− HCV持続感染者におけるHCVコア抗原量の長期的観察 −
当研究室の若山らは、1960年代に発生した地域流行性ウイルス肝炎についての疫学研究において、C型肝炎ウイルス(HCV)持続感染者におけるHCVコア抗原量の長期的観察を行い、
その結果を肝臓(2009; 50: 35-37)において公表しました。
1962年から1968年にかけて関東地方の農村地帯に発生した、患者総数678名にのぼる主としてHCVに起因する大規模なウイルス肝炎の流行を経験した地域住民を対象として、当研究室では、
流行終息後も患者の戸別訪問・定期住民健康診査などの追跡調査を実施してきました。現在までに、当研究室では、I.流行時の疫学調査、II.A型肝炎ウイルス(HAV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)
抗原抗体測定系の開発による原因ウイルスの検索、III.HCVの発見・測定系の開発による原因ウイルスの特定、IV.慢性肝炎・肝硬変・肝がんへの進展など、患者病態の長期的推移の観察を主とした予後の特徴の解明、
を行っています。現在、IV.における解析を継続中ですが、その中で、原因ウイルスと肝病態について以下のことが新たに明らかとなりました。
発症より20年以上追跡できた患者147例の凍結保存血清について、HCVコア抗原量(RIA固相法:IRMA法)を測定し、その推移と肝病態の進展との関連性について検討を加えたところ、
・発症から20年目のHCVコア抗原量では106例(72.1%)が20 fmol/L以上を示し、HCVの持続感染が認められました。
・HCVコア抗原量は、期間経過に伴って増加するもの、増減を繰り返すもの、発症から早期に高値を示しその後低下するものなど、多彩な推移パターンを示しました。
・20年目のHCVコア抗原量から対象者を3群(A群64例:2000 fmol/L以上、B群42例:20-1999 fmol/L、C群41例:20 fmol/L未満)に分類し、肝機能(AST、ALT)、ZTT、アルブミン、IV型コラーゲン、α-フェトプロテイン、
HBV抗原抗体等について検討した結果、B群はC群に比較して肝機能、ZTT、アルブミン、IV型コラーゲンで有意差を認め、さらにA群に比較してZTT高値、アルブミン低値を示し有意差が認められました。
また、統計学的有意差は認められなかったもの、B群ではA群に比較してIV型コラーゲンおよびα-フェトプロテインが高値を示す傾向を認めました。
・発症から20年間のHCVコア抗原量の推移では、B群では発症後10年まではA群に比較して高値で推移するも経過期間に従って低下し、15年経過後では有意差(p<0.001)が認められました(図)。
以上の成績から、HCV地域流行における肝炎既往者の肝病態の進展は、発症から比較的早期のHCVコア抗原量の増加に関連があることが示唆されました。
今後は、HCV-RNAジェノタイプやHCV抗原蛋白質アミノ酸変異などHCVの質的側面、さらに患者(宿主)側の加齢、生活習慣などの因子を含めた多面的な解析をすすめることにより、
地域流行性ウイルス性肝炎既往者の病態進展像の詳細とくに予後の特徴を明らかにし、同地域における保健対策の一助を目指します。
本研究の一部は、平成18-20年度科学研究費補助金(基盤研究(C))により行われました。
(原著)
若山葉子,勝又聖夫,川田智之.HCV持続感染者におけるHCVコア抗原量の長期的観察.肝臓 2009; 50: 35-37.
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