中世中国文人の願望

−『如意方』の輯佚からみた世界−

98L1039F 今 宏美

 

はじめに

 

一 『如意方』とその周辺知識

1 如意方について

2 如意の語意について

3 梁の簡文帝について

4 『医心方』について

 

二 医学・養生・道教の関係

 

三 『如意方』の全文輯佚と現代語訳

1 『医心方』所引文

2 『医略抄』所引文

3 『福田方』所引文

 

四 調査結果と考察

 

おわりに

 

 

中世中国文人の願望

−『如意方』の輯佚からみた世界−

98L1039F 今 宏美

 

はじめに

 

 「中国文化」と聞いて何を連想するだろうか。多種多様なものが複雑に絡み合って存在する中国文化の中で、医学という分野も忘れてはならない重要なものである。それは気の遠くなるような長い長い歴史の中で、人々の生活の一部となり彼らを支え、共に発展してきたといっても過言ではない。決して歴史の表舞台に登場することはない。しかし、人々の生活に密接に関係してきたからこそ現在まで廃れることなく、むしろ発展を続けながら存在している。そういうものは、世界広しといえどもそう簡単にお目にかかれるものではない。中国伝統医学の発達に大いに貢献した、当時の彼らの底知れぬ探求心と、言葉は悪いが悪あがきとも思えるたゆまぬ努力、そして発想の豊かさには目を見張るばかりである。

 そもそも、中国科学史の授業を受けたことが医学書や本草書に興味を持ったきっかけである。時代も国も性別も地位も全く関係なく、人間は生まれてきたからには死なねばならない。しかし、人々は少しでも死から遠ざかるために命を永らえる方法をずっと考え続けてきた。そんな彼らの合言葉はまさしく「不老長生」だったはずだ。そして彼らは、死から逃れられないと悟り、生きている間により楽しく快適な人生を送ろうとも考えるようになった。そうして長い時間をかけて知恵をしぼり、試行錯誤を積み重ねてきた、その結果が医学の歴史とも言えるのではないか。そして、古代より人々は研究に研究を重ね、それを書物に著わしてきた。医学書や本草書などがそれにあたると思われる。時代を問わず人々が不老長生を切望していたことは、何よりもその数の厖大さが物語っている。しかし、それらの中には散佚してしまい、現在目にすることの出来ないものも数多くある。『如意方』もそのうちのひとつである。「意のままになる方法」というそのあまりにもストレートなネーミングセンスに興味を持ったことが、本稿で『如意方』を扱うきっかけとなった。

医学書や本草書を研究する上で、その切り口は多々あると思う。記載されている病名や養生法などから、当時の人々の抱いていた理想像をうかがうこともそのうちのひとつである。彼らの理想像は、裏を返せば彼らにとっての問題点でもある。問題点とその解決法を見ることで彼らの持つ生命観・人生観などを垣間見ることが出来るかもしれない。

そこで、本稿では『如意方』の輯佚を第一のテーマとする。次いで輯佚内容より、書かれた当時の人々の願望とはいかなるものであったのかを探りたい。そのために本稿の検討方法を以下に述べておく。まず、『如意方』についての先行研究がされていないため、第一章では如意という語意も含めて『如意方』についての周辺知識を簡単にまとめておきたい。そして、医学書を扱う上でその根底となる思想を踏まえておく必要がある。よって、第二章では、医学と養生と道教の関係について簡単に触れておきたい。第三章では、全文輯佚したものを現代語訳して紹介したい。第四章では、『如意方』についての調査結果と考察をまとめたい。最後に結論をもって閉じたいと思う。

 なお、本稿ではすべての漢字については固有名詞も含めて常用漢字・人名用漢字を用い、俗字・異体字は正字に直し、同字はそのままにした。人物の敬称は省略した。また、日本・中国の年号は一律に西暦で表し、度量衡については時代や国によって変化があるので原典のままとする。

 

 

一 『如意方』とその周辺知識

 

1 如意方について

 

 『如意方』全10巻は550年に梁の簡文帝が撰したといわれているが、散佚してしまい現在までその完全な姿を残してはいない。いわゆる、佚書である。歴代中国における現存状況は、『南史』梁簡文帝紀と『隋書』経籍志に「如意方十巻」と著録[1]されたのみで、以降の記録はない。つまり中国では、『如意方』という書名だけが現在に伝わった。

一方、日本では『日本国見在書目録』に「如意方十」と著録[2]されている。さらに調査したところ、その佚文が実際に見られるのは主に『医心方』『医略抄』『福田方』の三書に限られた。引用された方数は『医心方』に82方だったが、『医略抄』はわずか1方、『福田方』は10方だった。

では、『如意方』はいつ頃まで日本に伝存していたのだろうか。著録や引用した文献の成立年をみると、藤原佐世の『日本国見在書目録』は891年、丹波康頼の『医心方』は984年、丹波雅忠の『医略抄』は1081年、有隣の『福田方』は1363年である。以上からすると、『如意方』は891年以前に遣隋使などの何らかの方法で日本に輸入され、『医心方』『医略抄』『福田方』それぞれの撰者の目に触れていたことになる。

しかし、ここでひとつの可能性が考えられる。それは、『医略抄』の撰者だけは『如意方』を直接目にしていなかったらしい、ということである。なぜなら『医略抄』には『如意方』を引用した後に、「簡案、医心方作『今厶日、血忌字、即止。当随今日甲乙』」という『医心方』を引く文章がある。つまり『医略抄』は『如意方』を『医心方』から孫引きしていた可能性が考えられるのである。にもかかわらず、『如意方』は少なくとも『福田方』の成立した1363年までは存在していたと思われる。根拠は、『福田方』の引用する文に『医心方』にも『医略抄』ない病名と処方があるからだ。

 『如意方』は10巻本だった。しかし以上の日本文献の所引文はとうていその巻数をみたす量ではなく、『如意方』全10巻の完全な旧態を復元することは不可能である。つまり『如意方』は輯佚しかできないが、それでも佚文は検討に値する量がある。それらと関連文献を比較検討するなら、『如意方』の旧姿と特徴をうかがうことは十分に可能であろう。

 

2 如意の語意について

 

(1) 現代辞典の記載

 『大漢語林』[3]と『大漢和辞典』[4]の記載を整理すると次のようになる。

@思いのままにする。思いのままになる。

A道教の僧の持つ道具のひとつ。木・玉・鉄などで作る。これを振り上げると思いのままのものが出るといわれた。

B 法会などの時に道師たちが持つ仏具。木・玉・竹・鉄などで造った30センチくらいの平らな棒で、先が太く曲がっていて蕨の形をなす。もとは背中の痒い所を掻く道具で、痒い所に手が届く意から如意という。如意杖ともいう。梵名阿那律(Anurubbha)

 

(2) 「如意」の用例

「如意」を故宮の「寒泉」古典文献全文検索資料庫[5]と台湾中央研究院漢籍全文資料庫[6]で検索したところ、以下の用例が見いだされたが、それ以前の文献にはなかった。

@ 『漢書』[7]巻75・両夏侯京翼李伝第45:「…臣疑陛下雖行此道、猶不得如意、臣竊悼懼。…」

A『晋書』[8]巻33・列伝第3石苞:「…ト以示崇、崇便以鉄如意撃之、応手而砕。…」

B『晋書』[9]巻98・列伝第68王敦:「…毎酒後輒詠魏武帝楽府歌曰“老驥伏櫪、志在千里。烈士暮年、壮心不已”以如意打唾壷為節、壷辺盡缺。…」

@は「意のままにする・思いのままにする」の意で、ABは道具の名前として使用されている。ということは、『如意方』と同じ意味で使用されているのは@ということになり、遠く後漢の時代から「如意」という言葉が使われていたことになる。

 

3 梁の簡文帝について

 

