− 喫煙と心臓ストレス −
当研究室の大塚らは、健康診断受診者における喫煙と心臓ストレスとの関連について検討を行い、その結果をAmerican Journal of Cardiology誌(2010年106巻、1456-1460ページ)において公表しました。
喫煙は動脈硬化を促進させることから、循環器疾患発症に対する確立した危険因子となっています。しかしながら、喫煙が心臓ストレスを増大させるかについては、少数の喫煙者を対象とした検討は散見するものの、
多人数を対象とした検討はなされていませんでした。
そこで、本研究では神奈川県内の精密機器開発事業所において、定期健康診断を受診した男性従業員969人を対象に、心臓とくに左心室のストレスマーカーであるN端末プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)
の血中濃度を測定し、喫煙状況との関連性を検討しました。血中NT-proBNPは心不全などの心臓病で上昇することから、日常臨床においても広く用いられている検査項目です。
喫煙状況は、自己記入式質問票の回答にもとづき、「非喫煙」「過去喫煙」および「現在喫煙」に分類しました。
その結果、NT-proBNPは非喫煙者と過去喫煙者との間に差は認めませんでしたが、非喫煙者と比べ現在喫煙者において有意な上昇を認めました。これまでの報告にもとづきNT-proBNP 54.5 pg/ml以上を「NT-proBNP高値」
と定義すると、現在喫煙群におけるNT-proBNP高値を有するリスクは約3倍でした。このリスクの上昇は過去喫煙群では認めませんでした(表1)。
さらに、過去喫煙群において、禁煙開始からの期間が長期となればなるほどNT-proBNPは低下しました。
これらの結果から、喫煙は心臓ストレスを増加させ、また、禁煙によってこの心臓ストレスは低下する可能性が示されました。喫煙は、動脈硬化や血管収縮、交感神経の活性などを通じて循環器疾患発症リスクを増加させますが、
心臓のストレス増加にも影響することが明らかとなりました。
喫煙は、循環器疾患のみならずがんをはじめとした様々な健康障害の原因となります。喫煙者に対するさらなる禁煙対策が、公衆衛生的視点からもますます重要となってきます。
本研究の一部は、平成20年度 循環器病研究振興財団 公募自由課題研究助成により行われました。
(原著)
Otsuka T, Kawada T, Seino Y, Ibuki C, Katsumata M, Kodani E. Relation of smoking status to serum levels of N-terminal pro-brain natriuretic peptide in middle-aged men without overt cardiovascular disease.
Am J Cardiol 2010; 106: 1456-1460.[PubMed]
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