=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第95号 2016年5月30日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 さて、今回からは双極性感情障害(躁うつ病)に入ります。 --------------------------------------------------------------- 双極性感情障害  その1 --------------------------------------------------------------- 双極性感情障害とは鬱状態と躁状態を交互に繰り返す慢性の感情障害 というように定義されています。 これまでは一般的に躁うつ病と呼ばれていましたが、躁うつ病という概 念には元来「躁状態が全くないうつ状態のみのいわゆるうつ病」も含ま れていたため、最近では躁状態とうつ状態を繰り返すものは双極性感情 障害という言葉を使うようになりました。 しかし、うつ病に比べて、躁うつ病や双極性感情障害という病名はあま り語られることがありません。何故でしょうか? 一つにはうつ状態は患者さんにとって辛いもので、病院へ行こうという 気持ちになるのですが、躁状態の時は周りは迷惑しても本人にとっては 爽やかで楽しく、病院へ自分から行くことはまずないことが挙げられます。 もう一つには、双極性といってもうつの期間の方が長く、(双極性I型と いわれる躁うつの波が激しいものでも70%.II型といわれる躁が軽いタイプ では90%がうつ状態であるということです。)実際には双極性であるにも関 わらず、うつ病と思っていることが多いのです。 また、躁状態の時に、場合によっては社会的に成功してしまうことがある からでしょう。実際に高名な芸術家や政治家、会社の創業者の中には双極 性感情障害と診断されたり、そうだと推定される人が少なからずいるとい われています。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第97号 2016年7月22日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集 する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科 の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メンタルヘルス (精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載し ていく予定です。 --------------------------------------------------------------- 第97回  双極性感情障害  その2 --------------------------------------------------------------- さて、うつ状態の場合は、患者さん本人にとっても、社会にとっても 不利益であるわけで、受診が必要であることは明らかです。 しかし、躁状態の場合はどうでしょう。少なくとも社会的に成功し ており、本人も楽しいなら治療を受けさせなくてもいいのではと思 いませんか? 確かに、ある程度の範囲の感情の波ならば、一つの個性と考えるこ とも出来、多少の問題であっても受診しなくてもと考えても問題は 無いように思います。 しかし、社会生活に重大な支障が出るようになると、例え、仕事な どで成功していたとしても放置するわけにはいきません。ずっと躁 状態でいられる訳ではありませんし、双極性感情障害の鬱状態では 自殺率が高くなることが知られています。 米国精神医学会が著したDSM-5によると、全文を書くと長くなるので一 部要約にしますが、双極性感情障害はまず「現在または過去に躁病エ ピソードと抑うつエピソードが存在すること」が前提です。 抑うつの方のエピソードは「うつ病」編で説明しましたが、躁病エピ ソードとは 気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的になる。加えて 、異常かつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。こ のような普段とは異なる期間が双極性1型の場合は少なくとも1週間 ほぼ毎日一日の大半で持続すること。双極性2型の場合はこれが少な くても4日間持続すること。 さらに、気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の 症状が3つ以上、気分が易怒性のみの場合は4つ以上が有意の差を持つ ほどに示され、普段の行動とはあきらかに異なった変化を象徴してい る。 それらは 1. 自尊心の肥大または誇大 2. 睡眠欲求の低下 3. 普段より多弁であるがしゃべり続けようとする切迫感 4. 観念奔逸またはいくつもの考えがせめぎ合っていると     いった主観的体験 5. 注意散漫が報告または観察される 。 6. 目標指向性の活動の増加、または精神運動焦燥 7. 困った結果につながる可能性が高い活動に熱中するこ     と。(乱買、性的無分別、ばかげたことへの投資など) 双極性感情障害の1型では社会的職業的機能に著しい障害を引き起 こし、また自分または他人に害を与えることを防ぐために入院が必 要に成るほど重篤であること。  2型では社会的または職業的に著しい障害を起こしたり入院を必要 とするほどではない。 物質の生理的作用や他の医学的疾患によるものではない。 と難しい定義になっています。 もう少し簡単に言えば、いつものその人とは明らかに違うくらい、 元気で活動的になりおしゃべりになって楽しそうであるが 、反面怒りっぽく、一方的で、理解の出来ないようなことに熱心 になり、周囲の人に迷惑をかけるなどの行動が起きてくるわけで す。