 『如意方』を著した梁の簡文帝については、以下のような事跡が知られている[10]。

 蕭鋼(503〜551)。武帝の第三子。名は鋼、字は世纉、小字は六通、諡は簡文、廟號は太宗。549年に武帝が幽閉のうちに崩御したため、太子である蕭鋼が550年に即位。在位二年目の551年に侯景に殺され崩御。幼い頃から聡明であったという。九流百子を見ては書き留めておいたという。また、著書が非常に多い。特に詩文に巧みで、当時はこれを宮体と呼んでいた。主な著書は『昭明太子伝』『諸王伝』『礼大義』『長春義記』『法宝連壁』『謝客文渭』『王簡』『光明符』『易林』『竈経』『馬槊譜』『棋品』『弾棋譜』『白沢図』『如意方』『勧医論』などがある。

 なお簡文帝と医薬について言及されることは少ない。しかし上記の『勧医論』、さらに『肘後百一方』や『神農本草経集注』を編纂して医薬にも通じた陶弘景(452〜536)に「華陽陶先生墓誌銘」を撰しており[11]、弘景との親交および医薬への関心ぶりがうかがえる。

 

4 『医心方』について

 

 今回の『如意方』輯佚の際に『医心方』をメインに使用する理由と留意点について触れておかねばならないと思われる。まず、『如意方』が『医心方』『医略抄』『福田方』に引用されている文章でしか現在見ることが出来ないのが最大の理由である。その中でも、『医心方』により多くの佚文が残っているのである。

 そもそも『医心方』は周知の通り、日本において現存する最古の医学書である。その価値などについては、これまでに数多くの研究者によってすでに報告されていることであるが、ここでは真柳誠の言葉を引用したい[12]。「『医心方』の最大の特色と価値は、既散書を含む六朝・隋・唐を中心とする医薬文献などより多量の佚文が出典を明記のうえ引用されていること。およびそれらのすべてが、後世の改変を受ける以前の旧態で引用・保持されていることにある。」つまり、『医心方』を資料として使うことは、よりオリジナルに近いものを見ることができるのだから『如意方』輯佚の作業上、大変都合がいいのである。

 しかし、こういった文献を使用する場合、いくつか注意も必要である。まず、全文を輯佚することが不可能であり、それはつまり『如意方』とはどのようなタイプの書物であったかを断言することは出来ないということでもある。また、忘れてならないことは『如意方』は中国人によって書かれたもので、『医心方』は日本人によって書かれたという事実である。しかも、時代にも大分隔たりがあると言える。丹波康頼が日本に渡来した中国人の八世であることを加味しても、時代はもちろん気候や風土、風習の違う日本人が引用したのだから、当然そこには日本人独特の選択基準が存在するはずである。例えば、日本ではあまり見られない病名は省くとか、日本にない植物を処方に使う場合は引用しないなどといったことが行われていた可能性は十分に考えられる。しかしそれは日本において有用な医学書であるためには必要な作業といえる。丹波康頼自身による序などが現在に伝わっていないため、どのような意図で『医心方』が編纂されたのかわからないので何とも言えない。『医心方』についてこれ以上論じることは、本稿の主旨から離れてしまうので出来れば今後の課題として行きたい。

 

 

 医学・養生・道教の関係

 

 医学書には必ずと言っていいほど、養生・調気・房中という内容で独立した巻を設けている。それだけに、その数も内容も非常に豊富で充実している。その中でも、養生についての部分がその本の多くの割合を占めているということは、当時の人々の興味関心がそこにあったことを意味する。なぜそこまで不老長生にこだわるのだろうか。例えば、富と権力を手に入れた人、つまり皇帝のような立場の人間が次に欲するものは何だろうか。有り余る財力と権力はそのままに、自分自身も若さを保ったままで永遠に長生きできればこれ以上の幸せはない。そのためには養生に励むことが必要条件だったのかもしれない。そして、養生に精を出す人々のバイブルとして養生法の書かれた医学書も必要不可欠だったと思われる。以上を仮説とでもしておく。ともかく、その問題を考えるには根底となる思想を無視することはできない。よって、ここでは医学・養生・道教という医学書成立のための三要素を取り上げて、その関係について触れることで解決の糸口を探りたい。しかし、道教やそれに関連する神仙思想などの概念を論じることは浅学非才の身には荷が重く、本稿の主旨からも若干それてしまいかねないので詳しく述べることはしない。それでも、これら三要素が密接に関係し合っていることは確かであり、いま『如意方』に考察を加える上でも踏まえておく必要がある。よって、先行研究[13〜20]を参考にまとめることにする。

 まず、三要素についてそれぞれどのように定義されているか見てみたい。

 医学とは、病気の予防・治療の方法を研究する学問である[21]。

 道教とは、不老長生を目的とする呪術的傾向の強い、現世利益的な自然宗教である[22]。

 また、三要素を絡めて説明している参考文献からの引用文を以下に列記する。

病気になったら、あるいはならないためにも薬を飲む。また、病気にならないためには養生する。つまり、治療には医学、予防には養生[23]。

養生とは、生命の延長・健康維持を期待するのだから不老長生を目的とする道教、およびその実際面を受け持ち、これを支える医学と互いに関係している[24]。

道教の主な目的が不老長生にあるから道士たちはこの養生術を重視して修業した[25]。

「神仙思想」は不老不死願望とその具体化としての「神仙」への修練を理念化した思想であり、不老長生の技法としての「養生」は「神仙思想」にもとづいた神仙術の一環として発展した[26]。

 中には思想としての養生と、技法としての養生法を区別する人もいる。

思想としての養生は、生活思想でありまた生活法である。養生は道教に独特のものではない。生活技法・保健医療的技法としての養生は、道教の中に潜在している「神仙思想」の影響下にあったと考えられる[27]。

 以上を踏まえて、本稿においての定義付けをしたい。

 A 医学とは、健康保持・増進や不老長生といった願いをかなえるために、病気治療などのより具体的な保健医療的技法。

 B 養生とは、病気の予防や病後のケアも含めて、健康保持・増進につとめ、最終結果として不老長生を願うもの。

 C 道教とは、不老長生を理念とする神仙思想を内在しているためにそれを主な目的とする呪術的傾向の強い現世利益的な宗教。この思想が当時の人々の生活観・生命観に大きく影響を及ぼしている。

 思えば養生という問題は、中国において時代を問わず人々の関心事である。その中でも特に不老長生は人間の共通かつ永遠のテーマといえる。馬王堆の三号墓から合計200本もの竹簡に書かれた『養生方』が出土していることからも分かるように、古くは秦末・前漢初頃から人々はすでに養生に励んでいたことがうかがえよう。そして、現在に至るまでその種の本が出版されつづけている。日本では、物部廣泉によって『摂養要訣』が827年に著わされているが、較べようもないほど昔から中国人たちは研究を重ねてきたのである。気の遠くなるほどの長い歳月の中で、思想や技術は磨かれ複雑に絡み合い人々の人生や生活の中に深く根をおろしている。こうして考えてみれば、陶弘景や孫思邈に代表されるように、医者であり道教家である有名人たちが医学書や養生書を著わしているのも頷ける。現在に至り医学は目覚ましい発展を遂げたといわれる。その上にあぐらをかいて生活をしている我々は、健康を損なってから初めてその大切さに気づいて養生に目覚め、また健康を取り戻すとその大切さを忘てれしまう。昔の人々とはだいぶ違うようだ。それでも、最近の日本でのサプリメントブームは養生という概念に由来するものであろうか、などとつい考えてしまう。

