←戻る香りから見る中国人の美意識
00L1085R 新倉 奈緒
はじめに
第一章
1.『千金方』について
2.『千金翼方』について
3.孫思邈について
4.時代背景
第二章
香りに関する処方
第三章
1.香料について
2.それぞれの特徴
3.その他の特徴
おわりに
はじめに
香香りは、日々の暮らしと密接な関係がある。いい香りを嗅ぐと、心が和み、日常を快適に過ごすことができ、逆に、いやな臭いは、気分を悪くする。
嗅覚器官に備わる生理機能のために、私たちが他人から受けるもっとも直接的でかつ強い印象は匂いである。嗅覚は私たちが快いものと不快なもの、既知のものと未知のものとを区別するときに用いる第一の道具である。
昨
今、ハーブやアロマテラピーがブームを呼び、香りに対する関心が高まっているが、現代人の嗅覚は、衛生管理や防臭・消臭技術が発達し、著しく退化している
という。それと比べると、古代の人は香りに対して非常に敏感であっただろうから、身だしなみとして、においには十分気を遣っていたのではないだろうか。
そこで、私は唐代を代表する医学書『千金要方』と『千金翼方』を使い、香りに関する処方から、古代の中国人がどんなものを、どの
りは、日々の暮らしと密接な関係がある。いい香りを嗅ぐと、心が和み、日常を快適に過ごすことができ、逆に、いやな臭いは、気分を悪くする。
嗅覚器官に備わる生理機能のために、私たちが他人から受けるもっとも直接的でかつ強い印象は匂いである。嗅覚は私たちが快いものと不快なもの、既知のものと未知のものとを区別するときに用いる第一の道具である。
昨
今、ハーブやアロマテラピーがブームを呼び、香りに対する関心が高まっているが、現代人の嗅覚は、衛生管理や防臭・消臭技術が発達し、著しく退化している
という。それと比べると、古代の人は香りに対して非常に敏感であっただろうから、身だしなみとして、においには十分気を遣っていたのではないだろうか。
そこで、私は唐代を代表する医学書『千金要方』と『千金翼方』を使い、香りに関する処方から、古代の中国人がどんなものを、どのように使っていたかや、香りをどんなものとして捉えられていたかを探ることで、当時の人々の美意識をみていきたい。
第一章では、『千金要方』及び『千金翼方』、その著者とされる孫思邈について。さらにその時代背景を見ていく。第二章では、香りに関する処方を4つに分けてその内容を見る。第三章では、前章をさらに細かく見ることで香りの特徴を探る。
第一章
1.『千金方』について[1][2][3]
『千金方』全30巻は、650年
代に唐の孫思邈が撰したとされている。『千金方』の書名については、孫思邈の自序中に「以為備急千金要方一部凡三十巻」とあることから、林億らは治平本刊
行にあたって「備急千金要方」を正式名称に採用した。著者が「人命の重さは千金の貴さがある」として、この名がつけられた。『千金方』は、魏晋南北朝から
隋唐までの臨床医学と鍼灸医学の知識を集大成した医学書。現存する唐以前の医方書はいくつもあるが、このうち『千金方』は古くから最も活用された。『千金
方』では論や処方の出典が多くの場合明記されていないこともあり、一般に孫思邈自身の文章で成り立っているとみるむきもある。多くの部分はそれ以前に成立
していた医学関係書からの引用である。科学価値のたいへん高い著作で、後代の人は、「最もすばらしい古今の書の要である」と称賛した。後世の医学発展に深
い影響を与え、国外にも影響を及ぼした。
『千金方』は成立したのち、いく度もの転写を重ねながら北宋代に伝えられることになる。中国では、撰述直後に『新修本草』に引用されてから、今日知りうる範囲において、王燾の『外台秘要方』(752)に極めて多量の引用がある。このほか『太平御覧』(983)には孫思邈の序が引用され、『唐書』芸文志(1053)には「孫思邈千金方三十巻」と著録されている。
日本最古の記録は藤原佐世の『日本国見在書目録』(891)に「千金方三十一孫思邈撰」と著録されており(余分の一巻は目録か)、少なくとも遣唐使廃止以前に日本に伝わっていたことになる。このほか源順『和名類聚抄』(922~931)に引用がある。さらに、丹波康頼の『医心方』(984)にも多量の引用があり、その後も日本の医書に頻繁に引用され続けた。
宋改本の構成は、巻一が序で、全九篇からなる。巻二~四は婦人病、巻五は小児病、巻六は七竅病、巻七は風毒脚気、巻八は諸風、巻九~十は傷寒。巻十一~二
十までは、それぞれ五臓五腑の病とその治方についてで、巻二十一は消渇、淋閉、尿血、水腫、巻二十二は丁腫、廱疽、巻二十三は痔漏、巻二十四は解毒、雑
治、巻二十五は備急、巻二十六は食治、巻二十七は養生、巻二十八は平脈、巻二十九・三十は針灸となっている。
2.『千金翼方』について[4][5][6]
全30巻。孫思邈が『千金方』の不備を扶翼する目的で撰述したとされる。成立の年次は不詳であるが、『千金方』の成立以後、孫思邈没(681)以前に違いない。現伝本『千金翼方』は『千金方』の場合と違い、林億ら宋臣の手を経たものしか存在しない。
中国で『千金翼方』を引用する最も早い文献は、王燾の『外台秘要方』(752)であり、このほか『唐書』芸文志(1053)には「千金翼方三十巻」が著録されている。
一方、日本へはいつ頃伝えられたかは、よくわからない。『日本国見在書目録』には、『千金方』が存在した記録はあるが、『千金翼方』の著録はない。『和名
類聚抄』も同様である。『医心方』にも『千金方』は多数引用されているが、『千金翼方』は引用されていない。『千金翼方』からの引用を明記する日本の文献
としては、丹波行長の『衛生秘要抄』(1288)が最も古いようである。惟宗時俊の『医家千字文註』(1293)にも『千金翼方』の孫思邈序の一部分が引用されている。このことから、日本には少なくとも鎌倉時代に渡来していたことは確認される。
『千金方』の場合は、林億らの手を経ない旧態本が二種残欠ながら現存する。これに比べ、『千金翼方』は、林億らの手を経ない旧態本は伝わらず、現伝本『千金翼方』は、林億らの校訂本からさらに隔たったものとなっており、書誌的条件に恵まれていない。
現伝本の構成は、巻一~四は本草、巻五~八は婦人、巻九・十は傷寒、巻十一は小児、巻十二は養生、巻十三は辟穀、巻十四は退居、巻十五は補益、巻十六・十
七は中風、巻十八~二十は雑病、巻二十一は万病、巻二十二は飛楝、巻二十三・二十四は瘡癰、巻二十五は色脈、巻二十六~二十八は針灸、巻二十九・三十は禁
経となっている。
3.孫思邈について[7]
孫思邈(601?~682?)
