メディアリテラシーと生物統計

私がPMDA時代、週に一度外来に出ていた病院で、昼休みを利用して、パワーポイントを交えながら雑談会をしていました。そこで、しばしば新聞記事(とくに医療に限らない)を生物統計の立場から批判的吟味していました。先日、その病院の臨床研究部長が、ワールドカップの抽選に関する時事通信の記事を送ってくれたので、それに対する返事です。

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お手紙ありがとうございました。ワールドカップ、パンデミック、産科救急・・・・共通点は下記です

○容易に思考停止しやすいキーワード
○背景に強い思い込みを伴うキーワード

受け手の多くに「こうあるべきだ」「こうあってほしい」「こうあってほしくない」「こういうシナリオは許さない」という思い込み=バイアスの塊=思考停止の主因
があって、メディアはそれに迎合することを最優先課題にします。それが彼らの商売です。商売を忘れてリテラシーをとことん追及するのは自らが餓死する道だと、彼らは「プロ」ですからわかっているのです。

バイアスの塊に迎合するためには、バイアスを排除するために考案された、臨床試験・生物統計の要素(組み入れ基準、評価・判断基準、アウトカム評価のための適切な観察期間、リスク・ベネフィットバランスの概念・・・)は徹底的に排除されます。それは無意識のうちに、見事なほどに。

裏を返せば、臨床試験・生物統計で使うツールや概念を、メディア製品を含めて我々の周囲に氾濫するゴミの批判的吟味に使うと、分別、優先順位付け→焼却の効率性が格段に上昇することは、私が週に一度、そちらでの雑談会でお話した通りです。

いつぞや評価していただいた、理念・戦略レベルとオペレーションレベルの議論の峻別や、Outcome-based
thinkingも広い意味で、臨床試験・生物統計で使う概念です。

PMDAでの学習成果は山ほどありますが、人のつながりの次に大きな収穫が、上記のゴミ分別→焼却手順です。ところが、PMDAの中にいますと、こういった素晴らしい収穫を、PMDAの外にいる人と共有・発展させることが非常に困難になります。その意味でも、PMDA卒業生の使命・責任は重大です。
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