ニュルンベルク裁判再びI was just follwing protocols
- FREED研究における重大な研究倫理違反 -

Febuxostat for cerebral and cardiorenovascular events prevenntion study. European Heart Journal, ehz119, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehz119
高尿酸血症患者に対するフェブキソスタット製剤による脳心腎血管関連イベント発現抑制効果について(FREED):国立循環器病研究センター報道発表(2019/3/8)

1.IF23のハゲタカの餌食となったFREED研究
2.標準以下の治療に放置された対照群
3.「ニュルンベルク綱領違反」という意味
4.なぜ誰も声を上げなかったのか?
5.試験のテクニカルな側面
6.ではどうすべきだったのか?
.失敗の本質 臨床研究版:初心者向けの教材として

1.IF 23のハゲタカの餌食となったFREED研究「史上初の『降圧を超えた効果』を示したアンギオテンシン受容体拮抗薬」から「史上初の腎機能低下抑制作用を示した尿酸降下薬」へ
第二のディオバン事件,否,ディオバン事件よりも悪質な誇大広告,否,広告にさえなっていない.なぜならば,デザインの段階で既に対照群が実薬(フェブキソスタット)群よりも不利になるように,プロトコールに明記されているからだ.だからといって直ちに絶望するには及ばない.こんなインチキ,否,こんな研究倫理違反が広告になるわけがない.帝人ファーマはそこに「活路」が見出せる.帝人ファーマがKyoto Hear Studyでノバルティスが受けたとばっちり二の舞を免れるためには,居並ぶ報道陣の前で下記のように大見得を切ることだ.

「我々はノバルティス同様,
IF 23のハゲタカジャーナルに嵌められた被害者だ.本来なら,リュッシャー(Thomas F. Lüscher, Editor-in-Chief,  European Hear Journal)は,こんな重大な研究倫理違反は即刻リジェクトすべきだった.つまりこの事件の一義的責任はリュッシャーにある.だからといって我々は,馬鹿なマスコミからの言い掛かりによる刑事訴追を座して待つような,どこかの外資企業のようなヘマな真似は絶対にやらない!! ナチの人体実験同然の「臨床研究」の別刷を,適応外使用を期待して配って回るようなヘマな真似は絶対にやらない.そういうことだ.そうすれば別冊購入に叩いた大枚も特別損失として計上できるから一挙両得だ!!どうだ,参ったか,馬鹿なマスコミども,そしてGVP/GPSPが何の略号かも知らずにディオバン事件を立件した身の程知らずの特捜検事ども!!」
特捜だって,「もうあんな筋の悪い事件はこりごりだ」と思っている(そもそもt検定一つやったことのない連中が裁判で勝てるわけがなかったのだ).

一方,戦後日本の歴史の中で最も深刻な倫理的問題を抱えた研究を,検察官同様,科学のかの字も知らない,自称「ジャーナリスト」達がどう扱うか,そして来たるべき裁判の場が,日本ではなくてワーグナーのオペラで有名な町になるかどうか.それは全く別の話だ.その際,臨床研究法の施行時期は全く関係ない.何しろヘルシンキ宣言は1964年から,さらに,その母体となったニュルンベルク綱領は1947年にできたのだから.

では,FREED研究論文に名を連ねるお医者様達がニュルンベルクへの召喚を回避するためにはどうしたらいいだろうか?困ったことに今回は責任を押しつける生物統計家がいないのだ.帝人ファーマは金を出すだけで,試験デザインや統計には全く関わっていない.それは,FREED研究の試験デザイン論文を見れば一目瞭然だ.下記に示すように,こんな恥も外聞もないインチキな試験デザインを考えられるのは,臨床試験も生物統計を全く知らない医者以外にない.かくなる上は,他人に責任を押しつける他ない.