生没年については異説があって確定しない。中国、唐代の名医。京兆・華原(陝西省耀県)の人。薬上真人と尊称され、医神として道教の廟にまつられている。
老荘百家の学に通じ、仏典に詳しく神仙家としても著名であるが、唐の名医としてのほうが有名である。隋の文帝の時、国子博士に召されたが拝受せず。唐の太
宗の顕慶中、諌議大夫に召せられたが固辞して受けず、名山に隠れて著述に専念した。著書に『千金方』『千金翼方』各30巻、『福録論』『摂生真籙』等がある。
4.時代背景[8][9]
漢帝国の滅亡により、中国は、魏・蜀・呉に三分された。魏は華北全域を支配し、さらに蜀をあわせた。265年、司馬炎(武帝)は、魏にかわって晋(西晋)を建てた。280年に呉を滅ぼして中国を統一したが、内紛と内乱によって晋の権威が衰えると、五胡[10]が本格的に華北に移住し、この混乱の中で晋は滅亡した(316)。
こうして華北は、五胡を中心とする諸政権が興亡をくりかえす五胡十六国の時代に入った。また江南の豪族をたよって長江をこえた貴族たちは、王朝を復興した
(東晋)。やがて東晋に代わって宋・斉・梁・陳の南朝の4朝が交代した。東晋および南朝の諸朝は、いずれも豪族の支持によって国を保ち、有力な豪族は政権
と結んで門閥貴族となり、ここに南朝の貴族制が成立した。江北では、鮮卑族の拓跋氏が北魏をたて、439年
華北を統一して南方の宋に対抗し、ここに南北朝対立の体制が整った(魏晋南北朝時代)。中国史において、五胡十六国・北朝の時期は、ユーラシア大陸全域を
被う種族・部族移動の時代に相当し、牧畜・遊牧民とその末裔が、華北の諸都市に押し寄せ、政権の支配者として君臨した時代でもあり、古典期の中国にない外
来文化が押し寄せた時代である。南朝を中心とする六朝文化では、貴族の間で、不老長寿を求める老荘思想[11]が歓迎された。後漢時代に伝来した仏教は、南北朝時代の社会不安の中で、中国に根をおろした。この華やかで優美な六朝文化は、貴族の豊かな生活から展開されたものであった。耽
美な傾向におちいったのは、ひとつは九品中正法という官吏登用法のためである。これは魏に始まった制度で、朝廷から任命された役人が面接試験を行い、優れ
た者を登用するという仕組みになっていた。これには名門貴族ばかりが合格するという弊害があった。また、短時間の面接でその人となりを判断する事は難し
く、容姿で優劣を決めることが多かったため、容姿に気を遣うようになった。北朝では支配者である侵入の異民族が、文化的には漢民族に同化されて中国文化の伝統を維持し、その質実剛健な気風が、文化の熟しきって退廃した漢民族に清新の気を与えて更正させた。
その後、分裂は次第に統一へ向かい、ついに隋によって南北し、大統一国家が再建された。隋は中央集権の確立を急ぎすぎ、わずか30年
で滅びたが、隋に代わった唐は隋制を受け継いで制度・武力を整え、秦・漢大統一国家の再建を完成した。隋唐国家は、北朝を源流とする、胡族的色彩(要素)
の強い政権であった。唐代にはなお貴族・豪族の力が強く、したがって文化の特色は貴族趣味と外形の美とにある。唐代にはまた南北に分かれていた文化が融合
したばかりでなく、対外発展と東西交通の発達とによって多くの外国文化が輸入され、文化が著しく国際的性格を帯びるようになったので、その文化が周囲の諸
民族に受け入れられ、この唐文化の波及によって東亜文化圏が形成された。隋唐時代は、漢人を含む多数の種族や部族の各文化が衝突・融合・共存し、西アジ
ア・インド・西域オアシス都市の都市文化や、モンゴル高原の遊牧民の文化の流入・浸透した「多文化社会」時代である。
第二章
香りに関する処方を用途別に、①口臭を消し、口を香らせる方法、②腋臭を治す方法、③身体を香らせる方法、④衣服を香らせる方法、の4つに分けた[12]13]。
①口臭を消し、口を香らせる方法
五香丸の口臭及び体臭を消し、煩を止め、気を散らし香らせる方法。
豆蔲 丁香 藿香 零陵香 青木香 白芷 桂心各一両 香附子二両 甘松香 当帰各半両 檳榔二枚
右の十一種類を粉末にし、ハチミツで練り丸薬にする。大豆くらいの大きさの丸薬を含み、昼三回、夜一回ずつ汁を飲む。五日で口が香り、十日で身体が香る。
十四日すると着ている衣服が香る。二十一日たつと風下にいる人に香りがわかり、二十八日すると手を洗った水が地に落ちて香り、三十五日たつと、他の人の手
をとれば、その人の手まで香る。五辛を慎めば気を下げ、臭いを消す。
口臭いを消し、香丸を常に服用する方法
丁香半両 甘草三両 細辛 桂心各一両半 芎一両
右の五種類を粉末にし、ハチミツで練り、寝る時にはじき玉くらいの大きさの二丸を服用すること。
別法
毎月の一日、日の出前に東の壁から七歩進み、振り返って壁の方を向いて立つ。水を含んで壁に向かって七回吹き出すと、口は良い香りになる。
別法
桂心 甘草 細辛 橘皮
右の四種類を同量ずつ篩にかけて、酒で一銭匙服用し、治ればやめる。
別法
芎藭 白芷 橘皮 桂心各四両 棗肉八両
右の五種類を粉末にし、次にナツメの果肉を入れて乾し、ハチミツを加えて練り、大豆くらいの大きさの丸薬にして十丸服用すること。食前食後いつもこれをしゃぶったり、飲んだりしていれば七日でよく香るようになる。
口中の臭いを治す方法
桂心古今録では細辛を用いる 甘草各等分
右の二種類を粉末にして、寝る時に、三つまみを酒で服用すること。二十日で香る。
別法
細辛、豆蔲の二種をしゃぶればたいへん良い。
別法
蜀椒 桂心各等分
右の二種類を粉末にし、三つまみを酒で服用すること。
口の香りを治し、臭いを消す方法
甘草三十銖 芎藭二十四銖 白芷十八銖
右の三種類をすりつぶして篩にかけ、方寸匙一杯分を酒で服用すること。一日に三回服用すれば、三十日たつと、口が香る。
別法
松根白皮 瓜子人 大棗
右の三種類をすりつぶして篩にかけ、方寸匙一杯分を酒で一日に二回服用すること。百日すれば、着ている服が香る。
別法
瓜子人 芎藭 藁本 当帰 杜蘅各六銖 細辛半両 防風二両
右の七種類をすりつぶして篩にかけ、食後に方寸匙一杯分を一日に三回服用すること。五日たつと口が香り、十日すると身体が香る。二十日たつと身体の内部が香り、三十日すると、着ている服が香る。五十日すると遠くまで芳香が漂う。一方の処方では白芷十八銖を加える。
別法
橘皮二十銖 桂心十八銖 木蘭皮一両 大棗二十枚
右の四種類をすりつぶして篩にかけ方寸匙一杯分を酒で一日に三回服用すること。長く服用すれば、身体が香るようになる。また、ナツメの果肉を丸薬としても
よい。アオギリの種くらい大きさの丸薬を二十丸から始めて、徐々に三十丸まで増やす。ある記載では芎藭十八銖が加わっている。
別法
濃く煮た細辛の汁を長く口に含み、吐き出す。
別法
その日最初に汲んだ井戸水三升で口を漱ぎ、厠の中に吐けば良い。
別法
香薷一掴みを、水一升で煮て、三升にして、少しずつ口に含む。
別法
甜瓜子を粉末にし、ハチミツと混ぜ合わせ、毎日空腹の時口を漱ぎ、ナツメの実くらいの大きさの一丸を含む、また歯につける。
別法
大豆を炒って焦がして、熱いうちに酢を注いでその汁を含む。②腋臭を治す方法
胡臭を治す方法
辛夷 芎藭 細辛 杜蘅 藁本各二分
右の五種類を細かく砕き、いい酢に一晩漬けて、煎った汁をとり、これをつける。つける時は就寝直前で、治ればそれでいい。
石灰散で胡臭を治す方法
石灰一升 青木香 楓香一作では沈香 薫陸香 丁香各二両 橘皮 陽起石各三両 礬石四両
右の八種類をすりつぶして篩にかけ、綿で指の長さ四寸のハンコを作り、薬を取ってハンコにつけ、絹の袋に入れ脇につける。まず布で痛くなるまでこすりその後脇に挟む。
別法
青木香 附子 白灰各一両 礬石半両
右の四種類を粉末にし、いつもこれをつける。『肘後方』では礬石はない。
別法
銅屑を酢と混ぜ合わせ銅器で炒めて極めて熱くし、布に包んで、腋の下を熨す。冷めたらまた取り替える。
別法
コノテガシワの葉を三升切り、水五升で煮て一升にし、それで腋の下を洗う。次に白苦瓠を焼いた煙で度々いぶす。
別法
辛夷 細辛 芎藭 青木香各四分
