Yutaka MIURA

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コンピュータは不思議な玩具 Yutaka MIURA,　March 13, 1997

私は遺伝子のクローニングでDNA検索をする必然性から、1988年にコンピュータを使い初めました。それが契機で、Computer networkとの付き合いが始まります。大学間ネットワークによって国立基幹７大学の大型コンピュータと学術情報センターが接続されて、その中を自由に動けることに感動したものです。毎日更新される遺伝子情報を集めて、瞬時に検索するには、大型コンピュータの力を借りる必要がありました。膨大なdatabaseを構築して、その検索ソフトを完備している大型コンピュータに、電子メールを送り、検索結果をまた電子メールで受け取ります。e-mailやremote accessの恩恵は、研究者にとって計り知れません。
NIFTY-Serveのバイオフォーラムにも参加し、無料の遺伝子解析ソフトウエアの存在を知りました。無料でありながら、NIH、 EMBL、DDBJなどのメンバー、その他の個人による労作によるソフトウエアがすばらしい能力をもっていることを知りました。研究者による研究者の為の研究システムの開発です。世界最先端の情報をいち早く整理して、互いに教え合う日本人グループとしてバイオフォーラムは結成されたようで、たいへんに有り難いと思いました。
1991年になってようやく私はtelnetでInternetの世界を歩き初めました。MODEMで自分のパソコンがアメリカ国防省をはじめ、自由に世界中のserverにtelnet接続できることに驚きました。Host computerから自分のpersonal computreへはKermitプロトコールを使ってfileの転送を行っていました。周囲の研究室では、まだ高価な遺伝子解析ソフトを購入して、それに添付されてくるCD-ROMをdatabaseとして利用していた頃、私はInternetを使うことで無料で誰よりも早くGenBankの最新の情報を得て、より信頼のある解析結果をつかんでいることを確信していました。DNA databaseは人類平等の遺産であることを実感したのはこの頃です。NCBI、 EMBL、DDBJへの接続料金が世界共通で無料であればこそ、私のようなPostdoctoral fellowでも安心してそのdatabaseが利用できたのです。（後に私たちがCalgary大学でcloningに成功したhuman ATBF1遺伝子は、GenBank : L32832, L32833のDNA登録番号で公開されています。）
1992年にWWW serverが登場して、誰でもコンピュータから色彩豊かな画像情報を簡単に受信できるようになって、多くの人々がInternetを利用するようになりました。整理された文献検索情報は研究者にとって多大な恩恵を与えました。自分の大学では聴講することができない他大学セミナーの聴講も可能となって、高度な学術、教育的活用が地域差を越えて実現できます。
しかし、virtual realityには限界があります。最近、４歳の娘を初めて海に連れていき行きました。海岸を歩いて、砂と戯れ、貝殻を拾い、波の飛沫を味わってきました。その娘が帰宅後にクレヨンで何枚もの青い海の絵を描き出しました。娘は視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感をすべて使って感動したのでしょう。生きた触れ合いは感動を呼び、人の心は成長します。デジタル画面は、自然のアナログ的情報にはほど遠い存在です。
コンピュータは、たいへんに魅力的な大人の玩具箱と言えます。IP addressさえ付けば、英国女王の宮殿から、私のMacintoshまで、世界中が統一プロトコールで繋がるようになりました。これまで規格と言えば、紙の大きさですら、日本ではA4版、北アメリカはUS letter sizeで、似ていてもぴったりと合わないのが普通でした。Internetで通信プロトコールTCP/IPが統一されたことは革命的です。地理的な差、社会的身分差、コンピュータ機種の差などを問わず、人と人を平等性に繋げる道具として使われ始めたことは嬉しい限りです。ただし、我が家の４歳の娘に、その意義を理解させてInternetを使わせるには早過ぎるように思います。子供は、肌の触れ合いを通じて基本的な人間関係を理解していきます。virtual realityでは人格教育は難しい。実際イスラエルでは6歳までは教育的配慮から子供にコンピュータは触れさせないそうです。今、自分とコンピュータとの対話時間がかなり長くなっていることを思うと、複雑な気持になります。
人間は渾沌とした多様な事象から価値ある単一真理を導きだすことで文化を築いてきたとも言われます。しかしコンピュータの進化は、これとはまったく逆方向に進んでいるように思えます。最初に少数の専門家の狭い世界から出発し、次第に具体的な美しい広い世界を映し出せるようになりました。最近ようやく渾沌とした多様な要求にも応えて、一般大衆が群がり始めました。最先端技術の進路は、崇高な単一真理への道ではなく、逆に太古にあった多様な渾沌を目指しているようにも思えます。
しかし歴史は繰り返される。人類をその渾沌から救う方法をアーサー・C・クラークはSF小説の中で描いています。まず世界中のスーパーコンピュータがネットワークを組みます。何日も計算をした結果、最良の方法が選び出されました。その最初のコマンドは、旧約聖書の創世記に記載されていた「光よ、輝け」だったそうです。

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(Last modification, July 25 1997)