「確かに我々は臨床試験・生物統計の素人だった.だからこそ,FREED研究が立派な研究だと心の底から信じていた.その堅い信仰を以て試験を遂行した.倫理委員会からも指摘事項はなかった.FREED研究の成果を世界中からトップクラスの循環器研究者が集まる国際学会で発表した時は,万雷の拍手だった.その発表をハーバード大学の偉い先生だって褒めてくれた.そして,インパクトファクターが23の国際誌に論文が載った.つまり,臨床試験・生物統計の素人だった我々が堅い信仰を以て遂行したFREED研究は,科学の面でも世界中の専門家の二重・三重のチェックを受けて世界最高レベルで担保された素晴らしい研究である.そんな素晴らしい研究を貶めているのは,世界中でただ一人,仙台高検の検事からも藪医者呼ばわりされている矯正医官だけだ.あなたがたは,そのどちらを信じるのか?FREED研究には土橋鑑定同様,科学的に一点の曇りもない.残るはそれを信じるのか信じないのか,信仰の問題だけである

2.標準以下の治療に放置された対照群
論文には下記のように各群の介入が記載されている.(左図 論文のSupplementary Figure S1)
Control: 100 mg of allopurinol was considered if serum uric acid was elevated during the study period starting from the time of enrolment.
Febuxostat: (i) the starting febuxostat dose was 10 mg/day; (ii) at week 4, the dose was increased to 20 mg/day; (iii) at week 8, the dose was increased to the target dose of 40 mg/day.

●対照群では尿酸値を開始すべき具体的な数値は示されていない.しかも考慮せよと書いてあるだけで「開始せよ」とはどこにも書いてない!!尿酸値がたとえ10mg/dlであっても,考慮するだけで開始しなくてもよかった.つまり対照群の被験者全員がアロプリノールを処方されていたわけではない.むしろ,高尿酸血症があるにもかかわらず,維持量の半分のアロプリノール100mgを医師から恵んでもらっていたのは,3割に満たなかった(145/533=27.2%)
アロプリノールの維持量は200mg〜300mgである.つまり,対照群の被験者は,ブラインドのかかっていない担当医から,たとえ運良くアロプリノールを恵んでもらえたとしても,必要量の1/2〜1/3しか処方してもらえなかった
 ●一方,フェブキソスタット群の被験者は,尿酸値が2.0mgを下回りさえしなければ,全員常用量である40mgのフェブキソスタットを処方してもらえた.
●当然,実際に観察された尿酸値も,対照群よりもフェブキソスタット群の方が試験期間を通じて有意に低かった.(右下図 論文のFigure 2)

3.「ニュルンベルク綱領違反」という意味
PROBE (Prospective Randomized Open Blinded Endpoint)を採用していることからもわかるように,このFREED研究はフェブリクが販売開始となった2011年5月から2年半も経った2013年11月に開始された,市販後臨床「研究」だが,それが到底研究の名に値しないこと,なぜなら,ヘルシンキ宣言はもちろん,ニュルンベルク綱領にさえ従っていなかったことを,以下に説明する

この「研究」が進行している時に,もしあなたが,健康診断で尿酸値が高いと指摘されて,お医者さんに,しぶしぶ行ったとしよう.

「会社の検診で尿酸値が高いって言われてしまって」
「食生活はどうなさっていますか」
「さすがに怖くなって,清水の舞台から飛び降りるつもりで,晩酌のビールを500mlから350mlに減らしました!」
「それはそれは,苦渋の決断でしたね.それ以上苦労しないで済むように,痛風予防の新薬がありますよ.古い薬よりずっといいですよ.ほんのちょっと高いけどね」
「どのくらい違うんですか?」
「新しい方のフェブリクは維持量の40mgで一日100円ちょっと.古い方のアロプリノールは同じく維持量の200mgで一日15円」
「うーん,一日85円ですか.プレミアムモルツ500mlと,同350mlの差額分にほぼ相当しますね.だったらフェブリクにします」
「(なんのこっちゃ).そうですか.ところで,今,当院はフェブリクを使った研究に参加していましてね.池田さんも一つどうですか?」
「はあ・・・研究って,失礼ですが,先生,それ人体実験じゃないんでしょうね?」
「とんでもない,フェブリクは3年も前に厚生労働省が認めた正真正銘のお薬です.人体実験なんてとんでもない」
「だったらいいんですが,その研究に参加したら,私は何がもらえるんですか?」
「いや,池田さんに特別にやってもらうことはありませんし,こちらから何か差し上げることもありません.ごく普通に外来に来て頂くだけでいいんです.純粋に学問的な研究ですから,金品のやりとりは一切ありません」
「それならいいんですけど・・・研究に参加すれば,お薬のお金は払わなくて済むんですよね?」
「あっ,いや,フェブリクもアロプリノールも,もう世の中に出ている薬なので,ただで提供するわけにはいきません」
「じゃあ,何のための研究なんですか?私にとって何の得があるんですか?」
「いや,この研究は個人の損得を超えた社会事業で,私自身も製薬企業から利益をもらっているわけではないんです.もちろん,研究への参加は池田さんの自由意思でお願いします.参加・不参加はあくまで池田さんのご自由ですし,いつでも止めることもできます」
「そうですか.それほどまでにおっしゃるのなら」
「参加していただけますか,ありがとうございます.ではここに御署名をお願いします」

