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蝶ヶ岳山頂AED装置回収登山

私は2006年5月2日夜、蝶ヶ岳ヒュッテ松本事務所である神谷圭子さん宅で、医学部学生3名と 伴に入山計画の最終検討を行った。翌5月3日(快晴)午前3時45分起床。 榊原先生の車で三股へ出発。 絶対に遭難事故を起こさないために周到に冬山装備を整え、現地情報および 気象情報を収集をした。榊原先生の提案で、万が一雪崩に遭遇した際に救援するための ビーコン(Avalanche Beacon;雪崩対策の457kHzの電波を発信・受信する装置)を参加者全員に装着した。三股から入山している従業員の 永田さんと電話連絡し、雪の状態を確認した。酒井さんがルートに赤旗の付いたポールで 山頂付近の雪原に印を付けて下さった情報も有り難かった。榊原先生が用意した 高層天気図も気象条件が安定していることを示し、すべて安全登山の条件が揃ったことを確認し、 三股からの入山を決めた。さらに登山口に設置されている山岳補導所で、 すでに連休中に30-40人が蝶ヶ岳へ入山している情報を得た。 私達の予定ルートではないが、同じ登山口から入る一ノ沢経由で常念岳に至る登山ルートは 入山を自粛するよう警告された。 この警告は、5月1日に一ノ沢経由で登山を企てた山梨県からの登山客が「積雪が 多くて登山を断念して下山した」報告が唯一の情報源になっているようであった。 力水からの登山道は50-100cmの積雪に覆われていた。稜線口から豆打平までの林間の 稜線は所々夏道の地面が見えるが、ルートをはずすと1mぐらいの吹きだまりが存在する。 豆打平の道標は雪に埋もれ、その上端が見えている状態であった。冬枯れの 木立の向こうには、ピラミッド型の情念岳が白く美しく輝いて見える。

森林の中の稜線の雪は吹き飛んで、夏道の地面が露出してルートは明瞭 であった。吹きだまりにはまだ1mほどの雪が残っている。標高2500m付近の大滝分岐 あたりから上は一面の雪原で、竹竿の赤旗をつけた印を頼りに トレースする。雪原には黄砂の雨の流れた黄色い縞模様が残されている。

蝶ヶ岳山頂西側は岩肌が見えている状況であるが、東斜面は巨大な雪渓を形成していた。 蝶ヶ岳ヒュッテの屋根は出ているが東側には大きな雪の吹きだまりができ、雪にすっぽりと 囲まれている状態であった。 診察室窓の外は山積みの雪に埋もれた状態で、融雪水が窓枠から診察室内へ流れ込み、 電気系統が危険に曝されていた。この状況に気付いたヒュッテ従業員の永田さん が応急処置として雑巾を窓枠に置き、ビニールシートで浸水を床に用意したバケツに誘導して 水の室内への広がりを予防していた。

 

5月3日午後に蝶ヶ岳三股ルートの雪渓で滑落事故が発生した連絡がヒュッテに入り、 酒井さんが救援に駆けつける準備を始め、長野県警察のヘリコプターも飛び立った。 しかしその後の連絡で大事に至らずに、滑落者は無事に自力で下山できたとの連絡を受けた。 その夜、ヒュッテ従業員の皆との懇談で、滑落事故が話題になり、昨年早春に入山するに際して、 女性スタッフの一人が同ルートで滑落し樹木に激突した事故の恐怖を御本人から聞かせていただいた。 確かに初心者にとっては雪山は侮ることはできない。しかしピッケル、アイゼンなどの 冬山装備を持ち、基本的な安全確保の方法を習得し、安定した気象条件が揃えば 春山の蝶ヶ岳も安全に登ることが可能であり、むやみに避ける必要性はない。 この素晴らしい春山の美しさと安全を多くの登山客は知っており、蝶ヶ岳ヒュッテは5月3日には 130人もの登山客で賑わっていた。

5月4日(快晴) 夜明けの東空には層状の雲があり、穂高岳を層状に朝日が染めた。

反省:2006年は4月に入り、北アルプスの山岳地帯では遭難が相次ぎ、 8日から9日にかけて吹雪の中の栂池、白馬村の小遠見山(2007m)の沢筋、 松本市の安房山(2219m)北側斜面で雪崩が発生して山スキーなどに訪れた6人 が死亡した。さらに私たちが松本へ出発する前日の5月1日には、針ノ木雪渓の雪崩で3人 死亡したニュースが伝えられた。これら遭難事故の直後であったことから、 我々の蝶ヶ岳(2677m)の登山に対しても慎重論が聞こえてきた。私は遭難死亡事故は偶然というより 必然的に発生すると考えている。視界が悪い積雪時のルートファインディングは難しく、 適切に退避できなければ疲労凍死事故を起こす。急斜面の雪渓では雪崩や滑落の危険性も 想定される。現場を見るまで私自身も心配であったし、積雪期登山の経験を持たない家族や 学生の御両親には、どんなに御心配をおかけしたか想像に難くない。学生らと一緒に山を 登らせていただく者として、関係者の皆様に現場の状況を正確に説明し、安全登山を理解して いただく責任を感じている。 May 8, 2006

三浦 裕 (みうらゆたか)
名古屋市立大学 医学研究科 分子神経生物学助教授
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員長
     


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(Last modification, May 09, 2006)