日本医科大学大学院医学研究科 衛生学公衆衛生学分野 公式ホームページ





− 健康格差とその要因に関する20年間の経年的分析 −

  当研究室の可知らは、1986年から2007年までの健康格差の経年変化とその要因について検討を行い、その結果をSocial Science & Medicine誌(2013年81巻、94-101ページ)において公表しました。

  日本は「一億総中流社会」といわれてきましたが、最近では「格差が拡大している」と認識する国民が増えています。格差社会を示す指標のひとつである所得格差をみてみると、この20年で確かに格差は拡大しています。

  所得格差が拡大したら、国民の健康や幸せの格差も拡大するのでしょうか?もし拡大するとしたら、何が要因なのでしょうか?この疑問を明らかにするために、本研究では、国民生活基礎調査に参加した、働く世代(20-59歳) の男女を対象に、所得による健康格差とその要因の推移を分析しました。健康の指標として「現在の健康状態についての本人の評価」である主観的健康感を用いました。

  その結果、所得格差が徐々に拡大した一方で(図1.ジニ係数)、健康格差は1998年以降の経済低迷期に縮小傾向を示しました(図2.集中度指数)。これは所得格差の拡大に伴い、健康格差も拡大した他の先進諸国の結果とは異なるものです。 そして、健康格差が縮小したのは、低所得層の主観的健康感が良くなったからではありませんでした。全ての所得層で主観的健康感が悪い人が増加し、特に高所得層で主観的健康感が悪い人が増加したため、低所得層との差が減少したからでした。   さらに、健康格差の要因について分析を行ったところ、男性では失業が、女性では離婚が格差を生み出す重要な要因となってきていることがわかりました。これは最近の厳しい雇用失業情勢や女性が自立しにくい労働環境が反映していると 考えられます。

  経済危機が生じ、自殺者数が3万人を超えた1998年頃から、所得が高くても低くても「私の健康はよくない」と思う人が増えて、健康格差は縮小しました。この日本独自の現象にはこれまでの社会、経済、政治の動向が影響している可能性があります。 歴史を顧みながら、今後の格差是正政策のヒントを得ていくことが大切と考えられます。

  本研究の一部は、平成24年度科学研究費補助金(若手研究(B))により行われました。

(原著)
Kachi Y, Inoue M, Nishikitani M, Tsurugano M, Yano E. Determinants of changes in income-related health inequalities among working-age adults in Japan, 1986-2007: time trend study. Soc Sci Med 2013; 81: 94-101. [PubMed]


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