(その後ほどなくして,池田さんが血相を変えて来院した)

「先生,一体どういうことなんですか?!」
「どうしました.薬が体に合わなかったとか・・・」
「冗談じゃない,新薬じゃなくて,古い薬じゃないですか!!」
「ええっと,そう,アロプリノールですね.安い方・・・」
「私は新薬をお願いしたはずです.そのためにもビールを減らしたんだから!!」
「ああ,その点でしたら,アロプリノールは維持量半分の100mgで7.7円だから,お金に余裕ができてビールも500mlに戻せますよ.プロトコールではビールの制限はありませんし,実際ビール自体は尿酸値にはそれほど影響しないことがエビデンスとして確立しているので・・・・」
「バカヤロー!!ふざけるな!!早くフェブリクの処方箋を書け!!」
「あの,でも,池田さんは研究に参加していただいていますので,くじ引きでアロプリノールしか飲めないことになっていて・・・」
「何だと!!くじ引きだとぉ?!人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!今時,患者の希望する期待の新薬を飲ませずに,発売から50年も経った古い薬を,それも必要量の半分も飲ませないなんて,学会ガイドライン違反どころか,ナチの人体実験と同じニュルンベルク綱領違反じゃないか!!
「では,人体実験,もとい,研究の方は参加取りやめということで・・・」
「当たり前だ!!もうこんなところには二度と来ない.ナチまがいの人体実験に関わらない医者なんていくらでもいるんだから」

とまあ,こういう光景が全国で繰り広げられた・・・・のではなかった.なぜなら,対照群での脱落率はフェブキソスタット群と全く変わらないからだ.それは何故なのか?治験に参加した医師は,全員,「私はただプロトコールに従っただけだ」とでも言うのだろうか?

4.なぜ誰も声を上げなかったのか?
FREED研究で重大な問題となるのは,それが企画され,研究計画が論文化され,研究が完遂され,その結果が欧州心臓病学会で発表され,ついにはIF=23のEuropean Heart Journalに発表されるまで,(私が知る限り)誰一人として,その非倫理性に対して声を上げなかったことだ.ミルグラム実験では,実際には電気ショックは与えられていなかった.それでも被験者達は重い心的障害を負った.FREED研究では,ミルグラム実験以上の驚くべき結果が得られた.すなわち,研究に参加した医師達は,論文でも公開されていたプロトコールを承認した上で,対照群の患者を,学会が定める適切な治療を受けられない状態に3年間も放置し続け,何の良心の呵責も感じなかった. ナチス,731部隊ハンセン病優生思想・優生保護法,そしてFREED研究に共通するのは、医師たちが抗議をせず、逆にその活動に対して、彼らの知識と技術を進んで提供したという点である。

