株屋主導・FDA協賛のニセ薬広告

誇大広告どころじゃない.どこかの国の「脳循環代謝改善薬」以上の世紀のイカサマをこうも大胆に承認しちまうんだから.
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効果不明の筋ジス新薬、FDA承認の裏側 起死回生ねらう企業と患者家族が「ロビー活動」 WSJ 2017 年 5 月 29 日
http://jp.wsj.com/articles/SB12759854608153193634404583174602182789378

 専業主婦のジェニファー・マクナリーさんは必死だった。筋力低下が進行していく難病、筋ジストロフィーのデュシェンヌ型患者である2人の息子を、早期の死から救う可能性がある治療薬を探していた。
 米バイオ医薬品会社サレプタ・セラピューティクスの当時の最高経営責任者(CEO)クリス・ガラビディアン氏も必死だった。右肩下がりの業績を好転させるために高収益の新薬を求めていた。
 この2人が2012年6月、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の会議で出会った。そしてDMD治療薬を米政府が承認するよう働きかけるという数年に及ぶミッションで協力することになる。こうした努力は大抵水面下で進められ、世間に知られることはほとんどない。
 当時、この薬の有効性は定かでなかった。米当局が懐疑的な姿勢を示す中、同社のコンサルタントは、マクナリーさんや他の患者家族が米食品医薬品局(FDA)を説得し、この薬が子供たちの回復を助けていると確信させるため、巧みに構成された証言を準備するのを助けた。患者の両親や同社のマネジャー、当のコンサルタントの話からその舞台裏が明らかになった。
 サレプタ社が取ったのは、患者の両親が語るストーリーを最大に生かして感情に訴える方法だ。それがなければ、DMD治療薬「エテプリルセン」は承認されなかっただろうと、株式アナリストや投資家、事情に詳しい関係者は話す。
 FDAの諮問委員会は昨年、この薬の承認を7対6で反対したが、その判断は結局ひっくり返された。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の取材で、委員の大多数はサレプタ社のコンサルタントが患者家族にどのような助言を与えていたかを知らなかったことが分かった。
 「知っていたら、反対票は増えていたかもしれない」。委員の1人であるブルース・オビアゲル博士は、コンサルタントの関与について知った後に語った。
 FDA諮問委員会の議長を務めたジョン・ホプキンス公衆衛生大学院の医薬品安全性・有効性センター共同所長、G・ケイレブ・アレクサンダー博士は、企業と患者側グループの関係について知ることは重要だと述べた。「エテプリルセンの開発段階でそれがどんな働きをしたのかについて諮問委員会はほぼ情報を得ていなかった」
 政府の承認を必要とする企業は、痕跡の残りにくい新たな手段で意思決定者に働きかけを行い、世論を動かそうとしている。その一つが草の根組織の隠れた関与だ。こうした戦術の多くは、長年定義されてきた「ロビー活動」の範ちゅうに収まらない。当局の目にも市民の目にもさらされず、企業が政策決定者とどう接触しているかを知ることは困難な状況だ。
 本稿の記述は、エテプリルセンの承認申請を巡る患者や企業関係者、投資家、FDA当局者や元当局者へのインタビューに基づいている。