双極性1型では後者の困った面がより強く、入院治療が必要 になるほど問題が起こるが、2型ではそこまでではないというこ とです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第100号 2017年 3月 13 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集 する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科 の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メンタルヘルス (精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載し ていく予定です。 2005年7月にスタートした当メールマガジンですが、13年目に入って 100号に到達しました。今後も引き続き宜しくお願いいたします。 ----------------------- 第100回  双極性感情障害  その3 ----------------------- 双極性感情障害にはまた、混合状態という躁とうつが同時に現れる状態 も起こることがあります。この場合は気分がうつであるにも関わらず、 行動的になってしまうことがあり、自殺の危険性が高くなります。 双極性感情障害は統計的には1型は100人に一人くらい2型は5%くらいと 言われており、男女差はなく、20代から30代で発症することが多いので すが、中学生から老年期までかかる病気です。 双極性感情障害を引き起こす遺伝子は確認されていませんが、なりやす さは遺伝すると言われています。家族に双極性感情障害の患者さんがい る場合は罹患する可能性が高くなる傾向があります。うつ症状で精神科 クリニックを受診した患者さんの約16%が実際には双極性感情障害だっ たという報告もあります。 しかし、今のところうつ病と双極性障害のうつ状態とを見分ける有効な 方法はありません。診断の決め手は以前に躁状態のエピソードがあるか? 家族に双極性障害と思われるエピソードを持っていた人がいるかなどが 挙げられます。 双極性感情障害は治療しないと再発率が高く、再発を重ねると徐々に再 発までの時間が短くなり、さらに躁うつの交代期間が短くなる急速交代 化(ラピッドサイクラー)となります。こうなると予防療法の効果が出 にくくなり、落ち着いている状態(寛解期)も短くなってしまいます。 原因は今のところわかっていませんが、遺伝、環境、性格などの要因が 関係していると思われます。脳内の精神伝達物質のバランスが崩れてお り、発症の背景には、ストレスや生活環境の変化、生活リズムの乱れな どがあることが多いようですが、きっかけがはっきりしない場合もあり ます。 __ _________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第104号 2018年2月15日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 長いことご無沙汰をして申し訳ありませんでした。双極性感情障害 の再開です。 ----------------------- 第104回  双極性感情障害  その4 ----------------------- 今回から治療編です。 1.総論 前回の復習となりますが、双極性感情障害は予防しないと再発率が 高く、しかも再発するたびに躁うつの期間が短くなり目まぐるしく 躁とうつが入れ替わるラピッドサイクラーになってしまうので早急 に治療を開始する必要があります。また、うつ病相は難治であり、 自殺企図のリスクも単極性のうつ病に比べて高くなることが知られ ています。さらに、双極性感情障害は早期から適切な治療を行えば 躁うつの波を安定化でき、社会的生活にも大きな支障を起こさない ようにコントロールすることができます。 双極性感情障害を治療する場合には a.躁病相の急性期の治療 b.うつ病相の急性期の治療 c.躁、うつ病相の再発予防 以上のすべてを考慮して治療しなければなりません。 a.の躁病相は急速に悪化することが多く、しばしば治療が追い付か なくなることも目立ち、さらに、再発を繰り返している内に日常生 活のみならず社会的な信用や職、財産さらには家族を失うかも知れ ない社会的なダメージも伴う病気です。急速に悪化することが多い ため早急な対応が必要とされます。入院を要することもしばしばあ り、重度な場合は即効性のある鎮静効果が高い薬物の使用が求めら れます。そのため複数の薬物が用いなければならないこともありま す。 b.のうつ病相の治療はさらに別の問題があります。抗うつ薬を使う か否かの問題です。一般に単極性のうつ病に比べて抗うつ薬は効き にくく、さらに、抗うつ薬の使用により一挙に躁病相に変化する 「躁転」やラピッドサイクラーになってしまうリスクがあるといわ れています。双極性感情障害に抗うつ薬は使用すべきでないという 意見もありますが、気分安定薬や抗精神病薬のみでうつ症状の改善 を期待することは実際のところかなり難しいものがあります。その ため気分安定薬と抗うつ薬を組み合わせて治療することが多いので すが、それも有効という根拠があまりないのが実情です。 c.の再発予防に関しては再発のリスクが高くTohenらの1990年の報 告によれば躁病相で入院した患者さんの72%が4年以内に再発してお り、生涯にわたって再発しない患者さんは少ないと思われており、 症状が落ち着いてからも再発予防が重要になってきます。現在、有 効であると報告されている薬はいくつかありますが、保険が適応し ているものはラモトリギンのみです。 双極性感情障害は薬物療法が中心になります。薬物療法抜きで心理 社会的治療を単独で行うことは明確な治療効果が認められておらず、 病気を悪化させるだけになることも多いのです。