2001年8月8日夕食 お持ち帰り にぎり寿司 (付 露店の寿司
(地下鉄・昆陽駅「SUSHI覇」にて、70元=約250円)
←戻る

 ほんの少し前、セブン・イレブンの「うな弁」を食べて物寂しくなり、庶民派日本食は遠慮しようと心に決めた、はずだった。しかし庶民派(たぶん)台湾食を日々たべていると、やはり和食は恋しくなるもの。

 この週から調査先を市内にある国家図書館に移した。通勤は宿舎から地下鉄板南線の終点・昆陽駅までバス、そこから地下鉄で台北駅まで行き、さらに新店線に乗り換え片道約1時間の道程。その二日目の帰り、昆陽駅の改札を出たら目に入ったのが、この「SUSHI覇」という店である。覇の音はbaなので、アメリカなのどSushi Barをいただいた店名だろう。

 見ていると客がどんどん来て買って行く。しかもオジサンから女子高生・OLまで。それならいけるかな〜、とつい入ってみた。するとカラフルな「にぎり」が並んでおり、ここ数年前から日本のスーパーでなどで見かけるタイプ。つまり一個一個がセロファン様ので包んであり、50円から100円くらいのあれと同じだ。ただしネタは魚介類の種類が少なくて一個15元ほどとやや高く、10元は肉類系が多い。

 一方、稲荷や巻きずしのパック売りもあり、その中にサーモンにぎり六個70元(=約250円)があった。もちろんサーモンは北米輸入だから安いに違いない。これなら後で反省しても後悔はしないだろう、という言い訳をとりあえず用意し、夕食というよりビールの肴に購入した。宿舎に戻って袋を見ると、写真右上のように「健康の新主張−美味しい 栄養 太らない」、また小さな字で「世界の栄養学者が認める低カロリー・低コレステロール・高栄養の美食」などと印刷してある。文句なく信用することにした。暑い台湾でも一向に細くならない私にはぴったりだし。女性客が多かったはこのためか。

 写真には撮らなかったが、このパックには日本式割り箸だけでなく、醤油と醤油入れ小皿、パック入りワサビがちゃんと付いている。下写真のようにガリも。で、このにぎりはいけた。むろん日本ならサーモンばかりじゃ脂っこくて、なのだが。油の多い台湾食に慣れているせいか、ビールの肴だったせいか、日本でも回転寿司しか食べないせいか。すし飯がやや甘めとはいえ、去年屋台で食べて台湾化を心底体感した巻きずしほどではなかったし。ともあれ、この「SUSHI覇」は値段からしても結構いい。

 3、4日後の夕方、台湾大学付近でもっと大きな店構えの「SUSHI覇」の前を通った。やはり持ち帰り専門で、若い女性客であふれていた。するとチェーン店に間違いないが、にぎりを盛ったパックも写真のごとく安直ではなく、日本様式に凝っている。あるいは日本資本なのだろう。

 ちなみに分類学上の細かい話は別にして、サーモンには鮭という漢名が元々ある。平安時代918年頃成立の『本草和名』は唐代659年成立の『新修本草』から鮭を引用し、和名に万葉仮名で「サケ」と記している(なお「シャケ」はアイヌ語なまりの北海道弁)。にもかかわらず、今の日本では伝統的塩漬なら塩鮭だが、生しかもカナダあたりからの輸入品だとサーモン、と呼び分けるようになってきた。どうでもいい話かもしれないが、ともかく漢字とカタカナの違いだから由来の見当はつく。

 その影響だろうか。今は大陸・台湾ばかりか世界中の華人社会で、寿司や刺身の場合、サーモンを「三文(紋)魚」と音訳している。一方、台北のデパート・スーパーでは、「鮭魚」の名で日本輸入の塩鮭を売っている。とすると今の中国ではほとんど産出しない魚につき、漢名があるのを知らずに日本の加工品「鮭魚」を和製漢語と理解、別に北米あたりからの輸入生(冷凍)品には「三文魚」の新漢名を作り、両者を区別しているのだろうか。文化は伝播すると変容するのだ。

 露店の寿司

 下写真は2000年8月から11月まで、台湾中央研究院歴史語言研究所の短期客座研究員として台北に滞在していた8月初旬に撮影したもの。共同研究していた李建民さんの奥さんが研究院から徒歩10分ほどのところにある伝統的市場を案内してくれ、目にとまった。左写真の下中央のパックをクローズアップしたのが右写真。日本統治時代に定着した寿司が、戦後も影響を受けつつ台湾化したらしい。

 この時は購入しなかったが、付近のスーパーでも同様にカラフルな寿司が売っているので、後それを買ってみた。甘みが強いのと生魚のネタが少ないのを除けば、案外いけた。一個のボリュームも日本よりあるし。

 ちなみに左写真は同じマーケットで売っていた貝。このような大きな袋からの量り売りで、日本と売る量が違い、驚いた。上はアサリ、下はシジミの類と思う。食堂では塩味のスープとして、これら貝の出ることが多かった。