利用された「親の思い」
 マクナリーさんが2012年にガラビディアンCEOに初めて会ったのは、エテプリルセンの治験がまもなく1年の節目を迎える頃だった。
 DMDは男児に見られる遺伝性疾患で、多くの場合、幼稚園生ぐらいの年齢で症状が見つかる。筋力が徐々に奪われていき、青年期までに多くの患者が車いす生活となる。筋肉を機能させるのに不可欠なタンパク質「ジストロフィン」が欠損することが原因で、やがて心臓や呼吸器の停止に至る。30歳を超えて生存することはまれだ。
 研究者によると、エテプリルセンはこのタンパク質の生成を促し、DMDの進行を遅らせる可能性があるという。
 「この薬は効き目がある」。DMD会議に参加したマクナリーさんはガラビディアンCEOに自己紹介しながらこう語った。一番下の息子マックス君(当時10歳)はオハイオ州の病院、ネーションワイド・チルドレンズ・ホスピタルで実施されたエテプリルセンの治験に参加した12人のうちの1人だ。マクナリーさんの話では、薬を4カ月投与されたマックス君は牛乳パックを開封できるようになり、車いすに頼ることも減ったという。
 マクナリーさんはサレプタが求めていた「チアリーダー」だった。同社は新興企業向け株式市場を運営するナスダックから、株価1ドルの水準を維持できなければ上場廃止の可能性があると警告されたばかりだった。
 ガラビディアン氏はWSJに対し、同氏のCEO就任後の1年半で同社はエテプリルセンに3000万ドルを投じており、資金調達に問題を抱えていたと語った。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬の「エテプリルセン」
 米国内の患者1000人以上がエテプリルセンを利用できるようになる前に――そしてサレプタ社が治療費用として患者に年間30万ドル(約3300万円)余りを請求できるようになる前に――FDAの承認という関門を通過する必要があった。
 DMD患者の息子を持つキャサリン・コリンズさんは、今から振り返ると「サレプタ社は規制をパスするために親を利用した。私たちは熱心に協力したが、彼らは親の切羽詰まった思いにつけ込んだ」と話す。
 一方、2015年からサレプタのCEOを務めるエドワード・カイエ博士は、同社は患者の親に薬がどう効くかの直接的な所見をFDAに述べる機会を設けたことなどにより、DMD患者グループと「真のパートナーシップを構築できていた」と話す。
 今年1月までFDA長官を務めたロバート・カリフ氏は、サレプタのケースは「もっと良いやり方があったと思われる事例だ。資料やプレゼンテーションの情報源、それに誰が関与したかを公表すべきだった」と語った。

「近道」への期待
 ガラビディアン氏と当時は最高医学責任者だったカイエ氏は、2012年の会議でエテプリルセンの有効性を示唆する治験の初期データを発表した。
 株価が1ドルを割り込む中、ガラビディアン氏には時間的な余裕がなかった。カイエ博士は治験患者の「ジストロフィン」の値を測定した結果、薬の作用と見られる上昇を示したと述べた。さらに、6分間の歩行距離を測定したところ、12人中10人は平均で15メートル以上長く歩けるようになったとした。半面、2人は歩けなくなったという。
 会議から2週間後、同社は1対6の株式分割を実施。これで株価は上昇し、ナスダック上場廃止を免れた。このとき社名も AVIバイオファーマ からサレプタに改めた。
 その年の7月24日、治験開始から36週間で患者に「大幅な臨床効果」が見られたと発表すると、株価は8ドルを突破。48週間の節目に再び良好な結果を発表すると、株価は45ドルに迫る水準に跳ね上がった。
 それでも、サレプタは、医薬品の有効性と安全性を証明する治験の第3相(フェーズ3)および第4相(フェーズ4)段階まで資金が持つかという懸念を抱えていた。一方、患者の親からは一刻も早い治療を求める声が上がっていた。
 それを解決する「近道」の一つが、新薬の迅速承認という臨床効果が証明される前に薬の販売許可を与える制度だった。これを利用すれば、DMDのように治療法のなかった疾患をより早期に治療することが可能となる。サレプタの場合、エテプリルセンの承認審査に必要なのは、効果があったことを証明するのではなく、臨床効果を生む「妥当な見込み」を示す治験データとなる。
 12年秋、ガラビディアン氏が出会ったのは、DMD患者の息子ジェット君(21)を抱える元看護師のクリスティーン・マクシェリーさんだ。5歳でDMDと診断されたときは母子心中も考えたというが、その代わりにマクシェリーさんは治療を訴える活動を始めた。同じDMD患者の母親であるマクナリーさんとは、前年の11年に患者が集まるキャンプで知り合っていた。

