第2世代の総合検体検査搬送システム
The Second Generation of Laboratory Automation System
第2世代の総合検体検査搬送システム(<特集>これからの臨床検査),医科器械学,
Vol. 70 Num. 2 pp.74-79 (2000.02)
東京大学医学部附属病院検査部
杉岡陽介 下坂浩則 畑山良巳 中原一彦
Yosuke Sugioka Hironori Shimosaka
Yoshimi Hatayama Kazuhiko Nakahara
はじめに
当院では平成4年7月に最初の総合検体検査搬送システム(以下LASとする)を導入し
稼働させてきたが(第1世代)、この度、より効率化、迅速化、省力化、問題点の克服、
その他を求め第2世代のLASへと更新した。第1世代においては、検査の自動化、効率化が
達成され、全外来患者を対象とした診察前検査の実施や検体の随時受付など、臨床サービスに
大いに貢献できたと考えている。第2世代では第1世代の良い点を継承し、今まで同様
1本搬送により自由度が高く、現場ニーズを満足させ、さらに1本搬送だからこそ出来る
独自の新技術の導入により今まで運用でカバーしていた部分や欠点を大幅に改良した。
今回の更新により、診療への貢献をより一層向上させることができると確信している。
1、システムの入れ替え問題について
大規模なシステムにとって入れ替え問題は深刻な問題である、当院でも入れ替えにあたり、
1)ルーチンを停止しない。
2)採血や採尿など患者スペースもあるため、日中に騒音の出る工事はしない。
3)分析装置が稼働中はノイズを発生させるような工事関連機器は使用しない。
4)電気および水道はルーチン中は停止させない。
等といった制約があり、設備工事は平日夜間および、土日での作業となり、設備等の工期は
予想以上であった。実際の入れ替え方法は工期を5つに分け行った。
作業工期図を図1に示した。
第1期 採血管準備システム及び採血管トレイ自動搬送システム
用手で行っていた場所なので金曜の外来終了後から日曜を利用し、採血台を撤去後、
新しいシステム(採血台)を搬入した。また、ホストとのオンラインは設置後夜間に行い
その間は採血台としてのみ使用した。
第2期 尿一般搬送システム
ここも、ラインは無かった部門であり、使用中の機器を接続するため、一端分析装置を
移設後ラインを設置し、移設した分析装置を金曜の外来終了後から日曜を利用し改造後接続した。
第3期、生化学ライン稼働
当院検体検査部門はワンフロアー化されており、LAS未接続の場所も残っていたため、
今回はその場所を最大限に利用しての移設を行った。初めにLAS未接続の場所の機器を移動し、
空間を確保し設備工事を行なった、その場所に新生化学ラインおよび分析装置を設置後稼働させた。
この時検査部ホストコンピューター(富士通)は旧LASシステム(インテック)と新LASシステム
(テクノラボ)の両方を接続した運用を行った。また、旧血糖凝固ラインが新生化学ラインと
レイアウト上クロスしてしまうため、血糖凝固ラインは撤去してしまった。血糖凝固に関しては
新ライン稼働まで旧システムによるライン無しでの運用になった。また、血清を使用する部署と
生化学搬送ラインの設置場所がレイアウト上離れてしまったため、その間を自走者で検体を
運ばせる事とした。
第4期、血液ライン稼働
新生化学ラインが稼働したため、旧生化学ラインを撤去後、設備関連工事を行い、その場所に
血液ラインを設置稼働した。
第5期、血糖、凝固、仕分けライン稼働
新血液ラインが稼働したため、旧血液ラインを撤去後、設備関連工事を行い血糖、凝固、
仕分けラインを設置稼働した。また、仕分けラインが稼働したため、採血システムとの接続に
自走者も稼働を開始し全ラインが完成した。
以上のような工期を使用し、半年かかっての入れ替え作業であった。
入れ替え時のポイントは
1)ホストコンピューターに2系統のシステムの接続が可能であった事
2)LAS接続分析装置がLAS接続とは関係なく、単独で運用が可能であった事
3)検査室内に新生化学ラインを設置できるスペースが確保できた事。
2、新技術
第1世代の問題点の多くは現在の技術により克服が可能となった。また今回の新技術は全て
第1世代での反省からの発想を現実化した物で当院独自の技術である。
1)迅速検体の割り込み処理について
往路復路ともに1本のベルトラインでつながっており、迅速検体があっても技師が振り分けたり、
途中から搬入したりと運用でカバーしており自動で追い越しができなかった。今回は各ラインの
先頭に検体搬入待避ユニットをもうけ、ラインを監視する役目を持たせた。すなわち、分析装置や
接続機器前に検体がある場合、一般検体はこのユニットに待避させ、緊急や優先度の高い検体のみを
通過させることにより、追い越しが可能となり、さらに分析装置の処理能力を最大に引き出し、
ラインにより異なるが数本の検体しか装置の前にはない状態をこのユニットは作ることができる。
2)生化学検体の再遠心機能
生化学ラインの最大の目的は前処理の自動化である。第1世代において、自動化は達成されたが、
