映画Trainspotting:普遍的な老化の過程

英国での高い評価を受けて,96年12月に東京で,映画”Trainspotting”が公開された.私と同い年でマンチェスター生まれのDanny Boyle監督の作品だ.

エジンバラの廃虚のようなぼろぼろのアパートでヤク中の毎日を過ごす若者達.セックス,喧嘩,こそ泥,刑務所,エイズと,おきまりの付録もついてまわる.ひょんなことから大量のヤクが手に入り,やばい橋をおっかなびっくり渡って大金が入る.仲間の内1人が抜け駆けして大金を持ち去る.

ヤクとセックスと酒にひたりきり.そんな奴等はスコットランドにだけいるわけじゃない.どこの国でも,誰もが一度はやってみたいと憧れる生き方だ.嘘じゃない.あなたの中にもきっとその憧れがあるはずだ.大和の国で,とっくにおじいさんになってしまった人だって,その昔は壇 一雄とか坂口安吾に憧れた時代があった.だから,この映画は,地球上の誰もが理解できる普通の若者を描いた映画だ.

観客は登場人物と同世代の20代の人たちが圧倒的に多かったが,作品の良さは30代後半以降の人間でないとわからないだろう.人は,過ぎ去ってしまって戻れない出来事にしか客観的な評価を与えられないものだ.青春の中にいる人間には,青春が見えない.

それから,この映画のはじめと終わりに,低コレステロールのダイエット,家族,固定金利の住宅ローンといった非常に重要なキーワードが現れる.おじさんにならないと,このキーワードの意味が理解できないはずだ.

人は年をとる.どんなに若さを誇っても,時間の流れには抗しえない.金を手に入れて,低コレステロールのダイエット,家族,固定金利の住宅ローンを心配するようになる.それはあまりにも普遍的な老化の過程である.スコットランドであろうと,日本であろうと,人間は年をとるのである.

エジンバラのPrinces Street,Tennants Lager(一部Tennants Specialの缶も出てきたなあ)の缶ビール,ロンドンへのovernight coach,council flats,パブの喧噪,女子中学生の制服(実在する学校のやつなんだ!),個人的には何もかもがなつかしく,まるで私のためにある映画のようだった.英国一流のユーモアが一杯.一流のコメディ映画でもある.

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