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− グランザイム3のカテプシンCによる活性化 −

  当研究室の平田(幸)らは、NK細胞や細胞障害性Tリンパ球に含まれるプロテアーゼの一種であるグランザイム3に対する抗体を作成し、その結果をMicrobiol Immunol誌(2010年54巻、98-104ページ)において公表しました。

  免疫担当細胞であるNK細胞や細胞障害性Tリンパ球 (CTL)は、細胞内に顆粒内の成分を放出することにより、標的細胞であるウイルス感染細胞や腫瘍細胞など殺傷すると考えられており、グランザイム3はその顆粒内の成分の一つです。 ヒトでは5種類 (A、B、3、H、M)のグランザイムが同定されていますが、グランザイム3はNK細胞にはほとんど存在せず、主にCTLに存在していることを当研究室で明らかにしました。

  ファミリー蛋白であるグランザイムAやBがNK細胞とCTL両者に分布することや、グランザイムBとグランザイム3がほとんど共存していないことから、グランザイム3は他のグランザイムとは異なる役割を持っていると考えられます。 しかしながら、現在までグランザイム3に関する報告はごく少数に留まります。その理由として、グランザイム3自体をCTLなどから得るのが困難であることや、酵素活性やグランザイム3蛋白を測定する方法がほとんど無いことが挙げられます。

  そこで、今回グランザイム3の活性測定法およびELISA法を確立するために、ヒトのグランザイム3を遺伝子組み換え技術を用いて大腸菌に作らせ、さらに、これを用いグランザイム3に対する抗体を作成しました。

  グランザイムAやBは細胞内では酵素活性のない前駆体型として蓄積され、顆粒内で活性型へと変換されることが報告されており、遺伝子の構造からグランザイム3も同様であると考えられます。これまでに作製したグランザイム3は活性型 なので、新たに前駆体型を作製しました。また、大腸菌で作らせたグランザイム3前駆体はヒトの生体内に存在するグランザイム3と同じ立体構造か否かを検討するために、大腸菌で作らせたグランザイム3前駆体にカテプシンCを反応させ、 その活性化を検討しました。その方法として、前駆体型と活性型では分子量が異なることを利用し、カテプシンCを反応させた後の分子量を電気泳動で比較することにより、活性化の判定を行いました(図、Gr3;活性型グランザイム3、pro-Gr3;グランザイム3前駆体)。

その結果、カテプシンとの反応時間が15分以上で活性型と同じ大きさに変化しました。従って、大腸菌で作製したグランザイム3の前駆体型は、カテプシンCにより活性型へと変換可能であり、ヒトの体内にあるグランザイム3前駆体と同様の立体構造であると 考えられました。

  今後は、これまでに作成した活性型グランザイム3やその抗体、さらに今回作成に成功したグランザイム3前駆体を用いて、細胞内外でのグランザイム3の存在量や存在形式などを解析するとともに、免疫や病態との関連について更なる検討を行う 予定です。

(原著)
Hirata Y, Inagaki H, Kawada T. Recombinant human progranzyme 3 expressed in Escherichia coli for analysis of its activation mechanism. Microbiol Immunol 2010; 54: 98-104. [PubMed]


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