自宅でDMD患者の息子ジェット君の世話をするクリスティーン・マクシェリーさん
 9月12日、マクナリーさんの夫はこうツイートした。「マックスを今朝学校の前で降ろした。車いすなしだ」。投資家がこの投稿に気づき、サレプタ株の出来高は急増した。10月31日、マクナリーさんの夫が今度はマックス君がハロウィーンのパレードを練り歩く動画を投稿。翌日、株価は10%高となった。
 「投資家の間で関心が高まったのは、この薬が息子の助けになったという母親の声を聞いたことが大きな理由だ」と、サレプタ株を購入した投資マネジャーのブラッド・ロンカー氏は話す。

訪れた挫折
 翌13年2月、マクシェリーさんとマクナリーさんは他の活動メンバーとともにFDA当局者に会った。マクナリーさんは17万人以上の署名を集めた承認の迅速化を求める請願書を手渡した。
 母親たちがこの日出会ったのがFDAの医薬品評価研究センター(CDER)の所長、ジャネット・ウッドコック博士だ。ウッドコック博士はいつでもオフィスを訪ねて来るようにと言った。
 実際、4月に彼女たちはウッドコック博士や他のFDA幹部2人に面会した。マクナリーさんはマックス君の具合がいかによくなったかを説明し、歩行しているビデオも見せた。マクシェリーさんの話では、FDA側はもっと多くの映像を集めるよう助言し、髪をとかしている場面などが重要だと伝えたという。
 ところが13年秋、サレプタは「挫折」に見舞われた。競合する英製薬大手 グラクソ・スミスクライン がエテプリルセンによく似た働きのDMD治療薬で3回の治験を終えたが、290人が参加した治験の結果は説得力のある内容ではなかった。
 「ジストロフィンに対する有効性は小さいと思われ、臨床効果をもたらした可能性は低い」とFDAは後に内部資料に記した。
 FDAはサレプタに対し、グラクソ・スミスクラインの調査結果はエテプリルセンの効果を疑わせるものだと告げた。サレプタが同年11月12日にこれを公表すると、株価は前日比64%安の13ドルに落ち込んだ。

「目撃証言」が必要
 14年5月、FDAで法律顧問を務めたフランク・サシノウスキ氏は、ネーションワイド・チルドレンズ・ホスピタルのカフェテリアで、マクナリーさんを見つけた。このときサシノウスキ氏はサレプタに雇われ、エテプリルセンの承認申請に関する助言をしていた。
 マクナリーさんはすでに有名な活動家として新聞やテレビなどで何度か取り上げられ、息子のマックス君に表れた効果について語っていた。
 FDAはサレプタに治験結果の見直しを要請していた。FDAは後に、同社のデータを「説明不可能」で「信頼性を欠き」「誤解を招く」としていたことが内部資料から分かる。これらFDAの判断は公開されなかった。サレプタは10月27日、データに「著しい相違点」があるというFDAの評価を公表。株価は前日終値から30%超下げた。
 FDAによると、新たに治験データを再審査した3人の研究者らは、エテプリルセンが一部の患者では「ジストロフィン」のわずかな上昇しか引き起こさず、サレプタが以前示した「大幅な」上昇ではなかったことを認めた。またFDAの資料は、それを裏付けるとされた2013年の学術論文や投資家を引きつけたサレプタの発表が、患者家族の間に「きわめて非現実的な期待を高めることになった」と指摘した。
 FDA当局者は14年秋、サレプタと面会してこの結果を伝え、最大24人の新しい患者からさらに3カ月分のデータを集めるように提案した。
 サシノウスキ氏と母親のマクナリーさん、マクシェリーさんは、患者がいかに改善しているかを家族や介護者の立場から証言する新しいプランを練った。

息子ジェット君に投与する薬の準備をする元看護師の母親マクシェリーさん PHOTO: ADAM GLANZMAN FOR THE WALL STREET JOURNAL
 2人の母親はサシノウスキ氏にウッドコック博士の助言を伝えた。FDAは患者が実際に何かを行っている映像のほか、薬の効果に関する定量化できる情報に興味があるとのことだった。
 「水の動きを感じ取った」。コンサルタントのサシノウスキ氏はこう打ち明ける。FDAは「患者の体験談」を聞きたがっていた。患者の映像やストーリーは「調査報告書的な何か」に織り交ぜれられると思ったという。

