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真柳誠「ベトナム訪書所感」『活』44巻1号12頁、2002年1月

ベトナム訪書所感

茨城大学教授  真柳 誠




 新年明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。

 一昨年は台湾故宮図書館に4ヶ月こもって訪書三昧したため、周囲からひんしゅくを買ってしまったが、それでも厖大な蔵書の調査は完了しなかった。そこで規模を拡大し、昨年春から文科省の科研費による「東アジアにおける漢籍医薬書の出版・流通と相互影響」という研究を4年計画で始めた。

 これにより、書物を媒介に中国医学が周縁各国で受容・独自化された歴史に光りをあてることができる。昨年はその最初として、台北の各図書館とハノイ漢喃研究院の蔵書調査を計2ヶ月かけて行った。

 フランス植民地以来、漢字文化がほぼ消滅してしまった今のベトナムで、漢字とベトナム製漢字の文献を収蔵・研究する漢喃研究院だけは中国語で会話ができ、のんびりペースだったが2週間で約50点のベトナム刊本・写本の医薬書を調査できた。

  まだ全貌はつかめないが、{龍+共}廷賢の書を筆頭に明代医書の影響が強いこと、日本の訓読書と同様に『国訳○○』といって、漢文をベトナム漢字を交えたベトナム文法に直した書が多いこと、等の傾向がみえる。これらは江戸期の中国医学受容と日本化とも通底しており、今後より調査が進めば興味深い傾向がみえてくるのでは、と期待している次第である。