2001年8月3日夕食 うな丼弁当
(台北南港区研究院路の7-ELEVENにて購入、70元=約250円)

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 ちょっと寂しい夕食だった。まずは下の写真を見ていただきたい。

 左写真はセブン・イレブンで、台北の中心部なら十数メートルおきにあるのでは、と思うほど蔓延(失礼)している。その全店の入り口の上部に最近、写真のように「活うなぎ うな丼 用心登場」という広告が出た。それでしばらく躊躇していたが、「日本緑茶のペットボトルつき」という誘惑に気づき、意を決して8月3日の夕食に選択した。

 ただ、商売上やはり広告の漢字が気になる。大体、写真右上の御「弁当」は日本の略字だ。それを「辨當」と書かないのが困る。台湾のセブン・イレブンは日本資本のようだが、旧漢字の台湾に日本の当用漢字を持ち込んでコマーシャルにつかうなんて・・・。たぶん、その方が効果的なのだろうが、一種の文化侵略じゃあないの? そもそも日本語の「お弁当」を漢字で御弁当や御辨當・御便當と書こうが、いくら無理しても「御するに當たるを辨ず」「當たるを御辨す」「御し便ぐに當たる」など、意味不明の訳にしかならない。

 もう一つは「丼」だ。この字は井戸の「井」の古字とはいえ、今の中国語では使わない。どんぶり(略して「どん」)の意味・発音で使うなら日本国字(和製漢字)とする。井戸に物(ヽ)を落とすと「ドンブリ」という音がするので、丼の字と「どんぶり」の読みが出来たという、かなり怪しい語源説すらある。この和製漢字を台湾人にどう読ませようというつもりなのか。「マンユー(鰻魚)ジン(井)」ならまだしも、「マンユードン」だったらどうしよう、といらぬ心配までしてしまう。ただし、かつての日本植民地支配のため、台湾では相当に日本語彙が普及しており、どうも丼の意味を台湾人は自然に理解できるらしい。

 さて店に入って見たら危惧したとおり、どんぶり型ではなく、弁当型のプラスチック容器に納まった「鰻魚丼」弁当だった。だったら「うな重」弁当と言いなさい、とも思ったが、「鰻魚重」弁当ではますます中国語で意味不明に違いない。ともあれ意を決した以上、買わないわけにはいかない。しかし、一見して寂しさを覚えた。そこで目新しさもあったが、ついでに本能的に買ったのが左写真右上の「韓式泡菜(キムチ)」おにぎり15元(約55円)。辛いの大好きの私にこれは正解で、日本で売り出しても結構いけるのではと思うほどだった。

 で、うな丼弁当である。看板どおり「活きうなぎ」かは分からないが、うなぎ養殖のおかぶを日本から奪った(今は大陸)だけあって、肉厚も柔らかさも脂ののりも、この値段なら、というレベルだった。人によっては脂がきつい、と感じるかも知れないが。ただし問題は、右写真のように蒲焼きに胡麻が振ってあったり、かかったタレに糸切りショウガが混じっている、ということではない。さらに山椒が付いてなかったのも大目に見よう。おまけの「日本緑茶のペットボトル」にも幸い砂糖が入ってなかったし。

 それで左右写真の左下にあるものを察知いただけるだろうか。ガリ。そう寿司屋で口休めにつまむ、あれ。れれれ?と一口かじって思ったが、左上の卵焼きを食べて合点がいった。甘いのだ。これは形こそ違え、完全に厚焼き卵の雰囲気。そーか、そーか、寿司の雰囲気を出そうとしているのだ。最近の回転寿司には蒲焼きの寿司も普通にあるし、寿司屋でうな重を出す店もあるしねー。うな丼と寿司を同時に楽しめるようにしたんだ、台湾セブン・イレブンさんは。

 そう納得しようとして食べたが、やはり変だ。しかも何か物寂しい気分なってしまった。自国文化が外国に受容されることは、理屈ぬきでうれしいことなのに・・・。ということで、台湾では夕食にいわゆる「日本料理」を食べないのが無難、という教訓に達してしまった。あーあ。