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真柳誠「韓国国立中央図書館の古医籍」『日本医史学雑誌』55巻2号215頁、2009年6月

韓国国立中央図書館の古医籍
The Old Medical Books in the National Library of Korea

真柳 誠
MAYANAGI Makoto

茨城大学大学院人文科学研究科

 2005年の第106回総会で「韓国現存古医籍の特徴」と題して報告したが、未完成だった韓国国立中央図書館所蔵古医籍の調査を、2008年夏の約50日で基本的に終了した。本調査結果の概略を報告したい。

  当館の『東洋古書目録』1〜6と『外国古書目録(中国・日本篇)』T・Vには古医籍が著録されるが、一部の書と1990年代後半以降の収蔵書は目録が作成されていない。一方、すでに全蔵書のデータベースがウェブ公開されており、2008年11月30日段階で約703万タイトルを所蔵、うち「古書」と分類される書は268,166タイトルと発表される。なお当館では、1945年の韓国独立以前に刊行ないし筆写された書を古書と定義する。

  当館目録では法医学書が法学に分類されるなど、医薬関連書はいくつかの分類内に収められている。またデータベースは「古書」の分類しかなく、医学・薬学などの細目では検索できない。さらに現在も古書を購入し続けている。したがっていささか遺漏もあろうが、2008年9月24日段階で認知しえた762点の韓国・日本・中国の古医書について、全書誌データを得ることができた。ただしベトナム古医書の所蔵はなかった。因みにここで用いる「点」とは巻数や冊数を無視した1書のことであり、同一の書名・版本等が複数あった場合も各々を1点として計上した数字である。

  韓籍古医書は関連記載のある博物書・日用類書も含め、計185点あった。この中には日本統治の1910〜1944年に成立ないし復刻された刊本が49点、また日本刊本が3点、中国刊本が1点含まれる。当185点以外にも他の機関が所蔵の朝鮮刊韓籍のマイクロフィルムが5点あった。

  日本人著述の古医書は博物書を含めて計401点あった。この中には明治以降の成立ないし刊本・写本が31点、また準漢籍が12点、蘭学・洋学関連書が63点ある。当401点以外に朝鮮通信使との筆談記録等が17点あり、中には医師・医学関連の記載も多い。

  漢籍古医書は関連記載のある博物書も含めて計176点あった。内訳は日本の刊本・写本が81点、中国の刊本が54点、韓国の刊本・写本が41点になる。また中華民国成立の1912年以降に中・日・韓で刊行された書が14点含まれる。当176点以外にも他の機関が所蔵の朝鮮刊漢籍のマイクロフィルムが32点あり、大多数は宮内庁と内閣文庫の蔵書だった。

  以上の内、成立ないし刊写年が1911年以前の漢籍はすべて、1909年以前の韓籍は宝物指定書を複写本で調査した以外、すべて原本を閲覧調査させていただけた。また所蔵のマイクロフィルムもすべて閲覧した。ただし日本の著述書は数が多いため、原本調査は70点に止まった。

  本調査により、三木『朝鮮医書誌』等に未著録の韓籍および朝鮮版漢籍が少なからず見出された。また日・中に現存が知られていない日本と中国の著述、漢籍の初版、日本名家の書き入れや蔵印記のある書もいくつかあった。韓国で当館に次ぐ量の古典籍を所蔵するソウル大学の李王朝奎章閣の古医籍はすでに悉皆調査と報告を終えたので、今回の調査で韓籍古医籍はおおむね網羅できただろう。当館の全古医籍書誌も何かの形で報告したい。

  これら韓籍書誌データの定量分析、および漢字文化圏古医籍データとの比較により、各国で共通の歴史現象、および固有の歴史現象が浮かび上がってきた。その多くはかつて知られていなかった現象である。今後は古医籍個々の分析と背景要因の検討も加え、これら現象の史的解明を進めたい。

 大量の古医籍原本を閲覧させていただいた韓国国立中央図書館に深甚の謝意を申し上げる。本報告の一部はJFE21世紀財団の2007年度アジア歴史研究助成「漢字文化圏古医籍の定量的比較研究」による。