反面、分注エラー検体の処理がマニュアル作業であった。今回はフィブリンによる分注異常検体には
自動でポリスチレン製のビーズを採血管に入れ再遠心する機能を取り入れた。この機能により、
フィブリン析出によるマニュアル再遠心検体は9割以上無くなった。また、分注チップや子管の
準備もランダム供給が可能となりより無人化へと近づいた。LASの導入には大きな利点があるが
その反面、今まで無かった雑用が増えたのが第1世代であり、今後は雑用も減らし、完全無人化を
目指すべきである、その第1歩がこのユニットの開発であった。
3)自走車の活用
システムの拡張を行う場合や離れた場所にもLASを設置でき、その間を自走車に検体を
運ばせれば、検体放置等の問題が無くなり、スペースの問題も解決できる。また、それぞれの
施設に則したレイアウトが比較的容易となり、場合によってはそれ以降の段階的な拡張も可能となる。
更新もその部分だけの入れ替えが容易であり、検体の受け渡し部分だけを考慮すれば良い。
結果報告の迅速化のためには検体放置時間は極力無くさねばならない。そのためにも各動線を
自走車でつなげば放置時間は縮小できるはずである。また動線確保のためには各LASメーカーが、
高架式や床下式を開発しているが、費用の問題やレイアウトの自由度、拡張性等、今後を考えた場合、
自走車の導入は有効である。
3、各ラインの特徴
システムレイアウトを図2に示した。対比として旧ラインのレイアウトも図3に示した。
旧システムは中央集中型、第2世代は分散自走車活用型である。ラインの流れに関しては
第1世代とほぼ同じであるが、新技術の章で述べたように、検体搬入待避ユニットの新設、
生化学検体の再遠心、自走車の活用が大きく異なる点である。
1)採血管準備システムとLASとの連結
採血管準備システム(長瀬産業)は採血管トレイ自動搬送システム(シグマ精機)との
組み合わせにより、採血者の手元までバーコードラベルの添付した採血管を運ぶシステムである。
このシステムの導入により、バーコードラベルの貼り間違えが無くなり、採血管を採血者の手元まで
自動で運べ、さらに採血台下に搬送ラインを組み込む事により採血後の検体を自動でLASまで
運べるようになった。これにより第1世代の欠点であったLASに搬入するまでの時間が
かかっていたという欠点を無くす事ができた。
2)尿一般搬送システム
外来に関しては採取後の尿を患者に直接LASに搬入してもらう事により、検体放置時間を
無くしている。搬入後の検体は依頼に応じて分注を行い、保存検体も作成する。分注が終わった
採尿カップは余分な尿を汚物流しに廃棄し、カップは重ねて廃棄するようになっている。
沈さの依頼がある検体に関しては、フロー方式の分析装置で測定し遠心後、沈さを200マイクロ
残し上清を自動で吸引廃棄し、結果に応じ目視へと進む。
検体搬出ユニットでは結果や依頼に応じて振り分け搬出している。
3)生化学ライン
搬入された検体は遠心後、開栓し、依頼に応じ最大5分注行う。また、分注時フィブリンなどにより
、つまりを生じた検体には、ポリスチレン製のビーズを数個入れ再度遠心される。この操作により、
フィブリン析出検体の9割以上は正常分注される。また、チップや子管の準備はラックなどに
並べてあげるのではなく、ランダムに入れられるようになった。生化学ラインの完成度は
前処理部分でいかに、省力化できるかで決まると言っても過言ではない。分注異常検体の処理と、
チップや子管の準備といった雑用を無くす事によって、無人化に近い状況が確立される。また、
保存検体に関しては検体番号順にソートして保存しなければ、LASから外した後検体の検索は
不可能になるであろう。用手法用検体は自走車に乗り、用手法検査室に運ばれる。
4)血糖ライン
全血でヘモグロビンA1cの測定後、血糖やインシュリンの依頼があるものは遠心し測定される。
血糖は自動再検機能があり、結果によって再検される。検体搬出ユニットでは結果や依頼に
応じて振り分け搬出している。
5)凝固ライン
FDP検体に関しては搬入後、搬入ラックで20分間待機後遠心へと進む。その他の検体は
他のライン同様、その先に渋滞が無い場合は先に進む。搬出ラックではその後の処理が
スムーズに進むよう、分析装置ごとや、再検済み検体といった振り分けを行わせている。
6)血液ライン
このラインは第1世代同様、インテリジェントなラインで、他のラインは搬入すると検体の
行き先が決定されるが、このラインでは分析装置からの結果により自動再検または標本作製の
指示が出て行き先を決定し進むため、1本搬送の利点を最大限に生かせるラインである。
4、搬送システムその問題点
第1世代から第2世代へと当院LASは進化し多くの問題点は解消させつつある。
ここでは今までの問題点と第2世代で克服された点を列記する。
1)コンパクト化について
コンパクト化の必要性は技師の動線や作業スペースの確保のためである。
現在ではLAS自体はコンパクト化されたが、分析装置が大きいのがネックである。
2)分析機との接続性と選定について
分析機をLASに接続する場合、分析装置との接続位置や接続費用の問題が発生する。
位置についてはサンプリング位置で決定され、装置により前面や側面、後面になる。
