ビクトーザの適応外使用

お隣では,こんな安易な適応外使用が横行するのかと,驚くなかれ.なぜなら,かつて我が国でも,リタリン乱用が問題になったからだ.まだリタリンが「うつ病」の効能効果を持っていた時代,お医者さん達が随分と安易に処方していたものだ.個人的な経験だが,今でも覚醒剤事犯が医者に「ナルコレプシー」の診断書を書かせてリタリンをせしめる事例がある.
LEADER試験で認められたのは,48週で2.2%(プラセボ群91kg vs リラグルチド群89kg)の体重減少に過ぎない.(Supplementary Appendix 56ページ)中医協総会でボロボロに叩かれた,あの,「オブリーン」でさえ,2.78%だったというのに.
参考
武田薬品 抗肥満薬オブリーン錠 未発売のまま導入元企業に返還 「薬価取得見込めず」
抗肥満薬ロルカセリン、開発・販売の全権利獲得  エーザイ、米アリーナ社から:2017年1月の段階では,まだ日本では臨床第1相試験の段階(FDA承認は16年7月だった)
上記表は,肥満症の薬物療法 日内会誌 2015;104:735-741より.
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【韓国】韓国で皮下注射の痩せ薬が大ヒット。誤った乱用が相次ぎ社会問題に ハーバー・ビジネス・オンライン 2018/10/28 (注:「正しい乱用」という日本語は寡聞にして知らない

◆ダイエット薬が韓国で社会問題に
 今、「サクセンダ」(一般名=リラグルチド)というダイエット薬が韓国で話題になっている。
 ノボノルディスクファーマ社が発売する、食欲を抑制し満腹感を与える事によりカロリー等の摂取を抑制する次世代の減量薬だ。日本ではまだ発売されていない。
 減量薬と言えば、過去にはその副作用が大きなニュースになった事から抵抗感がある人も少なからずいるだろう。
 2009年に米製薬大手ファイザーに買収されたワイスが、1997年自社が販売する肥満治療薬「フェンフェン」と、患者の心臓弁の損傷に関連性が認められたことから、その混合薬の成分の1つについて使用を中止された。
 また2010年には、米製薬会社アボット・ラボラトリーズが、自社調査において心臓発作や麻痺の危険性が高まることが示されたとして、肥満治療薬「メリディア」を市場から引き揚げた。
 韓国で爆発的なヒットとなっている「サクセンダ」に、そのような副作用はないのであろうか。またその効果は本当なのだろうか。

◆皮下注射への忌避感も予想されたが大ヒット
「サクセンダ」はデンマークの製薬会社ノボ・ノルディスク製の肥満治療薬である。
 既存の他の薬剤と「サクセンダ(リラグルチド3.0mg)」との相違点は、多様な臨床研究結果を持っているという点だ。
 肥満患者の大多数が糖尿病予備群である。「サクセンダ」は糖尿病予備群から糖尿病になるのを予防してくれて、また正常血糖に回復してくれる効果もある。またリラグルチドを利用した心血管系安定性の研究でも心血管系疾患の予防効果まで確認された。これは過去の肥満治療薬が心血管系の副作用により市場から引き揚げた事を考えるととても大きな長点だ。
 長期投薬の安全性も数多くの臨床試験によって確認されている。
 「サクセンダ」の副作用は、吐き気をもよおすことだ。この吐き気は、患者の約40.9%から報告されている。しかしこの副作用の吐き気も投薬後8週以内に薬剤が体内に適応して徐々に収まっていくとされている。
 韓国では、今年3月に「サクセンダ」が国内で初めて販売されて以降、半年もたたないうちに品切れ状態になった。よってオンライン中古市場では使用済みの注射剤が違法取引されている。医学専門誌ではない大衆媒体には、広告はもちろん報道資料さえ容易に載せる事が出来ない専門医薬品がどうしてこのような非正常的な流通経路で人気を博しているのか。
 「サクセンダ」は、1日に一回づつ、3か月以上長くて1年間持続的に、直接皮下脂肪の多い腹部(または太ももや二の腕)に患者自身が注射を打たなければならない。
 糖尿病治療のために打つインシュリン注射も患者の立場からしたら拒否感が大きい。このような理由から製薬業界では、価格はさて置き、毎日注射を打たなければならない肥満治療剤が韓国市場でどの程度受け入れられるか懐疑的であった。
 しかし、これまでネット上に掲載されている口コミだけ見ても、抵抗感はおろか1999年に勃起不全治療剤の「バイアグラ」が韓国国内で紹介された時に次ぐ人気だ。
 最初は医師、次にトレンドに敏感な美容業界とカンナム地域を経て、今では韓国国内全体にその人気は拡散している。

