赤ひげと用心棒

三船敏郎は,用心棒もやるし赤ひげもやる.しかし赤ひげの中に用心棒は出てこない.パターナリズムの代表である赤ひげが,代診を頼んでちょっと休暇に出かけるなんてシーンは頭っから拒絶されるからである.

ランセットという超一流の臨床雑誌がある.巻末には代診募集の広告がたくさん載っている.日本でも,あの吉村の太った体がバッターボックスに立つと,何か素晴らしいことが起こるんじゃないかとわくわくするのに(外野の守備位置についたら悪夢以外の何物でもないが),日本で医者がピンチヒッターを頼む情景というのは,どうしてこうも情けないのだろうか?

私の主治医.それは結構.大切な人だ.でもその人が急病になったらどうするの?あるいはあなたが旅行先で病気になったらどうするの?そうなった時に,代打屋に正確に自分の情報を伝えて,立派な仕事をしてもらう必要があるでしょう.吉村だって,ベンチの中で,その日の川尻の投球をじっと見ながら,スライダーはとびきりいいからストレート狙いで行こうって決めてから出ていくのです.

診療情報の公開というのは危機管理の有力な武器なのです.患者が自分のカルテを持って,いつでもどこでも診療の都度それを呈示すれば,医者の間での診療方針のぶれが少なくなる.ただし,そうなるためには患者も医者も成熟する必要がある.”私を治せるのはあの先生だけ”,”あれは俺の患者だ.俺がいなきゃだめなんだ”,そういった思い入れから距離を置かなくてはならない.ちょうど親離れ,子離れがいつかは必要になるように.

メディカル二条河原へ