右の四種類を砕いて篩にかけ、その煙でいぶし、さらにその粉をつける。
別法
ウマヒユ一束を搗きつぶし、ハチミツと混ぜて団子にし、絹の袋に入れ、紙粘土で厚さ半寸にしてくるみ、日干しし、火にあてて加熱する。その紙粘土を破り去り、中身にハチミツ少しを入れ混ぜ、冷めないようにしておく。それを塗りつけた布を腋の下に挟む。それが熱くても耐える。耐えられなくなってから、手で両肩をおさえる。
別法
牛脂 胡粉各等分
右の二種類が団子になるまで加熱し、腋の下に一晩塗ると治る。三回以上してはいけない。『肘後方』には、これに山椒を混ぜて塗る、とある。
別法
かまどの土を泥状に練って、つけること。
別法
三年寝かせた酢を石灰と混ぜ合わせつけること。
腋の下が自然に濡れたり、足や胸部、手や掌、陰部の下や股の内側がいつも汗が出ているようにじっとりしており、臭気を発するものを治す六物をつける方法
乾枸杞根 乾薔薇根『肘後方』では、畜根を使う、とある。 甘草各半両 商陸根 胡粉 滑石各一両
右の薬物を砕いて篩にかけ、少々の酢で混ぜ合わせ、その小量の汁を腋の下や汗の出やすい部分に塗る。三回もつけかえないうちに治る。また一年して再発することもあるが、再発したらこれを塗ること。
別法
水銀 胡粉『外台秘要方』では、粉霜を使うとある。
右の二種類をおしろいに混ぜ塗ると、たいそう良い効き目がある。
別法
銀屑一升ある記載では銅屑を使う 石灰三升
右の二種類を合わせ、絹の袋に入れ、汗が出たらこれをつけると良い。
別法
元日に尿で脇の下を洗うとたいへん良い。
別法
黄色のミョウバンを焼いて汁をなくし、砕いて粉末にし、絹の袋に入れて、これをつけると治る。
諸の体臭を消す方法
竹葉十両 桃白皮四両
右の二種類を一石二斗で煮てできた五斗を身体に浴びれば香るようになる。
別法
青木香二両 附子 石灰各一両 礬石半両焼 米粉一升
右の五種類を搗いて篩にかけ粉末にし、いつものように腋につければ良い。
別法
石灰五合 馬歯草二両 礬石三兩焼 甘松香一両
右の四種類を合わせて搗き、篩にかけ、まず生布で悪い部分をこすり、黄色の汁を出し、拭って乾かしたら粉末をここにつける。満三日で治り、永遠に除く。
別法
二月の立春の日に、社家から盗った蒸したきびだんご一つで腋の下を激しく二十一回擦り、それを道のあちこちに投げつける。人に知られなければ永遠に治るが、知られると効果はない。
③身体を香らせる方法
七つの穴の臭いを消し、皆を香らせる方法
沈香五両 藁本三両 白瓜弁半升 丁香五合 甘草 当帰 芎藭 麝香各二両
右の八種類を粉末にしてハチミツで練り丸薬とし、食後に小豆大の丸薬を一日に三回服用すること。長く服用していれば、身体をはじめ、皆香る。
体臭を消し、よい香りにする方法
白芷 甘子皮各一両半 瓜子人二両 藁本 当帰 細辛 桂心各一両
右の七種類をすりつぶし篩にかけ、方寸匙一杯分を酒で一日に三回服用すること。五日たつと、口が香り、二十一日すると、身体が香る。
別法
甘草 松根皮 甜瓜子 大棗
右の四種類をそれぞれ同量ずつすりつぶして篩にかけ、食後に方寸匙一杯分を一日に三回服用すること。七日たつと香るのがわかり、百日するとすごく香るようになる。
五香円および五香湯。一切のはれものを治し、のぼせを下げ、毒を散らし、心痛を治す方法
丁香 藿香 零陵香 青木香 甘松香各三両 桂心 白芷 当帰 香附子 檳榔各一両 麝香一銖
右の十一種類を搗き、篩にかけ粉末にし、煮つめたハチミツと練り合わせ千回杵で搗く。アオギリの種の大きさに丸め、口に入れて唾液で溶かしつくす。昼に三回、夜に一回、一日で十二丸を用いれば香りが出る。五日たつと身体が香り、十日たてば着ている衣服が香る。五辛のものを食べてはいけない。この湯の調整法は、檳榔を除き、その他みな同じ分量を用いる。とろ火で水から加熱して沸騰したら火からおろす。そこに麝香の粉末を一銖入れ、放置し、その上澄み一銖を服用する。ねぶと、口やのど、足の裏、背中などのできもの、痔ろうはみなこれを使用する。この湯で治らないときは、丸の方を口に含み、頻繁に湯で患部を洗う。ある方では豆蔲があり、麝香がない。
十香円。人の身体のあらゆるところを香らせる方法
沈香 麝香 白檀香 青木香 零陵香 白芷 甘松香 藿香 細辛 芎藭 檳榔 豆蔲各一両 香附子半両 丁香三分
右の十四種類を搗いて篩にかけ粉末にし、ハチミツを練り合わせ、梧の種くらいの大きさにして綿の中に入れ、昼と夕方にしゃぶり、唾液を飲み、味がなくなったらやめる。五辛はいけない。
身体を香らせる方法
甘草五分炙 芎藭一両 白芷三分
右の三種類を搗いて篩にかけて粉末にし、方寸匙一杯を一日に三回服用すること。三十日たつと口が香り、四十日すると身体が香る。
別法
瓜子 松根白皮 大棗各一両
右の三種類を粉末にし、酒で方寸匙一杯を一日に二回服用すること。百日たつと着ている衣服が皆香るようになる。
別法
瓜子 芎藭 藁本 当帰 杜蘅 細辛 防風各一分
右
の七種類を搗いて篩にかけ粉末にし、食後に方寸匙一杯を一日に三回服用すること。五日たつと口が香り、十日で身体が香る。二十日すると肉が香り、三十日た
つと、骨まで香る。五十日すると遠くまで芳香が漂い、六十日すると衣服を通して香るようになる。一つの処方には白芷が入っている。
④衣服を香らせる方法
いぶして衣服を香らせる方法
雞骨煎香 零陵香 丁香 青桂皮 青木香 楓香 鬱金香各三両 薫陸香 甲香 蘇合香 甘松香各二両 沈水香五両 雀頭香 藿香 白檀香 安息香 艾納香各一両 麝香半両
右の十八種類を粉末にし、二升半のハチミツで煮ておく。大きなナツメ四十個を蒸してやわらかくし、粥のようにやわらかくなるまで揉みつぶす。布でこのかす
を絞り取り、そこに上記の香料を混ぜて、むぎこがしの程度まで湿らせ、杵で五百回搗き、丸めたものを七日間密封してから使う。香料は湯せんで煮て、火気を
消さねばならない。そうでないと焦げ臭くなる。
別法
沈香 煎香各五両 雀頭香 藿香 丁子香各一両
右の五種類をすりつぶして篩にかけ、麝香半両を粗い網で振るう。衣服をいぶす時にハチミツと練り合わせて使うこと。
別法
兜楼婆香 薫陸香 沈香 檀香 煎香 甘松香 零陵香 藿香各一両 丁香十八銖 苜蓿香二両 棗肉八両
右の十一種類を粗下し棗肉と合わせて、まとめて搗く。量を加えてハチミツと練り合わせ使うこと。
湿香方
沈香二斤七両九銖 甘松 檀香 雀頭香一作藿香 甲香 丁香 零陵香 雞骨煎香各三両九銖 麝香二両九銖 薫陸香三両六銖
右の十種類を粉末にし、使うときにハチミツと混ぜ合わせる。蓄えおいたものは使ってはいけない。
別法
沈香三両 零陵香 煎香 麝香各一両半 甲香三銖 薫陸香 甘松香各六銖 檀香三銖 藿香 丁子香各半両
右の十種類を粗く篩にかけ、ハチミツで練り、衣服をいぶす時に使う。かめに入れ、これを土に長く埋めておいたものが良い。
百和香、道家と俗世間に通じるものに用いる方法
沈水香五両 甲香 丁子香 雞骨香 兜楼婆香各二両 薫陸香 白檀香 熟捷香 炭末各二両 零陵香 藿香 青桂皮 白漸香柴也 青木香 甘松香各一両 雀頭香 蘇合香 安息香 麝香 鷰香各半両
右の二十種類を粉末にし、酒を振りまいてやわらかくする。再び蓄えて酒気を抜き、ハチミツと混ぜる。磁器のつぼに入れて、パラフィン紙で密封して香気がもれ出ないようにする。冬季に取り出して使うのが良い。
身にまとっている衣服を香らせる方法
零陵香 藿香各四両 甘松香 茅香各三両 丁子香一両 苜宿香二両
右の六種類をそれぞれ搗き、沢蘭の葉を四両加えて粗く漉す。これを使えば極めてよい。
別法
零陵香二両 藿香 甘松香 苜宿香 白檀香 沈水香 煎香各一両
右の七種類を合わせて搗き、麝香半両を加えて粗く篩にかけ、前方のように用いること。
別法
藿香四両 丁香七枚 甘松香 麝香 沈香 煎香
右の六種類を粗く篩にかけ、合わせて乾香にして衣服を香らせるととてもよい。
衣服をいぶして香らせる方法
薫陸香八両 藿香 覧探各三両一方ではない 甲香二両 詹糖五両 青桂皮五両
右の六種類を粉末にするが、そのうち乾いた香料から硬いものと粘って砕きにくいものを取り出し、別々に搗く。あるいは、細かく黍や粟粒程度に切り刻む。そ