覆ったFDAの判断
 マクシェリーさんの息子ジェット君もエテプリルセン投与の許可が下り、14年11月から治験に参加した。呼吸が困難だったジェット君は2カ月後には睡眠が改善し、いびきが止まった。
 サレプタは110人の新たな患者が参加する大規模な治験に着手。そして15年6月、治験データをもとに正式な承認申請を行った。
 一方、サシノウスキ氏は2人の母親と力を合わせて数カ月分の測定結果を集め、FDAの意向に沿う形で50ページの資料を作成した。エテプリルセン投与後に息子たちは転倒しなくなり、車いすで過ごす時間が減ったことを示す棒グラフや表などを盛り込んだ。
 「厳格な査読者にも容認可能な形にできる限り近づけた」とサシノウスキ氏は話す。
 15年7月、マクシェリーさんとマクナニーさんはFDA当局者に対して2時間の非公開プレゼンテーションを実施。その中には、エテプリルセンによって自分たちの症状がいかに改善したかを説明する少年のビデオもあった。
 さらに2人は、外部の専門家で構成されるFDAの諮問委員会にもこのプレゼンテーションを行いたいと希望した。FDAはこれに同意し、サレプタは16年4月25日に諮問委員会が開く公聴会の持ち時間の一部を母親たちに譲ることにした。
 しかし、患者の親の話と、FDAが示した治験データの解釈には食い違いがあった。FDAによると、治験データでは薬を投与された患者の歩行テストの結果は悪化していた。
 マクナリーさんは委員に訴えた。「先週、14歳半になるマックスはベッドから起き出し、服を着た。靴を履き、リュックを背負った。誰の助けも借りずにスクールバス乗り場へ向かった」
 諮問委員会は7対6で迅速承認制度の適用に反対した。治験結果は薬の有効性を示す十分な証拠にならないと結論づけたのだ。
 FDA薬審査部の責任者、エリス・アンガー博士は16年7月15日のメモで、FDAの審査チームは満場一致でエテプリルセンの承認を拒否したと述べている。
 ところが7月14日、普段はめったに承認プロセスに介入しないウッドコック博士が、諮問委員会とFDA審査チームの判断結果をいずれも覆した。ウッドコック博士はメモの中で、エテプリルセンの「臨床効果を予見する妥当な見込みがある」との考えを示した。同博士は広報担当者を通じ、自分の判断についてのコメントは控えるとした。
 薬審査部のアンガー博士は、FDAでこうした論争を処理する委員会に申し立てた。アンガー博士は申告書の中で、エテプリルセンは「科学的に洗練された偽薬(プラシーボ)」だとし、「苦難やリスクと引き換えに誤った希望」を与えていると主張した。また、「前例のないロビー活動」のせいでエテプリルセンが迅速承認を勝ち取ったと市民は受け止めるだろうと述べた。
 FDAの資料によると、委員会の責任者も、薬が臨床効果をもたらす「妥当な見込み」を示していないというアンガー博士の結論に同意した。そして、当時FDA長官だったカリフ氏にこの論争の決着が委ねられた。カリフ長官は結局、ウッドコック博士の「判断と権限」に従うことにしたとFDAのメモは記している。
 9月19日、マクシェリーさんがジェット君の登校準備を手伝っていたとき、携帯電話が鳴った。ショートメッセージを同時に受信した娘さんの叫び声が響いた。「やったわ!」
 FDAがエテプリルセンを承認した知らせだった。マクシェリーさんはガラビディアンCEOのボストンの自宅に駆けつけた。「私たちは抱き合って涙を流した」とマクシェリーさんは振り返る。数日中にサレプタの株価は2倍以上の60ドルに急騰した。
 足元の株価は35ドル前後で推移する。一部の保険会社はこの薬をカバーするのを拒否している。エテプリルセン(商品名:Edondys 51)のラベルの文言にはこうある――臨床効果は「まだ立証されていない」。
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参考
Eteplirsen続報:プラセボ対照なんてクソ食らえ
あんたの負けだよ,Woodcock
FDAから論文撤回勧告?ーeteplirsenを巡るドタバタ劇ー
株価と科学の関係

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