2-3.HCV陽性肝癌のGWAS
一方日本人においては他の国と異なり、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染者が多く、肝癌の約70%はHCVが原因となっている。HBVと異なり、HCV感染者の多くは慢性肝炎や肝硬変などの肝機能障害を有しており、未治療であれば感染から20-40年を経て、肝癌を発症するが、症状が軽微で安定している患者も大勢いる。我々はこのような個人間の違いを決めている遺伝因子を明らかにする目的で、HCV陽性肝癌721例、非HCVコントロール2890例を用いてゲノムワイド関連解析を行った。さらに独立した肝癌673例、コントロール2596例を用いて追試したところ、MICA遺伝子のプロモーター上のSNPが肝癌の発症と関連することが明らかとなった17。
さらに肝癌症例を用いて切断型MICAの血中濃度と遺伝子型の関連を検討したところ、肝癌のリスクが高いAA型で血中MICA濃度が顕著に減少していた(図9)。MICAはウイルス感染や癌化した細胞の表面で高発現しており、免疫細胞の一種であるNK(Natural Killer)細胞はMICAを高発現している細胞を認識・攻撃し、我々の体から駆逐する。我々研究成果により、MICAの発現が低い人ではウイルス感染細胞がNK細胞の監視機構から逃れるため、肝癌に進展しやすくなるという機序が予測された(図10)。この結果から、慢性C型肝炎患者のMICA遺伝子型を調べることで、肝癌の発症リスクが予測可能となる可能性が示された。