れらを盤上に薄く振りまく。これら以外はまた別に搗き、その上に振りまく。篩にかけなければならないものは、細かい目のものを使い、粗い目は使ってはいけ
ない。そこで煮つめたハチミツを盤上につけ、手で均一にもみ、それをさらに搗く。この時、湿度は適切でなければならず、乾きすぎていると丸くなりにくく、
湿りすぎると燃えにくい。湿っていると香りが出てこないし、乾いていると煙が多すぎ、ただ焦げ臭いだけでよい香りはしない。これゆえ、香りには粗いか細か
いか、乾いているか湿っているかの適度が必要である。また、ハチミツと香料のつりあいが必要である。いぶす時の火力もとろ火にして、香りと緑煙が同時によ
く出るようにしなくてはならない。
衣服を潤し香らせる方法
沈香 苜蓿香各五両 丁香 甘松香 藿香 青木香 艾納香 鶏舌香 雀脳香各一両 麝香半両 白檀香三両 零陵香十両
右の十二種類を別々に搗いて、黍、粟の糠くらいの細かい粉末にする。そこでよく混ぜ、綿でくるんで、たんすに入れる。紙でくるんではいけない。秋冬にはやや香り、暑熱時は香りがつくのが速い。これらの香料は新しいばかりでなく、適切な時期に採取したものがよい。少量つくる場合もこれに準じるのがよい。
乾香法
丁香一両 麝香 白檀 沈香各半両 零陵香五両 甘松香七両 藿香八両
右の七種類、まず丁香を搗いて砕き、次に甘松香を搗き、合わせて搗き終わったら、麝香を混ぜ合わせ、衣服を潤す。
香粉方
白附子 茯苓 白朮 白芷 白歛 白檀各一両 沈香 青木香 鶏舌香 零陵香 丁香 藿香各二両 麝香一分 粉英六升
右の十四種類をそれぞれ細かくなるまで搗き、絹目の篩にかけ、青黒い色のものを取り除く。そこで粗く搗いて粉袋に入れ、合子に置き、上から粉を振りまき、
七日間密閉して取り出す。その粉は香りが強く、色も白い。この香粉を求める人は、色の白黒を問わず、粉末であればよいと思うが、香りがよくても、色が至っ
て黒いものがある。この白と黒は必ず別々に用いなければならず、混ぜてはいけない。なお、粉袋は年を経た絹布で二重に重ねてつくる。
以上を表にまとめると以下のようになる。
| ① | ② | ③ | ④ | 合計 | | ① | ② | ③ | ④ | 合計 |
丁香 | 2 | 1 | 3 | 11 | 17 | 附子 | | 2 | | | 2 |
藿香 | 1 | | 2 | 12 | 15 | 防風 | 1 | | 1 | | 2 |
甘松香 | 1 | 1 | 2 | 10 | 14 | 楓香 | | 1 | | 1 | 2 |
沈香 | | | 2 | 11 | 13 | 甜瓜子 | 1 | | 1 | | 2 |
零陵香 | 1 | | 2 | 10 | 13 | 馬歯草 | | 2 | | | 2 |
麝香 | | | 3 | 9 | 12 | 辛夷 | | 2 | | | 2 |
白檀香 | | | 1 | 9 | 10 | 白瓜弁 | | | 1 | | 1 |
青木香 | 1 | 4 | 2 | 3 | 10 | 乾薔薇根 | | 1 | | | 1 |
芎藭 | 4 | 2 | 4 | | 10 | 商陸 | | 1 | | | 1 |
細辛 | 5 | 2 | 3 | | 10 | 竹葉 | | 1 | | | 1 |
桂心 | 7 | | 2 | | 9 | 桃白皮 | | 1 | | | 1 |
白芷 | 3 | | 4 | 1 | 8 | 槲葉 | | 1 | | | 1 |
甘草 | 4 | 1 | 3 | | 8 | 乾拘杞根 | | 1 | | | 1 |
香附子 | 1 | | 2 | 5 | 8 | 蜀椒 | 1 | | | | 1 |
薫陸香 | | 1 | | 6 | 7 | 香需 | 1 | | | | 1 |
当帰 | 2 | | 4 | | 6 | 木蘭皮 | 1 | | | | 1 |
大棗 | 3 | | 2 | 1 | 6 | 大豆 | 1 | | | | 1 |
藁本 | 1 | 1 | 3 | | 5 | 蘭探 | | | | 1 | 1 |
瓜子 | 2 | | 3 | | 5 | 詹糖香 | | | | 1 | 1 |
甲香 | | | | 5 | 5 | 雀脳 | | | | 1 | 1 |
礬石 | | 5 | | | 5 | 茯苓 | | | | 1 | 1 |
石灰 | | 5 | | | 5 | 白朮 | | | | 1 | 1 |
煎香 | | | | 5 | 5 | 白歛 | | | | 1 | 1 |
橘皮 | 3 | 1 | 1 | | 5 | 粉英 | | | | 1 | 1 |
苜蓿香 | | | | 4 | 4 | 鬱金香 | | | | 1 | 1 |
杜蘅 | 1 | 1 | 1 | | 3 | 白漸香 | | | | 1 | 1 |
松根白皮 | 1 | | 2 | | 3 | 鷰香 | | | | 1 | 1 |
檳榔 | 1 | | 2 | | 3 | 茅香 | | | | 1 | 1 |
豆蔲 | 2 | | 1 | | 3 | 陽起石 | | 1 | | | 1 |
胡粉 | | 3 | | | 3 | 滑石 | | 1 | | | 1 |
青桂皮 | | | | 3 | 3 | 水銀 | | 1 | | | 1 |
鶏骨煎香 | | | | 3 | 3 | 銀屑 | | 1 | | | 1 |
安息香 | | | | 2 | 2 | 赤銅屑 | | 1 | | | 1 |
蘇合香 | | | | 2 | 2 | 牛脂 | | 1 | | | 1 |
兜楼婆香 | | | | 1 | 1 | 白灰 | | 1 | | | 1 |
鶏舌香 | | | | 1 | 1 | 米粉 | | 1 | | | 1 |
艾納香 | | | | 1 | 1 | 伏龍肝 | | 1 | | | 1 |
第三章 前
章から、香りに関して、植物・動物・鉱物が色々な形で使われていることがわかる。これらは、古くから薬(生薬)として使われている。この生薬や、その材料
となる自然物の形態や生態、製薬方・処方・薬効などについての学問のことを本草といい、本草の書で最も古く、かつ後世に大きな影響を及ぼしたのは、伝説上
の薬祖神・神農に仮託された『神農本草経』である。これには365種の動植物や鉱物が取り上げられ、人体に及ぼす影響によって、上薬(不老長生の薬)・中薬(病気を予防し、虚弱な体質を強化する作用)・下薬(病気を治すことを主とする)の3段階に分類されている[14]。そのなかでも、植物や動物など芳香のあるものは、香料と呼ばれる。1.香料について[15][16]
古代常用香料は、大多数が樹脂で、その原産地は、大多数が今の東南アジア、インド、アラビアなどの地域である。現今、中国の南方の雲南省、広東省、海南省などでも産出している。
『詩経』『爾雅』『楚辞』などの書には、香料の記載が少なくない。屈原の『离騒』の中では、蘭・芷(白芷)・椒・桂・江离(川芎)・杜衡(馬蹄香)など香草について言及されているように、秦漢以前、中国で用いていた香料は芳香草類であった。
中
国では、春秋時代に使用された香料は粗末なものが多かったが、こういう状態は秦漢時代、特に漢代に変化した。秦漢は統一国家の建立、および南方の各民族の
交際が次第に増え、南海のいくつかの物産も輸入され始めた。張騫は西域を通り、有名なシルクロードを貫通させ、中国でシルクなどの貨物を同時に西方に流
し、中アジアと西方の物産が続々と中国に伝わった。後漢末年、インド仏教が中国に伝来し始め、仏教の伝来に付随して、大量の香料も中国に伝わった。 漢・
魏以来、使用される香料の品種が次第に増え、書籍に記載されていた香料は、沈香・鶏舌香(丁香)・檀香・乳香(薫陸香)・木香・安息香・蘇合香・零陵香・
甘松香・藿香・苜蓿香・香附(雀頭香)・草豆蔲など多数である。その中の多くは西域や南海から輸入され、またあるものは中国で産したものである。