薬物療法以外では 電気けいれん療法が行われることもあります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第106号 2018年3月31日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 双極性感情障害は今回から治療各論です。 ---------------------------------------------------------------- 第106回  双極性感情障害  その5 ---------------------------------------------------------------- 今回から各論に入ります。日本うつ病学会治療ガイドライン双極性障害 2017を元にお話しします。 *双極性感情障害に主に用いられる薬は大きく分けると炭酸リチウムや ラモトリギン(商標名ラミクタール)、カルバマゼピンなどの気分安定 薬(ムードスタビライザー)とオランザピン、アリピプラゾール、クエ チアピンなどの非定型抗精神病薬の2種類となります。 その中からよく使用されている代表的な薬について説明します。 1.炭酸リチウム 炭酸リチウムは1950年代より躁病の治療に用いられるようになり、とくに 躁病期に有効であり、さらに再発予防効果が認められています。うつ症状 に対しても有効性が報告されており、(但し、医療保険が適用されるのは 躁病相だけですが)さらに、長期間にわたり使用経験が蓄積されているこ とや薬価も安く、双極性感情障害の薬物療法のファーストチョイスとなっ ています。とくに多幸感や爽快気分など典型的躁病エピソードを示す患者 さんには治療効果があるといわれています。有効血中濃度は0.3~1.2mEq/L とされており 残念なことは躁状態に対して即効性がなく(1週間から10日程度かかる)そ のため、興奮が激しい場合や易怒的な患者さんにはリチウムのみではなく、 非定型抗精神病薬の併用が必要になります。 また、すべての人に対し有効というわけではなく、反応しにくい患者さんも あります。このケースは過去に10回以上再発している。躁鬱が同時に現れる (混合状態)または不安焦燥感が強い、被害妄想など気分と一致しない精神 病像を示す患者さんは効きにくいようです。 一方、うつ症状でもリチウムの有効性が報告されています。しかし、効果発 現までに6-8週間を要し、0.8mEq/Lを超える高濃度を要する場合がありま す。また、有意差を認めないという報告もあります。 炭酸リチウムの問題点(副作用など)は薬の効果がある有効血中濃度と中毒 症状の出る濃度が近いことで、躁病エピソードの場合はとくに高い血中濃度 を維持する必要があり、定期的に血中濃度のチェックをしなければいけませ ん。とくに脱水症状などにより中毒引き起こされやすいことがあり、しばし ば脱水を伴いやすい激しい躁状態にはやや使いにくい点があります。 リチウムの副作用は手指の細かい振戦(ふるえ)や多尿、甲状腺機能低下、 記憶の障害体重増加、過度の鎮静、消化器症状などがあり、まれに腎機能障 害や徐脈を示すことがあります。また、催奇形性があり、妊婦には禁忌とな っています。また、非ステロイド性抗炎症薬はリチウムの排出を阻害するた め、併用すべきではありません。 とくに高齢者では腎機能の低下や減塩食、風邪薬などにも含まれている抗炎 症鎮痛剤の併用などが原因となって血中リチウム濃度の上昇が起こりやすく、 思いがけないリチウム中毒の副作用が起きてくることがあります。今まで、リ チウムの血中濃度が安定していた患者さんでも油断は出来ません。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第108号 2018年5月 8日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 双極性感情障害治療編の続きです。 ----------------------- 第108回  双極性感情障害  その6 ----------------------- 2.バルプロ酸(デパケン、バレリン等) バルプロ酸は元々、抗てんかん薬として処方されていましたが、21 世紀初めから気分安定薬として積極的に用いられるようになってい ます。 バルプロ酸はリチウムと異なり再発回数の多い躁病に対して も抗躁効果があり、焦燥感の強い患者さんや躁、うつ症状の移行が 早いラピッドサイクラーにも奏功する場合があります。 抗てんかん薬としての有効血中濃度は50-100μg/mlですが、躁状態 の場合は70μg/ml以上が必要と報告されています。 一方、うつ症状に関して有効性は、はっきりしていません。 この薬も血中濃度が上がりすぎないよう注意する必要がありますが、 リチウムほどには有効濃度と中毒濃度が接近していないため使いやす い薬です。 また、他の抗てんかん薬でもある気分安定薬に比べて薬疹 が出現しにくいという利点もあります。 副作用としては嘔気や過鎮静血小板減少や頭痛があり、血中アンモニ ア濃度の上昇などがあり、やはり催奇形性の問題があり妊婦には使え ません。 薬物代謝酵素の阻害作用があるため併用薬の濃度を上げるこ とがあります。とくに、最近双極性障害でよく用いられるラモトリギ ン(ラミクタール)の血中濃度を上昇させ、副作用を出やすくするた め両者の併用には注意が必要とされています。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第110号 2018年 8月7日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの リーズで掲載していく予定です。 今回は双極性感情障害治療編の3回目です。 ---------------------------------- 第110回  双極性感情障害  その7 ---------------------------------- 3.カルバマゼピン(テグレトール) カルバマゼピンはやはり抗てんかん薬として開発されましたが、これ も今世紀の初め頃から気分安定薬として用いられ有意に抗躁効果を示 すことが確認されています。 副作用としてはめまい、傾眠、嘔気などの他、バルプロ酸と比較して 薬疹がよくみられることが知られています。薬疹が出ると中止せざる を得ないためちょっと使いにくい薬ではあります。 炭酸リチウムほどには有効濃度と中毒濃度が接近していないというメ リットがありますが、血中濃度をモニタリングしておく必要がありま す。抗てんかん薬の血中濃度は5-10μg/mlですが、気分安定薬の有 効血中濃度はこれを参考にしているものの厳密には検討されていません。 抑うつエピソードの有効性に関してはほとんど報告がありません。維 持療法もとくに有効であるという報告はないようです。 4.ラモトリギン(ラミクタール) ラモトリギンは日本では2008年に発売が開始された抗てんかん薬ですが、 抗躁効果は認められていませんが、抗鬱効果は重度の抑うつエピソード には有効であったという報告があります。 特筆すべきは双極性感情障害の維持療法(再発、再燃の防止)に効果があ ることで、これを服用していれば再燃、再発がなくなるわけではありませ んが、回数を減らすことができます。炭酸リチウムと併用するとさらに、 抑うつエピソードの再燃再発の期間を延長できるという報告もなされてい ます。 再燃:病気がいったん完全に回復してからぶり返すこと。 再発:病気が治療により落ち着いている状態からぶり返すこと (厳密には区別されていません) 双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制で保険が適応されて いるただ一つの薬であり、難治性の双極性感情障害に有効な薬ですが、一 番の問題は副作用です。 全身の発疹が投与された人の7%にみられるなど他の抗てんかん薬と比較し てもかなり高い頻度でみられ、さらに、まれではありますが、スチーブンス ・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)ライエル症候群(中毒性表皮壊 死症)などの重篤な皮膚障害を起こすこともあり、失明や重度の感染症を 引き起こし死に至ることもあります。 これらの副作用の頻度を下げるために、ラモトリギンは少量から始め少し ずつ増量していくことが推奨されています。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第 112 号 2019年1月10日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 今回は双極性感情障害治療編の4回目です。 ---------------------------------- 第112回  双極性感情障害  その8 ---------------------------------- 抗精神病薬 抗精神病薬とは主に統合失調症の治療に処方される薬剤のことです が他の精神疾患でも、処方されることはあります。双極性感情障害 (とくに躁病相)の場合にはその鎮静作用などを期待して用いられ ることがよくあります。 A.非定型抗精神病薬 「非定型抗精神病薬」とは1990年代以降に発売されたそれまでのハ ロペリドールなどの「定型抗精神病薬」に比べ陰性症状(無為自閉 、意欲低下など)に若干の効果があり、副作用が異なる(必ずしも 軽くなったとは言えないが)もののことを指します。 1.オランザピン(ジプレキサ) オランザピンはプラセボに比べて有意に抗躁作用があることは確認 されており、日本で躁病相で保険適応が認められています。さらに うつ状態でも不安緊張に対する鎮静や食欲増進などが期待されて保 険が適用されることになりました。加えて、再発の予防に関しても 有効であり、躁病相への再発防止には炭酸リチウムと同等以上の効 果があるという報告もあります。 ハロペリドールによく見られた錐体外路症状(体の動かしにくさな ど)や自律神経症状(発汗、立ちくらみなど)は比較的現れにくい ですが、食欲亢進作用があり肥満、脂質代謝異常、血糖値の上昇な ど糖尿病の増悪を起こしやすく、糖尿病患者さんには禁忌となって います。 2.アリピプラゾール(エビリファイ) アリピプラゾールはプラセボよりも有意に大きな抗躁効果を発揮す るという報告があります。先発品であるエビリファイに限られます が躁極性感情障害の躁病相について保険適応になっています。 単極性のうつ病では抗うつ剤で十分な効果が認められないときに少 量追加すると効果があるとして保険が適応されていますが、双極性 感情障害のうつ病相再発予防については有効性は示されていません。 また、躁病相の予防効果を認めたという報告があります。 アリピプラゾールは錐体外路症状や月経不順(生理不順)などの副 作用は少ないのですが、アカシジア(じっとしていられない感覚) はよく出現します。 3.クエチアピン(セロクエル) クエチアピンもプラセボよりも有意に大きい抗躁効果を持つことが 確認されています。炭酸リチウムやバルプロ酸と併用する方法も有 効とされています。 また、クエチアピンの徐放剤(徐々に薬物を放出する薬)であるビ プレッソは現在、日本で唯一双極性感情障害のうつ病相に保険が適 用されている薬です。再発予防効果についてもうつ病相に関しては 複数の研究で予防効果が認められています。 クエチアピンも錐体外路症状や月経不順は起きにくいですがオラン ザピン同様の食欲亢進、脂質異常、血糖値上昇作用があり糖尿病の 患者さんには処方できません。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________