この日は午後からDr. Caprari夫妻が住むFiorentino(AR)に電車で移動した。ここはToscana州Arezzo市のひとつ手前の駅にある小さな町。Fiorentinoの地名は各地にあるので、Arezzo(AR)を後に付けて区別するのだという。小高い山の頂上に旧城壁、その下に広場や教会などがあり、山全体が旧市街になっている。山頂から眺望したToscana平原はなだらかな起伏が連なり、乾燥して澄んだ空気のせいか遠くまで青みがかからず、一面の緑地と点在する家々の赤煉瓦色がとても美しい。宮崎駿の「ラピュタ」はきっと、こんなToscanaの風景もモデルにしたに違いないと確信した。
Caprari夫妻は停年退職して昨年末にローマからここに越し、窓の前に教会尖塔、その後方に平原を見下ろす山頂広場横の旧館に住んでいる。お宅にうかがい、パソコンで東アジア漢字コード3種が使えるようダウンロードなどした後、夕食のご招待にあずかった。広場からやや下り、中腹斜面を穿った旧倉庫らしき建物をきれいに改装したLe Volteという高級レストランで、中はかなり広い。入った広間のソファーで待つ間、横のカウンターでは左下写真のように食前の発泡ワインが注がれ、供された。シャンパンはフランス産の呼称につき、イタリアでは発泡ワインと呼ぶのだそうだ。通されたのは右下写真の円形の小部屋で、中心に一卓だけある。天井がドーム状になっているため音が回り、小声でもよく聞こえるのがユニークだった。
最初は左下写真の左上方に写る一皿。菱形の生ラザニアを揚げて膨らませたものを中心に置き、周囲にパンと生ハム・チーズ・サラミなどを盛る。これを皆でつまんでいると、右下方の冷菜が出てきた。この冷菜は盛り沢山で、メインデッシュとしてもいいほど。次に出た右下写真はマカロニのクリームソースあえ、粉パルメザンチーズがけで、湯通ししたズッキーニの雄花が四方に配される。その味はかすかに甘く苦く初々しく、カボチャの花でも応用してみたいと思った。すでに妻はこの段階で満腹になってしまったらしい。
さらに小さな容器に入った独特の味と香りのペーストが4種出て、これもパンや揚げパスタに塗って食べたが美味だった。各ペースト容器の下には保温のロウソクが灯されており、Caprari夫妻も初めて見たという。日本の宴会膳によくあるタイプの応用かと思い、これや皿の裏を見ると、すべてドイツの同一メーカー製だった。みな白いが厚手で重く、光をすかさない。すると磁器ではないらしい。Chinaつまり磁器は中国起源で、日本でも江戸初期から盛んに生産されている。ヨーロッパでは18世紀初頭のドイツで生産が始まったというが、いま現在もヨーロッパでは磁器が普及していないのだろうか。
次も左下写真のようにミートソースのパスタで、量は少ない。かなり太く、アルデンテに茹でてあるのは分かったが、未体験の腰と歯ごたえ。腰の強い手打ちうどんにやや近いので、home madeかとたずねると、そうだった。上に載った薄切パルメザンチーズは滋味がとても強く、さすが本場は違う。
これで私もかなり満腹になったところ、出てきたのが右下写真のメインデッシュ。フィレビーフステーキの赤ワインと野菜のソースがけで、野菜はニンジンやズッキーニなど。私も食べきるのに精一杯で、味わう余裕などなく、妻は一口が限界。Caprari夫妻は、こんな量の多いコースにして申し訳ないと謝りだす始末だった。といいつつ、夫妻は完食している。二人とも私より11歳上なのに。やはり違うのだ、胃袋が。
そこで最後に出ました、左写真のデザート。すでにワイン一本を空けた私はいい気分。むろん左党なので遠慮した。どうも妻は別腹に入れていたらしく、訊ねるとチョコレートケーキのチョコレートがけ、周囲はラズベリーソースとココアと即答いただいた。さすが。
このレストランはたしかにイタリアンだが、どうも普通とは違う。Caprari夫妻も一品ごとに舌鼓を打ち、食べたことがない独創料理だと評していた。あるいはイタリアンのニューウエーブなのかもしれない。ちなみに料金をCaprari夫妻にたずねるのは遠慮したが、街で最高のレストランとのこと。Arezzo市あたりからバリっとした銀行員の一団も来ていたので、かなり高い店なのは間違いないだろう。