 最後に、自然の動植物を処方に使用することは道教的思想に関係するのではないかということについて考えたい。これについては以前からずっと興味のあったことである。具体的なことは『如意方』についての考察で述べることにするが、ここでは全体的な大まかなところで考えてみる。自然の草木は季節が来れば発芽し、花が咲き、実がなった後、枯れてしまう。しかし、また季節が巡って来ると発芽する。他にも、種をまかないのに季節になれば自然と生えてくるキノコもある。そういう自然の姿を常に意識していた人々は、自然の持つ再生能力や自然のサイクル、生命エネルギーを感じ取り同時に憧れを抱いていたのかもしれない。自然の力をいかにしてとり入れるかということは、自然と一体化することで仙人になれると考えていた道教の思想が反映しているのではないか、そんな気がしてならない。また、日付を指定するなど処方時に見られる数字については、医術と巫術が完全に分離する以前から続く数字の持つ不思議な力に期待するものである。これも道家的発想といえるであろう。

 

 

三 『如意方』の全文輯佚と現代語訳

 

 本輯佚では『医心方』[28〜30]、『医略抄』[31]、『福田方』[32]の順に引用された佚文を釈読し、現代語訳した。輯佚文の配列は、『如意方』がどのように病気や願望を分類し、記載していたのか分かる資料がないため、『医心方』の記載順に従った。また、各小見出しは『医心方』『福田方』に引用された『如意方』によった。

 本現代語訳では、薬物とされる動植物名や使用される器具名などを可能なかぎり現在使われている名称に置き換えた。また、干支など単純に現代語訳できない語句は敢えて訳さなかった。

 

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1 『医心方』所引文

 

○じんま疹を治す術

 漏蘆を煮た湯で入浴するとじんま疹が治る。

 

○髪を長くする術

 東に向かって真直ぐに伸びた桑の根の長さ3尺を採取し、根の中央を甑に当てて蒸す。両端から出てくる汁を受け、それを頭に塗ると髪は7尺に伸びる。

 別法。白芷4両を煮て、その汁で洗髪すると髪が長くなる。

 別法。麻子仁3升と白桐葉1杷を米の研ぎ汁で煮て滓を取り、適温に冷ましてから洗髪すると20日で髪が長くなる。

 別法。麻子仁3升と秦椒2升を合わせて研じ、1晩漬けておく。この汁で洗髪すると髪が2尺伸びる。

 別法。乙卯丙辰の日に沐浴すると、髪を長くする効果がある。

 

○髪を軟らかくする術

 洗髪後、更に酒ですすぐ。すると髪は軟らかくなる。

 別法。生まれたての烏鶏の卵を3個用意する。まず先に麻を入れて湯を沸かし、麻を取り出して温かくしておく。そこで卵を割り全部お湯の中に入れてよくかき混ぜ、再び煮て熱くする。このお湯で3回ずつ洗いとすすぎを繰り返す。これを3日に1回行うと髪は軟らかくなる。

 

○光沢のある髪にする術

 大麻子を搗き、蒸してから煮る。その汁で髪を潤せば、切れ毛をなくし光沢が出てとてもよい。

 

○髪を堅くする術

 馬藺灰1升、紫寧灰5升、胡麻灰7升、全3種類の灰にそれぞれ水を注ぐ。まず馬藺灰の汁を用い、次に紫寧灰の汁を用い、最後に胡麻灰の汁を用いる。すると髪が堅くなる。

 

○白髪染めの術

 こうぞの実を採ってきて、搗いて汁をとる。その汁と水銀を混ぜ合わせて髪を拭くと、髪は全て黒くなる。

 別法。熟した桑の実に水を注ぎ、潰して服用すれば髪を黒くする。

 

○白髪に抵抗する術

 5と8の午の日に白髪を焼く。

 別法。癸亥の日に白髪を抜き、甲子の日にこれを焼くと白髪は自然と絶えてなくなってしまう。

 

○黄ばんだ鬢髪を治す術

 胡粉と白灰を等分し、水と混ぜ合わせて鬢に塗る。

 別法。違う方法として、胡粉と白灰を等分し、漿と混ぜ合わせて夕方に塗り翌日に洗い流すと黒くなる。

 

○鬢髪が禿げ落ちるのを治す術

 桑の木の皮を削り黄黒の部分を除き、白い部分を取り2、3升刻む。これを水に浸して5回沸騰させ、滓を取り、鬢髪を何度か洗髪すると抜け落ちなくなる。

 別法。甘草2両を噛み砕き1升のお湯の中に漬けて洗髪する。何度もやらないうちに抜け落ちなくなる。

 

○毛髪が生える術

 烏を取って器の中に入れる。丙丁の日に土を掘り3尺の深さに埋める。100日後に掘り起こしツルツル頭に塗る。すぐに毛が生えてくる。

 別法。蜂蜜を塗るとよい。

 

○眉がないのを治す方法

 針で眉に傷をつけ、その部分に蜂蜜を付けると毛が生えてくる。

 

○顔面の悪性のおできを治す術

 胡粉5両を煎る。黄柏と黄連各5両を用意する。全3種類を搗いてから篩にかける。それを1日3回、顔のおできにふりかける。

 

○ニキビを治す術

 薺苨2分、肉桂1分を篩にかけ、方寸匙で1杯分を1日1回、酢漿で服用する。晩には止めて、梔子散を服用する。体の中で混ざり、効果がある。

 梔子散の処方 梔子仁1斤を搗き、篩にかける。食前に方寸匙1杯分を1日3回、酢漿で服用する。まず、薺苨桂散を服用し、その後、梔子散を服用する。同じ日に2種類を服用すること。

 

○シミ・そばかすを治す術

 ウノトリの白い糞を患部に塗る。

 別法。木の穴にたまった水で患部を洗う。

 茯苓と白石脂を等分して粉末にする。蜂蜜と混ぜ合わせて1日3回患部に塗る。

 

○赤鼻を治す術

 前述の薺苨桂散の処方がこれにも効く。ニキビを治す処方に載っている。

 

○ナマズ肌を治す術

 竹や木のうつぼに溜まった水で患部を洗う。

 別法。ハスの葉の上に溜まった水で患部を洗う。

 

○白なまずと赤疵を治す術

 竹の中に溜まった馬の尿のような水で患部を洗う。

 

○ホクロを治す術

 ウノトリの白い糞を患部に付ける。

 別法。 灰と石灰を濃い苦酒で煎り、簪で患部に塗るとすぐに消える。

 

○ウオノメを治す方法

 古いはたきと箒を持ち、青い虹に向かって呪文を唱える。「私はウオノメを患っています。つきましては、青い虹にお願いします。青い虹が消えてしまうようにウオノメもとれますように」。呪文が終ったら、箒を道路に置き、振り返らずに帰ってくると、ウオノメは段々消えてなくなる。

 別法。雷がなった時、手でウオノメを摘まみ、雷に向かって投げつけるふりを14回すると、ウオノメは取れる。

 

○鼻血を治す術

 鼻血をとってその人の額に「某日血忌字」と書くと、すぐに止まる。某日は鼻血の出た日付に従うこと。

 

○突然の胸の痛みを治す術

 2匹のムカデが交わっている図を紙に描き、飲み込むと治る。

 

○赤痢を治す術

 毛を取った金色黄連1升、黄蘗1升、犀角2両の全3種類を切り5升の水で煮て、3升分を取り出す。滓を取り除いた後白蜜を1升入れ、煎じて3升にする。夜明けから日中にかけて服用し、間食してはいけない。

 

○マラリアを治す方法

 マラリア発病の日を計算して、早朝一番に井戸水を汲んでおく。その水で丹を溶いて額に天獄と書く。胸に胸獄と書く。背中に背獄と書く。左手に左獄と書く。右手に右獄と書く。両足の土踏まずにそれぞれ地獄と書く。最後に東に向かって呪文を唱える。日は東方から出る。消えるようにいずれ日は沈む。昼は日に、夜は月に向かって罵る。虐鬼が死なないのならまた殺す。清冷の鬼は虐鬼の血を飲む。北斗七星はなぜ截さないのか。律令のように厳密に、急いで3回呪文を唱えれば治る。

