役所の使い方

あなたは役所に文句を言うのは得意だろうか?もし,そうだとしたら,その役所の利用価値が低いとお考えなのだろう.では,その役所の利用価値を高めるためにはどうしたらいいだろうか?ユーザー側が利用の仕方を知らないことが,役所の利用価値が低いと考えられている原因の一つではないだろうか?

納税者であるあなたも役所のユーザーの1人である.納税者であるあなたは役所の使い方を知っているだろうか?

もし,あなたが医療者で,かつ所得税を納めていて,かつ厚労省も独立行政法人医薬品医療機器総合機構も,明日から無くなっても全く困らないから潰してしまえ,そんな勇気のある人でなければ,お尋ねしたい.あなたは,国に納税している医療者として,厚労省の使い方を知っているだろうか?

そんなもの,知らなくても立派に仕事をやってきたし,この忙しいのに,自分の仕事の邪魔ばかりしている厚労省の使い方なんて面倒くさいことやっていられるか,そう思って,明日からまた過労死のリスクを冒して働くのだろうか?

でも,ちょっと待ってもらいたい.あなたは,もう気づいている.だって,厚労省が自分の仕事を助けてくれれば,余裕をもってもっといい仕事ができて,過労死のリスクも減らせる,そう思っているから,そんなことを言うんでしょ.

そんなうまい話なんて・・・,それに自分はそんな大風呂敷を広げるほど楽観的ではないし,・・・・と,次に言いたいこともわかる.だが,厚労省に文句を言うってことは,厚労省に期待しているってことだ.絶望していたら,何も言わない.

ただ,役所に文句ばかり言っていては,何も変わらない.いつまでたっても役所が旧態依然なのは,納税者の役所に対する認知と行動が旧態依然だからに他ならない.

役所は,文句を言う対象ではなくて,納税者として利用するところだ.利用するために知恵を持った人間が必要だ.そんな人間が天から降ってくるわけではないから,育てなければならない.そんな面倒くさいことと,また,あなたは言うかもしれない.でも,これまでと全く同じように,これからも役所を利用できる人間を育てることを怠れば,永遠に役所は利用できない.そしてあなたが役所に文句を言いつづける人生も,あなたの過労死リスクも,あなたが死ぬまで続くだろう.

幸い,役人は,あなたほど頑迷ではない.行政機関の多くは,医療現場とのつながりをもっと強くしたいと考えている.なんとなれば,それが自分達がいい仕事をするために必要だと素直に考えているからだ.ただ,どこの組織も抱える問題,つまり椅子の大きさと数(つまり職位)と給料に,役所も悩んでいるから,おいそれと,現場から人を迎えられないだけだ.特に相手がお医者さんとなれば,なおのこと.

それ見ろ,やっぱり難しいじゃないか.現場と行政の両方を知った医者なんて,どこにもいやしない.夢のまた夢なんだと,あなたは言うだろう.でも,前例がないからと拒否するのは,役人でもできることだ.おまけに,現場と行政の両方を知った医者なんてたくさんいる.あなたが役所に文句を言っている間に,そういう連中がどんどん活躍している.その具体例を紹介しよう.

○医者がしばしば文句を言う,既承認薬の適応拡大,用法・用量の変更については,抗悪性腫瘍の分野では,すでに2004年から,「抗がん剤併用療法に関する検討委員会」が設置されて,大きな進歩があった.

未承認薬使用問題検討会議ワーキンググループのメンバーは,すべて,PMDAの審査の経験や,その他の経験で薬事行政をよく知る臨床医である.

厚労省は,臨床医の意見をむしろ聞きたがっている.ただし,偏った意見を聞きたくないから,その仕事振りを間近で見て,腕も見識も確かな人の意見を聞きたいのは当然だ.だから,実際に厚労省で働いた経験があって,信頼できる医師の意見を聞こうとする.そういう医師がたくさん生まれるのは,厚労省にとっても歓迎すべきことなのだ.

となると,現場側が取るべき戦略は自ずから決まってくる.

たとえば,自分の所属学会から,PMDAに人を送り込み,そこで,2−3年かけて,臨床試験,承認審査のノウハウを学んでもらい,PMDAや厚労省の中で人脈を作る.その人物が十分力をつけて,PMDAから出てきたら,学会の薬事・治験関係の委員会を任せ,厚労省との交渉窓口役となって,未承認薬問題,既承認薬の適応拡大,用法・用量の変更といった懸案事項の解決に当たらせ,しかるべき報酬を支払う.これなら学会員も会費の使い道に対して満足がいくというものだ.

この提案の実務上の細かい問題点については自分で考えること!そこまで私に聞こうとするような甘ったれた態度が,役所へのパターナリズムへの期待の根源にあるのだから.

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