職業訓練校 衛生講話「感染症について」      令和5年7月5日

子どものワクチンは子どもだけのワクチンではありません。留学や海外赴任の時に子供のワクチンを打っていないと自費で打ち直す必要が出て来ます。以前は、赴任が主でしたが、外国出生社員も多く職場に日本では少なくなった麻しんや結核が持ち込まれることもあり、子どもの頃のワクチンが必要になります。
子どものころに接種の対象外だった中高年の男性社員が妊婦の部下に風しんを感染させ先天性風しん症候群の子どもが2013年32名でました。 そのため、職場ぐるみで風しんの検査を進めてくださいというお願いを県はしています。
50歳になっても70歳になっても母子保健の記録は大切です。子どもである貴方も、お母さんの妊婦健診記録もタンパク尿や血圧などの記録が高齢者の腎不全や心不全の診療に役立ちます。

母子保健の次は学校保健です。これも、昔の感染症の戦いが積み重ねられています。大正のころは学校で流行るトラコーマという目の感染症で失明する子が15%も居ました 。結核で無くなる人も多く、学校健診で予防し、ツベルクリンやBCGが普及しました。戦後も集団生活でおこる感染症をしらべて学級閉鎖などの措置が取られることがあります。新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスとおなじく5月8日以降第2種感染症に学校保健安全法で指定され罹患した場合は5日間の出席停止が定められています。

明治44年に工場法が制定されました。畳1畳に昼勤と夜勤が交互に寝るような寄宿舎などの環境では結核は容易に拡散し、千人あたり30名が結核で若くして亡くなるような労働条件ではいけないと規制が入りました。工場の感染症対策は、結核から始まりました。
いま労働現場での結核の悩みは外国出生社員の存在です。介護や生産の現場には多くの方が就労しています。一方で現在20歳から30歳台の新規結核登録者の7割は外国出生です 。言葉の壁や日本の法律の理解が結核の早期発見や治療の妨げになります。健康診断に誘い、結果を読み聞かせ、同僚が結核になったときは助けてください 。

職場や家庭で痰の中に結核菌が居る人がいたら、周囲の人に感染していないか接触者検診をします。200人の周囲の人が居ると結核菌が体に取り込まれる「感染者」が百名出ます。2年間に十名が「発症」しますが、結核の症状が出る前に(人に感染させる前に)予防内服をすると発症は一名に抑えられます。そのために周囲の人を採血して結核の感染が無いか保健所に来ていただく接触者検診を行う場合があります。入居の老人施設や日本語学校では大人数の接触者検診が必要になる場合があります。

海外出張は生産拠点が各国にまたがる昨今よくあります。外国の拠点から逆出向で現地社員が日本に来ることも多いです。赴任にあたっては渡航ワクチンの接種が必要です。打たれる身になるだけでなく、労務安全担当者として他の社員や同伴するご家族のワクチンの指示を出す側になるかもしれません 。
入国者や帰国者がなりがちな病気を挙げます。原虫による旅行者下痢症や日本でもある普通の食中毒も頻度高く観察されます。蚊に刺されてなる病気は予後が悪いです。また、日本に居るヒトスジシマカに発症後刺されると、日本でも二次感染三次感染がおこります。海外の犬や野生動物には狂犬病をはじめとする病原体があります。狂犬病はワクチンがありますが、治療薬はありません。なにより、日本の医者が藪で盥回しにされてしまうことが良くあります。

コロナが終わり懇親会なども再開されつつあります。しかし、食生活は労務提供の基本です。お腹を下したまま出勤し職場のトイレで感染拡大しても困ります。十分な加熱をすることが食中毒予防の基本です。しかし、焼く前の肉を摘まんで置いて焼けた肉をその箸で摘まんで帰ってくると肉汁の中の菌は活きてお腹に届きます。
そんな人が鍋奉行だと、周りの人が迷惑です。取り分けるときはトングや菜箸を使いましょう。最初から銘々分けて配食され、食卓での調理が無いような店を選びましょう。
細菌性の食中毒は5日ほどの潜伏期間ですが、肝炎だと4週間ほどなので食材の特定も困難になります。貝類のA型肝炎や豚肉イノシシの生食のE型肝炎が日本でも報告されています。 調理法の誤解もあります。解凍してから揚げてくださいというのが芯まで熱が通らず凍ったままのメンチカツだと細菌性腸炎が起こります。

職場でインフルエンザやノロウイルスが流行するようなことがあると困ります。結核予防から始まった工場法ですが、三密をさけるといういみで、一人十立米以上詰め込まないという約束があります。炭酸ガスの濃度や風速で換気を保つ項目もあります。下痢が拡がらないようにトイレの数やきれいな水も規則に上げられています。浄化槽が井戸と繋がっているせいでノロが流行った職場や防火用水が原因で肺炎を起こすレジオネラの感染があった職場もあります。

これらの項目を法律が挙げても職場で調べて整える人がいないと責任が取れません。中小の職場では衛生推進者という1日の講習で認定される職員が纏め役になることになっています。50人以上の職場では衛生委員会を設け、試験に受かった衛生管理者が産業医と共同して衛生状態の把握と改善を行います。みなさんもこれらの資格をとりましょうと勤務先に命じられることがあると思って居てください。
情報はいろいろなところからとります。朝礼の時に具合が悪そうだったり遅刻や早退がおおいようなら声掛けをしましょう。地域でいまどんな病気が流行っているかは産業医に訊いたり県の週報をみることができますが、保護者である従業員から保育園や学校の話をきいてみるのも一つです。健康診断を受けているか、漏れはないか、働きかけをしましょう。


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