 別法。マラリアの発病の日を計算して、前日の夜はたくさん食べる。朝は鳥が鳴いたら起き出して、服を着て靴を履き、外に出てから服を脱ぐ。途中でふり返ってはいけない。隠室に入って戸をかたく閉ざし、服を脱いでいることを人に知られてはいけない。誰か来ても返事をしてはいけない。時間が経っても飲食してはいけない。とてもお腹が空いたとしても横になってじっと耐えること。夕方になったら家に帰る。こうすれば必ず虐鬼は体から出ていく。

 

○ハサミムシに噛まれた傷を治す術

 鶏腸草を揉んで、患部につけると治る。

 

○ホクロを取る方法

 烏賊魚骨、細辛、栝樓、干薑、蜀椒、瓜蔕を等分し、苦酒に3日間漬ける。牛髄1斤と合わせ、黄色くなるまで煎じてから絞って、顔に塗る。状態のよい白い肌となり、ホクロは消える。

 

○堕胎術

 蛇に似たヤモリの肝臓を塩辛にして、練り潰して、へそに塗れば妊娠している場合胎児は下る。そして再び子供ができることはない。

 別法。桃根を非常に濃く煮出したお湯で体を洗い、膝下をつけると胎児は下る。

 

○妊娠中の胎児を女の子から男の子にする方法

 こっそりと大刀を寝ゴザの下に置く。すると、女の子が男の子になる。

 『霊奇方』には、妊娠3ヶ月未満の時、斧を婦人のベッドの下に置いておくと、すぐに男の子に変わる。今、調べてみると『如意方』では、「試しに斧を鶏の巣の下に置いてみたら、全部雄になった」と書いてある。

 別法。男草花を食べていると男の子が生まれる。

 別法。妊娠中に男草花を携帯していると男の子が生まれる。

 別法。黒い鶏の左翼の毛20枚を女性の席の下に置くと、男の子が生まれる。

 別法。雄鴨の羽2枚を取り、婦人のベッドの下に置く。これを知られないようにすること。

 

○ウエストのくびれた美人になる術

 桃の花を3本取り陰干しして、篩にかける。1日3回食前に方寸匙で1杯分を服用する。今、調べてみると『僧深方』では、「酒で服用する」と書いてある。

 

○顔色をよくする術

 杏仁1升と、皮を取り除き粉末にした胡麻5升を混ぜ合わせて、練りながら煎じて滓を取る。麻子仁半斤を入れ、さらに煎じる。だんだん白くなってきたら火から下ろす。これを顔に塗ると、寒さによる肌荒れを防ぎ、白くツヤツヤと輝く肌になり、その美しさはまるで天女が地上に舞い降りてきたかのようである。

 

○人の体をいい香にする方法

 白芷、薫草、杜若、薇衡、藁草を等分し、粉末にして蜜で練り合わせ悟子位の大きさの丸薬にして、朝3粒夕方4粒を服用する。20日間経つと体がいい匂いになる。今、調べてみると『如意方』では、「昔、候昭公がこの薬を服用して人々の前に座ると、その場にいい香がしていた」と書いてある。

 

○体を香らせる術

 瓜子、松皮、大棗を等分し、粉末にして、1日2回方寸匙で1杯分ずつを服用すると、衣服が香るようになる。

 

○物忘れを防ぐ術

 菖蒲、遠志、茯苓を等分し、粉末にして、1日3回方寸匙で1杯分ずつを服用する。

 

○人を相愛させる術

 踏んでいた足元の土を取り、泥ダンゴを3つ作る。それをこっそり相手のベッドの下に入れておくとよい。

 別法。戊子の日にカササギの巣がある屋根の下の土を取り、焼いて粉末にして2人で一緒に酒で服用すれば夫婦相思相愛で円満になる。

 別法。婦人の頭髪を20本取って焼く。それをベッドの下に置く。すると夫婦相思相愛で円満になる。

 

○人を憎しみあわせる術

 馬のタテガミと犬の毛を取り、夫婦の寝室に置くとお互いに憎しみあうようになる。

 

○ホームシックにかからない術

 遠くへ出かける時はかまどの土を懐に入れて行くとホームシックにかからない。

 

○浮気を止める術

 3歳の白い雄鶏の両足の蹴爪を焼いて、粉末にして、女性に与えて飲ませると浮気はやむ。

 

○淫乱な女性を一途にする方法

 牡荊実を採って女性に与え、飲ませれば一途になる。

 別法。□□という文字を紙に書いて、お札を作る。陽の札は朱書きにする。心に入って効く。□□陰の札は淫情を絶やしたいと思う。腎に入って効く。朱書きして服用するとよい。この2札は竹の中にあるフヨフヨしたうす皮を丹で赤く塗り、空青でお札の文字を書く。これを飲み込めば浮気心はなくなる。

 

○浮気発見術

 5月5日または7月7日にヤモリを採って、その口を引っ張り、丹を食べさせる。腹の下を見て赤くなったのを見届けて、瓶の中に入れて1100日陰干ししてから取り出す。少し潰して女性の体につけると、拭いてもとれなくなる。しかし、もしも浮気をすればすぐにとれてしまうのでばれてしまう。これを守宮 蜒という。牝牡が新たに交わっているものを3組用いるとよい。

 

○浮気をとめる

 白馬の右足の下の土を採って、ひそかに妻のベッドの下に付けておくと、寝言で浮気相手の名前を言う。

 

○嫉妬を止める術

 牡の薏苡を14枚与えて、飲ませればよい。牡の薏苡は互いに重なっているものを言う。

 別法。嫉妬する女性が月経に用いた布にガマを1匹包み、それを瓶の中に置いてふたをする。トイレの左側に埋めると、夫を気にかけなくなる(「不用夫」。この「不用夫」が不詳である。訛字または脱字があるらしく、正確な意味をとり難いが、敢えて現代語訳をつけることにする)。

 

○お金持ちになる方法

 牛の角を家の中に埋めると、お金持ちになる。

 別法。烏を庭に埋めると、お金持ちになる。

 別法。鹿の鼻を舎角に埋めると、財産をなす。

 別法。鹿の骨を門の中に埋めると、お金が得られる。

 別法。五穀を各2升ずつ準備し、表座敷に埋める。

 別法。すももの木炭を3斤準備し、門の深さ3尺の所に埋める。100倍豊かになる。

 別法。立春の日に、お金持ちの家の田の土を採って来てかまどに塗る。富を得ることが出きる。

 別法。春は甲午乙亥の時間に、夏は丙辰丁丑の時間に、秋は庚子辛亥の時間に、冬は壬寅癸卯の時間に、それぞれ夜半に北斗七星に向かって呪文を唱える。私物を得たいと願えば、自然に得られる。

 別法。2月の上壬日に道の土を採り、朝一番に井戸から汲んだ水と混ぜて泥にする。家屋の四隅に塗る。蚕が増える。

 別法。黄石60斤を亥子の間にあたる地にある鶏の巣の下に置く。家畜が増える。

 

○雨でも衣服が濡れない術

 クモを採り、陶器の瓶の中に入れる。豚の脂を食べさせる。100日後クモを殺すと、雨をはじくものが溜まっているので、ハンカチに塗る。すると、大雨でも濡れることはない。

 別法。腹の赤いクモを14匹採ってきて、搗いて汁を採り頭巾や布に塗る。その布で体を覆うと濡れない。

 

○咳き込みを治す術

 フケを杵でつきハンカチの隅に置いて、歯を拭うと、喉に詰っていたものが落ちていく。

 