次に、それぞれの特徴、全体の特徴を細かく見ていくことで、当時の香りにどんな特徴があったか、また、香りをどんなものとして捉えられていたかを探っていく。2.それぞれの特徴
①口臭を消す方法
現在、口臭を消すときは、ガムを噛んだり、薬で口をゆすいだり、飲んだりする。これと全くといっていいほど同じことが、すでに古代の中国でなされていたことがわかる。
古人の口臭消しに関しては、応劭の『漢官儀』に「桓帝侍中乃存年老口臭上出鶏舌香与含之」[17]とある。漢代、宦官が皇帝に奏上するときには、口から芳香を出すようにしていた。このとき使われていたのが鶏舌香、現在の丁香である。1)丁香[18]
フ
トモモ科の常緑高木。インドネシアの東の奥地にあるモルッカ諸島が原産地。乾燥した花蕾は釘状になっているから、丁子(丁香)という名を与えられた。中国
に伝来したのは、後漢のころのようである。中国では丁子という名称より早く、鶏舌香という名で知られている。それは開花したもの、あるいは結実したのを乾
燥したもので、これを二つに割ると鶏の舌の形に似ていることから名づけられた。古人は毒を飲んだと勘違いしたというほど、丁子には舌を刺すような辛さがあ
る。この辛さが口臭消しに最適だったのだろう。丁子の主成分は、オイゲノ―ルというもので、焦げつくような熱性の辛さで、甘いのと辛いの、どちらの飲食品
にも調和する。オイゲノ―ルは、香料の中で最も防腐力と殺菌力が強いとされている。古人が、はるか昔から丁子の効用に気付き、今でいうガムのようなものを
すでに使用していたことは驚きである。 その他、口臭消しで特に多く使われているものが、桂心と細辛である。
2)桂心
桂心は、肉桂の皮。肉桂とは、中国南部、インドシナ半島産の東京肉桂のこと[19]。医方書での薬名は桂が古く、六朝頃に桂肉が一部で用いられたが、六朝~隋唐代は桂心が一般的である[20]。肉桂と言えばシナモンとカッシア。そしてシナモンはセイロン(セイロン肉桂)、カッシア(シナ肉桂)は南シナからベトナムにかけての産と決まっている。それからスパイス(香辛料)としてはシナモン、薬用としてはカッシアに大別されている[21]。古く黄河の流域に生活していた漢民族は、江南の異民族に接して、その地方に生息する肉桂種のあるものを桂と称し、薬物と香辛料に用いた。それから大体漢代に入り南シナ本来の肉桂を知るにおよんで、それを百薬の長とみなすようになった[22]。3)細辛
オクゾエサイシン、ケイリンサイシン、ウスバサイシンなどの根茎を乾燥したものを細辛とよび、芳香と辛味を有する。漢方で、鎮咳、去痰、発汗、利尿、胸痛、感冒などに用いられる[23]。のど飴を思い浮かばせる、ミントやメントールに似た香り。『諸病源候論』では、口臭の原因は次のように書かれている。
口臭は五臓六腑の調子が悪いために、気が胸郭に上り、腐った生臭い内臓の気が胸郭の間に集まりたまって熱をおび、衝きあげるので、口を開くと口臭がするようになるのである。[24]
桂心は、「桂味甘辛大熱有小毒主温中利肝肺気心腹寒熱冷疾霍乱轉筋頭痛腰痛出汗止煩止唾欬嗽鼻齆能堕胎堅骨節通血脉理踈不足宣導百薬無所畏久服神仙不老生桂陽二月八月採皮陰乾」[25]とあるように、服用することで、血の巡りをよくする効果がある。
細辛も、「細辛味辛温無毒主欬逆頭痛脳動百節拘攣風湿痺痛死肌温中下気破痰利水道開胸中除喉痺齆鼻風癇癲疾下乳結汗不出血不行安五臓益肝胆通精気久服明目利九竅軽身長年一名小辛生華陰山谷二月八月採根陰乾」[26]とあるように、五臓の調子をよくする効果がある。これらは口臭の原因である五臓六腑の不調を治すもので、多用されていたのも納得である。
また、桂心はシナモン、細辛はミントやメントールのような香りは、つんとするため、口臭消しには適していたのだろう。さらに、これらを使って口を香らせることにより、相手に爽やかな印象を与えただろう。
②腋臭を治す方法
『諸病源候論』「狐臭とは、人の腋の下の臭いが、葱や豉のようなものであるとか、また狐や狸のようなものともいわれている。このためにこれを狐臭という。これらはみな、血気が調和せず、たまっているのが原因である」[27]
中国では本来の腋臭は胡臭といった。臭さがよく似ていることから、この胡を狐と、あて字をし、狐臭ともいう。中国の「胡」とはなにか。中国本土から見て、
西北の辺境、とくに漠然と西北地方一帯を指して古くから「胡」といっていた。ところが唐の時代になると、とくにイラン(ペルシア)系のものを指した。イラ
ン系は腋臭の強い民族であった[28]。このように、胡族が中国に侵入することで、人々は腋臭の臭いを徐々に気にするようになり、そのための処置も考えられるようになったのだろう。こ
の処方は、粉末にしたものを、直接患部につけたり、袋に入れたものを腋に挟んだりする外用である。昔は、毎日風呂に入って身体を洗う習慣はなかったから、
腋臭のにおいは、かなり強烈で、人々を悩ませていただろう。このにおいを消すにはかなり強力な消臭作用のあるものが必要であっただろう。そこで多く使われ
たのが鉱物で、主に使われたのが、礬石と石灰である。
1)礬石
ミョウバンのこと。カリウムとアルミニウムの硫酸塩鉱物[29]。ミョ
ウバンには3つの作用がある。第一に、ミョウバンは水に溶けると酸性になり、ニオイの原因である雑菌の繁殖を抑制する。制菌作用にとどまらず、より積極的
な殺菌作用もあるようだ。第二に、収斂作用、つまり制汗作用がある。第三は、皮膚上で作られたニオイそのものを消臭する作用。ミョウバンにはさまざまな金
属が含まれているから酸化還元反応による金属消臭が行われたり、ニオイの成分の中和による消臭も行われる。古代ローマ人は、制汗剤として日常的にミョウバ
ンを使っていたという。世界最古のデオドラント剤でもある[30]。
2)石灰
生石灰(酸化カルシウム)。またはこれを水和して得る消石灰(水酸化カルシウム)[31]。生石灰は、水分と反応して100℃近くまで発熱し、菌を死滅させる。また、消石灰は二酸化炭素や他の酸性物質と簡単に中和し、殺菌と悪臭の防止になる。このように、石灰にもミョウバン同様、殺菌作用や消臭作用がある[32]。
年
を経れば腐朽してしまう草根木皮に比べて、変化しない鉱物は、強力な腋臭というニオイに対して一番効き目があると考えられたのだろう。早くからこれらの作
用に気付き、現在でいう制汗スプレーなるものがすでに使用されていたのには驚く。鉱物は主に臭いを抑える薬として使われている。
香料の面では、青木香が多く使われている。3)青木香
ウマノスズクサの根。虫毒や蛇毒の解毒剤に使われる。古くはインド産に基づくところの木香と同一視され、あるいは同科のオオグルマから得られた土木香と近縁な芳香性の生薬に数えられた[33]。「木香味辛温無毒主邪気辟毒疫温鬼強志主淋露療気劣肌中偏寒主気不足消毒殺鬼精物温瘧蠱毒行薬之精久服不夢寤魘寐軽致神仙一名蜜香生永昌山谷」[34]とあるように腋臭の原因である血気の不調和を治す働きがある。また、木香の香りは、根からとった精油が芳香成分で、スミレに似た香り。腋臭のニオイをいい香りにするのには適した香料である。
その他、桃白皮、竹葉、乾薔薇根など、現在でもいい香りとして私たちになじみのある香料が使われている。これらは、嗅ぐだけで落ち着けるものが多い。それだけ、腋臭というものが人に与える不快感は相当なものだったのだろう。
③身体を香らせる方法
この処方はすべて内服であることが興味深い。「体身香」とよばれ、高貴な女性の間で流行っていた[35]と言う。現在、身体を香らせようとする時は、香水をつけたり、薬をつけたりするが、なぜ香料を飲むことで、香りを出そうとしていたのだろうか。
まずは、主に使用されている香料、当帰・芎藭・白芷について見ていく。1)当帰
中国大陸産のセリ科の多年草、トウキの根。たいへん芳香が強い。中国中・西部に分布し、根は古来有名な婦人病の妙薬とされた[36]。『神農本草経』の中品に収載され、「当帰味甘辛温大温無毒主欬逆上気温瘧寒熱洗洗在皮膚中婦人漏下絶子諸悪瘡瘍金瘡煮飲之温中止痛除客血内寒中風{疒+至}汗不出湿痺中悪客気虚冷補五臓生肌肉一名乾帰」[37]と記された。ここにあるように、婦人の漏下やはれものや切り傷を治すだけではなく、服用することによって五臓を補い、さらに肌をきれいにする効果もある。2)白芷
