診断利権意識

「こんな屁理屈をこね回す暇があるとは.呆れて物が言えない」.それがあなたの感想だろうか.
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国際医療研 糖尿病AI予測 中止…厚労省「未承認の医療機器」 読売新聞 2018年11月5日
 国立国際医療研究センター(東京都)が、糖尿病の発症リスク予測ソフトを開発してサイトに公開したところ、厚生労働省から「未承認の医療機器に当たるのでは」と指摘され、中止する事態となっている。医療機器の提供には国の承認など法的な手続きが必要だ。同センターは「診断でなくリスク予測なのに」と困惑している。
 問題となったのは、身長、体重、腹囲、最高・最低血圧、喫煙習慣などを入力すると、糖尿病の3年以内の発症リスクが予測できるソフト。3万人のデータを基に人工知能(AI)を活用して開発した。発症リスクは「%」で示され、「あなたへのアドバイス」として「糖尿病予備軍に該当」などと表示される。
 10月24日に同センターのサイトにソフトを公開したが、翌日に厚労省から「医薬品医療機器法に触れる可能性がある」と指摘されたため中止した。
 同センター疫学・予防研究部の溝上みぞうえ哲也部長は「予測結果を参考に生活習慣を改善するためのもの。医療機器とみなされるとは」と驚く。
 ただ、予測結果の表現を修正すれば済む可能性もあるという。厚労省は「『あなた』と個人を特定して発症リスクを表示しているため診断行為になる。同じ健康状態の人の発症リスクとして示すなら問題ない」と説明。同センターは再公開に向けて、修正作業を進めている。
 厚労省は「病気の予測ソフトは増えているが、診断と混同される可能性がある。国民に誤解を与えないよう注意が必要」としている。
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しかし,考えてもみてほしい.国家公務員なので,労基のガサ入れが入らないだけで(国家公務員の残業は労働基準法の対象外,健康管理は労働安全衛生法の対象外),国会待機で月200時間の残業というのは嘘ではない.強制労働省の役人が暇を持て余しているなんて,とんでもない言い掛かりである

 「『あなた』と個人を特定して発症リスクを表示しているため診断行為になる」というのも,もちろんただの言い掛かりではない.配慮である.2017年の流行語大賞によれば,忖度である.では誰への配慮か?当然,売薬利権とともに『診断利権』を振りかざす(*),一部の先生方に対する配慮である.

そんな先生方への配慮を怠ると,「我々の『診断権』を侵害する,けしからん連中を取り締まるのが,お前達の仕事だろうが!」と怒号が飛んでくる.そういう事態になると中医協での手間が二倍にも三倍にも増えるので,「転ばぬ先の杖」として,「同じ健康状態の人の発症リスクとして示すなら問題ない」と説明したというわけだ.AIが中枢神経原発悪性リンパ腫と多形性膠芽腫を鑑別してくれる時代になっても,「忖度」の価値は変わらないのである.

売薬利権には診療報酬という実態の裏付けがあるが,AI出現のはるか以前から診断利権には実態がない.だから『診断利権意識』という表現が,より『適切』である=『診断利権妄想』という表現が,より正確である.

(以下2018/12/21追記)
おやまあ,監麻課だったとは・・・でも,どうしてまた監麻課?医療機器かどうかもわからない代物だから?でも,『予防を目的としたソフトも医療機器として扱われる』んでしょ?もし担当が監麻課と決まっていたとしても,事前に医療機器審査管理課と摺り合わせしたんじゃなかったの?と不思議に思っていたら,ある事情通の方から,次のような御教示をいただきました.確かに役所ではありがちなことです.結局,「診断利権意識」は本題ではなく,先の法改正の際にも,強制労働省では(国会待機で忙殺されて),そこまできめ細かく考えが及ばずに今日に至っているということなのかもしれません.
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医療機器の該当性とクラス分類は、本当は都道府県が担当です。しかし、都道府県ではわかるはずもないので、問い合わせ先がなぜか監麻課です。しかし、ご想像のごとく監麻課で判断できるはずもないので、結局は、医療機器審査管理課とPMDAで裏で検討しています。
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糖尿病AI予測再開へ…厚労省「承認手続きが必要な診断行為に該当せず」 読売新聞2018年12月19日
国立国際医療研究センター(東京都)は19日にも、ウェブサイトで、糖尿病の発症リスクを予測するソフトの公開を再開する。厚生労働省が「診断行為に関わるもので、正規の承認手続きが必要な医療機器に該当するのでは」と指摘。10月下旬から公開中止を続けていたが、内容を精査した同省は「問題ない」と結論づけた。
公開が中止されていたのは、身長、体重、腹囲、血圧、喫煙習慣などを入力すると、3年以内に発症するリスクを予測できるソフト。企業の健康診断で得た約3万人のデータを基に人工知能(AI)を活用して開発した。医薬品医療機器法では、診断や治療、予防を目的としたソフトも医療機器として扱われる。同省は、公開中止後、発症リスクを判定する際の根拠や仕組みについて検討。その結果、予測は単に統計データに基づくもので診断行為には当たらないと判断した。同省監視指導・麻薬対策課は「国の機関であり、慎重に対応した。医療機器に該当するかどうかは難しい判断だった」と釈明している。
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