○魚の骨が喉につまっているのを治す方法

 ウノトリの骨を焼き、粉末にして、コインを匙にして半分の量を水で服用する。

 

2 『医略抄』所引文

 

 『如意方』では以下のように言っている。鼻血を取ってその人の額に「今日血忌字」と書く。すると、すぐに止まる。『医心方』を調べてみると、「『今ム日血忌字』と書けばすぐに止まる。今日の日付に従うこと」となっている。

 

3 『福田方』所引文

 

○漆かぶれ

 柳の葉を煎じて患部を洗うとふつうは治る。

梔子を粉末にして患部につけると治る。

腸の葉を煎じて洗えば治る。

 

○足の病気(ミズムシ?)を取り除く

 胡粉と白蜜を混ぜ合わせ患部につける。

別法。白彊蚕を粉末にして患部につける。

別法。鷹の白糞を白蜜と混ぜ合わせ1日3回塗る。人の精液と混ぜてもよい。

 

○ウオノメ

 松脂と柏脂を混ぜ合わせて患部に塗ると、1晩で消える。

別法。石硫黄で6、7回こする。

別法。ヨモギで3回お灸をすえる。

 

○あざ

 皮膚中が赤紫色にきたないものは、竹中にある馬尿のような水を取で患部を洗えば治る。如意方に記載されている。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 『医心方』『医略抄』『福田方』を輯佚した結果、93条の佚文を得ることができた。以下に解決方法別にその方数を比較してみたい。

処方

方数

外用薬

44(方角+外用薬:1を含む)

内服薬

13(日にち+内服薬:1を含む)

呪術T(言葉を使用する)

4(日にち+呪文:1を含む)

呪術U(言葉を使用しない)

32(+方角,+日にち 各1を含む)

合計

93

 

なお、呪術Uの中には「お札を飲み込む」「行動を指示する」「布にクモのエキスを塗る」「薬物等を携帯する」なども呪術と見なし、カウントした。

 

 

四 調査結果と考察

 

 ここでは、以上の『如意方』佚文を計量化することで考察してみたい。その際、『医略抄』『福田方』からの佚文はまとめてXと表すことにする。

 @『医心方』における巻数ごとの『如意方』引用数の分布

 A『医心方』における『如意方』の病気・願望に対しての解決手段(外用薬・内服薬・呪術)の分類と数の比較

 B『如意方』と他文献の比較

 

 以下では呪術を二種類に分けて考える。言葉を使って呪文を唱えたりするものを呪術Tとし、言葉を使わないそれ以外の呪術による処方を呪術Uとした。また、実際に薬物による治療(以下でいうところの外用薬・内服薬を指す)を施す場合は処方という言葉を用い、それ以外には使用しないこととした。

 

@ について

 このグラフから以下のことがわかるだろう。


まず、引用数について見ると、『医心方』巻4と巻26における『如意方』の引用数が目立って多い。具体的な数を上げると、巻4には34の方数、巻26には29の方数が見られる。また、巻24には6方数と比較的少なめな引用数である。その他の巻には1または2方数というごくわずかしか引用されていない。

 次に、引用数の多かった巻4・26について特に見てみる。巻四では、外用薬を非常に多く治療に使用していることが分かる。巻26では、逆に外用薬の使用は少なく呪術によってどうにか対処しようという姿勢がうかがわれる。人力の及び難いところには、神力や仏力などにすがることで何とか解決しようということなのだろうか。病気・願望とそれに対処する方法をさらに細かく見るために、違う表で見てみたい。

 

Aについて

医心方巻次

如意方方数

医心方における病名

如意方における病名

処方の仕方

外用薬

内服薬

呪術T

呪術U

3

1

中風・脳梗塞

じんま疹

1

 

 

 

 

4

 

33

 

頭部・顔面

毛髪関係

16

1

 

3

顔面関係

1

2

 

 

肌・皮膚関係

8

 

1

1

5

1

耳鼻咽喉・五官科

鼻血

 

 

 

1

6

2

胸腹痛・五臓六腑病

胸腹痛

 

 

 

2

11

1

下痢・嘔吐

赤痢

 

1

 

 

14

2

虐病・傷寒病

マラリア

 

 

1

1

17

1

皮膚病

虫刺され

1

 

 

 

18

火傷・傷

切り傷

 

 

1

 

21

婦人病

ホクロ

1

 

 

 

22

妊婦諸病

堕胎

2

 

 

 

24

妊娠の方法

産み分け

1

1

 

5

 

26

 

29

 

諸々の願望編

身体(体臭)

1

3

 

 

愛情

1

4

 

7

蓄財

 

 

11

29

2

飲食養生方

咳き込み・喉の詰まり

 

 

 

1

 

鼻血

 

 

 

1

7

 

皮膚

7

 

 

 

3

 

足の病気

3

 

 

 

44

13

4

32

以上の表から読み取れること

 まず、全体的に見てみると病気の治療法から美容・願望に対応する処置まで幅広いジャンルを取り扱っているように見受けられる。その中でも、美容・願望に対するものが圧倒的に多い。また、対処法について見てみると、外用薬による処方総数と呪術Uの総数がほぼ同数となっている。呪術TとUを同じ呪術としてひとまとめにすれば、外用薬による処方総数を上回ることになる。一方、内服薬による処方総数が、外用薬のそれと比べると以外に少ないことが分かる。体の中から改善しようというよりは、患部に直接働きかけようという意識がうかがえる。

 次に、引用数の多かった『医心方』巻4・26について見てみる。巻4では、頭部・顔面の諸病を扱っている。その中でも、毛髪関係の方数の多さが圧倒的である。今も昔も世の中の男性たちの悩みはやはりそこに尽きるのかもしれない。また、ここでは対処法として外用薬を非常に多く使用していることも分かる。巻26では諸々の願望について扱っている。その中でも、心理・蓄財などは、人の心を思いのままにできたなら、財産がたくさんあって豊かな暮らしが送れたら、といういかにも人間臭さの漂うものであり、その方数も他巻と比較して非常に多いといえる。ここでは、外用薬の使用は少なく呪術によってどうにか対処しようという姿勢がうかがわれる。むしろ、薬物治療に頼るよりも、こういった場合には神頼みの方が逆に説得力があるかもしれない。また、身体の中には「雨に濡れるのを避ける」というものがあり、『医心方』の中でも『如意方』からの引用で2方数『霊奇方』からの引用で1方数と合計3方数というごくわずかな方数しか載っていない珍しいものがある。

 

Bについて

ここでは主に『医心方』に引用される佚書『枕中方』『霊奇方』『葛氏方』を利用し、使用される薬物・対処法などに違いがあるのかを見て行きたい。

医心方の巻次

病気・願望の種類

如意方における対処法

その他の文献による対処法

4

髪を長くする

桑根の蒸し汁を塗る,白芷の煮汁で洗う,麻子仁+白桐葉+米汁で洗う,麻子仁+秦椒で洗う,日を決めて沐浴する

葛:朮+水の煮汁で洗う

 

白髪染め

穀実+水銀を塗る,熟桑を水で服用

葛:白灰+胡粉+漿を塗る,白髪の抜けた穴に蜜を塗る

 

黄ばんだ鬢を治す

胡粉+石灰+水を塗る,胡粉+石灰+漿を塗る

葛:梧桐灰+乳汁を塗る

 

 

ニキビ

薺苨+桂肉+酢漿と支子散を服用

葛:鷹の糞+胡粉+蜜を塗る

 

赤鼻を治す

薺苨+桂肉+酢漿と支子散を服用

葛:ウノトリの白い糞+臈月猪膏を塗る

 

ナマズ肌を治す

半天河水で洗う,荷葉の上に溜まった水で洗う

葛:半天河水で洗い桂末をつける

 