ヨロイグサ(セリ科)の根を乾燥させて用いる。頭痛、めまい、歯痛、帯下皮膚病などの消炎鎮静剤として用いる[38]。白芷は、当帰と同じAngelica属植物の根に由来し、匂いも非常によく似ており、強い芳香がある。
『神農本草経』の中品に収載され、「白芷味辛温無毒主女人漏下赤白血閉陰腫寒熱風頭侵目涙出長肌膚潤沢可作面脂療風邪久渇吐嘔両脅満風痛頭眩目痒可作膏薬面脂顔色一名芳香…生河東川谷下沢二月八月採根暴乾」[39]と記された。女性の赤や白の漏下、血閉、陰腫、寒熱や風熱が目を浸して涙が出るなどの症状を主治し、肌膚を長じて潤沢にし、面脂をつくる。当帰と同様、服用することで肌をきれいにする効果があることがわかる。3)芎藭
センキュウ(川芎)のこと。セリ科で、中国原産の多年草。基源植物についてはなお不明な点がある。強壮・鎮痛作用があり、他の生薬と配合して、婦人病、脳溢血、脳血栓による半身不随、高血圧や感冒などの頭痛、神経痛や関節リウマチに用いられる[40]。
『神農本草経』の上品に収載され、「芎藭味辛温無毒主中風入脳頭痛寒痺筋攣緩急金瘡婦人血閉無子除脳中冷動面上遊風去来目涙出多涕唾忽忽如酔諸寒冷気心腹堅痛中悪急腫痛脅風痛湿中内寒一名胡芎一名香果其葉名蘼蕪生武功川谷斜谷西嶺三月四月採根暴寒」[41]と記された。これもまた、婦人の血閉、切り傷を治す。
身体を香らせるのは、体臭を消すというのはもちろんだが、中国人は体臭がひどいわけでもないので、現在私たちが外出の際、おしゃれとして香水をつけるのと
同じような感覚だっただろう。これらの香料は服用することによって、肌が潤ったり、顔色がよくなったりもする美肌効果もあることがわかる。だからこそ、古
代の人々はいい香りを出すのに使っていたのだろう。『千金翼方』に見える処方では、使用される香料の種類が増え、また、丁香・沈香・白檀香などの高価な香
料が使われており、よりよい香りを目指していたこともわかる。
④衣服を香らせる方法
この方法は、粉末にしたものをハチミツと混ぜ、それをいぶして衣服につけたり、粉末にしたものを綿で包み、たんすに入れて衣服を香らせるもので、焚香料として使っている。 そもそも、香りが実際に活用された事実が確認されるのは、人類が火の使用を覚えた約15万年前ごろからである。
お香の始まりは、紀元前エジプトで宗教上の儀礼のために香料を焚いたことに始まるといわれている。芳香物質を燃やして出る煙と香りは、天に昇っていくことから、神様と人間を中継ぎする神聖なものとして、宗教儀式に欠かせないものになったのだろう。香料は英語でPerfumeであるが、本来ラテン語のper
fumum(煙を通して)という言葉から由来していることからも、香を焚くことから始まったのがわかる。中国には仏教の伝来とともに伝わったとされる[42]。
また、ここでは使われている香料の数と、一つの処方で調合する香料の種類が4つ
のなかで最も多く、古代の中国人が、衣服にどんな香りをつけるのかにこだわっていたことがわかる。調合した香料のなかで最も多量に使われているのが沈香
で、他には、現在もお香として知られる丁香、麝香、藿香、白檀香、薫陸香、安息香、蘇合香、甲香などが使われている。以下、これらの香料について順にまと
める。
1)沈香[43][44]
ジンチョウゲ科の常緑高木。また、それから採取した天然香料。沈香木の原樹は、インド北東部ブラフマプトラ川上流のアッサム地方、そして南部のデカン高
原、それからビルマ、ベトナム、タイ、マレー半島、スマトラ、中国南部、海南島などの密林中に、まれに発見される。沈香木の発見と使用は古代のインドに発
したようである。彼らインド人は香とは元来穢を去り、諸天を清浄にするものであるという。暑熱のために身体から臭気を発するので、香をたき、あるいは香粉
や香膏を身体に塗抹して諸天と仏を供養したのである。
東方の中国人は3世紀ころベトナムとマレー半島の沈香を知った。彼らの求めた香木は、中国南部から海南島、ベトナム、タイ、マレー半島、スマトラに限ら
れ、ビルマ北部とインド産にはおよんでいない。薬用としては喘息、嘔吐、腹痛、腰や膝の冷えなどに用い、鎮静や疲労回復の効があるとされる。
2)丁香
①に記述あり3)麝香[45][46]
ジャコウジカの雄の分泌物。動物性香料である麝香は、中国の西南奥地の山岳地方から主として出し、すくなくとも後漢時代から中国人に最高貴薬として知られ
ていた。麝香は重厚なそして鼻を突きさすような強力な匂いである。しかし匂いを長く持続させる保香力はすこぶる強い。これを一種だけ使用するのでは、余り
に刺戟が強すぎて不快な感じさえあたえることがある。千分の一、万分の一というように極めて微量で使用すると、幽艶な脂粉の香に満ちあふれる。4)藿香[47]
古くは主として南海の産であったようである。東南アジアとインドのパチュリーなどを含んでいたと山田氏は考えているが、そうではないという。極めて泥臭くパチュリーのような匂いであるが、他の香料と調合すると脂粉の香をただよわせ、保香力の強い香料である。5)白檀香[48][49]
ビャクダン属ビャクダン科の常緑の小高木。持続性のある芳香をもつ。白檀の原樹は、インドネシア東部のチモール島を中心とするスンバ島、フロレス島から南
はオーストラリアにかけて広く分布しているが、インド、デカン高原のマイソール地方を中心とする地方にも生育し、従来ともすれば白檀といえばインド南部の
原生であると考えられていた。しかし植物の分布からみれば、むしろチモールを中心とする島々のほうが主体であり、インドの白檀は古代にジャワの東部からイ
ンドへ移植されたものである。彼らインド人の旺盛な需要は、インド本土の産出だけでは不足したから、後代までチモールから輸入していたほどである。東アジ
ア、中国に入ったのもすべてチモールとスンバからの白檀であった。6)薫陸香[50][51]
乳香のこと。アラビア半島南部ドファールの乳香。この香料は対岸の東アフリカのソマリアでも産した。ボスウェリア属の植物の芳香ゴム樹脂で、たけば優雅な
香煙を出すが、甘美な香りである。古代オリエント、エジプト、ギリシア、ローマを通じて香料の代表であった。同時に古代からインドへ送られている。インド
で加工された種々の樹脂香料が西方と東アジアとくに中国へ送られた。中国人のいう薫陸香は、南アラビアと東アフリカの乳香と没薬、インドの偽乳香と偽没薬
などを総称した芳香樹脂である。唐以前、早く4・5世紀代からこの名称で知られていた。唐の陳蔵器が乳香は薫陸の一種であるとしてから、薫陸香すなわち乳
香であると目されるようになった。ところが8世紀の唐代から真正のアラビア乳香が南海から中国へ輸入された。7)安息香[52][53]
スチラックス属エゴノキ科の落葉高木。この植物の樹幹に切り傷をつけて採取する芳香性樹脂で、香料、化粧品、防腐剤、去痰剤、軟膏剤及び安息香酸、桂皮酸などの原料に用いる。食欲をそそる匂いを発する。産地はスマトラ、タイの二地を主とするが、10世紀以前の中国人の安息香は、インドの芳香樹脂であった。8)蘇合香[54][55]
マンサク科のフウ(楓)と同属の落葉高木。これから採取される粘調で、芳香のある刺激性の樹脂が蘇合香で、化粧品香料や薬用にされる。 流動蘇合香(ストラックスと通称するもの)が5世紀頃、中国に伝わったとされる。流動蘇合香は、小アジア西南端の地域に森林を形成している。9)甲香[56][57]
巻貝アカニシのふた。中国では南海産のある種の貝殻を焼いて粉末にしたもので、焚いても決して快適な匂いではない。むしろ臭い。ところが、これを各種の香
料の配剤に適量加えると、それぞれの香料の匂いを結合させほどよく調和安定させて、各種香料の複合から生まれた新しい匂いをつくり出してくれる。
調
合した香料のなかで最も多く使われているのが、沈香である。古代の中国人が沈香の香りを非常に好んでいたことがわかる。昔の人は沈香の匂いを「奥ゆかしく
