの、自分も周囲の人も特に困らず、むしろ調子が良い状態

[4] 神経伝達物質は、脳の中の神経細胞間の信号のやりとりに使われる物質です。双極性障害との関係が疑われているドーパミンなどの神経伝達物質は、脳の中心部(脳幹)から脳内の多くの場所に届けられていて、気分、睡眠、食欲など、身体の調子全体を整えていると考えられています。

[5] セロトニンやノルアドレナリンを受け取った神経細胞は、この信号を細胞の中に伝え、細胞の機能を変化させます。その時使われる物質がイノシトールリン脂質です。

[6] 双極性障害になりやすい遺伝的体質が良くない体質だというわけではありません。例えば、糖尿病になりやすい体質は、飢餓に耐えられる体質のことで、食料が得にくい時代には、むしろ命を助けた体質だったのですが、食べ物があふれる時代になったために、糖尿病という病気にかかりやすくなってしまったのです。双極性障害になりやすくなる遺伝子があるとしたら、それにプラスの意義があるからこそ、その遺伝子を持っている人が多いのだと考えられます。