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真柳誠「日本医薬・博物著述年表の編纂」『日本医史学雑誌』53巻1号80-81頁、2007年3月

日本医薬・博物著述年表の編纂
真柳 誠(茨城大学人文学部)

The Compilation of a Chronological Table of Japanese Writings on Medicine, Pharmaceutics, and Natural History
MAYANAGI Makoto

当報告のPower Pointファイル816KB

 かつて医薬学は博物学と相当に近い関係にあり、かなり共通する対象を研究してきた。幕末までに日本人が著した医薬関連の文献も、現存するだけで一万種をはるかに越える。それら医薬学や博物学の著述年表はこれまでも個々に編纂されてきたが、代表的コレクションや著名な書だけに依拠する場合が多く、全てが網羅されているわけではない。

 一方、日本国内の現存本を中心とする日本人の著述は『国書総目録』と『古典籍総合目録』におよそ網羅されている。しかしながら、その厖大さと五十音配列のため、これまで年表化することはきわめて困難だった。ところが国文学研究資料館が両書から所在情報だけを除いて統合し、新たな情報も追加して作成した「国書基本データベース(著作編)」が二〇〇四年四月から一般にウェブ公開されたため、大量の書誌情報を電子データとして利用できるようになった。当データベースには著作約四十四万七千件、著者約六万七千件が収録される。このデータを基本に医薬学・博物学に関連する文献を総集成するならば年表の編纂も可能となり、医学史や科学史のみならず、史学全体の研究進展にも必ずや多くの意義があるに違いない。

 そこで当データベース分類で、およそ医薬・博物に関連すると考えられる分類項目、すなわち医学・鍼灸・本草・薬物・獣医・蘭学・洋学・博物・植物・動物・魚介・生物・鉱物・物産・飲食・度量衡・化学・農業について、データ検索を行った。二〇〇六年四月時点で検索された書は以下の件数で、うち成立に関連する何らかの年代が分かる件数を( )内に記す。医学一〇七二〇(二四二八)、鍼灸四七八(一四六)、本草一八一六(四七一)、薬物一八七六(三二八)、獣医一八〇(三〇)、蘭学七(二)、洋学六(二)、博物二〇六(六四)、植物六六五(一七一)、動物五三八(一二七)、魚介二〇八(五一)、生物一六(二)、鉱物一四(五)、物産三六八(一二一)、飲食一九五(六八)、度量衡一九〇(三〇)、化学九五(二五)。

 なお農業では六九八件あったが、救荒・本草・薬物・博物・洋学・蘭学に関連すると判断された二七(九)件の書のみ採録した。以上の総計は一七六五〇件で、これらより年表に必要な情報を最大限抽出した。うち成立年代が分かる四〇八〇件は年表化できるが、約七七%の年代未詳書一三五七〇件は年表の中に入れることができない。これらのうち著者名・訳者名等が分かる書はその五十音順、著者名・訳者名等もない書は書名の五十音順で配列し、年表の末尾に付録することにした。当データベースの記述等に不審点がある場合は『国書総目録』『古典籍総合目録』で再確認し、混入している漢籍にはその旨を注記、管見範囲の各種年表・先行研究等の知見により書名・著者名・年代等を訂正・補足する。

 しかし本年表は当データベースの情報を浅学な管見に基づき加工し、いささかの知見を補足しようとするに過ぎない。注意を払うつもりではあるが、書式の不統一や書名・年代の混乱および重複などが予想される。またデータ情報を見落としたり、補訂すべき情報がもれる可能性もあろう。これら以外にも不備は多々ありうると思われるが、諸賢のご叱正を賜り、改訂と増補を続けたいと考えている。

 なお本年表の作成と学術公開については、国文学研究資料館に申請してご許可をいただいた。ここに記して国文学研究資料館のご厚意に深謝申し上げる。

*本報告は日本学術振興会科学研究費平成十八年度基盤研究(B)(海外学術調査)「中国古医籍が日・韓・越の伝統医学形成史に与えた影響の書誌学的研究」の一環である。