●既に世の中に出て「世界的に治療薬の種類が少なかった高尿酸血症・痛風治療の領域において、約40年ぶりの日本発の新薬として世界中に導出され,患者さんに新たな治療選択肢を提供した」と大々的に宣伝されていたフェブリクを3年間十分量服用していた群と,発売後50年近く経ったアロプリノールを,それも3年間,必要量の半分しか飲めなかった群とで,自発的脱落者の比率が同様(フェブキソスタット群9.3% vs 対照群8.3%)という事実は如何に形成されたのか?
●「余りにも患者を愚弄にした『臨床試験』」ではないか?」そう疑念を持つ医師が一人もいなかったのか?そんな矮小なアイヒマンばかりが,この「研究」に参加していたのか?それとも,そういう疑念を持った医師がいたとしても,何らかの理由で声を上げられなかったのか?これは極めて興味深い問題である.→ FREED研究のような「些細なこと」に対して疑問を持つ能力(あるいは「勇気」)が無いのなら,もっとはるかに重大な権力からの圧力に対して抵抗できるわけがない!!


5.試験のテクニカルな側面
FREED研究では,試験のデザイン,遂行,論文発表に至るまで,倫理の問題は常についてまわる.FREED研究のテクニカルな側面も改めて分析した上で倫理の問題のとの関係を改めて論じる必要があるが,それはそれでまた大変なので,後日ページを改めて論じることにして,下記のほんのさわりだけ.
●この試験で示されたのはアロプリノールに対するフェブキソスタットの有効性ではない.なぜなら,試験デザインがそうなっていないから.
●せっかくヘルシンキ宣言違反までして得られた糞も味噌も一緒くたのエンドポイントだって,パワーが1/3の100mgアロプリノールに辛うじて勝てたのは,糞(腎機能)だけで,MACE major adverse cardiac events を含むハードエンドポイントでは全く差がつかなかった.(上記論文のTable 2 こちらも興味のある人だけ,自分で見てね)
●他にも,試験の途中で(!)糞味噌一緒の主要評価項目をさらに水増しする(心血管以外の死亡も入れてしまう等)とか,臨床研究法との絡みとか,保険ただ乗り市販後臨床試験とか,ネタに事欠かない「臨床研究」なのだが,これらの点についてはページを改めて説明する予定.

6.ではどうすべきだったのか?
まともな試験を行うのは,実は簡単なことだった.なぜなら,良質なガイドラインが,既に2008年に出ていたからだ.具体的には,血糖降下薬と尿酸降下薬,どちらも心血管イベント抑制効果のエビデンスが欠けている点は共通している.だから血清尿酸値の目標値を設定し,対照群の全例でアロプリノールの維持量一杯まで増量できるようにして,アロプリノールに対するフェブキソスタットの非劣性を検証する.非劣性が証明されたら,次に優越性を検証する.それだけでよかった.実際,CARES試験はそうやって行われた.そんなことは,今時,気の利いた学生なら理解できることだ.ニュルンベルク綱領もヘルシンキ宣言も読まずに「臨床試験」を完遂するような方々には到底理解してもらえないだろうが.

7.失敗の本質 臨床研究版:初心者向けの教材として
このFREED研究には,ニュルンベルク綱領並びにヘルシンキ宣言違反という,初心者でも回避可能な根本的な過ちはもとより,臨床研究・臨床試験に実際に関わったことのない者がしばしば犯す過ちがてんこ盛りゆえに,初心者向けの教材としてはうってつけである.

参考
無症候性高尿酸血症への安易な薬物療法はNG(日経メディカルオンライン 2019/4/16):私のHPなんぞよりずっとバランスのとれた記事です.
見捨てられたフェブリク
米英何するものぞ−国粋主義学会によるガラパゴスガイドライン−
FREED研究に学ぶ
アロプリノールはCKDを悪化させない(日経メディカル 2018/10/22)(Association of Chronic Kidney Disease With Allopurinol Use in Gout Treatment

キーワード:Adolf Eichmann アドルフ・アイヒマン, alloprinol アロプリノール, cardiovascular diseases 心血管疾患, CARES study CARES研究,clinical trials 臨床試験, Declaration of Helsinki ヘルシンキ宣言, febuxostat フェブキソスタット, FREED Study FREED研究, hyperuricemia 高尿酸血症, Milgram experiment ミルグラム実験, research ethics 研究倫理, reseach integrity 研究公正, retraction 論文取り下げ

二条河原へ戻る
目次へ戻る