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− ディーゼル排ガス曝露がブレオマイシン肺線維症病態へ及ぼす影響 −

  当研究室の李(英)らは、ディーゼル排ガス吸入曝露のブレオマイシン(BLM)肺線維症病態へ及ぼす影響について、動物実験レベルで検討を行い、 その結果をInt J Mol Sci誌(2017年18券3号E649)において公表しました。

  近年グローバル化する大気汚染が問題となっており、そのなかでも肺の深部まで到達できる微小粒子状物質 (PM2.5, 粒子の直径2.5μm以下)の健康への影響が懸念されています。その原因物質として自動車から排出するディーゼル排ガスに含まれている微小粒子が注目されています。ディーゼル排ガスの微小粒子による生体への影響は酸化ストレス作用によることが明らかになっています。 一方、特発性肺線維症は原因不明な肺疾患であり、確立された治療法はいまだありませんが、酸化ストレスが肺線維症の発症メカニズムにおいての役割が注目されています。

  以上の接点を考慮し、ディーゼル排ガスに含まれている微小粒子が酸化ストレス作用により肺線維症病態へ影響する可能性が考えられます。 そこで、ディーゼル排ガスの生体への影響を動物実験レベルで明らかにするために、抗酸化酵素の発現を制御する転写因子である Nrf2欠損マウスを用い、BLM肺線維症モデルにおけるディーゼル排ガスの吸入曝露実験を行いました。

  その結果、Nrf2欠損マウス(Nrf2 -/-)では野生型(Nrf2 +/+) マウスと比較し、ディーゼル排ガス吸入曝露により、マクロファージ機能と気道のクリアランス機能が低下しており、 BLM投与後10日目(炎症期)の気管支肺胞洗浄液中の好中球数が有意に上昇しました(図1)。
  BLM投与後28日目(線維化期)の肺病理組織像では炎症細胞浸潤を伴う肺胞、気管支の壁の増厚などの所見は明らかに増多しましたが、 コラーゲン蓄積の指標となる肺組織のヒドロキシプロリン(HOP) の含有量は減少することを確認しました(図2)。   それに対照とし、Nrf2 +/+マウスではディーゼル排ガス吸入曝露により、肺組織の異物巨細胞、肉芽種の所見がみられており、HOPの含有量は増加していることが確認されました。

  以上の結果より、ディーゼル排ガス曝露により、Nrf2 +/+マウスでは線維化病態が増悪しており、Nrf2 -/-マウスでは炎症期の肺障害病態が増悪することを動物実験レベルで明らかにしました。 宿主側の抗酸化防御機能の低い肺線維症において、ディーゼル排ガスによる大気汚染が急性増悪を誘発する可能性が示唆されており、化学的予防対策が必要であると考えられます。

  本研究は平成21-23年度 文部科学省科学研究費補助金(No.21590668)により行われました。

(原著)
Li YJ, Shimizu T, Shinkai Y, Hirata Y, Inagaki H, Takeda K, Azuma A, Yamamoto M, Kawada T. Nrf2 Regulates the Risk of a Diesel Exhaust Inhalation-Induced Immune Response during Bleomycin Lung Injury and Fibrosis in Mice. Int J Mol Sci. 2017 Mar 17;18(3).pii: E649. doi: 10.3390/ijms18030649. [PubMed]


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