ホクロを治す

ウノトリの糞をつける,{艸+瞿}灰+石灰+苦酒を煎じて塗る

葛:棗灰+艾灰+水で濯ぐ

 

ウオノメを治す

呪術T,呪術U

葛:塩を塗り牛になめさせる,ヨモギで灸を三回すえる

22

堕胎方

ヤモリ塩辛を臍に塗る,桃根の煮汁で入浴・膝をつける

葛:苗を焼いて粉末にして服用 枕:臍下に灸を三壮,男性の帯三寸を焼いて粉末にし井華水で服用

24

産み分け

大刀をベッドの下に置く,男草花を食べる,男草花を携帯,烏鶏左翼20枚をベッドの下に置く,雄鴨羽を2枚ベッドの下に置く

霊:斧をベッドの下に置く

26

体臭をよくする

瓜子+松皮+大棗を粉末にして服用

葛:甘草+薫草+杜若+薇衡+藁草を粉末にして服用 霊:瓜子芎+藁草+當歸+杜衡+細辛+防風+白芷+桂心

 

相愛になる

足元の土三丸をベッドの下に置く,カササギの巣の下の土を焼いて共に酒で服用,女性の頭髪20本を焼きベッドの下に置く

霊:黄土+酒を帳内戸に塗る,猪皮+尾を取り箪笥に入れる,竈の中の黄土+膠汁を相手の服に塗る 枕:女性の頭髪20本を焼いて灰を酒で服用,桃皮+木人を携帯,頭髪を埋める,ベッドの下の塵をこっそり相手に食べさせる

 

ホームシック防止

かまどの土を携帯する

霊:桃板3寸に姓名を書き埋める

 

お金持ちになる

牛角を宅中に埋める,烏を庭に埋める,鹿鼻を家の角に埋める,五穀各2升を堂中に埋める,富家の田中の土を竈に塗る,決められた日に北斗に向って呪文,道中土と井華水で泥を作り家の四隅に塗る,黄石60斤を鶏の巣の下に埋める

霊:よい田の中央にこっそり券を埋めると売りにくる 枕:牛馬の骨を庭で焼く,立春に富家の土を倉庫に塗る,亥地に蚕沙を埋める,戌子日に馬を買い巳丑日に乗る

 

雨に濡れない

クモを瓶の中で1100日飼い殺し汁を布に塗る,腹の赤いクモ14匹の汁を布に塗る

霊:クモのエキスを布に塗る

29

咳き込みを治す

フケを杵でついてハンカチの角に置いて歯を拭う

葛:水中で14回針で刺し東を向いてその水を飲む,生薑5両+橘皮3両+水1升を煮て2升を服用 枕:異性に耳を吹いてもらう

 

魚の骨がのどにつまるのを治す

ウノトリの骨を焼いて水で服用

葛:魚骨を焼いて服用,ウノトリの骨を焼いて水で服用

 

以上の表から以下のことが読み取れる。

『医心方』において、髪・肌・香などの美容関係や妊娠についての方数は『葛氏方』にも多数引用されている。しかし、相愛・求富などより願望に近いものは引用されていない。むしろそういったものは『霊奇方』『枕中方』などから多く引用されている。上のグラフでは扱わなかったが、美容関係や欲望をかなえる方法は『千金方』『外台秘要方』からの引用はほとんど見受けられない。

次に、ひとつの処方に対して使用される薬物の数を見てみたい。『如意方』『葛氏方』『枕中方』『霊奇方』は比較的多くはない。逆に『千金方』『外台秘要方』は多い。また、ひとつの病気に対する処方がバリエーションに富んでいる。例えば、材料となる薬物が入手し難い地域だったり、ひとつ試してみたが治らないなどの場合に対応できる様にという配慮だろうか。『如意方』では使用する薬物に対して、量を細かく指定することが少ない。また、産地や種類を限定したりしない。例えば、白芷について見てみると、『如意方では』「白芷」となっているが、『千金方』では「龍西白芷」となっている。また、『如意方』では呪術に頼る傾向が強い。

 

 

おわりに

 

 ここまでは、『如意方』を輯佚し、いくつかの角度から考察を加えてきた。総括すると以下のことがいえる。

 『如意方』は550年に梁の簡文帝によって著された佚書である。現在中国では失われ、日本で『医心方』『医略抄』『福田方』に引用される佚文のみを目にすることができる。輯佚の結果『医心方』から82条2717文字(句読点を含む、以下同)、『医略抄』から1条50文字、『福田方』から10条116文字、三書を合わせると93条2883文字を得ることができた。また、病名・願望名は48種あった。

『如意方』は10巻本であるとされる。93条という数は全体の何パーセントにあたるのかすら定かではないが、輯佚によって得られた内容は『如意方』の特徴を残していると思われ、その在りし日の姿をうかがい知るに十分であろう。しかし、輯佚によって得られた結果は『如意方』のごく一部でしかないのは事実である。全体を目にしたことにはなっていないが、あえて得られた情報を『如意方』の特徴(本当のことを言えば一部の特徴ということになるであろうけれども)としてとらえてまとめて行きたい。

 まず、『如意方』は病気やケガ(腹痛や切り傷など)の治療法から美容・願望(肌のトラブルやお金持ちになりたいなど)についての対処法まで幅広いジャンルを扱っていた。そして、その解決手段を見てみると、呪術に頼る傾向が強く、処方に使われる材料数やその手順も他の文献より比較的シンプルであった。道家たちは宗派によって処方を変えたり、手順を複雑にすることで難易度を高くし、他派と少しでも差をつけようとしていた時代に珍しいことではないだろうか。そもそも、『如意方』という名前からしても他とはひと味違った存在だったような気がしてならない。

 次に、内容における特徴を見ることにする。美容や願望に対する解決法は62方、病気やケガについては31方あった。内容の選定においてすべて簡文帝自身の私考とは限らず、当時養生に励んでいたであろう世間一般の風潮も加味していたと思われる。お金持ちになりたいとか異性の心を思い通りにしたいなどの欲望むき出しの項目はそれを意味しているはずだ。また、美容や願望に対する解決法のバリエーションの多さが目立っていた。こうしてみると、『如意方』とは生活や人生全般についての悩みを解決してくれる、まさに思いのままになる方法が書かれていた書物であった。

推測するに、『如意方』は病気・美容・願望などかなり幅広い分野に対応していたために『医心方』編纂時、病気に対する処方は他文献から、美容や願望をカバーするために『如意方』から引用されたのではないだろうか。

 現代においても人々は飽くことなく願望成就に励んでいる。『天下第一奇書』には「一定如意法」[33]という項目を見ることができる。この本は現代版『如意方』といったところだろうか。それは冗談としても、『如意方』が書かれた当時の人々を取り巻く環境と、現在の我々とのそれの間には国・時代・医療技術など様々な違いがある。しかし、なぜそうなりたいのか、なぜそうならねばならないのかという理由こそ違いはあっても、表面に現れる願望には大差がないことが分かる。病気を治したいのも、美男美女になりたいのも、お金持ちになりたいのも細々とした願望は全てひとつの大きな願望に基づいている。それはつまり、より幸せな人生をより長く送りたいということではなかろうか。

 

 

参考文献と注

 

[1] 岡西爲人『宋以前医籍考』556頁、古亭書屋、台北、1969。

[2] 藤原佐世『日本見在書目録』83頁、名著刊行会、東京、1996。

[3] 鎌田正・米山寅太郎『大漢語林』347頁、大修館書店、東京、1992。

[4] 諸橋轍次『大漢和辞典』636頁、大修館書店、東京、1960。

[5]台北故宮の「寒泉」古典文献全文検索資料庫による。

  (http://210.69.170.100/s25/index.htm)

[6] 台湾中央研究院漢籍電子文献の人文資料庫師生版による。

(http://www.sinica.edu.tw/ftms-bin/ftmsw3)

