Yutaka Miura's home page
(the third page level)

藤原岳登山記録 2011年12月25日

三重県の三岐鉄道の終着駅である西藤原駅には小さなSLが雪を冠って静かに停車していた。人気は少なく、私が乗っていた列車から降りたのは、わずか数名の登山者だけであった。私は駅の待合室で少し準備をして予定通り登山者カードを提出して出発しようとすると、駅員さんから「聖法寺ルート(裏参道)が閉鎖されています」と注意を受けた。私は聖法寺ルートは使わずに大貝戸ルート(表参道)を登る予定であったので心配せずにそのまま登山することにした。

私は2年前(2009年12月31日)に藤原岳を登った際には、8合目から上の冬道のラッセルで苦労した思い出がある。後から登ってきた初老の登山者があっさりと私を追い抜いていった。そのスノーシューを履いた登山者が付けてくれたトレースを辿れば簡単に登れそうに思って、その登山者の後を追おうとした。しかしスノーシューを装着していた登山者の登る速度は驚くほど早く、あっという間に姿が見えなくなった。私はアイゼンを付けただけの足で、同じ場所の雪を踏み込むとスッポリ腰まで沈んでしまって立ち往生してしまった。それ以来ずっと私は「スノーシューが欲しいな…」などと子供のように思い続けていた。

理論的にスノーシューはワカンよりも広い面積で新雪を捕らえるので雪上歩行装置として有能なはずである。たしかに平坦で柔らかい雪面の歩行性能は素晴らしい。ただし実際に山の斜面で使ってみると大きな弱点に気がついた。柔らかい新雪斜面であればとくに気にならないが、雪が少し踏み固められている急斜面になるとスノーシューで登ろうとするとまるでスキー板のように滑り落ちてしまう。下面にアイゼンが突き出ているので大きく滑り落ちることはないが、急登で後ろにずり落ちるスノーシューは使いにくい。夢にまで見ていたスノーシューを実際に山で使ってはじめて登山用品ではないことがよく分かった。一般に登山ではスノーシューは使われずに小型のワカン(カンジキ)にアイゼンを併用する方法が愛用され続けている理由がよく納得できた。今回はスノーシューで登れなかった雪斜面はアイゼンだけを装着して簡単に登り切ってしまった。新雪の雪原ではスーパーカンジキを使ってみて、その素晴らしい歩行性能を実体験できた。スーパーカンジキは構造的に新雪のグリップ力が強いので沈む深さはジュラルミン製ワカンよりも浅い。小型で左右の足が干渉しないので非常に歩き易い。ただし歩行中に登山靴の位置がずれてスーパーカンジキの先が登山靴のつま先にひっかかるトラブルが起こった。私のベルトの固定法が悪かったのだろう。次回もし使うならば登山靴がずれないようにしっかり固定方法を考えておく必要がある。

3種類の装備を使って新雪を歩き回って遊んで午後1時ごろに避難小屋に到着した。 中に入るといくつかの先行パーティがそれぞれ美味しそうな香りを立てて料理を作っていた。西藤原駅で見かけて登山者は三重県津市から来ていた山岳会系のメンバーだったらしく「すき焼きうどん」を作っていた。私は一人で寂しく隅の階段で具のない棒ラーメンを茹で始めた。そこへ「すき焼きうどんをどうぞ」と紙容器に山盛りに好き焼うどんを持て来てくれたのは嬉しかった。御馳走になって幸せな気分を味わっていたら午後2時近くになってしまった。あまりのんびりしていると下山前に日没になる可能性が出てきたので、山頂によらずに一人で下山することにした。

結論:スーパーカンジキは従来のワカンよりも歩行性能が良好だが、登山靴をしっかり固定する方法を考えておかないと妙なトラブルが起こる。スノーシューの歩行性能は平坦な雪原では抜群であるが、急な雪斜面では滑り落ちる。古典的ワカンを逆さにしたてアイゼンを併用する方法がもっとも信頼性が高い、という当たり前の結論になった。今回の比較実験は「大山鳴動して鼠一匹」という印象である。

使用した3種類の雪上歩行補助装置:左から、 コースタイム: 西藤原駅 (3:00) 8合目分岐(1:00) 避難小屋 (2:00) 西藤原駅 (合計6時間行動) 三浦 裕
名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子神経生物学(生体制御部門)准教授
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員長

三浦裕エッセー目次
To Top menu of Yutaka Miura's Home Page

連絡先:

(Last modification December 27, 2011)