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東洋医学用語の語源(抄録)

茨城大学人文学部  真柳 誠

 東洋医学用語には様々な歴史があり、その過程で意味や文字に変化が生じたものが少なくない。そこでいくつかの用語について語源を調査し、本来の意味を考えてみた。

 いま證は証の旧漢字で、ともに症とは別字とされる。だが漢以前の證と証は音も意味も違う別字で、病候をショウの音でいうのは證だけだ。証は音がセイで、いさめるの意味だったが、元代になって音のショウと病候の意味が加わる。同時に証から病候専用の症がショウの音で新たに作字され、明代と江戸時代から普及した。近代になってsymptomを症候と翻訳したため、のち證・証と症はちがうという議論が生まれている。

 針は裁縫用、鍼は医療用で別字という説がある。また鍼は当用漢字にないため、公的には「はり灸」と表記される。これは戦後、GHQが針灸を禁止しようとしたとき、業界がそういって反対したことに起因する。しかし針は唐以前から使用される鍼の略字にすぎず、意味も音も同じ。針灸古典『霊枢』の最善版本でも針の字だけで表記されている。

 漢方は蘭方に対して18世紀中頃にできた表現。当時から日本式中国医学をいい、昭和後期からの日本漢方の表現はやや問題がある。管見で皇漢医学は明治14年以前、和漢医学は明治14年、東洋医学は明治25年から用例があり、いずれも日中伝統医学の意味だったので、当初の東洋医学はOriental Medicineではない。中国は清後期から日本を東洋と呼び、Orientを東方と訳す。その東方は中国までで日本を含まないので、ふつう中国人は東洋医学を日本医学と誤解する。他方、中国医学を中医学や中医と略すのは革命以後で、漢代から腕の悪い医者を中医と呼んだことを忘れたらしい。

 さらに料理・調理・医食同源・薬膳の語源、中国伝統医学との関連も考察した。