第2世代ラボラトリーオートメーションシステムに求められるもの
東京大学医学部附属病院 検査部
杉岡陽介 下坂浩則 畑山良巳 中原一彦

「はじめに」
 当院では平成4年7月より検体前処理搬送システム(東芝メディカル社製:以下
LASとする)を複数年予算により順次導入し検体部門の自動搬送化を推進し、
全外来患者を対象とした診察前検査の実施や部内の省力化により他部門の強化等
を行い、単に人的削減だけではなく、病院自体のサービスの向上も達成してきた。
その間検査機器の進歩、LAS対応型分析装置の登場、LASという言葉の確立など、
さまざまな流れがあり、保険診療点数引き下げや人員削減などもあり、病院検査の
必要性及び方向性、システム化の意義、コストパフォーマンスの優れたシステムの
需要が増えてきた。
 今回は当院でのシステム化の経験を踏まえ、第二世代のLASに求められる
条件について報告する。

1、コンパクト化について
コンパクト化の必要性はLASによる技師の動線や作業スペースの確保のためである。
また、システムの入れ替えの時に入れ替え用スペースが無くなるなどの問題も発生する。
LASは高機能になればなるほどユニットの増設が必要となりコンパクト化とは
矛盾が生じる、またLAS自体がコンパクト化しても接続分析装置が大型なもの
ならばコンパクト化には限界がある。そこで、LASではハードのコンパクト化と
機能の向上、ユニットの上下の空間を利用する等があり、分析装置では多項目分析機
の導入による項目の集約化等がある。

2、分析機との接続性と選定について
分析機をLASに接続する場合、当然接続費用が発生する。この費用は選定した
分析装置の接続形態によって大幅に異なってくる。接続方法には
(1)外部サンプリング方式(ラックサンプラー使用可)
(2)外部サンプリング方式(ラックサンプラー使用不可)
(3)ラック取り込み方式
(4)ロボットアーム搬入方式
等があり、(1)(2)が最小コストで接続できる。LASで複数の分析装置を接続する場合、
分析装置でサンプリングだけ行い検体は次の分析装置へと移動できるので効率的
でもある。しかし(2)はサンプリングがLASライン上のみなので分析装置単体で
運用したい場合は1本ずつ技師が測定させなければならない、一方、(1)はLAS上と
分析装置内と2カ所のサンプリング位置を有するため、単体での使用時は装置の
サンプラーを使用し測定が可能である。ルーチンで運用する場合、コントロール、
キャリブレーションの測定が必ずあり、ダウン対策も考慮すると、この方式が
最良である。
(3)は分析装置固有のラックのみでしか測定できないため、専用ラックへの
検体移載もしくは分注が必要になり、トータルシステムを構築する場合ラック
による制約と接続費用が多く発生する。現在ラックの標準化が行われているが
分析装置が外部サンプリング方式になればLAS側から見て、ラックの標準化は
必要なくなる。また検体を取り込んでしまうため、その機器専用のサンプルを
作成せねばならず、デッドボリュームの増大とサンプルの有効活用にも問題が生じる。
(4)もロボットアームの費用が発生するがこの場合分析装置の処理能力以上の
ロボットアームの能力がなければ分析装置の処理能力が落ちてしまう。
 したがって、接続する分析装置は外部サンプリング機構でさらに装置内部にも
専用サンプリング位置がある装置が理想である。この点はユーザーとして、
メーカー側の対応が強く望まれる点である。現在自社メーカーのラックでのみしか
接続できない機器があるが、トータルシステムを構築する場合、そういった機器は
ユーザーが接続したくても接続に莫大な接続費用が発生するため出来ないのが
現状であり、LASの形態にとらわれず接続ができる装置が望まれる。また、
現在同一ラックでトータルシステムが構築できるラックは存在しないため
メンテナンス性の煩雑や一元管理ができない等不備が生じており、この点も
ユーザーとしては早急に改善してもらいたいところである。また分析装置に
こだわるばかりに無理に高コストで接続するのは故障発生頻度も多くなり、
経済性を度外視した接続はすべきではない。部署単位の発想から検査部単位、
病院単位での発想なくしては完成度の低いシステムとなってしまう。

3、スピードについて
ライントータルでの処理速度を考えた構成が必要である。ある部分だけ早かったり、
遅かったりでは意味がない。
 つまり1時間に300検体測定できる分析装置を装備しても分注器の速度が
150検体ならばその分析装置は半分の時間何もしていない計算になる。
逆の場合も同じで分注後の検体は分析装置の前で渋滞を起こす事になる。
この場合、要所に検体のバッファーをもうけ、渋滞解消が必要になる、
またこの時ラインの監視が出来ていれば検体バッファーは至急検体の優先対策
にも利用可能である。