◆BMI30以上の高度肥満患者に限って処方されるが……
 「サクセンダ」を販売する韓国ノボ・ノルディスク製薬の広報担当者は、「具体的な販売量は明かせないが予想よりも需要が爆発的に高まり、8月には新規患者に2〜3週間ほど薬を供給出来なかった」と明かした。
 「サクセンダ」はデンマークのノボ・ノルディスクが糖尿病治療剤の開発中に体重減少の副作用があることを発見し、それを肥満治療剤として出した新薬である。
 アメリカでは2014年12月FDA(米国食品医薬局)の承認を得て、2015年から販売が開始された。韓国では2017年7月アジアで初めて許可を得て今年3月から販売が開始された。
 問題は、韓国国内での極端な誤用乱用だ。
 肥満患者を対象に医師の診療のもと使用されなければならないのに、まるで化粧品を買うように肥満でもない20〜30代の女性たちが、友達同士で共同購入をしたり中古売買をしたりしている。
 主婦の崔さん(47歳)は病院にも行ってない。彼女は「友達が買ってくれたのを3週間毎日打っている」と語った。
 また別の主婦は、夫が大学病院の肥満クリニックで処方された「サクセンダ」注射剤のうち、その一つを使用していると言う。
 30代会社員の金さんは、病院に行ったが診療を受けられなかった。SNSで探した「サクセンダ」を販売している病院(皮膚科)に行って「買いたい」と言ったら医師はBMI値や病歴を聞きもせずに処方してくれた。
 医師の処方箋もなく薬を買うのはもちろん違法であり、このように医師がまともに診断もせずに薬を売るのもガイドラインに反することだ。
 「サクセンダ」は、FDA(アメリカ食品医薬品局)や韓国の食品医薬品安全処などでBMI値30以上の高度肥満患者や高血圧・糖尿・高脂血症など他の危険因子があるBMI値27以上の肥満患者に限って処方が許可されている。

◆美容用で安易に販売する医師も
 だが韓国では、このように肥満でもないのに美容用で販売する病院が多い。このような状況ではもちろん患者に副作用などがきちんと告知されるわけがない。
 アメリカ司法省は昨年9月、「ノボ・ノルディスクがサクセンダの主成分が甲状腺がんを誘発する恐れがあるという内容を警告していない」として、662憶ウォンに及ぶ罰金を課した。
 18歳未満の未成年や妊娠中・授乳中は原則的に使用することが出来ないが、韓国では小児科と産婦人科でも販売されている。
 BMI基準に当てはまらない人にはどのような副作用があるのか、また肥満患者と同じ効果が出るのか全く確認されていない。「サクセンダ」が膨大な臨床実験後に承認されたのは事実であるが肥満患者のみを対象に行われたものである。
 ノボ・ノルディスク側は「臨床実験はBMI値27以上の18歳以上の成人のみ対象にしたので正常体重や小児と関連した臨床データはない」と明かしている。

◆入手難で「中古」品まで
 中古売買は乱用以上に危険性をはらんでいる。
「サクセンダ」は、18mgの注射液がペン型の注射器の中に入っていて、使用量によってペン一つで6日間〜30日間使用できる。毎回注射針を交換し注射部位をアルコール消毒しなければいけない。感染の危険があるので複数人で共有することは出来ない。だが、一、二回使用した注射が堂々と中古市場に出回っているのが現状だ。
 肥満を改善し健康へといざなうはずの薬が、感染症や栄養失調などを引き起こせば、本末転倒である。
 美容大国を自認する韓国での、行き過ぎた「サクセンダ美容法」は留まる気配がない。
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参考
肥満症の薬物療法 日内会誌 2015;104:735-741.上記に引用した表が掲載されている総説.
Cardiovascular Safety of Lorcaserin in Overweight or Obese Patients. N Engl J Med 2018; 379:1107-1117.ロルカセリンのCardiovascular outcome studyであるCAMELLIA–TIMI 61

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