上品で、どこにもわだかまりがなく、あっさりしている。そしてきわめて自然でありながら、すじ道にかなって、他の匂いとはくらべものにならないほどの気品
がある。だから、この匂いの妙味はなんとも形容できない」という[58]。自然がつくり出した、なんとも形容しがたい沈香の香りは、中国人の穏やかな性格とよく合っており、中国人の香の主体が沈香になったのもわかる。
3)
~9)は、保香力、調和・安定力のあるもので、これらを加えることによって香りに厚みをもたせようとしていたのだろう。これらの多くは西域や南海から伝来
してきたものであり、当時高価なものとして使われていただろうから、それをいぶして衣服に焚き染めていたとなると、かなりの贅沢をしていたことがわかる。
焚香は前述したように、はじめは宗教儀式に用いられていた。その後、だんだん香料の流通量が増すにつれ、宮廷の女性たちは香りを衣服に焚きしめ、その香り
を愉しむものとして香料を用いている。 また、香りは欲情と常に関わりあい、人の心を奪うための武器ともなりうる[59]という。彼女たちはこの香りを使って、男性たちを魅了していたのだろう。
主に、沈香の香りは精神を落ち着かせ、麝香の香りは恋の駆け引きなどに使う媚薬としての効果が大きかったので、多量の使われていたのだろう。
3.その他の特徴
それぞれの香料を粉末にした後、ハチミツ、酒、酢の3つがよく使われている。特に、内服する場合は、ハチミツと酒、外用する場合は酢が多い。
1)ハチミツ[60]
ハチミツは人類誕生以前から存在したといわれる人類最古の甘味料である。古代中国でも貴重な甘味料であり、薬効食品として利用されてきた。粘りがあるの
で、粉末にした香料を丸薬にしやすく、また、ハチミツの甘さが加わることによって内服しやすかったのだろう。ハチミツは栄養豊富で、健胃作用、鎮静作用や
神経痛に効果がある。また、美肌効果も抜群で、皮膚を健康に保つ。『本草綱目』に、万病に効く不老長寿の薬であると記載されている。2)酒
酒は、「酒味苦甘辛大熱有毒主行薬勢殺百邪悪毒気」[61]とあるように、“薬の勢いを増し、百邪や悪気を殺す”ものである。体臭や口臭を消すのに多用されていることからもうなずける。酒も適量なら不老長寿の薬になるのだ。3)酢[62]
酢は、日常生活に不可欠なもので、人間が作り出した最古の調味料である。酸敗した酒に起源をもつと考えられ、古く中国では「苦酒」ともいう。食欲増進、疲
労回復、脂肪の中和など多くの効用があるが、その他殺菌作用も強いため、ワキガの臭いを消すのに使用されたのだろう。現在、酢は「健康促進」に欠かせない
ものとして注目されているが、はるか昔からその効果を発見し、使用していた古代の人々の知恵には驚く。
以上の3つは、いずれも不老長寿に効果のあるもので、身体をいい香りにするとともに、長生きしたいという思いの強さをも感じる。
その他、口臭と腋臭の処方で呪術がそれぞれ1回ある。
おわりに
ここまで、それぞれ香りの使われ方について見てきたが、総括すると以下のことが言える。 口臭・腋臭といった人を不快にする臭いに対しては、まず、口臭では植物を内服、腋臭には鉱物を外用することで、その原因とされる「気」の乱れを治す。ただ、臭いを消すだけでなく、そこからさらに芳香を出そうとして、桂心・細辛、青木香など香りの強いものを使用していた。
「体
身香」は、体臭を消すという薬の役割以上に、いい香りを出そうとする美容の目的の方が強かったようだ。当帰、白芷、芎藭は中国原産で比較的手に入りやす
かっただろうから、習慣的に使っていたのだろう。特別なときは、沈香や麝香を使って、よりよい香りを出していたのだろう。焚香ははじめ宗教儀式で用いるものとして使われた。香料の流通量が増えることで、香りを自分たちの着ている衣服につけ、その香りを愉しんだり、媚薬として使ったりと、貴族たちの娯楽品になった。
このように、香りは、不老長寿を願う古代の人々にとって薬であり、また、役人を目指す人にとっては、自分をアピールする道具で、女性にとっては、きれいになるという美容目的と男性を惹きつける媚薬として用いられていた。
当
時の人々にとって、香りとはおしゃれを目的とするばかりでなく、自分という人間そのものを表してしまうものであった。だからこそ、さまざまな香料がいろい
ろな方法で使用されていたのだろう。中国人の美意識は、ただいい香りがすればよいということではなく、いかに自分を表現できるかにあったようだ。
参考文献
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[5]前掲文献[2] 9頁
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[10]匈奴、羯(匈奴の別種)、鮮卑(モンゴル系)、氐・羌(チベット系)の遊牧系の5族をいう。
[11]
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[19]新村出『広辞苑』岩波書店 1955年
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[21]山田憲太郎『香談―東と西―』178頁 財団法人法政大学出版局 1977年
[22]前掲文献[18] 463頁
[23]堀田満ほか『世界有用植物事典』121頁 平凡社 1989年
[24]『諸病源候論』144頁 原文「口臭由五臓六腑不調気上胸郭然府臓気臊腐不同蘊積胸郭之間而生於熱衝発於口故令臭也」[25]唐慎微『重修政和経史証類備用本草』289頁 桂 南天書局有限公司 中華民国65年
[26]前掲文献[25] 164頁
[27]前掲文献[24] 148頁 原文「人掖下臭如葱豉之気者亦言如狐狸之気者故謂之狐臭此皆血気不和蘊積故気臭」[28]前掲文献[21] 44~49頁
[29]前掲文献[19] 2478頁
[30]ミョウバン
[31]前掲文献[19] 1441頁
[32]石灰
[33]前掲文献[18] 212頁
[34]前掲文献[25] 160頁 木香
[35]山本芳邦『香りの薬効とその秘密』29頁 丸善株式会社 2003年
[36]前掲文献[23] 91頁
[37]前掲文献[25] 199頁 当帰
[38]前掲文献[23] 90頁
[39]前掲文献[25] 206頁
[40]前掲文献[23] 293頁
[41]前掲文献[25] 174頁
[42]前掲文献[35]2・3頁
[43]前掲文献[23] 101頁 1228・1229頁
[44]前掲文献[19] 1328頁
[45]前掲文献[18] 346頁
[46]前掲文献[19] 1194頁
[47]前掲文献[18] 211・212頁
[48]前掲文献[19] 2184頁
[49]前掲文献[23] 1230頁
[50]前掲文献[18] 211頁
[51]前掲文献[23] 1229頁
[52]前掲文献[18] 130~132頁
[53]前掲文献[19] 101頁
[54]前掲文献[18] 158~160頁
[55]前掲文献[19] 1508頁
[56]前掲文献[18] 210頁
[57]前掲文献[19]
[58]前掲文献[21] 116頁
[59]アニック・ル・ゲレ 小泉敦子訳『匂いの魔力』29・30頁 工作舎 2000年
[60]ハチミツ
[61]前掲文献[25]
[62]酢
原文
①
五香丸治口及身臭、令香止煩散気方。
豆蔲 丁香 藿香 零陵香 青木香 白芷 桂心各一両 香附子二両 甘松香 当帰各半両 檳榔二枚
右十一味末之、蜜和丸、常含一丸如大豆、咽汁、日三夜一。亦可常含、咽汁、五日口香、十日躰香、二七日衣被香、三七日下風人聞香、四七日洗手水落地香、五七日把他手亦香、慎五辛下気去臭。
治口気臭穢、常服含香丸方。
丁香半両 甘草三両 細辛 桂心各一両半 芎一両
右五味末之、蜜和、臨臥時、服二丸如弾子大。
又方
常以月旦日未出時、従東壁取歩、七歩廻、面垣立。含水噀壁七遍、口即美香。
又方
桂心 甘草 細辛 橘皮
右四味等分、冶下篩、以酒服一銭匕、差止。
又方
芎藭 白芷 橘皮 桂心各四両 棗肉八両
