【一般病院連携精神医学専門医・回答】

≪Q1≫「一般病院連携精神医学専門医」とはどんな専門医なのですか?

≪A1≫
「一般病院連携精神医学専門医」とは、さまざまな病気で患者さんが入院する一般病院において、身体の病気に伴って生じる「脳」と「こころ」の問題に適切に対応できるようトレーニングを受けた精神科専門医です。日本総合病院精神医学会が、所定の研修を終了し試験に合格した精神科医を認定しています。身体の病気の担当医や看護師、その他の医療専門職と協力し、チーム医療の中で活動する必要があることから「連携」ということが強調されています。

日本総合病院精神医学会では、「一般病院連携精神医学専門医」の略称として「精神科リエゾン専門医」を採用しています。「リエゾン」とは「連携」を意味します。「リエゾン」は、一般病院においてチーム医療によるトータルケアをすすめていくためのキーワードです。身体の病気に伴って生じる「脳」と「こころ」の問題への対応のみならず、精神的な病気を持つ患者さんが身体の病気を併発した場合の治療対応、不幸にして自殺を企図した患者さんへの救命処置と精神的ケアなど多くの場面で、多職種による「リエゾン」が重要になります。また、精神科の救急医療や急性期医療では地域ごとに医療機関の間での「リエゾン」が非常に重要になりますし、患者さんの地域での生活を支えるためには医療以外の福祉や職域、教育機関などとの「リエゾン」も欠かせません。

このように一般医療および精神医療の最前線で、「脳」と「こころ」の専門家としてさまざまな「連携」をとりながら機能する精神科医を「精神科リエゾン専門医」と呼ぶことにしています。


≪Q2≫「一般病院連携精神医学専門医」は、どんな病気を診るのですか?

≪A2≫
代表的な病気として、「せん妄」と「うつ病」があげられます。 脳卒中や脳炎など脳の病気だけでなく、多くの身体の病気では全身の炎症、ホルモンや免疫などのアンバランスが生じて、脳の機能に悪影響を及ぼします。その結果、一般病院に入院する患者さんの10%から多い場合には30%以上が、幻覚を見たり、混乱して興奮するような「せん妄」と呼ばれる非常に苦痛で、患者さんの安全を脅かす精神症状をきたします。手術後にもひんぱんに「せん妄」は出現しますし、治療薬の影響で見られることもあります。このように表面的には「こころの病」に見える脳の機能異常に対して、脳科学の知識を生かし、身体の病気の担当医と連携して診療にあたります。 また、身体の病気になると「うつ病」になりやすくなることも知られており、その割合はおよそ20~40%程度とされています。

身体の病気に合併した「うつ病」では、病気そのものによる脳機能への悪影響と、病気になってしまったことに由来する心理面への悪影響との両面を適切に評価する必要があります。そのうえで身体の状況や使用されている治療薬との飲み合わせなどを十分に考慮し、必要に応じて薬物療法を行いながら、並行して心理的サポートを組み合わせていきます。

その他にも多くの精神的な病気に対応していますが、従来から「うつ病」や「統合失調症」などで治療中の方が身体の病気で入院が必要になった場合、精神科の治療が途切れてしまわないように通院先の主治医と連携して治療を継続します。


≪Q3≫「一般病院連携精神医学専門医」がいる病院には、どのような利点があるのでしょうか?

≪A3≫
例えば手術を受ける際、その病院の手術実績は最重要な情報ですが、「一般病院連携精神医学専門医」がその病院に勤務しているかどうかも術後のケアやサポートの質を評価するための重要な情報です。手術に限らず、さまざまな身体の病気で精神的な症状は出現しますから、「一般病院連携精神医学専門医」の勤務する病院に入院すると、安心して身体の病気の治療やケアを受けることにつながります。

外科系・内科系の医師あるいは医療従事者の方々には、「一般病院連携精神医学専門医」とは、「せん妄」治療のスペシャリストであると捉えていただくことも可能です。一般病院の医療現場で最も苦労する精神症状である「せん妄」に適切に対応することで、医療安全(さまざまなリスクの軽減など)や医療経済(在院日数の短縮など)にも貢献できます。