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2001年8月〜9月 酒とカップ麺の日々

 タイトル・写真とも、わびしい台北独り暮らしそのもので申し訳ない。むかし「男おいどん」という松本零士(銀河鉄道999の作者)のマンガに同感を覚えていたが、今の生活はその中年版というところかな。ジャズ・スタンダードの「酒とバラの日々」なんて・・・、やっぱり縁がないねー。

 さて下写真は私の相棒たちのなれの果て。中身が残っているのは左から2本目だけで、左端のジョニ赤以外は大好きな台湾紹興酒の面々。なぜジョニ赤を一緒に並べたかというと、ご覧のように瓶の形が酷似しているのが以前から気になっており、それをどうしても示したかったから。

 では、なぜ台湾紹興酒の瓶はジョニー・ウォーカーと似ているのか? しかるべき人に尋ねるなら必ず確固たる理由が分かりそうだが、なぜか台湾の研究者に愛酒家は極めて少なく、私の身辺には適当な人物がいない。酒タバコ専売局の台湾省{艸+於}酒公賣局のHPを見に行ったが、WTO問題で閉鎖しているらしく、繋がらない({艸+於}は台湾独自の文字らしく、大陸語でタバコをいう烟[=煙、イェン]と同音)。そこで私の推測を書こう。相当にアブナイけど。

 日中が国交を回復する前まで、日本で紹興酒といえばこの台湾産しかなかった。私の記憶で1970年代初期もこの瓶だった。また台湾で酒・タバコは日本統治以来の専売で、国民党政府が台湾に来てからも踏襲している。今も政府の{艸+於}酒公賣局だけがこの紹興酒を生産・販売しているので、瓶の形はきっと1950年代を遡るだろう。

 それでアブナイ根拠だが、私が北京留学時代によく見せられた中国「解放」の映画では、腐敗した国民党政府の人間が酔って騒ぐシーンに、「必ず」ジョニー・ウォーカーがあった。他方、私が子供だった1950-60年代に、ジョニー・ウォーカーが高級ウィスキーの代名詞だったことをよく覚えている。それで台湾に来た国民党の彼らに気に入られるよう、専売局は紹興酒の瓶を「高級」なジョニー・ウォーカーと同じ形にした、という推測なのだが、どうかなー。

 話を本筋に戻そう。ジョニ赤を除いて左から順に精醸陳年(280元ほど)、花彫(200数十元ほど)、陳年(150元ほど)、ただの紹興酒(100元強)で、日本円には現在のレートなら3.6倍すればいい。日本に輸入されている大陸紹興酒の3年物が安くて500円位で買えるのだから、台湾産の値段はやや高い。けっきょく酒税が高いのだが、このあたりもWTO加盟で問題になっているようだ。

 ちなみに紹興は中国大陸にある都市名。一方、米穀類で醸造した酒(黄酒という)を数年以上寝かせると老酒(ラオジュョー)という。むかし矢数道明先生から5年以上も押入で寝かせてしまった高級日本酒をいただいたことがあるが、老酒に近い色と味になっていた。ともあれ老酒には上海産や山東産など各種銘酒があり、そのうちの紹興産を紹興酒という。つまり台湾の紹興酒とは、北海道産の灘の生一本みたいに矛盾した名称なのだ。

 しかし、しかし、それは、それは、どうでも、どうでもいい! 大陸では味醂なみに甘い老酒を上等とする。日本だけで老酒に氷砂糖を入れて飲む異様な習慣があるのは、むかし満州で甘い上等の老酒が入手できなかったことに起因する、という話を聞いたことがある。だけども、台湾の紹興酒は全種類とも辛口で、それが私にはうんといい。上等の2種になると、甘くなくとも胃袋に広がる滋味がある。とくに「精醸陳年」は心もとろけると言っていいが、日本にほとんど輸入されていないのは実に残念というしかない。

 さて話は突然一転してラーメンだが、私は札幌出身につき、「サッポロラーメンの伝道師」の別号があり、話すと長くなる。ともかく今現在でも週に最低一回はラーメンを食べたい。それも納得するものを。でも、それが望めない場所では、いつもインスタントのお世話になる。下手な店で後悔するより、よっぽど痛手が少ないから。などと書いていたら無性に食べたくなり、最近お気に入りのタイ製トムヤムクン味ラーメンを作り始めてしまった。

 そこで台湾で愛食のカップ麺だが、上の2メーカーのが多い。細かい点を除き、要するに日本式だから。左は「わがまま−拉麺道」ブランドで、豚骨・醤油・味噌・海鮮があったと思う。右は金車ブランドで種類は似たようなものだが、量が少し多い。値段はともにスーパーで25元(90円)くらい。

 だいたい私は大食らいを自認しており、この歳でもラーメンは大盛りでないと満足しない。量も味の一部なのだ。だから日本のカップ麺は私に量が少なく、いわゆる「ビッグ○○」ならなんとかなるが、日本ではカップ麺全体の数割というところだろう。大陸のカップ麺はほぼ全てが日本の「ビッグ」だが、「康師傅」など人気ブランドでも麺やスープの研究が足りない、といつも思う。で台湾だが、大体6、7割は「ビッグ」で、割合は日本と大陸の中間。麺に少々問題を感じるが、スープの味は日本式カップ麺なら日本と大差なく、牛肉○○麺など中国味のでも大陸のよりうんと美味い。

 で、左のカップだが、フタの緑色部分には「香濃豚骨新の味」と書いてある。一見すると日本語のように思えるが、しかし意味不明。実は「的」の草書体に「の」にそっくりのがあるせいか、所有を表す場合の「的」は日本語で所有を表す「の」とまったく入れ替えることができる。そのせいか、台湾では「的」を日本語フォントの「の」で表記する場合がとても多い。しかし「的」には日本語の「何々的」(これも中国語の影響だが)のように、名詞を形容詞に変化する機能がある。つまりこの「香濃豚骨新の味」は日本語ではなく、中国語の「香濃豚骨新的味」であり、「香りが濃い豚骨の新しい味」の意味なのだ。

 話は戻って、上写真の中央のカップには「日式」とあるが、むろん「日本式」の意味。台湾では他にも「義(イタリア)式」「韓式」など多いが、とりわけ日式はあくまでも「式」であり、けして「日本味」でない場合が多く、しばしばガッカリする。しかし、ことカップ麺では、そうガッカリすることはなかった。

 一方、右の味王社製「随沖即食−味噌豆腐−正統好湯」だが、これはインスタント味噌汁で、セブン・イレブンに必ず置いてある。日本から輸入した粉末味噌を使っているせいか、5杯分入っていて30元?位で割高だったと思うが、十分に美味しかった。味噌という和製漢語が定着しているのも、日本統治のせい。これに該当する中国の醤(ジャン)と日本の味噌は相当に味も香りも違うので、台湾で両者を区別しているのは当然かもしれない。

 書いてあるのを訳すと、「お湯を注げば即座にOK−味噌汁の豆腐入り−正統の美味しいスープ」というところだろう。私は夕食の弁当のおかずを酒肴にするので、あまったご飯は、翌日この味噌汁に入れて朝食とする場合が多い。わびしい中年版「男おいどん」だなー、やっぱり。