[7]班固『漢書』第10冊巻71至巻84・伝4、3164、中華書局、北京、1962

[8]房玄齢『晋書』第4冊巻31至巻45・伝、1007、中華書局、北京、1974

[9] 前掲文献[8]第8冊巻89至巻100・伝、2557

[10]前掲文献[4]巻9、917頁。

[11]『四庫全書』集部雑集所収『漢魏六朝百三家集』巻82下「梁簡文帝集」所載(武漢大学出版社のCD-ROM原文電子版、1997年による)。

[12]真柳誠「『医心方』巻30の基礎的研究−本草学的価値について−」『薬史学雑誌』21巻1号52-59頁、1986年7月。当論文は以下のWebページにて閲覧した。

  (http://www.hum.ibaraki.ac.jp/mayanagi/paper01/ishinhoBencao.htm)

[13] 吉元昭治『養生外史−不老長寿の思想とその周辺 中国編』、医道の日本社、横須賀、1994。

[14]滝沢利行『養生の楽しみ』、大修館書店、東京、2001。

[15]坂出祥伸『中国思想研究』、関西大学出版部、京都、2000。

[16]漆浩著・池上正治訳『中国養生術の神秘−医術・巫術・気功』、出帆新社、東京、1999。

[17]石田行雄『不老不死と薬−薬を求めた人間の歴史』、築地書館、東京、1992。

[18]石田秀実『からだのなかのタオ−道教の身体技法』、平河出版社、東京、1997。

[19]吉川忠夫『古代中国人の不死幻想』、東方書店、東京、1995。

[20]山田慶児『中国医学の起源』、岩波書店、東京、1999。

[21]金田一京助『新明解国語辞典』、三省堂、東京、1997。

[22]前掲文献[13]46頁。

[23]前掲文献[13]6頁。

[24]前掲文献[13] 62頁。

[25]前掲文献[15] 33頁。

[26]前掲文献[14] 19・20頁。

[27]前掲文献[14] 18頁。

[28]丹波康頼『医心方』影印版、人民衛生出版社、北京、1993。

[29]丹波康頼『医心方』活字版、華夏出版社、北京、1996。

[30]丹波康頼『医心方』活字版、上海科学技術出版社、上海、1998。

[31]丹波雅忠『医略抄』、聿修堂蔵版、寛政7年序刊本。

[32]正宗敦夫『有林福田方』、日本古典全集刊行会、東京、1936。

[33]『天下第一奇書』11、新天出版社、香港、刊年不詳。

 

 

『如意方』佚文釈読

 当佚文の輯佚と釈読にあたり、『医心方』引用文は文献[28]を底本とし、文献[29][30]を参照した。また文献[28]における所出部位が巻1第1葉オモテなら1-1aのように表記し、『医略抄』も同様に表記した。

 

『医心方』所引文

巻三

治中風隠疹方第十八

如意方治隠疹術(3-34a)

 漏蘆作湯、以洗浴。

 

巻四

治髪令生長方第一

如意方云長髪術(4-3a)

 東行桑根、直者長三尺、以中央当甑飯蒸之、承両頭汁、以塗頭、髪長七尺。

又方。白芷四両、煮沐頭、長髪。

又方。麻子人三升、白桐葉一把、米汁煮、去滓、適寒温、以沐、廿日、髪長。

又方。麻子人三升、秦椒二升、合研、漬之一宿、以沐頭日一、長髪二尺。

又方。乙卯丙辰日沐浴、令人髪長。

 

治髪令光軟方第二

如意方軟髪術(4-3b)

 沐頭竟、以酒更濯、日一、髪即軟。

 又方。新生烏鶏子三枚、先作五升麻沸湯、□(出?)、楊(揚)之令温、破鶏子悉内湯中、撹令和、復煮令熱、方為三沐三潅之、三日一沐、令髪軟。

 又云光髪術(4-4a)

 搗大麻子、蒸令熟、以汁潤髪、令髪不断、生光沢、大良。

 

治髪令堅方第三

如意方云堅髪術(4-4b)

 馬藺灰一升、柴寧灰五升、胡麻灰七升、凡三灰各々淋之、先用馬藺灰汁、次用柴寧灰汁、後用胡麻灰汁。

 

治白髪令黒方第四

如意方染髪白術(4-6b)

 取穀実、搗取汁、和水銀以拭髪、皆黒。

 又方。熟桑椹以水漬、服之、令髪黒。

又云反白髪術

以五八午日、焼白髪。

又方。癸亥日除白髪、甲子日焼之、自断。

 

治鬢髪黄方第五

如意方治鬢黄術(4-7a)

 胡麻、白灰、分等、以水和、塗鬢。一方、漿和、夕塗、明日洗去、便黒。

如意方治鬢髪禿落術(4-8b)

 桑樹皮、削去黄黒取白、剉二三升、以水淹煮五沸、去滓、以洗沐鬢髪、数為不落。

 又方。甘草二両、{口+父}咀、漬一升湯中、沐頭、不過再三、則不落。

 

治頭焼処髪不生方第十

如意方生毛髪術云(4-10b)

 取烏内器中埋於丙丁土入三尺、百日以塗人宍、即生毛。

又方。塗好蜜。

 

治眉脱令生方第十一

如意方眉中无毛方(4-11a)

 以針挑傷、付蜜、生毛。

 

治頭面瘡方第十三

如意方治面上悪瘡術(4-12a)

 胡粉五両、熬、黄蘗、黄連五両、三物、冶下篩、粉面瘡上、日三。小品方同之。

 

治面皰瘡方第十四

如意方治皰術(4-13a)

薺苨二分、桂宍一分、下篩、以酢漿服方寸匕日一、止晩、即服支子散、相参也。

支子散方 支子人一斤、搗下篩、先食、以酢漿服方寸匕日三、先服薺{艸+尼}桂散、次後服支子散、即以同日服之。

 

治面{K+黽}方第十五

如意方治{K+干}{K+}(4-15b)

以鸕鶿白矢傅之。 

又方。以樹穴中水、洗之。

又方。伏苓、白石脂、分等、末、蜜和塗之、日三。

 

治鼻{査+皮}方第十六

如意方治面{(病−丙)+査}術云(4-17b)

前治皰薺桂宍方、亦治之、在面皰方。

 

治癧瘍方第十八

如意方治癧瘍術(4-18b)

 半天河水、洗之。

 又方。荷葉上水、洗之。

 

治赤疵方第廿

如意方治白癜赤疵術(4-22a)

 用竹中水、如馬尿者、洗之。

 

治黒子方第廿一

如意方治黵{K+志}(4-23b)

 鸕鶿白尿、傅之。

又方。{艸+瞿}灰、石灰、醇苦酒煎、以簪塗黒、須曳滅去。

 

治疣目方第廿二

如意方(4-25b)

 取故払床箒、向青虹咒曰、厶甲患{目+尤}子、就青虹乞差、青虹没、{目+尤}子脱。意仍送箒置都路口而還、勿反顧、如此{目+尤}目漸々消滅。

又方。雷時以手摘{目+尤}、擲与雷二七過、即脱。

 

巻五

治鼻衂方第三十六

如意方治鼻衂術(5-31a)

 取衂血、以書其人額、云、今厶日、血忌字、即止、当随今日甲乙也。

 

巻六

治心痛方第三

如意方治卒心痛術(6-6a)

 書地作五字、撮中央、以水一升攪、飲之。

 

治腹痛方第四

如意方治卒腹痛術(6-8a)

 書帋作両蜈蚣相交、呑之。今案、葛氏方同之。

 

巻十一

治赤利方第廿二

如意方治下赤利術(11-30a)

 金色黄連一升、去毛、黄蘗一斤、犀角二両、凡三物切、以水五升、煮取三升、去滓、内白蜜一升、又煎三升、平旦服、至日中令盡、勿間食也。

 