4、無人化について
LAS導入により省力化に多大なる貢献ができる部署は生化学の前処理部分である、
検体搬入後、遠心、分注、仕分けが導入により無人化される。しかし、生化学の場合
、少量検体とフィブリンの問題が発生する、この部分をいかに少なくするかで
生化学ラインの完成度が上がるかといっても過言ではない。
@少量検体対策はデッドボリュームの少ない機器を導入し、分注量を減らす、
血清使用部門の合理化を行い分注本数を減らす等で少量検体対策を行うべき
である。生化学分析装置は今までのような大型で大量バッチ処理の装置ではなく
高速のピペッティング方式としデッドボリュームの縮小を考慮すべきである。
近年の保険制度により丸め対象項目が増加し、1検体あたりの検査依頼項目も
減少の一途をたどっている。すなわち1検体に対する依頼件数が少なければ、
よりピペッティング方式の分析装置の能力が見直される。例えば1検体に対し
10項目の依頼があったとすると、大型マルチタイプの分析装置は依頼項目に
関係なく1時間検体処理数で能力が決まるので、現在最高速は1時間に
300検体である、一方ピペッティング方式の現在最高速は、1時間に
2000テストの処理能力があり、この例の場合は200検体をさばける計算になる。
さらに依頼項目数が減れば処理検体数は増加する。ここで、分析装置の値段と
大きさを比較すればどちらがコストパフォーマンスに優れているか歴然である。
今度はますます1検体に対する依頼数は減少するはずである、
そうなればなおさらピペッティング方式の装置にすべきではないだろうか。
Aフィブリン対策は時間との戦いでもある、迅速化を推進するばかりに遠心が
早すぎフィブリン析出の頻度を上げてもいけない、また透析等で分離に時間が
かるような検体を考慮しても迅速化はできない。またここで技師の判断を仰ぐと
そこはバッチ的運用になってしまい無人化とは言い難くなってしまう。
この問題に対し当院では世界に先駆けて生化学検体の凝固待ちを自動化した。
これは仕分けライン上で一定時間検体を待避させることにより、凝固待ち時間を
持たせ、技師が凝固の確認をしなくてよいというシステムである、
現在ではどのLASメーカーもこの方法を取り入れている。これにより、
検体の確認作業は全く無人化でき、運用もリアルにできたので報告時間も
大幅に縮小できた。

5、熱量、騒音について
作業空間に騒音は不要である。しかしLASを導入するとこの騒音と熱の問題は
避けて通れない問題である。遠心器、ラインのモーター、検体のストッパー
エラー発生時のエラー音等がある。騒音吸収型構造、密閉型システム、
検体のないユニットは動作停止するなどの考慮が望まれる。また熱の問題では
分析装置からの熱とラインが発生する熱があげられ、熱量を考慮した空調や、
レイアウトが必要で室内空気の流れも考慮に入れるべきである。

6、システム関連について
病院での検体検査とは単に、検体を移動させるだけではなく、依頼に応じた分注、
測定結果による搬送経路の変更など、検体個々の管理が必要であり、
LAS導入前は技師がそれをやってきた、その現場ニーズを可能にするためには
1本での搬送は必須である。また同一メーカーのラインでのトータルシステム
とすれば、メンテナンス性向上、部品や消耗品の共有、全ラインの一元管理等
も可能である。またシステム化に伴い操作する技師のシステム化も重要である、
すなわち導入の目的意識を現場レベルで認識し、今までのバッチ的発想を
リアルタイム報告へと発想の転換が必要である。

7、自走車の有効活用
@システムの拡張性及び更新対策
システムの拡張を行う場合、離れた場所にもLASを設置でき、その間を
自走車に検体を運ばせれば、技師が検体を運ばなくて良くなり、スペースの問題も
解決できる。技師が検体を運ぶとバッチになり、そこで導入の意義が失われてしまう。
また更新もその部分だけの入れ替えが容易であり、検体の受け渡し部分だけを
考慮すれば良い。
A動線確保
各LASメーカーが技師の動線確保のために、高架式や床下式を開発しており、
作業動線確保は次世代LASには必要である。ここではあえて搬送ラインで
接続せず、自走車を利用し検体の受け渡しを行うのも一方と考える。
ライン全体の処理能力を考慮し、それ以上の検体受け渡し能力とその制御が
確立されれば有効利用が期待される。

