日本医科大学大学院医学研究科 衛生学公衆衛生学分野 公式ホームページ





− バイオ燃料ETBEの慢性吸入曝露によるマウス脾臓細胞への影響 −

  当研究室の李(卿)らは、バイオ燃料ETBEによる免疫機能への影響について検討を行い、その結果をInt J Immunopathol Pharmacol誌(2011年24巻837-847)において公表しました。

  ETBE (ethyl tertiary butyl ether:エチルターシャリーブチルエーテル)はバイオ燃料として広く使用されています。日本では2010年から毎年630000トンを消費すると試算されており、 ヒトへの曝露による健康影響が懸念されます。そこで、本研究は、ETBEによる免疫機能への影響の一環としてまずETBE慢性吸入曝露によるマウス脾臓細胞への影響について検討しました。

  雄と雌マウス各5-6匹ずつがそれぞれ対照群、500ppm、1750ppm、5000ppm ETBE曝露群に分けられ、毎日6時間、5日/週のスケジュールでそれぞれ6と13週間ETBEに吸入曝露し、 最終曝露の20時間後に解剖して脾臓を採取し、脾細胞を調製しました。Flow cytometry法を用いてT細胞、T細胞サブセット(CD4+とCD8+T細胞)、B細胞、NK細胞及びマクロファージの割合と数を測定・解析しました。

  その結果、ETBEが曝露量に依存してCD4+とCD3+T細胞数及びCD4/CD8比を減少させ、1750と5000ppm曝露群のCD4+とCD3+T細胞及びCD4/CD8比は対照群より有意に減少し、さらに1750と5000ppmETBE曝露群のCD4+T細胞、 5000ppmETBE曝露群のCD3+T細胞及びCD4/CD8比は500ppm ETBE曝露群より有意に減少したことが明らかとなりました(図1)。また13週間の曝露は6週間よりも影響が強いことから曝露期間もその毒性に寄与したと言えます。 一方でETBE吸入曝露はマウスのB細胞、NK細胞及びマクロファージには影響を及ぼさないことも判明しました。

  これらの結果より、ETBEが選択的にマウスT細胞に影響を与えることが明らかとなりました。今後はヒトへの影響について検討する必要があると思われます。

  本研究は労働安全衛生総合研究所との共同研究として行われました。

(原著)
Li Q, Kobayashi M, Inagaki H, Hirata Y, Shimizu T, Wang RS, Suda M, Kawamoto T, Nakajima T, Kawada T. Effects of subchronic inhalation exposure to ethyl tertiary butyl ether on splenocytes in mice. Int J Immunopathol Pharmacol 2011; 24: 837-847. [PubMed]


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