また費用は選定した分析装置の接続形態によって大幅に異なってくる。接続方法には
(1)外部サンプリング方式(ラックサンプラー使用可)
(2)外部サンプリング方式(ラックサンプラー使用不可)
(3)ラック取り込み方式
(4)ロボットアーム搬入方式
等があり、各社多様な接続方式をとっているが、(1)はLAS上と分析装置内と2カ所の
サンプリング位置を有するため、単体での使用時は装置のサンプラーを使用し測定が可能である。
ルーチンで運用する場合、コントロール、キャリブレーションの測定が必ずあり、ダウン対策も
考慮すると、この方式が最良である。システムの更新時にも単体で稼働できるため有用である。
3)スピードについて
ライントータルでの処理速度を考えた構成が必要である。第2世代ではLASは大幅な
スピードアップをした。したがって分析装置の処理能力を最大限に生かせるシステム構成が
必要である。検体搬入待避ユニットによってラインを監視するのも一方であろう。
4)無人化について
使う側の意識によって大きく左右される。システム構築時から目的意識がはっきりしていれば
無人化はかなり推進されるはずである。
全てのラインにおいて再検検体処理の簡略化と再検率を下げれば効率は上がる。さらに分注がある
ラインに関してはチップや子管の補充や分注エラー検体処理の簡略化と縮小を考慮すれば大幅な
省力化が達成される。再検に関しては各施設の考え方次第である。
5)熱量、騒音について
LASを導入するとこの騒音と熱の問題は避けて通れない問題である。遠心器、ラインのモーター、
ストッパー、エラー発生時のエラー音等がある。第1世代との比較では騒音に関しては
61デシベルから54デシベルへと大幅な消音効果が確認された。熱の問題に関しては
低熱量のモーターの採用により発熱温度が62度から50度となり、レイアウトの変更により
改善されたが、壁を撤去してワンフロアー化したため低熱量でも対流が無いため停滞してしまう。
したがって、今回は空調設備も充実させた。
6)システム関連について
同一メーカーのラインでのトータルシステムを構築すれば、メンテナンス性の向上、部品や
消耗品の共有、全ラインの一元管理等が可能である。また導入の目的意識を現場レベルで認識し、
バッチ的発想をリアルタイム報告へと発想の転換も第1世代からの継承すべき点である。
7)レイアウトについて
分析装置とLASの配置は、技師の動線や効率的な業務の遂行上、大変重要であり、各施設に
あったレイアウトを工夫する必要がある。また、新しいLASを構築するにあたっては、
その次の更新のことを十分考慮に入れて設計することも肝心である。更新時には、その時稼働している
LASを通常通り動かしながら、新しいLASと入れ替えなければならないため、スペースの
確保や入れ替え操作の工夫が求められる。あるいは、自走車の項でも述べたように、全LASを
ラインで結ぶのではなく、それぞれの部署で分断できるようにしておくことにより、部分的な
更新が可能になると思われ、こうしたことも第2世代のLAS導入にあたっては考慮すべきことである。
8)報告時間に対する考え方
第1世代では病院規模での報告時間の短縮を推奨してきた。これは外来患者の場合、
診療ブース→検査部受付→採血待ち時間→採血→検体処理→報告となるが、
LASは検体処理だけである。検査部で結果は出ているが報告が明日になってしまうならば
結果報告の迅速化はまったく意味がない。情報ネットワークの構築と検査結果の迅速報告体制の
確立が必要であり、採血後の検体を迅速にLASに搬入しなければ、そのぶん結果報告時間が
伸びるのは確実である。LAS導入による報告時間短縮にはLAS内だけではなく患者の受付からの
迅速化を考慮しなければLAS導入の意味はなくなる。
まとめ
今回、第2世代を導入するにあたって今までの経験をどうすれば最大限に生かせるかを模索した。
目的意識が無く過去の経験が生かされないシステム構築は無意味である。
結果、第1世代の反省すべき点や問題点を明確にし、システム構築時に目的意識を
しっかりとさせたシステム作りを目指した。第1世代では検体系検査を一つのラインで結ぶ事により、
検査技師のセクショナリズムを崩し、検査室の運営そのものを変える事ができた。
また現場の結果報告に対する考え方をバッチからリアルタイムへと変換できた。さらに、
外来の予約診療体制とリンクし、全ての外来患者の診察前検査の実施を可能とした。
第2世代ではさらに先へ進みより、運用でカバーしていた部分や、エラー検体の処理、
雑用を簡略化しより省力化し、各種装置の処理能力のアップからより結果報告時間の短縮ができた。
今後はこうした自動化によって、得た技師の余力を人員削減の方向だけではなく院内でいかに
有効に使うかを考えていく必要がある。
参考文献
1 杉岡陽介 東大病院でのラボラトリーオートメーションシステム
月刊新医療 76ー79、1995・2
2 杉岡陽介 東大臨床検査室の検体搬送システム
新医療 97臨床検査機器システムガイド 43ー46、1997
3 杉岡陽介 第2世代ラボラトリーオートメーションシステムに求められるもの
新医療 98臨床検査機器システムガイド 24ー27、1998