右五味末之、次内棗肉、乾則加蜜、和丸如大豆、服十丸、食前食後常含之、或呑之、七日大香。
治口中臭方。
桂心古今録用細辛 甘草各等分
右二味末之、臨臥以三指撮酒服、二十日香。
又方
細辛豆蔲、含之甚良。
又方
蜀椒 桂心各等分
右二味末之、酒服三指撮。
主口香去臭方。
甘草三十銖 芎藭二十四銖 白芷十八銖
右三味冶下篩、以酒服方寸匕、日三服、三十日口香。
又方
松根白皮 瓜子人 大棗
右三味冶下篩、以酒服方寸匕、日二、一百日衣被香。
又方
瓜子人 芎藭 藁本 当帰 杜蘅各六銖 細辛半両 防風二両
右七味冶下篩、食後飲服方寸匕、日三服、五日口香、十日身香、二十日肉香、三十日衣被香、五十日遠聞香、一方加白芷十八銖。
又方
橘皮二十銖 桂心十八銖 木蘭皮一両 大棗二十枚
右四味冶下篩、酒服方寸匕、日三、久服身香。亦可以棗肉丸之、服二十丸如梧子大、稍加至三十丸。一方有芎藭十八銖。
又方
濃煮細辛汁、含之久、乃吐之。
又方
井花水三升漱口、吐厠中、良。
又方
香薷一把水一斗、煎取三升、稍稍含之。
又方
甜瓜子作末、蜜和、毎日空心洗漱訖、含一丸如棗核大、亦傅歯。
又方
熬大豆令焦、及熱酢沃取汁含之。
②
治胡臭方。
辛夷 芎藭 細辛 杜蘅 藁本各二分
右五味{口+父}咀、以淳苦酒漬之一宿煎取汁傅之欲傅取臨臥時、以差為度。
石灰散主胡臭方。
石灰一升 青木香 楓香一作沈香 薫陸香 丁香各二両 橘皮 陽起石各三両 礬石四両
右八味冶下篩、以綿作篆子粗如指長四寸、展取薬使著篆上、以絹袋盛、著腋下、先以布揩令痛、然後夾之。
又方
青木香 附子 白灰各一両 礬石半両
右四味為散著粉中、常粉之肘後無礬石
又方
赤銅屑以酢和、銅器中炒極熱、以布裹熨腋下、冷復易。
又方
槲葉切三升、以水五升、煮取一升用洗腋下、即以白苦瓠焼令煙出熏之、数数作。
又方
辛夷 細辛 芎藭 青木香各四分
右四味冶下篩、熏竟粉之。
又方
馬歯菜一束梼砕、以蜜和作団、以絹袋盛之、以泥紙裹厚半寸、暴干、以火焼熟、破取、更以少許蜜和、使熱勿令冷、先以生布揩之、夾薬腋下、薬痛久忍之、不能然後以手中勒両臂。
又方
牛脂 胡粉各等分
右二味煎令可丸塗腋下、一宿即愈、不過三剤。肘後方云合椒以塗
又方
伏龍肝作泥傅之。
又方
三年苦酢和石灰傅之。
治漏腋、腋下及足心手掌陰下股裏、常如汗湿臭者六物傅方。
乾枸杞根 乾薔薇根肘後方作畜根 甘草各半両 商陸根 胡粉 滑石各一両
右件薬冶下篩、以苦酒少少和塗、当微汁出、易衣復更塗之、不過三著便愈、或一歳復発、発復塗之。
又方
水銀 胡粉外台作粉霜
右二味以面脂研和塗之、大良験。
又方
銀屑一升一作銅屑 石灰三升
右二味合和、絹嚢盛、汗出粉之妙。
又方
正旦以尿洗腋下、神妙。
又方
黄礬石焼令汁尽、冶末、絹袋盛粉之即差。
治諸身体臭方
竹葉十両 桃白皮四両
右二味、以水一石二斗煮取五斗、浴身即香也。
又方
青木香二両 附子 石灰各一両 礬石半両焼 米粉一升
右五味、搗篩為散、如常粉腋良。
又方
石灰五合 馬歯草二両 礬石三両焼 甘松香一両
右四味、合搗篩、先以生布揩病上令黄汁出、拭乾、以散傅之、満三日瘥、永除。
又方
二月社日盗取社家糜饙一團猥地摩腋下三七遍、擲著五道頭、勿令人知永瘥、人知即不效。
③
治七孔臭気、皆令香方。
沈香五両 藁本三両 白瓜弁半升 丁香五合 甘草 当帰 芎藭 麝香各二両
右八味末之、蜜丸、食後服如小豆大五丸、日三、久服令挙身皆香。
治身体臭、令香方。
白芷 甘子皮各一両半 瓜子人二両 藁本 当帰 細辛 桂心各一両
右七味冶下篩、酒服方寸匕、日三、五日口香、三七日身香。
又方
甘草 松根皮 甜瓜子 大棗
右四味各等分、冶下篩、食後服方寸匕、日三、七日知一百日大香。
五香円并湯主療一切腫下気散毒心痛方
丁香 藿香 零陵香 青木香 甘松香各三両 桂心 白芷 当帰 香附子 檳榔各一両 麝香一銖
右一十一味、搗篩為末、錬蜜和搗千杵、円如梧子大、含咽令津尽、日三夜一、一日一夜用十二円、当即覚香、五日身香、十日衣被香、忌食五辛、其湯法、取檳榔以前随多少皆等分、以水微微火上煮一炊久、大沸定、内麝香末一銖勿去滓、澄清、服一升、凡丁腫口中喉中脚底背甲下癰疽痔漏、皆服之、其湯不瘥、作円含之、数以湯洗之。一方有豆蔲無麝香
十香円令人身体百処皆香方
沈香 麝香 白檀香 青木香 零陵香 白芷 甘松香 藿香 細辛 芎藭 檳榔 豆蔲各一両 香附子半両 丁香三分
右一十四味、搗篩為末、錬蜜和綿裹如梧子大、日夕含之、咽津味尽即止、忌五辛。
香身方
甘草五分炙 芎藭一両 白芷三分
右三味、搗篩為散、以飲服方寸匕、日三服。三十日口香、四十日身香。
又方
瓜子 松根白皮 大棗各一両
右三味為散、酒服方寸匕、日二服。百日衣被皆香。
又方
瓜子 芎藭 藁本 当帰 杜蘅 細辛 防風各一分
右七味、搗篩為散、食後以飲服方寸匕、日三服。五日口香、十日身香、二十日肉香、三十日骨香、五十日遠聞香、六十日透衣香。一方有白芷
④
熏衣香方。
雞骨煎香 零陵香 丁香 青桂皮 青木香 楓香 鬱金香各三両 薫陸香 甲香 蘇合香 甘松香各二両 沈水香五両 雀頭香 藿香 白檀香 安息香 艾納香各一両 麝香半両
右十八味末之、蜜二升半煮、肥棗四十枚、令爛熟、以手痛搦、令爛如粥、以生布絞去滓、用和香乾湿如捺麨、搗五百杵、成丸、密封七日乃用之、以微火焼之、以盆水内籠下、以殺火気、不爾、必有焦気也。
又方
沈香 煎香各五両 雀頭香 藿香 丁子香各一両
右五味冶下篩、内麝香末半両、以粗羅之、臨熏衣時、蜜和用。
又方
兜婁婆香 薫陸香 沈香 檀香 煎香 甘松香 零陵香 藿香各一両 丁香十八銖 苜蓿香二両 棗肉八両
右十一味粗下、合棗肉揔搗、量加蜜、和用之。
湿香方
沈香二斤七両九銖 甘松 檀香 雀頭香一作藿香 甲香 丁香 零陵香 雞骨煎香各三両九銖 麝香二両九銖 薫陸香三両六銖
右十味末之、欲用以蜜和。預和歇不中用。
又方
沈香三両 零陵香 煎香 麝香各一両半 甲香三銖 薫陸香 甘松香各六銖 檀香三銖 藿香 丁子香各半両
右十味粗篩、蜜和、用熏衣缾盛、埋之久{穴+音}佳。
百和香通道俗用者方
沈水香五両 甲香 丁子香 雞骨香 兜婁婆香各二両 薫陸香 白檀香 熟捷香 炭末各二両 零陵香 藿香 青桂皮 白漸香柴也 青木香 甘松香各一両 雀頭香 蘇合香 安息香 麝香 鷰香各半両
右二十味末之、酒灑令耎、再宿酒気歇、以白蜜和、内瓷器中、蝋紙封、勿令洩、冬月開取用、大佳。
裛衣香方
零陵香 藿香各四両 甘松香 茅香各三両 丁子香一両 苜宿香二両
右六味各搗、加沢蘭葉四両、粗下用之、極美。
又方
零陵香二両 藿香 甘松香 苜宿香 白檀香 沈水香 煎香各一両
右七味合搗、加麝香半両、粗篩、用如前法。
又方
藿香四両 丁香七枚 甘松香 麝香 沈香 煎香
右六味粗篩、和為乾香以裛衣、大佳。
熏衣香方
薫陸香八両 藿香 覧探各三両一方無 甲香二両 詹糖五両 青桂皮五両
右六味、末、前件乾香中、先取硬者粘湿難砕者、各別搗、或細切{口+父}咀
使如黍粟、然後一一薄布於盤上、自余別搗亦別布於其上、有須篩下者、以紗、不得木、細別煎蜜、就盤上以手捜搦令匀、然後搗之、燥湿必須調適、不得過度、太
燥則難円太湿則難焼、湿則香気不発、燥則煙多、煙多則惟有焦臭、無復芬芳、是故香復須粗細燥湿合度、蜜与香相称、火又須微、使香与緑煙而共尽。
浥衣香方
沈香 苜蓿香各五両 丁香 甘松香 藿香 青木香 艾納香 鶏舌香 雀脳香各一両 麝香半両 白檀香三両 零陵香十両
右一十二味、各搗令如黍粟麸糠等物令細末、乃和令相得、若置衣箱中、必須綿裹之、不得用紙、秋冬猶著、盛熱暑之時令香速浥、凡諸草香不但須新、及時乃佳、若欲少作者、準此、為大率也。
乾香方
丁香一両 麝香 白檀 沈香各半両 零陵香五両 甘松香七両 藿香八両
右七味、先搗丁香令砕、次搗甘松香、合搗訖、乃和麝香合和浥衣。
香粉方
白附子 茯苓 白朮 白芷 白歛 白檀各一両 沈香 青木香 鶏舌香 零陵香 丁香 藿香各二両 麝香一分 粉英六升
右一十四味、各細搗篩絹下以取色青黒者、乃粗搗紗下貯粉嚢中、置大合子内、以粉覆之、密閉七日後取之、粉香至盛而色白、如本欲為香粉者、不問香之白黒悉以和粉、粉雖香而色至黒、必須分別用之、不可悉和之、粉嚢以熟帛双紃作之。