巻十四

治鬼瘧方第十四

如意方治鬼瘧方(14-31b)

 発日早旦、取井花水、丹書、額作天獄字、書胸作胸獄字、書背作背獄字、左手作左獄字、右手作右獄字、両足心各作地獄字。畢、向東咒云、日出東方、隠以没、晝罵日、夜罵月、瘧鬼不死当復、清冷之鬼飲汝血、北斗七星何不截。急々如律令、三過咒便癒。

又方。計発日、令夕可食、鶏鳴起、着衣履屐{尸+喬}、随意出戸脱之、途出勿顧、入幽閑隠室、堅閉戸、勿令人知。脱人来呼、勿応、過時勿飲食、飢極但臥忍之、至夕乃還、必断也。

 

巻十七

{虫+瞿}瘡方第十五

如意方治{虫+瞿}螋瘡術(17-31a)

 捼鶏腸草、傅之。

 

巻十八

治金創血出不止方第九

千金方金創血出不止、唾之、咒曰、(18-12b)

厶甲、今日不良、為其所傷、上告天皇、下告地王、清血莫流、濁血莫揚、良薬百裹、不知熟唾。日二七度、唾之即止。今案、如意方作神若唾。

*参照文:備急千金方巻二十五(孫思邈撰、北京・人民衛生出版社影印江戸医学仿宋版、462頁)

治金瘡血不止令唾之法

呪曰某甲今日不良、為某所傷、上告天皇、下告地主、清血莫出、濁血莫揚、良薬百嚢、不如熟唾、日二七痛、唾之即止。

*参照文:新雕孫真人千金方(孫思邈撰、静嘉堂文庫所蔵南宋版マイクロフィル厶焼き付けによる。巻2622葉ウラ)

 治金瘡血不止令唾之呪曰、某甲今日不良、為某所傷、上告天皇、下告地主、清血莫出、良薬百嚢、不如熟唾、日二七痛唾唾之即止。

 

巻二十一

治婦人面上黒子方第三

如意方去黒子方(21-3a)

 烏賊魚骨、細辛、栝楼、干薑、蜀椒、瓜蔕或本有之、分等、苦酒漬三日、牛髄一斤、煎黄色絞、以装面、令白悦、去黒子。面{皮+干}黒子方、詳在上帙四巻。

 

巻二十二

治任婦欲去胎方第三十七

如意方云去胎術(22-36a)

 以守官若蛇肝醢和、塗齊、有子即下、永无復有。又、煮桃根、令極濃、以浴及漬膝胎下。

 

巻二十四

変女為男法第四

葛氏方云覚有任三月、溺雄鶏浴処(24-10a)

又方。密以大刀置臥席下。如意方、同之。

霊奇方云、未満三月、取斧著婦人床下、即反成男。今案、如意方云、試着鶏窟下、皆雄。

如意方。食宜男草花、即生男。一云、任身時帯之、即生男。(24-11a)

又方。用烏鶏左翼毛廿枚、置女人席下、即男。

又方。取雄鴨翅毛二枚、着婦人臥蒋下、勿令知。

 

巻二十六

美色方第二

如意方云欲得美色細腰術(26-11a)

 三樹桃花陰干、下篩、先飯、日三、服方寸匕。今案、僧深方、以酒服。

又云。悦面術。

 杏人一升、胡麻去皮、搗屑五升、合膏煎、去滓、内麻子人半升更煎、太弾々正白下之、以脂面、令耐寒、白悦光明、致神女下。

 

芳気方第三

今案、如意方云、昔候昭公服此薬、坐人上、一座悉香。(26-14a)

又方。甘草、瓜子、大棗、松皮、分等、末、食後服方寸匕、日三。

如意方云香身術(26-14b)

 瓜子、松枝、大棗、分等、末、服方寸匕、日再、衣被香。

 

巻二十六

益智方第四

如意方云令人不惛忘術(26-17a)

 菖蒲、遠志、茯苓、分等、末、服方寸匕、日三。

 

相愛方第五

如意方云令人相愛術(26-18a)

 取履下土作三丸、密着席下、佳。

又方。戊子日、取鵲巣屋下土焼作屑、以酒共服、使夫婦相愛。

又方。取婦人頭髪廿枚焼、置所眠床席下、即夫婦相愛。

如意方云令人相憎術(26-19b)

 取馬髪、犬毛、置夫婦床中、即相憎。

又云令人不思術

 遠行、懐竈土、不思故郷。

如意方止淫術(26-20a)

 三歳白雄鶏、両足距、焼末、与女人飲之、淫即止。

又云欲令淫婦一心方

 取壮荊実、与呑之、則一心矣。

又云{目+目+囗+陰}{目+目+囗+陽}陽符朱書、之入心。 {目+目+囗+陽}{目+目+囗+陰}陰符此欲絶淫情、入腎、朱書之可服。

 此二符、以丹塗竹裏白淫令赤、乃以空青書符、呑之淫即絶矣。

又云験淫術(26-20b)

 五月五日若七月七日、取守宮、張其口、食以丹、視腹下赤止、瓮中陰干、百日出、少々治之、付女身、拭、終不去、若有陰陽事、便脱。曰、守宮{虫+(匚+宴−宀)}蜒也、牝牡新交三枚、良之。

又云。白馬右足下土、著婦人所臥席床下、勿令知、自呼外夫姓名也。

如意方云止妬術

 可以牡薏苡二七枚、与呑之。牡薏苡、相重者是也。

又方云。其月布嚢蝦蟇一枚、盛著瓮中、蓋之、埋厠左、則不用夫 (「不用夫」では意味不通であるが、文字はこう釈読された)

 

求富方第六

如意方云、埋牛角宅中、富。(26-21b)

又方。埋烏於庭中、令富。

又方。埋鹿鼻舍角、致財。

又方。埋鹿骨門中厠、得銭。

又方。五穀各二升埋堂中、聚銭財。

又方。以李木灰三斤、掘門中三尺埋之、令富百倍。

又方。立春日、取富家田中土塗竈、令人得富。

又方。春甲午乙亥、夏丙辰丁丑、秋庚子辛亥、冬壬寅癸卯、夜半向北斗祝、欲得厶物、即自得。

又方。二月上壬日、取道中土、井花水和為泥、塗屋四角、富蚕。

如意方云、以黄石六十斤、置亥子間地及鶏栖下、富六畜。(26-22a)

 

避西雨湿方第十

如意方云雨不湿衣術(26-31a)

 取蜘蛛、置瓦甕中、食以豕脂百日、蜘蛛以塗手巾、大雨不能濡。

又方。赤腹蜘蛛二七枚、搗取汁、以染布巾、以覆身、即不沾也。

 

巻二十九

治食噎不下方第廿七

如意方治噎術(29-36a)

 舂杵頭糠、置手巾角以拭歯、立下。陶公云、刮取糠含之。

 

治食魚骨哽方第四十(29-44a)

又方(葛氏方)鸕鶿羽、焼、末、水服半銭上。今案、集験方、用屎。如意方、用骨。

 

 

『医略抄』所引文(9a)

如意方云、取衂血以書其人額云、今日血忌字、即止。簡案、医心方、作今厶日血忌字、即止。当随、今日甲乙。

 

『福田方』所引文872頁)

漆瘡。凡柳葉煎之洗。支子末以傅之。{奠+隹}腸葉煎洗。

{(疔−丁)+般+皿}。胡粉白蜜和傅。又、白彊 末付。又、鷹屎白白蜜和ヌレ日三、人精和又良。

疣目。松脂柏脂合ヌレ。一宿夫。又、石硫揩六七度。又、艾上灸三壮。

疵痣。皮中赤紫黶穢須竹中水馬クソ如取洗。如意方出。