8、検体への影響について
導入に当たり、下記の事項は測定結果に影響を与える可能性があるので考慮が
必要である。
@熱による影響、ラインと周辺機器の発生熱量に対しての空調の問題の考慮。
A試薬の劣化、熱の吹き溜まりに室内試薬を置かないようなレイアウトの考慮。
B凝固検査検体対策、ラインに搬入後数分でサンプリングされるのでラインを
冷やす必要はない、検体が渋滞する事のないラインの考慮。
C検体乾燥対策、オンライン機器の場合開栓後長くても5分以内にはサンプリング
されるのでさほど問題はないが、オフライン分注では微量分注を避ける必要がある。
Dノイズ対策、ノイズがラインを伝わり、測定結果に誤差を与えてしまう事が
あるため、アースやノイズフィルターの設置、また定電圧装置の設置が必要な
装置がある。
E生化学検体の親管からの直接サンプリングは、フィブリン吸引の可能性や、
少量検体の場合サンプリングシリンジが分離剤に突っ込む等の問題が発生する
ので、子分注が必要である。
F分注しても分注器のノズルより分析装置のサンプリングシリンジの
ノズルの径が細いため分注器では見切れない糸状のフィブリンを分析装置が
吸引してしまう可能性がある。
G分注時の泡を液面検知してしまうので分注時は泡立てない等の
考慮が必要である。

9、報告時間に対する概念
搬送導入により結果報告時間は大幅縮小できるが、それは病院規模で考えた場合
どこまでの迅速化なのであろうか。外来患者が診察室で検査依頼を受けて
検査結果 が出るまでの間を考えた場合、診療ブース→検査部受付→採血待ち時間→
採血→検体処理→報告となるが、LASは検体処理だけである。
検査部で結果は出ているが報告は明日ならば結果報告の迅速化は
まったく意味がない。
情報ネットワークの構築と検査結果の迅速報告体制の確立が必要である。
採血後の検体もLASに検体を搬入しなければ、そのぶん結果報告時間が
伸びるのは確実である。LAS導入による報告時間短縮にはLAS内だけ
ではなく患者の受付からの迅速化を考慮しなければLAS導入の意味はなくなる。
図1は検査部受付後結果が臨床に帰るまでの時間を、導入当初と現在、
検査部受付から検体搬入までとLAS内処理時間に分けて表した。
当初と現在の違いは採血後検体放置時間の短縮と生化学検体の凝
固待ち時間自動化である。
 例えば、生化学の場合は導入当初LAS内報告時間は平均41分、
受付後報告時間は平均118分であった、現在ではLAS内平均58分
(凝固の自動化時間含む)受付後報告平均73分と臨床から見て45分の
短縮を行えた。他も同様である。血糖に関しては現在はヘモグロビンA1cを
LASに接続したのでLAS内報告時間は延長しているが、臨床への
結果報告時間は23分の短縮を行えた。
 したがって、LAS導入による報告時間短縮にはLAS内だけではなく
患者の受付からの迅速化を考慮しなければLAS導入の意味はなくなる。

「まとめ」
LASの導入イコール省力化、結果報告時間の短縮と思われてがちだが、
構築時の目的意識にそれがあるかないかで運用は大きく変わってくる。
はじめから分析装置に技師がつくような発想で構築しては省力化はあり得ない、
どうすれば無人化が達成できるかを最大限考慮し、どう運用を変えて行くかである
。また報告時間は検査部単位ではなく病院単位での報告時間短縮を目標と
すべきである、つまりLAS内では報告時間を短縮したが、はたして
臨床までの報告時間はどうなのか。また、経済効果を考慮しないシステム作りは
無駄である。ある分析装置、ある測定系にこだわるばかりに、無駄な接続費用を
払うのならそれは経済効果をまったく無視したシステムである。検査技師の
求める測定結果の精密度と臨床が求める精密度の違いである。技師の自己満足の
ために高価な分析装置を導入するのは考え物である。検査部のためのLAS
ではなく患者のため、病院機能充実のためのシステムを構築し実際に稼働し、
臨床から評価を得なければ次回のリプレイスは難しいであろう。

参考文献
1 杉岡陽介 東大病院でのラボラトリーオートメーションシステム
 月刊新医療 76ー79、1995・2
2 杉岡陽介 東大臨床検査室の検体搬送システム
 新医療 97臨床検査機器システムガイド 43ー46、1997


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